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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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現在の“東村山の闇”の原点である議席譲渡事件と女性市議転落死事故についてのルポルタージュ。今は絶版となっていて書店では買えないが、手元に在庫があるので、希望の方はこちらにメールしてください。書籍代+送料でお分けいたします。

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多摩湖寿会事件 第13回
市は虚偽申告を否定

 返還額を確認した朝木は、不正計上は山川が横領したものであるとして市に対して告発すべきではないかと迫った。これに対して健康福祉部長は次のように答弁した。

健康福祉部長  二重に計上された経費や補助対象外経費とすべき経費の混在など、会計処理において多摩湖寿会において補助金の返還命令に至るような不適切な状態があったことは確認をしております。しかしながら、……当市が実施した旧役員等々のヒアリングでは、補助金の交付申請時において虚偽申告があったとまで断定、確認することはできませんでした。このことから、犯罪があったと断言することは困難と考えております。したがいまして、現状においては刑事訴訟法に基づく法的措置を講じることは考えておりません。

 市の判断は、返還金が生じた部分について、山川に着服の意図があったと断定するには至らなかったということだった。これに対して朝木は「これ横領じゃないといってますけど、だったら横領の要件をいってください」と引かなかった。いきなり横領の刑法上の要件を聞かれた所管は答弁に詰まった。

 横領の要件を所管に答えさせてどうしようというのか。朝木が知っているのなら、最初から要件を提示すれば、わざわざ時間を割いて聞く必要はなかろう。自ら「横領」の定義を示し、今回の不適切な会計処理が横領に該当すると主張すればいいのではあるまいか。所管が答弁に窮したため、ここでまた、議会は長い休憩に入った。

 するとその間にまた、傍聴席から寿会会長の声が響いた。

「告訴できないんだ。元市会議員だから、仲間だから」

 これもまた「山川は横領した」とする事実を前提とするものにほかならない。その上で、東村山市は元市議会議員を特別扱いしていると主張している。寿会会長は、東村山市は「横領」に目をつぶろうとしているとでもいいたいようだった。

 長い中断のあと、所管がようやく「横領」の刑法上の定義を答えると、朝木はさらに質問を続けた。

朝木  ……(山川の不適切な会計処理は)私は横領とそれから詐欺にも当たると思ってるんですね。たとえばレシートと領収書の二重計上、これは支出がないのにあったと見せかけて、入浴料もそうですけれども、あったと見せかけてお金を盗ってるわけですから、これは詐欺にも当たる。これは弁護士も同じ見解です。そういう意味では詐欺の、詐欺もなかったとおっしゃるんであれば、今度は詐欺の成立要件はどのように認識してらっしゃるのか伺います。

 朝木のいう「レシートと領収書の二重計上」とは、同じ商品を買ってレシートと領収書の両方をもらい、別々の支出があったことにして二重に計上し、その半分を懐に入れたという意味なのだろうが、架空請求であるとする「入浴料」とともに、それが「横領」、「詐欺」とまで断定するからには、その確かな証拠を示さなければならないだろう。

 朝木は立ち上がって上記のように質問し、着席したあとも健康福祉部長を非難した。

「犯罪がなかったというんだったら、きちっと勉強してからいってくださいよ。常識ですよ、そのくらい。公金横領を告訴したことあるじゃないですか。特定の人間は特別扱いなんですか」

 着席したままの発言はいわゆる不規則発言にすぎない。しかし、議長があえてそれを放置したものだから、「詐欺の定義」をめぐり市側が答弁を始めるまでに、市職員の席を挟んで、傍聴席と朝木の間で通常はあり得ないやりとりが行われた。

我が物顔の傍聴者

 まず口を開いたのは寿会会長だった。それをきっかけに以下のようなめったに見られない議場風景が繰り広げられたのである。

寿会会長  「人を騙して財物を奪う」。

会員  ああそういうことか、早いねー。(筆者注=「市と違って、会長は」という趣旨と思われる)

朝木  詐欺の要素の方が強いかもしれないですね。

寿会会長  市もわからない。市にもすぐにわからない。

 本来、市と協力関係にあるはずの多摩湖寿会会長が、このような不遜な態度で市の担当者をからかう理由は何なのだろうか。しばらくして、健康福祉部長はこう答弁した。

健康福祉部長  失礼いたしました。詐欺につきましては、「人を欺いて財物を交付させた者は10年以下の懲役に処する。また前項により財産上不法な利益を得又は他人にこれを得させた者も同項と同様とする」。個別の要件に関しては、さきほどの横領と同様でございます。以上です。

 この答弁に対して、今度は寿会会長らが即座に賛意を示した。

会員  そのとおりじゃない。

寿会会長  そのとおりですよ。

 相当のふてぶてしさである。我が物顔といえばいいのだろうか。しかし議長は傍聴規則で禁止された彼らの度重なる振る舞いを放置したままである。あえて、こんな傍聴者がいたということを議事録に残そうという考えだったのかもしれない。

 いうまでもなく、寿会会長らがいった「そのとおりですよ」とは、「山川が行ったのは部長が説明したとおりの行為で、詐欺だ」という意味であると理解できた。すると朝木は、傍聴席の声をなぞるように「今の(説明)とまったくそのものじゃないですか」と健康福祉部長に同意を求め、続けてこう発言した。

朝木  ということで、239条の第2項について確認しておきますけれども、これは訓示規定と考えているのか義務規定と考えているのか、そこをはっきりしてください。

「公務員の告発義務」について定めた規定が、「場合によっては告発すべき」というものなのか「どんな場合でも告発しなければならない」というものなのかと迫ったのである。「義務規定」ということになれば、東村山市は山川を告発しなければならないと認めることになる。朝木はその点に対する東村山市の考えを質したのである。答弁しだいでは、「告発」の方向に追い込もうという思惑であることは明らかだった。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第12回
「詐欺行為」と断定

「百条委員会でも作ってよ」という朝木の筋違いの主張を聞いたあと、市側も落ち着いたのか、入浴料に関する朝木に主張に対して、所管はこう答弁した。

健康福祉部長  入浴料そのものは単なる親睦会等の会員同士の親睦を目的とした行事に関わる支出で、補助対象外経費として最初から扱っておりますので、ヒアリングの中では聴取しておりません。以上です。

 市としては、補助金の対象ではないから市が関知する部分ではなく、寿会内部の問題ということである。だから、市は関知しないものについて調査する必要はないし、答弁する立場にもないということだった。

 それでも朝木はさらに語気を強めて、次のように追及した。

朝木  補助対象経費として計上されてたでしょう。それが嘘だったわけですよ。詐欺行為っていうんですよ、こういうの。あたかも支出されたと見せかけて、1万円を計上して、市に報告書を上げた。……それなのにずいぶんのんきな話だなというふうにいってるんですよ。

 朝木からすれば、入浴料の問題について所管が一任意団体内の問題として片づけようとしているとみえたのだろうか。語気だけでなく、山川が入浴料として1万円を計上していたことについて今度は「詐欺行為」とまで断定したのである。

 朝木の口から「詐欺」という言葉を聞くと、平成27年に朝木らが発行する『東村山市民新聞』で山川に対して「詐欺事件に関与した」と記載して50万円の支払いを命じられたことを思い出すが、今回の場合は「詐欺に関与」ではなく、山川が「詐欺」行為を行ったと断定していた。朝木としては、『東村山市民新聞』の記事で山川に敗訴し、プライドをへし折られた思いが心中深くにくすぶっていたのではあるまいか。

「詐欺に関与」の記事では確かな根拠を示すことができなかった。しかしこの「入浴料」に関しては、施設からもらったという「入浴止め」と書かれた確かな「証拠」がある。今度は間違いないという自信が、「詐欺行為っていうんですよ、こういうの」という強気の発言につながったのかもしれない。

しかし朝木はこの質問にあたり、「寿会の現役員が調査に行ったら」と前置きしているとおり、自分では調査を行っていないことが明らかだった。「詐欺に関与」の記事の根拠が伝聞だったように、今回の「入浴料」についても、「入浴止め」のコピーをもらった施設側の説明は伝聞にすぎない。

一般に議員の議会質問の自由は尊重されなければならないとはいえ、朝木の上記の発言は一般市民を犯罪者と断定するものにほかならない。仮に「入浴の事実はない」とする朝木の主張が十分な根拠に基づくものではなく、事実に反するものだった場合、そのような発言まで議会での発言として尊重されるべきだろうか。

「山川の懐に行っている」と断定した傍聴者

 さて、朝木は「入浴料」について「詐欺行為」と断定したあと、補助金の返還額がどうなったかを聞いた。健康福祉部が再調査を行った結果、修正された返還額は以下のとおりだった。



(健康福祉部が再調査の結果、確定させた返還額)

平成24年度 16万8566円
平成25年度 4万766円
平成26年度 12万1954円
平成27年度 12万1643円

返還額合計  49万768円



 健康福祉部長が上記の返還額を答弁すると、すかさず傍聴席から声が上がった。

「彼女から返してもらえばいいのよ。みんな山川さんの懐に行ってるから、全部返してもらえばいい」

 さきほど「横領の証拠を全市に配れ」といった傍聴者と同じ声だった。周囲に固まって座っていた3、4名の傍聴者が「そうですね」と同意の声を上げた。「山川さん」と名指ししたこと、固まって座っている傍聴者の中でもリーダー的存在であるようにみえることなどから察するに、最初に声を上げたこの人物は寿会の現会長であると推測できた。

 この人物は、「横領の証拠を全市に配れ」といい、東村山市が算定した返還額のすべてが「山川の懐に行っている」すなわち、「山川が横領した」と主張していたことになる。よく通る声だから、傍聴席はもちろん傍聴者の前に座っている東村山市職員全員の耳に届いたことは間違いなかった。しかし、そういうことならなぜこの寿会会長は、健康福祉部が実績報告等の再提出を求めても応じなかったのか。

また、朝木の説明によれば、平成28年7月の時点で山川は不適切な会計処理があったとして寿会に対して42万4500円を返金している(横領を認めたわけではない)。寿会会長は、その42万5000円とは無関係に、市が確定させた返還額49万768円のすべてを「山川が払えばいい」といっているのだろうか。

明らかになった最終目的

 返還額を確認した朝木は、さらに次のように聞いた。

朝木  そうすると、不適正計上の中には、いわゆる不正計上ね、さっきいったように実際には支出されていないのに、たとえば領収書を偽造したりとか、実際に支出していないものを支出したとみせかけて計上したもの、それからお酒とかね、実際にはお祝い金とか補助対象経費ではないものを乗せてしまった、その2種類あると思うんです。
 で、不正計上については当然、お金がなくなっているわけですから、その部分は間違いなく横領なんですよね。で、市に、この点について刑事訴訟法の239条の第2項、……これについてはどういうふうに考えようと思ってますか?

 朝木がここでいう「領収書を偽造したりとか、実際に支出していないものを支出したとみせかけて計上したもの」のうち、「領収書の偽造」については初めて出てきた事実だった。根拠は明らかではないものの、朝木は「山川は『領収書の偽造』までしていた」と主張していた。「偽造された領収書」があるというのならそれもこの場で公開すればよかったと思うが、この日の質問で公開したのは「入浴止め」と記載された入浴施設のコピーだけだった。

 その上で、朝木が持ち出したのが刑事訴訟法239条の第2項(筆者注=「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」とする規定)だった。要するに、「東村山市は山川の横領を告発すべきだ」とする主張にほかならない。市に告発させることが朝木の最終目的だったということのようだった。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第11回
「証拠」を掲げて追及

 多摩湖寿会の会計問題で山川に対するヒアリングを終えた東村山市健康福祉部は、経費の二重計上や補助対象外経費を補助対象経費として計上していた部分があったことは認定したが、山川が寿会の経費を私的に流用したり、実績報告で虚偽の申告をしようとする意思があったとは確認できなかったと答弁した。これに対して朝木は、「(山川は)厚顔無恥というふうにいうしかない」と前置きし、健康福祉部長の答弁に対し、具体的な実例を挙げて次のように反論した。

朝木  ……平成25年度の入浴料、これも日帰り研修の経費ですけれども、20人が入浴したというふうな、ご自身(筆者注=山川)で報告書も書いてる。それからもちろん領収書はないんですが、1万円計上してるんですよね。ところがこれ、寿会の現役員の方が調査に行ったら、悪いことはできないもんで、この日、この施設はお風呂、宿泊施設ともに改修中で、いっさい入浴については、この日は行っていなかったということがはっきりしてるんですよ。

 朝木がここでいっているのは、「山川が日帰り研修での入浴料として計上している1万円は、施設は入浴ができない状態だったにもかかわらず入浴したものとして計上された架空計上だ」ということである。山川はその1万円を着服したのだと。

 ここで朝木は質問席に立ったまま、クリアファイルに入れた1枚の紙を胸の位置に掲げて、市長を含む市の職員に向けて次のように質問を続けた。 

朝木  で、おそらく、市の方にもこの資料(筆者注=クリアファイルに入れた資料)が行ってるんじゃないですか? ちゃんと書面でね。こういうの、こういうの、日誌のコピー。7月1日、多摩湖寿会のカラオケ室だけは入ってます。だけど入浴については差し止めって書いてある、こういうものも行ってるんじゃないですか? これ、うっかりじゃないじゃないですか。忙しいから入浴料をわざわざ入れちゃったというんですか? そんなバカな話を真に受けるというよりも、そういうふうな言い訳が通用するというふうに、ウチの市はそれが通用するということになるんですか?

 朝木が掲げている「日誌のコピー」とは、どうも施設に残っていた日誌をコピーしてもらってきたものと思われた。現地に調査に行った「寿会の現役員の方」、つまり寿会会長がもらってきたものを、朝木がコピーしてもらったのだろう。そこには大きな文字で「入浴止め」と書いてあった。領収書がなく、施設の資料に「入浴止め」と書いてあれば、その時点において「入浴はできなかった」と考えることは不自然ではない。

朝木はもちろん自信があったから、クリアファイルに入れて掲げたのだろう。朝木としては動かぬ証拠を市に突きつけたというわけだった。朝木がこの「証拠」を示して市を追及している光景は市役所内のロビーおよびインターネットで今現在も広く配信されており、誰でも閲覧することができる。

割り込んできた傍聴者

事前に提出されていた朝木の質問通告書には、この「入浴」の問題については記載されていた。しかし、目の前に資料を示された市としては驚いたことだろう。しかも「ウチの市はそれが通用する」のかと聞かれている。「証拠」を突きつけられれば、これから事実関係を精査するとは簡単には答弁できない。市が答弁に苦慮していると、議長が「休憩」を告げた。

 すると朝木は、発言席に座ったまま次のように主張した。

朝木  何十件もあるんだから、不正計上が。1件だけじゃないんですよ。全部行ってるはずですよ、横領の証拠が。なぜ目をつぶるんですか?

 明らかな「証拠」を突きつけ、状況としては市を黙らせたわけだから、朝木としても勢いづいていたのだろう。答弁する市側は慎重な対応をしようとまだ静まり返っている。するとそこへ突然、傍聴席から年配女性のよく通る声が委員会室に響いた。

「全市に配ったらいいじゃない」

 朝木のいう「横領の証拠」を「全市に配れ」と、この人物は主張しているものと理解する以外になかった。「全市に配れ」とは「全東村山市民に対して配れ」という意味である。

「横領の証拠」があるというなら告訴・告発すべきだと思うが、この人物はそれよりも先に「横領の証拠を東村山市民に対してばらまけ」といっている。つまり、この人物もまた朝木と同様に、捜査機関の判断を待つことなく、「山川は横領をした」と断定したということになろう。

 その上で、この人物はその事実を「全市に配れ」といっている。問題を提起あるいは告発し、行政なり捜査機関の判断を待つのならまだ公益性があるといえるかもしれない。しかし、自己の一方的な主張に基づき、その主張を市内に「ばらまく」という行為は、私憤を晴らそうとするものといわれても仕方がないのではあるまいか。 

ところが市会議員の朝木は、発言権のない傍聴者の、それもとうてい議場には似つかわしくない「『横領の証拠』を全市にばらまけ」という発言にむしろ応えるように、あるいは援護射撃を受けたかのように、より強い口調で断定的にこう主張した。

朝木  横領なんだよ、これ。百条委員会でも作ってよ。

 百条委員会とは地方自治体の首長や議員の疑惑を調査するために設置するものだから、「山川が横領した」と主張する朝木が百条委員会の設置を求めるのは相当にズレた主張である。入浴施設が「入浴止め」だったという「証拠」を所管に突きつけたことで、朝木はよほど冷静さを失っていたのだろうか。

 しかしいかに気持ちが高ぶっていたとしても、「入浴止め」と書かれた記録があったこと、「領収書がない」というだけで、「入浴しなかったにもかかわらず入浴料1万円を計上した」と断定し、さらにそれを「横領なんだよ」と断定してよかったのだろうか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 上告審
東京高裁が朝木らの上告を却下

 元東村山市議、山川昌子の名誉を毀損したとして東京高裁が50万円の支払いを命じた判決を不服として東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)が上告状を提出していた裁判で、東京高裁は平成29年3月13日、矢野らの上告を却下する決定を行った。

「却下」とは内容的な審議に入ることなく訴えを退けることである。弁護士だけでなく「法律にくわしい」矢野がついていながら、矢野と朝木は審議もされないような上告状(上告理由書)を提出していたということになろうか。それとも、弁護士が矢野らに無断でそんな上告理由書を提出していたのだろうか。

 この裁判は、矢野と朝木が発行する彼らの政治広報紙『東村山市民新聞』第186号(平成27年7月31日発行)で「山川は詐欺事件に関与した」とする記事を掲載、これによって名誉を毀損されたとして山川昌子が朝木と矢野を提訴していたものである。一審の東京地裁立川支部は矢野らに対して15万円の支払いを命じたが、朝木らはこれを不服として控訴、この控訴を受けて山川もまた、一審判決は不十分であるとして朝木らに対して50万円の支払いを求めて附帯控訴した。

 朝木らは新たな陳述書等の証拠を提出したが、東京高裁は1回の口頭弁論で結審。平成28年12月7日、東京高裁は山川の附帯控訴における主張を全面的に認容し、矢野と朝木に対して50万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

敗訴を認めなかった朝木

 判決主文には「50万円の支払い命令については仮執行ができる」との条項が付いていたため、山川は朝木に対して50万円の支払いを求めた。すると、朝木は支払いには応じる意思を示したものの、一方で「上告の手続きをしているので、判決は確定していない」として、「仮執行には応じるが敗訴を受け入れるわけではない」と、依然として自らの正当性を主張する姿勢を崩さなかった。

 当然、上告した結果、控訴審判決が覆れば、山川は受領した50万円を朝木に返還しなければならない。50万円を支払ったからといって、敗訴を認めたということではないのである。

 山川と朝木がそんな仮執行に関するやりとりをした数日後、山川に対する上記回答で「判決は確定していない」と述べたとおり、朝木らは東京高裁に対して平成28年12月20日付けで「上告状兼上告受理申立書」を提出。さらに平成29年1月31日には上告理由書を提出していた。

「不適法」な上告理由

 では、東京高裁はどんな理由で朝木らの上告を却下したのだろうか。東京高裁は決定の「理由」で次のように述べている。



(東京高裁が朝木らの上告を却下した「理由」)

 本件記録によれば、本件上告状及び民訴規則194条所定の期間内に提出された平成29年1月31日付けの上告理由書には、民訴法312条1項及び2項に規定する事由の記載がないから、本件上告は不適法でその不備を補正することができないことが明らかである。よって、同報316条1項1号、67条1項、61条を適用して主文のとおり決定する。



 決定理由の中で「記載がない」とされている「民訴法312条1項及び2項に規定する事由」とは、1つには原判決に憲法解釈の誤りがあるとか、原判決が憲法の規定に違反している場合、2つ目としては、裁判自体に違法な手続き等があった場合(条文には細かな事例が挙げられている)、判決に理由が書いておらず、また書いてあっても矛盾があるときなどだが、一般に上告審で判断されるのは憲法上の判断である。現実に、本件裁判において上記第2項に違反するような事実があったとは考えられなかった。

 したがって、朝木らが提出した上告理由書には憲法上の主張がなされていなかったのではないかと推測できた(却下となったためか、朝木らが提出した上告理由書は山川には送達されていない)。決定がいう「不備」とは、原判決には憲法上の問題があるとする主張がないことを意味するのだろう。

 ところで、上告は最高裁判所に対して行うのではなく、その判決を下した裁判所に対して行うものである。原裁判所は、提出された上告書類の内容が要件を満たしていると判断すれば上告は受理され、その主張の可否は最高裁の判断に委ねられることになる。しかし上告書類が上告の要件を満たしていないと判断される場合には、原裁判所はこれを上告として取り上げることはできない。

 民訴法316条は、「上告が手続きに違反していて、その不備を補正できないことが明らかな場合には、判決を下した裁判所は決定で上告を却下しなければならない」と定めている。この規定に基づき、東京高裁は朝木らの上告受理申立を却下したのである。

 ただ、東京高裁が朝木らの上告受理申立を却下したことで山川の勝訴が確定したわけではない。この決定から1週間以内なら不服申立(即時抗告)をすることができるのである。即時抗告がなされれば、裁判所は新たにその主張についての裁判(判断)をしなければならず、決定がなされるまでの間、東京高裁が行った「却下」の決定は保留となる。

 東京高裁の決定理由を読めば、この決定を覆すことは難しいとみるのが常識的な判断だろう。しかし朝木と矢野に限っては、私には「即時抗告をする可能性はない」と言い切る自信はない。

(了)
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多摩湖寿会事件 第10回
締め切り期日に回答

 9月議会での朝木の質問をきっかけに東村山市健康福祉部が再調査を行い、その結果として「寿会会長に対して再度補助金実績報告等を提出していただき、返還額の確定作業をするつもりだった」とする趣旨の答弁を健康福祉部長が行ったのに対し、朝木はさらに次のように反論した。

朝木  今の話、違うんですよね。多摩湖寿会からは全部の資料が行ってるんじゃないですか? それは形式的には収支報告の形ではないけれども、不正金の一覧も行ってるはずですよ。どうしてそれなのに処理ができないんですか。

 この質問はどうも、寿会会長はすでに「不正金の一覧」を提出しているから、それは「補助金実績報告等の再提出」と同じだから、市はそれに基づき処理すべきで、そもそも市が寿会会長に「補助金実績報告等の再提出」を指示する方がおかしいと主張しているようにも聞こえる。寿会会長が任意で提出した「不正金の一覧」と「補助金実績報告等の再提出」を同列に論じられても、行政としては困惑するのではあるまいか。そもそも、健康福祉部が寿会会長に対して「補助金実績報告等の再提出」を求めたことを、朝木がわざわざ本会議の一般質問で取り上げて批判すること自体、意味のあることとも思えなかった。

 補助金実績報告書等の再提出を求められた寿会会長は、朝木が主張した理由で提出を拒んだのだろうか。仮にそうだとすれば、寿会会長は自分たちの判断には間違いがなく、市に確認をしてもらう必要はないと主張しているに等しかろう。この寿会会長の姿勢をどう理解すればいいのだろうか。

 市が寿会会長に対して「補助金実績報告等の再提出」を指示したのは平成28年10月31日で、その提出締め切りが同年11月7日だった。朝木が主張するように、すでに「不正金の一覧を提出している」というのが提出をしない理由だとすれば、再提出を指示された時点でそのように回答できたはずである。しかし寿会会長は、その際には回答をせず、提出の締め切り当日になってやっと「再提出しない」と回答した。締め切り当日に「提出しない」と回答したのはやはり不自然な対応のようにみえる。

 そう考えると、上記の朝木の質問は、寿会会長が「補助金実績報告等の再提出」をしないと回答したのには、「不正金の一覧」を提出したこととは別の理由があったという推測が成り立つのではあるまいか。現会長が寿会会長として補助金実績報告の再提出をすれば、市はそれに基づいて返還額を確定するといっているわけだから、その返還額の請求は補助金実績報告の再提出を行った主体に対してなされることが想定される。

 寿会会長から補助金実績報告が再提出されなかったからといって、市が返還を求める相手が、補助金を交付した相手すなわち多摩湖寿会であることに変わりはない。しかし、寿会現会長側とすれば、自分の名前で補助金実績報告を再提出すれば、自ら寿会会長に返還請求する正当理由を行政側に与えてしまう――そんなことでも考えたのではあるまいか。寿会会長が補助金実績報告書の再提出をここまで頑なに拒んだ理由は、それぐらいしか思い当たらなかった。まさか寿会会長が、どこをどう修正すればいいのかわからないということではあるまい。

再調査をふまえた市の結論

 さて、朝木は「(寿会会長から)不正金の一覧も行ってるはずですよ。どうしてそれなのに処理ができないんですか」と聞いたきり、この件についてはそれ以上の追及をせず、10月に多摩湖寿会から会計帳簿類(のコピー)が送付されて以降、所管はどんな調査を行ったのか、またその結果がどうだったのかについて聞いた。まさに12月議会における一般質問の最大のテーマだろう。

 この質問に対して健康福祉部長は、「今回の補助金執行に関わる再調査はまず、二重に計上されている経費の有無の確認、次に補助対象外経費の混在の有無の確認といった手順で進めたこと」、「二重に計上されている経費を推定し、額を特定したこと」、「補助対象外経費については、領収書の内容や金閣を精査し、対象外とすべき経費を算出したこと」などを説明した上で、山川に対するヒアリングの状況について次のように説明した。

健康福祉部長  ……第2回目(筆者注=のヒアリング)には二重に計上されている項目の額を中心に聴取をいたしました。ヒアリングの過程で、旧会計担当者(筆者注=山川)は、……補助対象経費に二重に計上されている項目があることを認めております。また、経費については私的に用いたことはなく、会の活動において必要な経費であったとも述べております。

 朝木はすかさず「それで市の見解はどうなんですか」と質した。これに対して健康福祉部長は、「寿会の会計全体の部分については特に指摘せず、補助金の執行に関して不適切(本来の補助対象項目でないもの)、上回って補助を受けているものについて返還を求める方針」であると述べた。多摩湖寿会は市からの補助金と会員の会費で運営されているので、市はあくまで補助金の部分について不適切と判断できる部分について返還を求めるということだった。これが再調査の結果をふまえた市の結論ということと理解できた。

 するとこれに対して朝木はさらに、険しい口調で次のように追及した。

朝木  私が聞いているのは、……架空の、実際には支出されてない領収書がいっぱい貼ってあるでしょ。それから領収書とレシートを両方もらって、あたかも別の経費みたいにして計上してるでしょ。それから領収書じゃなくてメモだけ、会長にいくらいくら渡しましたっていう、会長が受け取ってないものも入っている、そういう実際には支出していない領収書を貼って会計帳簿を作れば、当然、お金が浮くじゃないですか。そのお金はどうしたというふうに聞いてるんですか。当たり前の話でしょ、聞かなかったんですか。

 朝木は山川が二重計上や補助対象外経費を補助対象経費として計上していたこと以外に、「実際には支出もされていない架空の経費を計上していた」と主張しているのだった。健康福祉部長は次のように答弁した。

健康福祉部長  ……私的流用はなかったというふうに……ヒアリングをしております。で、実際に年度末に領収書の提出がないサークルがあり、他のサークルの領収書を添付したり、実績報告書の提出期限に間に合わせようとしたと、その後適切な領収書への差し替えや実績報告書の訂正などの対応ができなかったために、結果として二重に計上された経費として残ってしまったというようなことを、ヒアリングの中で経過説明を受けております。実績報告で虚偽の申告をしようとしたといった意思はその際に確認はできていないということです。

 所管としては、朝木が主張しているような、「山川が多摩湖寿会の金を横領した」とは認定していないということと理解できた。しかし朝木はさらにボルテージを高めながら、具体例を挙げて追及を続けた。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第9回
原本ではなくコピーを提出

 平成28年12月議会の一般質問で朝木が次に聞いたのは、同年9月議会で健康福祉部長が多摩湖寿会の会計問題を「再調査する」と答弁したことに対し、どのような調査をしたのかという点だった。健康福祉部長の答弁によれば、その後の「再調査」の経過は以下のとおりである。



(「再調査」の経過=健康福祉部長による)

平成28年9月30日……市老連より多摩湖寿会に対し、文書で、平成24年度から平成27年度の会計帳簿類の提出を依頼。
10月7日……多摩湖寿会が会計帳簿類を提出。ただし、これらは原本ではなくすべてコピーだった。
10月31日……市老連と社協が、現役員(寿会会長ら)および旧役員(山川および寿会前会長)に対するヒアリングを実施。市は寿会会長に対して、過去の会計に不適切な項目があると認識するのであれば、実績の修正報告をするように指示。提出の締め切りを同年11月7日とした。
11月7日……寿会会長より市老連に対し、「補助金実績報告等の再提出は行わない」との連絡。
11月8日……市老連、社協が、会計状況の確認作業の過程で二重に計上されている経費と推測された項目について旧会計(山川)から再度ヒアリングを実施。
11月10日……寿会会長が市老連に対し、修正報告を行わない理由を示した書面と、会員の証言等の資料を提出。



 上記の経過の中で寿会会長が行った対応の中で、通常では考えにくいと思われる対応が2つあった。1つは、市老連が会計帳簿類の提出を依頼したのに対して寿会会長が提出したのが原本ではなくコピーだったこと。もう1点は、寿会会長が「過去の会計に不適切な項目がある」と指摘したため、市が実績の修正報告をするよう指示したのに対して、寿会会長が「修正報告はしない」と回答したことである。

 この「再調査」は9月議会における朝木の質問がきっかけで行われることにとなったものである。朝木は寿会会長から入手した会計帳簿類の資料と寿会会長からのものと思われる情報に基づいて質問したことが明らかだった。朝木の一般質問での主張は、すべてではないにしてもおおむね寿会会長の考えと一致しているものと推測できた。この「再調査」にしても、朝木と同様に、寿会会長も望んでいたのではあるまいか。

「再調査」にあたり、市が寿会会長に対して会計帳簿の提出を依頼したのは当然である。会計帳簿を再調査しなければ「再調査」とはならない。「再調査」の結果、市がいかなる結論を出すにせよ、会計帳簿はその根拠となる最も重要な書類である。その重要な書類を、寿会会長が提出したのが原本ではなく、なぜコピーだったのか、その点がまず不可解だった。

 寿会会長が提出した会計帳簿がコピーだからといってただちに真正性に疑義が生じるといっているのではない。しかし、市が原本の提出を求めたにもかかわらず、寿会会長はなぜコピーしか提出しなかったのだろうか。

修正報告の提出を拒否

 もう1つの、市が実績の修正報告をするよう指示したが、寿会会長が「修正報告はしない」と回答したことについては、朝木が次のような質問をして、市が寿会会長に対して修正報告をするよう指示したことを批判している。

朝木  ……(筆者注=寿会会長に修正報告を)再提出を求める理由として、「ヒアリングにおいて二重計上等の不適切な会計処理がなされていることが聴取できたため」とあるんですよ。……調査の結果、その提出した側(筆者注=寿会会長)に再提出を求めるんであれば、こことここと、この部分が不適正、二重計上であるので、……修正の再提出をしてくださいというのが通常のやり方ではないですか。……これでは再提出をしろといっても、どの部分が不適切であったのかが何も示されていないので、これでは出しようがないという(筆者注=寿会会長の)話だったんですよ。

「市はすでに調査した結果として再提出を求めているのだから、修正箇所を指摘すべきだが、それを指摘しないので提出できない」というのが寿会会長の主張だという。それが事実だとすれば、そのように市側に伝えればいいと思うが、健康福祉部長の経過説明の中には、寿会会長から「補助金実績報告等の再提出は行わない」との連絡があったとあるのみで、寿会会長からなんらかの相談があったとの報告はない。少なくとも、寿会会長が市に対して補助金実績報告等の再提出をしない理由について、健康福祉部長が答弁した内容と、寿会会長の話として朝木が主張した内容には齟齬があるように思える。

 その事実関係はともかく、朝木の上記質問に対して健康福祉部長は次のように答弁した。

健康福祉部長  ……現役員さんから過去の会計処理についてご相談をいただき、一定、現役員さんのサイドで会計処理について不適切な部分があるということで項目を挙げてのご指摘をいただいております。それにつきまして、すべての書類を提出いただいた中で、事務局として確認作業をしていただき、実際に補助対象として不適切と思われるものが発見をされるという中で、再度ご提出をいただく中で返還額の確定をさせていただければというのが事務局の考え方でございます。ただし、……裏付けの足りない部分等に関して完全に整合が取りきれない部分があったので、逆に再度提出していただくことで、そのへんの確定作業ができればというふうに考えていたわけですが、……結果として、(筆者注=お出しいただいた会計帳簿類のコピーに基づき)今回の最終的な判断をさせていただいたところです。

 所管としては、寿会から再度修正報告を出してもらって、返還額の確定をしようとしていたということで、所管の対応がそれほどおかしいとは思えない。所管は寿会会長が「補助金実績報告等の再提出は行わない」という回答をしてきたため、所管の側で返還額の「最終的な判断をした」ということのようだった。この対応もまた、特段不自然なものであるとは思えない。

 健康福祉部長の答弁からは、寿会会長が「補助金実績報告等の再提出は行わない」と回答したのに対して所管が具体的にどのような対応、あるいは提案をしたのかはわからない。しかし、寿会会長の側で市側の方針に歩み寄る意思があれば、あえて再提出を拒むほどの理由が市側にあったとは思えなかった。むしろ、寿会会長が市側の指示に従って補助金実績報告等を再提出すれば、ことはよりスムーズに運んだのではないかという気がしてならなかった。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第8回
社協担当者が伝えた「弁護士の見解」

 平成28年12月議会の一般質問で、朝木は「元市議による多摩湖寿会での横領をいつまで隠蔽するのか」について聞くとし、その最初の質問として「同問題に対する社協の対応」と「返金された42万4500円の処理の仕方」を聞いた。「社協の対応」については、朝木自身が9月議会で自ら「経過」を説明しているから、すでに朝木はよく知っているはずだが、あえて再度、所管の口から答弁させようということなのだろうか。

 これに対して所管の健康福祉部長は、まず「社協の対応」について朝木が9月議会で自ら説明したことにはいっさい触れず、冷静に次のように答弁した。

健康福祉部長  (平成28年)8月17日に社協で実施した話し合いでございますが、これまでの相談経緯、新旧役員の双方の主張、補助金に関わる会計処理の調査内容、社協顧問弁護士の見解などを社会福祉協議会担当者が説明をしております。

 9月議会で朝木が自ら説明したとおりで、なんら変更点はない。社協担当者が説明した内容は、「顧問弁護士の見解として、1として『不正に抜き取られた(筆者注=朝木の主張)のは補助金の部分でないこと』、2として『市老連の会計監査も通っていること』、3として『多摩湖寿会の総会においても過年度決算は承認されており、お金も返金されていて、示談が済んでいる』という理由により、『何の問題もない』という見解を伝えた」というものである――と朝木自身が説明している。このうち、「不正に抜き取られた」という文言以外については、社協がそのように説明をしたことは事実である。

 では、「返金された42万4500円の処理の仕方」についてはどうか。

健康福祉部長  返還金の使途については……社協担当者は「帳簿等を確認している最中であるので、一定の結論が出るまではそのまま保管するように」指示をしたと聞いております。しかし現会長は、「約42万円については寿会のものであり、仮に返還等が発生しても現役員で責任を持つ」とする返答をしたという形で報告を受けております。

 これに対して朝木は次のように質した。

朝木  ちょっと私が聞いている話と違いますけど、少なくともこの時点では、この元会計がお金を抜き取ったことは認めたということですよね。それは社協も行政も知ってるんですね。

 健康福祉部長の答弁について、朝木はどの部分を「私が聞いている話と違う」といっているのか、社協が寿会会長に指示したという内容のことなのか、あるいはそれに対する寿会会長の返答のことなのかはわからない。「違う」というのなら、どこが違うのか明らかにすればいいのではあるまいか。

誘いに乗らなかった部長

 しかし「違う」といいながら、朝木はその点には触れず、山川が「お金を抜き取ったことは認めたということですよね。それは社協も行政も知ってるんですね」と、それまで所管が一言も述べていない論旨で確認を求めた。

 朝木は9月の一般質問で、「山川は返金はしたが、『私は今年(平成28年)の寿会50周年記念事業のためにお金を積み立ててあげていただけで、横領ではない』と主張している」と説明している。朝木は山川が「お金を積み立ててあげていた」と説明していることを知りながら、その主張を認めず、一方的に「盗んだ」と主張していた。

 寿会会長から山川が返金した42万4500円の処理の仕方について聞かれた時点で社協と所管が知っているのは、山川が「返金をした」という事実だけである。山川が「返金したこと」と「金を抜き取ったことを認めたこと」とはまったく別の話だが、朝木はあえて「返金したこと」と「抜いたと認めたこと」という2つの事実をごちゃまぜにして、所管に確認を求めているようにみえる。

 朝木のこの質問に対して健康福祉部長が「返金したことを知っているか」と聞かれたものと勘違いし、うっかり「知っております」と答弁しようものなら、たちまち「行政は山川が寿会の金を抜き取ったことを認めた」ことになってしまう。朝木にはそんなしたたかな計算があったのではあるまいか。

 しかし健康福祉部長は、朝木の誘いには乗らず、淡々とこう答弁した。

健康福祉部長  返金がされたという事実は、この段階では確認をしております。以上です。

 このあたりから朝木は、この日の質問の狙いが、行政に対して「山川は寿会の金を横領した」と認めさせるところにあることを露骨に見せ始め、質問の口調もしだいにきつくなってきた。「山川が寿会の金を抜き取った」と健康福祉部長に認めさせる誘導質問に失敗した朝木は、健康福祉部長に次のように詰め寄った。

朝木  取ってもないお金を返金する人はいないでしょう。

 これまで朝木と健康福祉部長との間で、山川が「寿会の金を盗んだのか、そうでないのか」についてのやりとりはいっさいなされていない。したがって、朝木の上記の発言はもはや質問ではなく、朝木の個人的な意見にすぎない。しかも行政に関する意見ならともかく、行政とは関係のない個人的な意見に対して所管が答弁する必要はあるまい。

 朝木は「山川が寿会の金を抜いた」とする主張に対する答弁が期待できないと直感したのか、今度は山川と寿会会長が交わした「誓約書」の話を持ち出した。誓約書には、山川が社協の評議員等を辞任する旨、および「今後金銭的な内容についてはこれをもって一切申し立てをしない」と記載されている。朝木は山川が数種類の組織の役職を辞任することを認めた事実をもって、「山川が寿会の金を盗んだことを認めた」と主張したいようだった。

(つつく)
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多摩湖寿会事件 第7回
「横領」を前提とした質問

 平成28年11月30日に行われた朝木直子の一般質問は、朝木が「社会福祉協議会は虚偽の報告をしています」と一方的に主張したあと、次の質問に移った。その冒頭、朝木は質問のテーマについてこう述べた。

朝木  本題に入りますけれども、「元市議による多摩湖寿会での横領をいつまで隠蔽するのか」というようなことで伺います。

 すでに「元市議が多摩湖寿会で横領という犯罪を犯した」とする事実が存在することを前提にした質問であることがわかる。それを市が隠蔽したとすれば、市もまた共犯ということになるが、何を「伺う」というのか。朝木はまずこう聞いた。

朝木  9月議会で指摘した元市議による多摩湖寿会で発覚した横領について、社協の対応はどのようであったのか、(1)8月17日(筆者注=平成28年)に社協で多摩湖寿会の前年度役員、現年度役員及び市老連、高齢介護課職員、第三者の立会人にて協議した内容を伺います。また元会計から返金された42万4500円についてはどのように処理をするのか伺います。

 朝木が「元市議による多摩湖寿会で発覚した横領」と主張する出来事について、朝木が平成28年9月議会の一般質問で説明した「事件の概要」をあらためて紹介しておこう。



(朝木が説明した「事件の概要」)

 今年の6月17日、当市の補助対象団体であります、補助金の交付対象団体であります老人クラブ、多摩湖寿会にて2012年(平成24年)度から2015年(平成27年)度会計における不正処理が発覚。今年度の会長をはじめとする役員による調査の結果、経費の二重計上、会費、祝い金等の未納入などにより、4年間で合計42万4500円の不足金があることがわかった。

 平成24年度から27年度は、通常2人で受け持つ会計業務を1人の人物が受け持っていたため、その前会計に連絡をし、7月1日に多摩湖ふれあいセンターにて役員が問い質したところ、寿会の会計から上記方法により42万4500円を抜き取ったことを認め、同日にこの42万4500円を返金した。



 このうち、「経費の二重計上、会費、祝い金等の未納入」があり寿会の会計帳簿に収入として記載されていなかったこと、つまり本来は寿会の会計帳簿に計上されるべきであるにもかかわらず計上されていない金があり、前会計の山川は寿会会長に対し42万4500円を返金した――上記の朝木による経過説明のうち、ここまでは事実である。ただし、朝木が続く説明の中で〈この前会計は、「私は今年(筆者注=平成28年)の寿会50周年記念事業のためにお金を積み立ててあげていただけで、横領ではない」と言い張り〉と説明しているとおり、山川はその42万4500円について「抜き取った」(=「盗んだ」、あるいは「横領した」)ものではないと主張している。

 すると、山川の主張を前提とすれば、「山川は寿会50周年記念事業のために簿外で積み立てていた42万4500円を会長に返金した」ということになる。会計担当として、簿外で積み立てたという行為が不適切な行為であることは間違いない。しかし、朝木の主張するようにこの行為を「横領」とまで断定していいのかどうか。

「金銭的解決」を意味する誓約書

 さて、山川が寿会会長に42万4500円を返金したあとの経過は、朝木の説明によれば、以下のとおりだった。



(「返金」後の行政の見解=朝木の説明)

 多摩湖寿会は、平成24年度から27年度の会計において不正があったこと、及び返金されたこの42万4500円の処理について市老連に相談をしたところ、市老連は……返金された42万4500円については、行政に返金があり得るので、手をつけないでほしい」と、現寿会会長に伝えた。その際、過年度の会計について、……行政も社協もなんら問題なしとの認識を持っており、元会計についても……お咎めはなしという趣旨のことも、寿会会長に伝えた。

筆者注=平成28年8月17日になり、市老連の見解は)「寿会と前会計で話し合い、示談書を作成し、示談してほしい」とのことであった。……(筆者注=同日、寿会会長と山川は)誓約書を作成し、本人も署名、押印した。



 この「誓約書」とは「示談書」と題された文書ではないものの、「誓約書」には「今後、金銭的な内容についてこれをもって一切申し立てをしない」との文言が入っている。したがって、内容的には示談書と同等のものと理解していいのではあるまいか。

刑事告訴の可能性

 しかし、この経過説明の終わりに朝木は次のように説明した。

〈8月の25日に、寿会は前会計を呼び、正式な示談について話し合いを持ったが、この前会計は、「私は今年の寿会50周年記念事業のためにお金を積み立ててあげていただけで、横領ではない」と言い張り、「横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない」という示談は成立しなかった〉

 その前に、山川は42万4500円を寿会会長に返金し、寿会会長との間で「今後、金銭的な内容についてこれをもって一切申し立てをしない」との「誓約書」を交わしている。朝木はそのことを認めた上で、「(その後に)正式な示談について話し合いを持ったが、……『横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない』という示談は成立しなかった」と述べているのである。

 難解な話だが、朝木は「誓約書」を交わしたことは認めるが、その上でさらに山川は寿会会長との間で「『横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない』という示談をすべきだと主張しているようだった。寿会会長も当然、同じ考えなのだろう。山川に「横領」を認めさせたいということなのだろうか。

「横領」とは「他人から委託されて預かっているものを自己の利益のために使ってしまう(処分する)こと」である。したがって、山川がした行為を「横領」といえば、「山川は寿会会員から預かっている金銭を自己利益のために使ってしまった」という意味であることになる。すると、「誓約書」を交わした後に「山川が横領した」と主張することは、「誓約書」にある「今後、金銭的な内容についてこれをもって一切申し立てをしない」との文言に反することになるのではあるまいか。

 朝木は、「『横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない』という示談は成立していない」という。しかし、そもそも「誓約書」を交わした上で、「横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない」という示談があり得るのだろうかという疑問もある。いずれにしても朝木が平成28年9月以降、寿会会長と山川が「誓約書」を交わした事実およびその内容を知った上でなお、「山川は寿会の金を横領した」と主張していることだけは確かだった。

 なお朝木は、「横領を認め、謝罪すれば刑事告訴はしない」という示談は成立していないというのだが、現在のところ、寿会会長や朝木が山川を告訴・告発したという情報は届いていない。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第6回
社会福祉協議会の中立性に疑義

 平成28年11月30日に行われた朝木直子の一般質問は、通告書に従い、「1.社協の監査は適正に行われているか」から入った。社協が東村山市内の老人クラブの会計監査を行うようになった経過、監査の内容、範囲、決算関係書類の確認方法、責任の所在等である。そこまでは一応、あまり違和感のない普通の質問だった。

 様子がおかしくなったと感じたのは、「(多摩湖寿会以外の)他のクラブに聞いたところ、補助金の使途については社協からは厳しく指導されており、帳簿の内容も指導手引きの内容に沿ったものだった」と前置きし、次のように聞いたときである。朝木はやんわりこう聞いた。

朝木  老人クラブによって監査の方法や指導が違うようなことっていうのはあるんでしょうか?

 この質問が、彼らの政治広報紙『東村山市民新聞』第188号(平成28年10月31日付)で〈社会福祉協議会事務局の中には、山川・元公明市議の横領に見て見ぬふりをした職員がいるのではないかとの疑惑が出ている。〉、〈元市議だと、特別扱いなのでしょうか?〉と記載したことと無関係でないのは明らかである。朝木としては「社協が山川だけを特別扱いした」ということにしたいのだろう。

「(多摩湖寿会以外の)他のクラブに聞いたところ、補助金の使途については社協からは厳しく指導されており、帳簿の内容も指導手引きの内容に沿ったものだった」というからには、多摩湖寿会以外の老人クラブの会計責任者すべてから事情を聞いた上で、多摩湖寿会以外の老人クラブに対する社協の扱いは多摩湖寿会に対する対応とは異なっていることを確認したということなのだろうか。

 朝木の質問は公的性格を持つ社会福祉協議会の中立性・公平性に疑義を呈するものである。したがって上記の朝木の質問は、多摩湖寿会以外のすべての老人クラブに対する調査を行い、確認が取れたというのでなければ、軽はずみな発言として慎むべき内容である。東村山市内には、多摩湖寿会以外に50の老人クラブが存在する。仮に調査を行ったのだとしても、ここまでいうからには当然、アンケートなどの表面的な調査では十分とはいえない。

 朝木の質問に対して健康福祉部長は次のように答弁した。

健康福祉部長  ……老人クラブによって異なった方法で監査をすることはないというふうに認識をしております。しかしながら、……各老人クラブの自主性、主体的な会の活動を重んずるがゆえに一部拡大した解釈などがあったことは認めざるを得ません。

 監査で特定のクラブに便宜をはかったり、不公平な扱いをした事実があれば大変な不祥事で、そんなことがそうそうあるはずがない。なおここで健康福祉部長がいった「拡大解釈」とは、補助対象経費がどこまで認められるのかについての解釈に、拡大し過ぎた部分があったという趣旨である。補助対象経費として認めていた経費の中に、規則上は認められていないものまで認めていたものがあったということだった。要するに、これまで補助対象経費の扱いについてはけっこう緩かったということでもあろう。

 健康福祉部長の口から「拡大解釈」という文言から出ただけでも朝木にとっては収穫だったろう。「拡大解釈」といえば聞こえはいいが、判断の誤りではないかといわれれば反論できない。朝木が行政のミスを認めさせたかたちだった。

朝木の深謀

 ただ、朝木の狙いはその点にあるのではない。さらに朝木は質問を重ねた。

朝木  ちょっと今気になった「拡大解釈」という問題ですけれども、これが特定の老人クラブにだけ許されていたという現状はありますか?

 所管としては多摩湖寿会に限定した問題と割り切るしかない。所管はこう答弁した。

健康福祉部長  少なくとも所管としては、そういう認識は持っておりません。

 所管の答弁に対して、朝木は根拠を示して反論することはなかった。これで終わってしまえば、ただ所管に「社協は不公平な扱いはしていない」と答弁させただけとなり、朝木は何のために質問したのかということになる。

 しかし朝木の狙いはその先にあった。朝木は次のように質問を継続させた。

朝木  ……老人クラブによって監査の方法は変えてないよということで、……(手引きによって)監査が行われて、補助対象経費、対象外経費の区分けがされる……それを前提にして伺いますけれども、この多摩湖寿会の今、平成26年度の領収書と帳簿がここにあるんですけれども、……同じように監査をしているということであれば、……拡大解釈もまあ若干あるかもしれないと……勘案したとしても、何十件というね、たとえばお酒、……ビールとかいいちこから始まって神社へのお祝い金から、……下見に行った役員数人が東武ホテルの食事、東武ホテルで食事代として6400円の支出とか、こういうわけのわからないものがいっぱい貼ってあるわけですよ。東武ホテルもそうだしファミリーレストランの食事の領収書から宴会の酒類、備後ゲーム用品、それから市内外の寿司店、中華料理店の飲食費……神社へのお見舞い、神社へのお祝い、これを4年間にわたって市老連(筆者注=東村山市老人クラブ連合会)は認めてきたということであるのか。そうするとね、……この手引きについては、これはどういう位置付けで考えているのか、ちょっとお答えいただけますか。

 ここでいう「手引き」とは、「どこまでが補助金の対象となる経費なのか」についての手引きのことである。朝木からこの「手引き」の位置付けを聞かれた所管は、「補助金の対象となる経費について、老人クラブを指導していただくためのガイドライン」であるとの趣旨の答弁をするしかなかった。すると、それまで朝木が挙げた、ホテルでの食事代や神社へのお祝い金などの支出はこの「手引き」に沿ったものなのかということになる。

 警察が犯罪者を問い詰めているのならともかく、ここは取調室でも裁判所でもなく、議会なのだった。議会では自分の把握している事実を述べた上で、疑問点を問えばいいのではあるまいか。朝木の質問は、相手の言質を取った上で、自分のつかんでいるネタを後から出していき、相手をやり込めようとするもののように思える。「手引きの」の位置付けなど、あえて議場で聞くような話ではない。

 しかし朝木は、「手引き」の性質をわざわざ所管に答えさせた上で、さらにたたみかけた。

朝木  ……では、この手引きに基づいて、一律に監査したということであれば、なぜこの多摩湖寿会の、この帳簿、領収書が4年間にわたって監査を通ってきたのか。……真相が知りたいので、この原因について伺います。はっきり答えてください。

 ここまでくると朝木が冒頭でやんわり「社協の監査の公平性」を聞いたことの意図が見えてくる。ここで朝木は、「公平といっているにもかかわらず、多摩湖寿会に対する監査の状況は公平とはいえないのではないか」といっているのである。健康福祉部長は次のように答弁した。

健康福祉部長  ……今回確認をさせていただいて、一定、議員からもご指摘が、決算特別委員会でございましたように、会計として不適切なものがあるということで今回確認をさせていただいております。……会の自主性、主体性を重んじるあまり、拡大解釈の部分が出てしまったというような形で報告を受けているところでございます。

 所管は社協の監査に落ち度があったことを認め、9月議会以降に行った再調査の結果、補助金の返還が発生するような状況であることを説明した。それでもなお朝木は、「社協が市に虚偽の報告をした」と主張したのだった。

 朝木としては、「社協が山川を特別扱いした結果、不正な会計報告を見逃した」という結論に持っていきたかったのだろう。しかしこの点はまだ、ほんの入り口にすぎなかった。

(つづく)
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東村山市議会傍聴記(平成29年3月議会一般質問)
 平成29年3月3日、東村山市議会では一般質問が行われた。この日、午前11時30分から朝木直子の一般質問が始まったが、朝木の質問は昼食休憩を挟んで午後4時30分まで続いた。東村山市がある資料を市民に提供したことを朝木が問題視して追及し、その答弁をめぐって何度も議会運営委員会が開かれるなどして、議会の進行が止まったのである(この質問内容についてはいずれ詳述する)。この5時間のうち、実際に質問と答弁が行われたのはせいぜい1時間程度だったのではあるまいか。

 この日の朝木の一般質問のタイトルは〈多摩湖寿会で発生した元市議による横領事件について〉である。朝木はこのテーマを平成28年9月議会から続けており、同議会の決算特別委員会での質問を含め、議会で取り上げるのは4回目となる。

 多摩湖寿会の会員たちとおぼしき市民が10人ほど傍聴に訪れていた。朝木の質問中、議会の進行が止まった際には、質問者の朝木直子と多摩湖町を地盤とする自民党の東村山市議蜂屋健次がたびたび傍聴席の寿会会員とおぼしき市民のところまでやってきて、なにやら話し合っているという光景が見られた。

 私の座っていたのは議場の左端で、寿会の人たちが座っていたのは右端だったから、何を話していたのかその内容は定かではない。ただ、議会が止まった際には寿会の中心的人物(会長と思われる)が議長に向かって大声で何かを訴え、議長からたしなめられるという場面もあったから、朝木の質問内容が寿会、とりわけ会長にとっても切実な問題であることがうかがえた。

傍聴席で携帯カメラを向けた寿会「会長」

 それにしても、何時間も議会が止まるのはめったにないことと思うが、議会が中断している最中に、傍聴席でもめったにない事件が起きていた。私の記憶では午後4時ごろのことである。私は元東村山警察署副署長の千葉英司と並んで傍聴席の左端に座って再開を待っていた。ふと傍聴席の右端に目をやると、どうしたのか、寿会の会長とおぼしき人物が、まずその人物の通路を挟んですぐ左側の市民(寿会会員と思われる)を携帯電話で撮影し始めた。

 それまで、その寿会会長と思われる人物は寿会会員と思われる市民たちに飲み物を差し入れるなど非常に気を遣っている様子だったから、記念写真でも撮っているのだろうかと思って見ていた。するとそのうち、その人物は携帯をすっと私たちの方に向けたのである。それが目的だったとすれば、まず会員たちに携帯を向けたのは、カムフラージュのつもりだったのかもしれない。

 携帯がこちらの方向に向けられたことに気がついた私と千葉は、ただちにその人物に向かって大声で怒鳴りつけた。

「こっちを撮るんじゃない」

 とっさのことで、また相手との間には相当の距離があるから、おとなしい声では聞こえないし、撮影を止めさせることもできない。だから、われわれの口調が強くなったのは致し方ない。

 寿会会長とおぼしき人物は、われわれが自分に対して怒っていることにすぐに気がつき、携帯を下に向けた。われわれが何をいっているのかにすぐに気がついたことを考えると、やはりこの人物の狙いはわれわれにあったとみるのが自然なようだった。このことについて、寿会会長とおぼしきこの人物からわれわれに対して直接的な反論はいっさいない。

 われわれが怒鳴ったことに対して、そばに座っていた2人の傍聴者から批判があった。1人はわれわれの方を向いて「そんないい方をしなくてもいいじゃないか」という。しかし距離があり、撮影を止めさせるには大きな声で、強くいうしかなかろう。撮影しようとした側を批判しないのは本末転倒である。

 もう1人の批判は「あなたも撮影してるじゃないか」というものだった。しかし私が「私は議長の許可を受けて、議会の開会中に議場(公人)を撮影しているだけで、傍聴席の私人を撮ってはいません。私人を勝手に撮るのはダメなんですよ」と説明すると、この傍聴者はすぐに理解してくれた。

割り込んできた蜂屋健次(自民党)

 そんな傍聴者とのやりとりがあった直後のことである。議場内にはその寿会会長とおぼしき人物の近くで、市の職員と自民党議員の蜂屋健次がわれわれの正面を向いて座っていた。すると、今度は蜂屋が割り込んできた。蜂屋は私に向かって薄笑いを浮かべて、「まあそんなに怒らなくても」という趣旨のことをいったのである。

 この議員は傍聴席で他の傍聴人からカメラを向けられることがどういうことか理解できないようだった。だから私は蜂屋をこう怒鳴りつけた。

「おまえ、傍聴人をからかうようなことをいうんじゃないよ」

 すると蜂屋は、私に対して「『おまえ』といったな」と強い不快感をにじませながら、議場から出ていった。「捨てぜりふ」というのだろうか。

蜂屋は自分の支持者が非難されていることに気がつき、支持者をかばおうとしたのだろう。支持者を大事にしようとする気持ちは人情かもしれないが、それも時と場合による。寿会会長とおぼしき人物がわれわれに携帯電話のカメラを向けたことは事実なのだから、蜂屋は市会議員として、それが自分の支持者であろうと、カメラを向けた側を注意すべきなのである。カメラを向けた側にはなんらの注意もせず、カメラを向けられた側に対してのみたしなめるような発言をするというのは、やはり筋が通らないのではあるまいか。

 かつて東村山市議会では「草の根市民クラブ」の矢野穂積が傍聴席にカメラを向け、また朝木直子が市役所の敷地内で千葉にカメラを向けた。また平成21年3月議会では、矢野が東村山に連れてきた右翼が傍聴席をビデオで撮影し、ユーチューブに上げたという事件があった。そのときには、右翼に対して議長が削除を求めるまでに発展した。

私の知るかぎり、傍聴人が傍聴席を撮影するという事件が起きたのは、上記の右翼によるビデオカメラ撮影事件以来のことである。しかし、傍聴席を無断で撮影しようとした者を自民党の市会議員があからさまに擁護した例は記憶にない。

(了)
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