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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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元市議名誉毀損事件 第45回
具体的根拠を欠いた主張

 矢野と朝木が「山川は詐欺事件に関与した」とする主張の根拠として、「松田を被害者に紹介した」とする事実と並ぶ重要な事実として主張していたのが、「山川は被害者が一人暮らしになったという情報を(詐欺グループの一員である)松田に話した」とする事実だった。これに対して山川は、仮にそのような事実が存在したとしても、「被害者が一人暮らしになったと松田に話したこと」がただちに詐欺に関与したとする事実の裏付けとなるには、山川と松田、塩田との間で事前に打ち合わせがなされているなどの共謀関係が立証されないかぎり、「詐欺に関与した」とする事実の裏付けとはならないと主張していた。

 この点について、矢野らは控訴理由書で改めて次のように主張していた。

〈「被控訴人(筆者注=山川)が、○○(筆者注=被害者の実名=以下、同)から聞いた『(夫と別居し)一人暮らしになった』という情報を、松田に話してしまった」ことが、松田の○○宅への再訪のきっかけとなり、ひいては本件詐欺まがいの行為を導く結果となったことは明白であり、これは、被控訴人が、本件詐欺まがいの行為について、塩田らと○○の両方の間に立ってつなぐ仲介のような役割を果たしたものと評し得る……。

 控訴人ら(筆者注=矢野、朝木)が本件記事を掲載した本件新聞を発行した時点において、○○を取材することにより同人から聴取済みであった内容及び同人から入手済みであった資料からすれば、控訴人らが、少なくともこの事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。〉

 矢野らの主張には相変わらず、「松田が被害者宅を再訪した」とする事実の背景や理由も、また塩田による詐欺まがいの行為に山川がどう関ったというのか、なんら具体的な根拠は示されていない。仮に相当性を主張するにしても、山川と塩田の間に通牒関係があったことをうかがわせる具体的な事実を示さなければならないが、控訴理由書でそのような事実はいっさい示されてはいなかった。

被害者の供述に対する反論

 しかし、被害者が控訴審で提出した新たな陳述書には次のような記載があった。

〈(山川さんは松田に対して)もっと強く私への返金を促してくれてもいいのではないかという思いから、「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがありました。〉

 矢野らは被害者の主観的な供述によって客観的な根拠の代わりにしようとしたようにみえた。少なくとも、会話の流れを無視して被害者の上記供述だけを切り取れば、「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件のきっかけになったとする矢野らの主張に沿うものであることは確かなようにみえる。

 このため山川は被害者の上記供述に対して次のように反論した。

〈○○は告訴状(筆者注=塩田らに対する告訴状)においても塩田を提訴した際の陳述書においても、そのような主張は一切していない。それどころか○○は上記陳述書において、「そのような借金の申し入れは断れば良かったのですが、松田さんの紹介であったことや、……被告塩田や松田さんらに色々とお世話になっていたこともあり、断り切れず」と記載している。つまり○○は「一人暮らしだから」塩田らの借金の申し入れを断りきれなかったとは考えていなかったのである。……○○の主張は、自分を直視できなくなった者の八つ当たりというほかない。〉

 では、「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件につながったとする矢野らの主張に対して東京高裁はどう判断したのか。東京高裁は次のように述べた。



(「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件につながったとする矢野らの主張に対する判断)

 ○○の陳述書には、○○が被控訴人に対して、「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがあるとの陳述部分があるが、同部分は、○○が塩田らからの貸付金の回収が奏功しないことに対する不満を、○○の推測を交えて被控訴人に述べた記載にすぎないことはその記載内容に照らし明らかである上、○○が塩田らに対して貸金の返還を求める訴えを提起した際に作成した陳述には、そのような記載はなく、かえって、塩田や松田に色々と世話になっていたこともあって断り切れなかったと記載していたことからすれば、○○においても、被控訴人が○○が一人暮らしになったことを話したことが詐欺につながったとは考えていなかったことがうかがわれるのであって、上記陳述部分も本件記事の内容が真実であることを裏付けるものではなく、……



 東京高裁は山川の主張を全面的に認めるかたちで矢野らの主張を否定し、その根拠として被害者の新たな陳述書ではなく、山川が提出した被害者の最初の陳述書や告訴状の内容を重視したことがわかる。矢野らが一審では「提出する必要がない」として被害者の陳述書を提出しなかったにもかかわらず控訴審になって提出したこと、また松田と知り合った経緯についても矢野らの主張には沿っているものの、客観的事実に反する供述をしていることなどから、東京高裁は被害者の新たな陳述書に対して全面的に信用することを警戒したのではあるまいか。当初は何もいっていなかったにもかかわらず、矢野らが提訴されるや、急に山川を責めるような主張をするようになるというのは、やはり不自然と受け取られてもやむを得まい。

証人申請を却下した理由

 控訴審の第1回口頭弁論で山川は被害者に対する尋問を申し立てたが、東京高裁は「その必要ないと思います」と述べ、山川の申し立てを却下した。山川は控訴審答弁書の末尾で、尋問の主な内容は〈被控訴人が松田を○○に紹介した」とする事実とその時期、及び塩田からの返済が滞った後の被控訴人に対する○○の認識等〉であると説明している。このうち「塩田からの返済が滞った後の被控訴人に対する○○の認識等」とは、とりわけ被害者が新たな陳述書で〈「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがありました〉と述べ、あたかも山川が詐欺グループの一員であるとの矢野らの主張を支持するかのような供述をしていることを指している。山川は主張が対立しているとして、証人尋問を申請したのである。

 東京高裁は「必要がない」として山川の申し立てを却下した。そのとき、裁判官の本心をうかがい知ることはできなかった。しかし今なら、その理由を推し量ることができよう。裁判官は山川が提出した主張および証拠と被害者の陳述書の内容を比較し、少なくとも争点となっている部分について被害者の供述は信用できないと判断していた――だから、あえて出廷を求める必要はないと判断したのだ、と。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第44回
「手帳」の信用性

 矢野らは控訴理由書で「詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介したのは山川だ」と主張し、一審判決は破棄されるべきと主張していた。控訴にあたって朝木から新たな陳述書を作成するよう依頼された被害者はその中で「平成18年から19年ころに山川から松田を紹介された」と供述していた。これに対して山川は答弁書で、保管していた東村山市議会手帳を調べたところ、平成12年に松田が被害者から紹介されたことを示す記録をみつけ、「松田を被害者に紹介したのは私ではない」と反論し、手帳のコピーを証拠として提出。

 第1回口頭弁論で裁判官2名と控訴人の矢野らおよびその代理人が手帳の原本を手にとって確認を行った。裁判官から山川に対して特段の質問はなかったが、矢野らは「記載の時期を争う」として弁論を終結したのだった。

 この点について東京高裁はどう判断していたのか。東京高裁は次のように述べた。



(「山川が松田を被害者に紹介した」とする矢野らの主張に対する判断)

 被控訴人(筆者注=山川)が市議会議員当時に使用していた手帳であり、その記載内容の信用性が認められる甲第9ないし11号証の各3(筆者注=山川が証拠として提出した市議会手帳)によれば、平成12年8月15日の欄には、「レナウン 1:30 松田さんと」との、平成13年12月20日の欄には、「洋服 ○○(筆者注=被害者名)宅へ ○○さん(筆者注=本件とは無関係の山川の知人)と」との、平成15年5月20日欄には、「レナウン○○(筆者注=被害者名=以下同))宅」との各記載があることが認められ、これらはいずれも被控訴人が当該日に○○宅を訪れたことを記したものと認められるところ、これらの記載及び弁論の全趣旨によれば、平成12年8月15日には、単にレナウンと記載したのみで、○○の名がなく、あわせて、松田の名が書かれていることは、被控訴人は、当時○○の名を知らず、松田にレナウンの洋服を扱っている人と紹介され、同人と○○宅に行ったことを意味するものと認められる。



 矢野らは「記載の時期を争う」として山川の手帳の記録の信用性を争ったが、東京高裁はその信用性を認めるとし、2回目と3回目の訪問の際には被害者の名前が明記されているのに対し、最初の訪問の際には「松田さん」の名前はある一方で被害者の名前はなく、その代わりに「レナウン」と被害者が扱っている洋服のブランド名が書かれていただけだったことから、山川は松田から被害者を紹介されたこと、またその時期は平成12年8月15日だったと認定したのである。「松田を被害者に紹介したのは山川ではない」と認定したということだった。

 その上で、東京高裁は被害者の供述内容についてこう述べた。

〈平成18年から19年ころに被控訴人から松田を紹介されたとの○○の上記陳述部分は上記事実に反し信用できない。〉

 被害者は平成24年11月5日付けで警視庁に提出した松田らに対する告訴状の中で「平成18年から19年ころ、告訴人は友人の紹介で松田と知り合った」と記載している。しかし「山川の紹介で」とは書いていない。この告訴状を提出した際には山川も被害者を支援して陳述書を提出している。被害者は山川に信頼を置いていたということである。

「友人」との記載に合理的理由

 この告訴には弁護士もついていた。捜査機関に事件の背景等を理解してもらうためにも、告訴状には知っている事実をありのままに幅広く記載しておく必要があるから、弁護士もそう指導しただろう。したがって、告訴状で被害者が松田と知り合ったきっかけや関係を説明するにあたっても、松田を山川から紹介されたのなら、そう正直に記載しない理由はない。

 また当時、山川は協力者として被害者のそばにいたのだから、松田を紹介したのが山川だったとすれば、そのことを被害者が思い出さないはずもない。つまり被害者は、当時、松田を紹介したのが山川以外の友人であることを十分に自覚していたから、「友人の紹介で松田と知り合った」と記載したのである。

 松田を紹介されたとする時期は、実際には、山川が松田から被害者を紹介されたのが平成12年8月だったのだから、被害者はそれより以前に松田と知り合っていたことになる。事実とは相当の開きがあった。しかし告訴の時点でそれは重要な問題ではなく、被害者のおおまかな記憶で書いたのだろう。「友人」も告訴とは無関係だったから、紹介された時期について確認する必要もなかった。だから告訴状には、松田に関して誤った記憶がそのまま残ったものと推測できた。

 時期はともかくとして、はたして被害者が朝木に対して本当に「松田は山川から紹介された」と説明したのだろうか。いずれにしても、矢野らが平成27年7月31日付『東村山市民新聞』第186号に本件記事を掲載した時点で、「松田は山川から紹介された」ことになったのだった。

詳しくなっていった説明

 それがさらに、平成28年1月12日付朝木陳述書では、たんに「山川から紹介された」から〈原告山川が「マッサージができる人」として松田を連れて自宅に一緒にやってきた〉となり、被害者の新しい陳述書では〈平成18年から19年ころのことだったと思いますが、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に、山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉と、その説明は徐々に詳細になっていった。

 ところが東京高裁が信用性を認めた山川の手帳の記録によって、山川は平成12年8月15日に松田から被害者を紹介されたことが証明された。それによって、被害者が説明する「松田を紹介された」とする時期も、〈山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉とする事実も、すべてが事実に反するものであることが明らかとなった。

 事実に反するというよりも、存在しない事実を「あった」と主張しているのだから、事実の捏造という方が適当なのではあるまいか。ただし、それが本当に被害者が朝木にそう説明したものなのかどうかは定かではない。

完膚なきまでに否定

 東京高裁は上記判断の最後で、口頭弁論の際に矢野らが「手帳の記載時期について争う」と主張した点についても触れ、次のように述べた。

〈控訴人らは、被控訴人の手帳の平成12年8月15日欄の記載のうち、「レナウン」との記載は他の記載と異なり、ボールペンで記載されていることから、その頃に記載されたものであることを争うが、同手帳には、他にもボールペンで記載された部分があることは当該証拠の原本の取調べによって当裁判所に顕著な事実であることに照らし、控訴人らの主張する事実によって、上記判断は左右されるものではない。〉

「山川が詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介した」とする矢野らの主張は、東京高裁によって完膚なきまでに否定されたといえるのではあるまいか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第43回
「紹介」に関する矢野らの主張を否定

 一審の東京地裁が〈原告が松田を寺澤に紹介したことについては、これを認めるに足りる証拠がなく〉などとして記事の真実性、相当性を否定したことに対し、矢野らは控訴審で「山川から松田を紹介された」とする趣旨の供述を含む被害者の新たな陳述書を提出した。しかし東京高裁の本件記事に対する「一般読者の読み方」に対する認定は、一審の認定に〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず」という見出しを併せて読むと〉との文言を加えるというものだった。

 また、公共性、公益性の認定においては〈本件記事は、……一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというもの〉と明確に本件記事に対する認識を示していた。その時点で、本件記事の立証対象は「松田を被害者に紹介したのは山川だとする事実」ではなく「山川は詐欺まがいの行為に関与したとする事実」へと変わっていたといえる。

 では、被害者が陳述書で「山川から松田を紹介された」とする趣旨の供述をし、矢野がその供述に基づいて一審判決を否定したことに対し、東京高裁はどんな判断を示したのか。東京高裁は次のように述べた。



(「山川が松田を紹介した」とする事実に対する東京高裁の判断)

 控訴人らは、本件記事の内容は真実であると主張し、○○(筆者注=被害者)の陳述書を新たに提出するところ、同陳述書には、平成18年から19年ころに、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に被控訴人が「この人はマッサージをやっているのでよろしく。」と言って松田を連れて来た旨の陳述部分がある。

 しかしながら、本件記事は、既に述べたとおり、「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」などの見出しと相まって、被控訴人が詐欺まがいの行為を行っている人物を被害者に紹介し、詐欺まがいの行為の仲介のような役割を果たしているという趣旨のものであるところ、○○の上記陳述書からは、被控訴人が松田の妹の塩田が詐欺まがいの行為を行っているのを知った上で、その口ききのために松田を○○に紹介したとの内容とはなっておらず、本件記事の真実性を裏付けるものではない。



 一審の判決理由からして、矢野らは被害者の上記供述を最も重要な部分と考えていただろう。しかし、ただ紹介したというだけでは、「山川が塩田の詐欺まがいの行為の口きき」をしたとの事実を裏付けるものとはならないとして、最初からあっさり否定されてしまった。

 矢野らはこの点について、被害者に新たな陳述書を依頼しただけでなく、その供述とそれまでの山川の供述を細かく比較検討した上で、論理性には欠けるが、一応それまで出ていた材料から最後はかなり強引な形で被害者の供述の方が信用できると結論付けていた。その努力も意味がないといわれたも同然だった。

「記載の時期を争う」と主張

 その上で、東京高裁は「被害者に松田を紹介したのが山川だったのか否か」をめぐる双方の主張について検討していた。

 被害者は新たな陳述書で〈平成18年から19年のころだったと思いますが、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に、山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉と主張。それに対して山川は答弁書で「私は松田から被害者を紹介されたのであって、松田を被害者に紹介したのは私ではない」と主張し、調べ直した結果、松田から被害者を紹介された時期も「平成12年8月15日」だったと主張していた。

 山川は控訴審の第1回口頭弁論で、松田から被害者を紹介された際のメモが記録されている平成12年度の東村山市議会手帳を証拠として提出した。山川はその際、その後に被害者宅に行ったことが記録されている平成13年と平成15年の市議会手帳も提出していた。平成12年度のものと記載内容を対比させるためだった。

 これに対して朝木直子は、「一部の記載はボールペンで書かれているから、これは絶対におかしい」として「記入の時期については争う」と主張した経緯があった。つまり矢野らは、「手帳は平成12年のものかもしれないが、記入したのは当時ではない可能性がある」と主張したのだった。

 山川が矢野らの主張に対する反論を提出したのは控訴審第1回口頭弁論の1週間以上前である。「被害者に松田を紹介したのが山川だったのか否か」について、山川は被害者の主張を真っ向から否定する主張をするとともに、手帳のコピーを送付していた。コピーでは「ボールペンで記入された箇所」があることがわからなかったとしても、日時については被害者が「平成18年から19年のころ」と供述しているのに対し、山川は「平成12年8月15日」と主張しているのだから、大きな開きがあることは確認できたはずである。

 第1回口頭弁論までにはまだ1週間以上あった。被害者の陳述書によれば、山川が松田を連れてきたとする時期だけでなく、山川の発言や「自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ているとき」という具体的な状況まで供述しているから、山川から手帳のコピーが提出されたあと、朝木は当然、あらためて被害者から事情を聞くべきではなかっただろうか。あるいは、聞いたけれども、陳述書以上の回答が得られなかったのだろうか。

 いずれにしても矢野らは、第1回口頭弁論で被害者から再確認した内容を主張すべきだったのではあるまいか。ところが矢野らは、時期の具体的内容に踏み込んだ反論はいっさいせず、「ボールペンで記入している」といい、「記載の時期を争う」としか主張しなかったのである。予定の日時までに、新たな予定が入るたびに予定が加えられることはあり得るのであり、筆記用具が変わったとしてもなんら不自然ではない。

 被害者から新たな供述を得ていたにもかかわらず、「山川から松田を紹介された」とする時期について矢野らはなぜ具体的な反論をしなかったのか。そのことの方がむしろ不可解だったのである。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第42回
改めて記事の趣旨を認定

 一般読者が本件記事をどう読むかについて、東京高裁は一審の認定に〈「『1860万円詐欺、元公明市議らが関与』、『創価、元市議らが仲介して』、『言葉巧みに、一般市民から借りて1860万円も返さず』という見出しを併せて読むと、」を加え〉るとした。その上で、一審同様に、本件記事は山川の社会的評価を低下させるものであると認定している。

 記事による名誉毀損裁判において次に検討されるのは、記事に公共性と公益性があるかどうか、また真実であることの証明(真実性)あるいは記事作成側において記事の内容を真実と信じるに相当の理由があったか否か――である。本件記事に公共性、公益性があり、真実性あるいは矢野らに記事の内容を真実と信じるに相当の理由があったと認められる場合には、違法性が阻却される。

 さて、本件記事の公共性、公益性について一審の東京地裁は次のように判断していた。



(一審における公共性、公益性判断)

 本件記事は、本件新聞発行時(筆者注=平成27年7月31日付)において市議会議員であった原告が詐欺行為に関係したか否かについてのものであるから、一応公共の利害に関する事実に係るものであり、そうであれば本件記事の掲載は一応公益を図る目的でなされたものと推認される……



 これに対し山川は附帯控訴状で、平成23年に市議会議員を引退しているから、本件新聞発行時も議員であるとの理由で公共性を認め、同様の理由によって公益性を認めた原判決は誤りであり、本件記事には公共性も公益性も存在しないと主張していた。

 山川の主張に対して東京高裁は公共性、公益性について一審の認定を次のように改めた。



(東京高裁の公共性、公益性判断)

 本件記事は、控訴人ら(筆者注=矢野ら)が市議会議員を務める東村山市において、一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものであるから、一応公共の利害に関する事実に係るものであり、そうであれば本件記事の掲載は一応公益を図る目的でなされたものと推認される……



 山川としては原審の認定の前提事実に単純な誤認があったため公共性、公益性を否認したが、「当時、市議会議員であった」という理由で公共性、公益性が認定されることは想定していた。それよりもむしろ驚きだったのは、一審が〈(本件記事は)市議会議員であった原告が詐欺行為に関係したか否かについてのものであるから〉と、本件記事について「山川は詐欺行為に関与したとするもの」と断定していないのに対し、東京高裁が〈一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉と、ずばりと本件記事に対する認識を示したことだった。

 控訴審の判決文が一審を丸ごと破棄するのではなく改めるという方法で書かれているせいか、東京高裁が示した「一般読者の読み方」(本連載第41回)では、一審が示した「読み方」の前に〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から借りて1860万円も返さず」という見出しを併せて読むと、〉との文言を加えたものの、東京高裁が端的に本件記事がどう読めると考えているのか、やや不明確な印象をぬぐえなかった。

 しかし、公共性、公益性判断において〈(本件記事は)「当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉とする認識を示したことによって、「一般読者の読み方」の認定において「見出しを併せて読むと」との文言を加えた意味が明確化したといえる。東京高裁は本件記事が、山川が主張したとおり「山川は詐欺(まがいの)事件に関与した」とするものであると認定したということだった。

矢野らの主張に沿う供述

 では、本件記事の真実性・相当性について東京高裁はどう判断したのだろうか。一審の東京地裁は認定した「一般読者の読み方」の中でも「山川が被害者を松田(筆者注=矢野らが詐欺グループの一員と主張する人物)に紹介するなど、仲介のような役割を果たした」などとする部分を重視し、「山川が被害者を松田に紹介したかどうか」について検討した。その結果、東京地裁は「山川が被害者を松田に紹介した」とする事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく、矢野らがそう信じたことに相当の理由もないと結論付け、本件記事の名誉毀損を認定した。

 矢野らは控訴にあたり、一審で山川が提出していた被害者の陳述書とは別に、新たな被害者の陳述書を提出し、本件記事の相当性を主張した。矢野らが控訴理由書で被害者の新たな陳述書における「証言」を根拠に最初に主張していたのが「松田を被害者に紹介したのは山川である」とする事実だった。その主張が控訴審で認められれば、相当性を否定した一審判決を覆すことができると矢野らは考えたのだろう。しかも、被害者に新たな陳述書を依頼したのが奏功したのかどうか、被害者はその陳述書で「松田を紹介したのは山川だ」とする趣旨の供述をしていた。

避けたかった事態

 一審における「山川が被害者を松田に紹介し、松田が妹の塩田(筆者注=被害者から直接借金をした人物)を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、仲介のような役割を果たしており」などとする「一般読者の読み方」を前提とし、また被害者の新しい陳述書における上記供述が事実と認められれば、一審判決は覆ったかもしれない。しかし東京高裁は「一般読者の読み方」について〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」などの見出しと併せて読むと〉との文言を加えただけでなく、〈(本件記事は)一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉と明言している。

 したがって、東京高裁の本件記事の「読み方」についての認定からすれば、本件記事が真実性、相当性を認められるには「山川は詐欺まがいの行為に関与していた」とする事実を立証しなければならないことになる。「被害者に松田を紹介したのは山川である」とする事実は、山川が塩田と通牒していたなどの事実が証明されて初めて重要な証拠として意味を持つのであって、それ自体としては付随的な意味を持つにすぎない――山川は当初からそう主張していた。

 たんに「紹介したかどうか」という事実と「詐欺行為に関与したかどうか」という事実が別次元の事実であることは明らかだろう。一審が認定した「一般読者の読み方」に見出しを加えるとした東京高裁の認定によって、重要な立証対象が「山川は詐欺まがいの行為に関与していた」という事実へと変わったのである。矢野にとっては、はなはだまずい流れだった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第41回
 平成28年12月7日、東京高裁511号法廷では午後1時15分から7件の判決言い渡しが予定されていて、静まり返った法廷では山川の他に2組の当事者が開廷を待っていた。一審判決を不服として控訴した矢野穂積と朝木直子の姿は見えない。

 開廷時刻が近づき、書記官が傍聴席に向かって当事者がいるかどうかを聞き、当事者席に着くかどうかを確認した。山川ともう1人の当事者が入廷して判決を聞くと答えた。間もなく3人の裁判官が入廷し、ただちに開廷が告げられた。

 本件に対する判決言い渡しは5番目ということだった。次々に判決言い渡しが進み、書記官が本件の事件番号を読み上げ、「山川さん、お入りください」と山川に入廷を促した。山川が被控訴人席に着いたのを確認すると、裁判官は「それでは判決を言い渡します」と述べ、主文を読み上げた。



主文

 本件附帯控訴に基づき、原判決主文1項及び2項を次のとおり変更する。

 控訴人らは、連帯して、被控訴人に対し、50万円及びこれに対する平成27年11月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 本件控訴をいずれも棄却する。

 訴訟費用は、第1、2審を通じこれを2分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。



 主文を聞き終わると、山川は退廷の前、裁判官に頭を下げた。裁判長は山川の方を向き、黙礼を返したように見えた。

 その時点では判決理由はわからないものの、主文を聞く限りにおいては、矢野らの控訴が棄却され、山川の附帯控訴における請求がほぼ100%認められたということだった。一審での認容額が300万円の請求に対して15万円だったことからすれば、請求額を50万円に減縮していたとはいえ、まさかそれがそのまま認められるとは考えていなかった。矢野にしても、そこまでは想定していなかったのではあるまいか。

 そういえば、控訴審第1回口頭弁論の終了後、法廷前の廊下で矢野と朝木は山川に向かって、大声で新たな名誉毀損とも思えるような罵詈雑言を浴びせていった。その声が法廷の中まで聞こえたのか、書記官の女性が廊下に出てきてあたりを見回したほどである。矢野らのめったに見ることのできない荒れようは、控訴審に対する認識の裏返しでもあったのだろうか。判決を聞き終えて法廷を出ると、2カ月前の山川を罵る矢野らの声が、誰にも相手にされない負け犬の遠吠えのように思い出された。

 一審判決を聞いた直後の山川は、勝訴したけれどもなにか納得できないという様子だった。しかしこの日の判決によって、そんなわだかまりも少しは払拭できたのではないかという気がした。

東京高裁が認定した「本件記事の読み方」

 では、東京高裁が今回の判決を言い渡すに至る具体的な理由はいかなるものだったのか。

 山川は附帯控訴においてまず、原判決はそもそも本件記事の読み方を誤っていると主張していた。本件記事の見出しと本文は以下のとおりである。



(本件記事1)

(見出し)


〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉

(本文)

〈山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉

(本件記事2)

(見出し)


〈勝手は許さない〉〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐欺師集団?」〉〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉

(本文)
〈少なくとも仲介のような役割を果たした山川元公明党市議も1860万円を変えそうとしていないことについて、知らん顔をしています。 元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」、あきれた人たちです〉



 上記のような本件記事について一審の東京地裁は、一般読者は次のように読むと認定した。



(一審が認定した「本件記事の読み方」)

〈塩田(筆者注=被害者から借金をした本人)が被害者女性から約2140万円を借り、うち1860万円を返しておらず、この行為が詐欺まがいの行為であり、市議会議員である原告(筆者注=山川)が松田(筆者注=塩田の姉)を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だと述べていると読むことができる。〉



 上記原判決の認定について、山川は附帯控訴状で「記事1」と「記事2」を一括りに判断していること、また〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉などの見出しがまるで考慮されていない点が不十分であると主張。その上で山川は、「記事1」については〈「1860万円詐欺」「元公明市議らが関与」「創価、元市議らが仲介」といずれも断定しているから、一般読者は「(山川は)借金をして1860万円を返さないという詐欺事件に元公明市議が仲介という形で関与した」と理解する〉とし、「記事2」については原審が認定した「読み方」に加えて〈(一般読者は)「やはり山川は『詐欺師集団』の一員で詐欺まがいの行為を仲介したから、返済されなくても『知らん顔』をしているのだ」と理解する〉と主張していた。

「一般読者がどう読むか」は、名誉毀損の有無と立証対象が何であるかの前提となる基本的な認定、判断である。この点について東京高裁は、上記の一審判断の中に(「一般読者の……」の前)、〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず」という見出しと併せて読むと〉とする文言を加える、という判断を示した。

 一審の認定に〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉などの断定的な見出しが加わると、以下に続く「口きき」や「仲介」といった文言が「詐欺」という文言と結びつき、より悪質性を帯びてこよう。いずれにしても、少なくとも上記の判断は、本件記事を一般読者がどう読むかについては見出しを含めて考慮すべきあるという東京高裁の基本的な考え方を示したものであると理解できた。山川が主張したように、東京高裁もまた一審判決が見出しに対する考慮を欠いていると判断したのだろう。
 
(つづく)
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元市議名誉毀損事件 控訴審判決(速報)
 元東村山市議の山川昌子が政治宣伝ビラ『東村山市民新聞』に掲載された記事によって名誉を毀損されたとして、同紙を発行する現職東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判の控訴審で、東京高裁は平成28年12月7日、矢野と朝木に対し、連帯して50万円の支払いを命じる判決を言い渡した。一審の東京地裁は矢野らに対して15万円の支払いを命じたが、東京高裁は賠償額を増額したことになる。

 控訴審判決では損害賠償額が増額されただけでなく、記事内容についても山川が主張していたとおり、〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」などの見出しと相まって、被控訴人(筆者注=山川)が詐欺まがいの行為の仲介のような役割を果たしているという趣旨のもの〉と認定。

 その上で矢野らが被害者の証言に基づいて主張した真実性を否定し、さらに〈控訴人ら(筆者注=矢野ら)は、被控訴人に対して取材して、その反論を聴取することすらして(いない)〉などと述べて相当性も否定した。

(了)

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元市議名誉毀損事件 第40回
淡白な反論

 山川が附帯控訴状を提出したのは平成28年10月7日である。これに対する矢野らの答弁書は同年10月14日、送付された。どんな分厚い書類が届くかと思っていたが、その反論は思いのほか淡白なものだった。矢野らの反論は以下のとおりである。



(附帯控訴に対する矢野らの答弁)

「附帯控訴の理由に対する認否」

 被控訴人(附帯控訴人)は、附帯控訴の理由として同人の独自の見解を縷々述べるが、原判決に関する控訴人ら(附帯被控訴人ら)の主張は、控訴理由書記載のとおりであり、これに矛盾・抵触する被控訴人(附帯控訴人)の主張については、すべて否認ないし争う。



 附帯控訴の理由に対する反論は、これがすべてである。矢野らは一審判決を受け入れなかった。しかし、一審が認定した「一般読者の読み方」(「原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、仲介のような役割を果たしており、貸金が返済されないことについて知らん顔をしているあきれた人だ」などというもの)については「山川がお金を巻き上げる連中の口ききであり」とした箇所以外の部分に対しては、一審の認定を容認していた。

一審の認定に従う主張

 一審の「一般読者の読み方」についての認定は、「本件記事は『山川が詐欺事件に関与した』と主張するもの」という山川の主張からは、はるかに後退したものと思えた。一審は、認定した「一般読者の読み方」に基づき、それが不法行為を構成するかについての立証対象は「松田を被害者に紹介したのが山川であるのか否か」という点にあるとした。むしろ、一審が示した争点は記事の本質(「山川は詐欺事件に関与した」とするもの)を矮小化させるもののようでもあった

 捜査権を持たない一般人が、一人の人物が「詐欺」という犯罪行為に関与したかどうかを立証することは困難である。民事裁判ではそう信じたことについて相当の理由があればいいが、それでも、本件で相当性が認められるには、塩田が被害者から多額の金を引き出したことについて山川が塩田や松田と事前に通牒していたなどを立証する資料が必要となろう。

 しかも、一審でも矢野らは「山川が詐欺事件に関与した」とする事実について、詐欺事件に直接結びつく事実に関する主張も立証もしなかったから、最初から直接的に「山川が詐欺事件に関与した」とする事実を立証することは難しいことがわかっていたのだろう。だから、山川が松田に「被害者が一人暮らしになったことを話した」ことをもって「『詐欺事件に関与した』ことは明らかだ」などと主張するほかなかったように思える。

 矢野らにとって、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実を立証することに比べれば、「松田を被害者に紹介したのが山川であるのか否か」を立証しようとすることの方がはるかにハードルが低いのは明らかである。敗訴はしたものの、矢野らにとってはまだつけ込む余地があると思わせたのかもしれない。

 また、「お金を巻き上げる連中の口ききで、仲介のような役割を果たしたのに、貸金が返金されないことについて知らん顔をしているあきれた人」という記事であると認定される方が、「詐欺事件に関与した」とする記事を掲載したとして損害賠償を命じられよりもまだ、市民に対する印象はマシだろう。矢野らにとって、控訴にあたっての立証の問題だけでなく、記事内容に対する評価という点においても、一審が認定した「一般読者の読み方」に異を唱える理由はなかったのではあるまいか。

 したがって、矢野らが控訴理由書で争点としたのは一審判決に基づき、「詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介したのが山川だったのか否か」だった。矢野らは「山川が松田を被害者に紹介した」と主張し、被害者の新たな陳述書まで提出することでその立証に全力を挙げた。山川が附帯控訴状を提出しなければ、矢野らの主張には、成否は別にして、それなりの合理性があったといえる。

 しかし、山川が附帯控訴状を提出し、一審が示した「一般読者の読み方」を否定したことで状況には変化が生じた。山川が提出した附帯控訴は、矢野らの控訴とは争点をまったく異にするものだった。

 矢野としては、「詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介したのが山川だったのか否か」が争点であるとする主張に全力を傾注した以上、いまさら山川が一審とは異なる争点を提示したこと自体を受け入れるわけにはいかないということだったようにみえた。だから、山川の附帯控訴を「独自の見解」として切り捨てたのではあるまいか。

 附帯控訴状での山川の主張は「独自の見解」だから、相手にすべきではないという、東京高裁に対するアピールでもあろう。ならば、山川の主張がどんな理由で「独自の見解」なのかについて少しでも説明があればより説得力があったのではないか。しかし矢野らの答弁書には、山川の主張が「独自の見解」である理由についてはいっさい書かれていなかった。

〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元公明市議らが仲介して〉〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉(以上、記事1)、〈勝手は許さない〉〈本山破門『ご本尊』放棄の政治集団化の先は、『詐欺師集団?』〉〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉(以上、記事2)の見出しが付いたそれぞれの記事を一般読者はどう読むと判断するのか――。名誉毀損に対する判断だけでなく、「一般読者の読み方」に対する東京高裁の判断も注目されるところであると思う。判決言い渡しは12月7日である。
 
(「判決後」につづく)
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元市議名誉毀損事件 第39回
写真が見出しを補完

「記事1」には見出し以外にも、読者に対して記事全体の意味を「山川が詐欺事件に関与した」と理解させる重要な要素があった。〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉とする横書きの見出しの真下に配置された写真である。写真は東村山市内にある創価文化会館で、写真の下には〈一般市民から2140万円も借りて〉とするキャプションが付けられている。

 この写真とキャプションを見せられた一般読者は、やはり「一般市民から2140万円も借りたのは創価学会関係者なのだ」と理解するのではあるまいか。公明党市議が創価学会の会員であることは周知の事実である。したがって、一般読者がその後あらためて写真の真上にある〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉とする見出しを読めば、「記事1」が「元公明市議が1860万円の詐欺事件に関与した」という記事であるという確信をより深める――〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉とする見出しとその真下に配置された創価文化会館の写真およびキャプションは、そんな相互に補完し合う関係にある。

 これは偶然ではあるまい。露骨に「山川は詐欺事件に関与した」と断定するものではないが、少なくとも「創価学会関係者が詐欺事件を起こし、元公明市議が関与した」と読者に印象付けようと可能な限りの手段を尽くそうとしているように思える。

 山川は記事とは無関係の創価文化会館の写真と思わせぶりなキャプションが掲載されている点について次のように主張している。

〈本件写真及び写真説明は本件見出し1(筆者注=「記事1」の見出し)の印象をより強める効果をもたらし、本件見出し1を読んだ一般読者はより一層、「借金をして1860万円を返さないという詐欺事件に元公明市議が仲介という形で関与した」と理解することは明らかである。〉

 それでもなお、一審は見出しについて一言も触れなかったということになる。これは妥当な判断といえるのだろうか。

「記事1」に対する「一般読者の読み方」

 では、本文を読んで一般読者はどう理解すると山川は主張しているのか。「記事1」において直接的に「山川の関与」を説明しているのは、〈山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉とする記載である。

 この部分について山川は次のように主張している。

〈上記記載は「山川は詐欺グループの口ききである」と断定するものであり、本件見出し1(同)を「借金をして1860万円を返さないという詐欺事件に元公明市議が仲介という形で関与した」と理解していた一般読者は、本件記事1について「山川は仲介というかたちで詐欺に関与したのだ」と確信をもって理解するものである。〉

 見出しと本文の記載から記事の趣旨を総合的に判断すれば、やはり記事1について一般読者は「山川は詐欺事件に関与した」と読むものとみるべきではあるまいか。

 一審が認定した「一般読者の読み方」の中には、〈上記貸金が返済されないことについて、(山川は=筆者)知らん顔をしているあきれた人だ〉とする箇所がある。しかし記事1には「知らん顔をしているあきれた人だ」などとの文言は記載されていない。したがって、〈一般読者が本件記事1を原判決のように読むことはあり得ない。〉と山川は主張し、「一般読者の読み方」および名誉毀損の認定内容について見直しを求めている。

 記事1を読んだ読者が記事2を続けて読むという保証もない。この点からも、一審の認定は判断を誤っているといえるのではあるまいか。記事1と記事2を一括して判断しようとしたところにそもそもの間違いがあるように思えてならない。

「記事2」に対する「一般読者の読み方」

「記事2」には〈勝手は許さない〉、〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐師集団?」〉、〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉との見出しが付いている。これらの見出しについて山川は〈一般読者は、本件記事2の内容が「勝手な行為を繰り返している新興宗教の衣を脱ぎ捨てた『詐欺師集団』について」であると理解する。〉と主張している。

「記事2」の本文には、冒頭に、

〈1面に、公明党元市議らが仲介した創価学会信者らが、高額のお金を借り、そのまま返さないという詐欺まがいの行為を繰り返している事件を紹介しました……〉

 と記載しているから、一般読者は見出しの「詐欺師集団」が創価学会を指していることをすぐに理解することは明らかである。

 山川はその点を指摘した上で、一般読者は本文で山川について〈「塩田らが一般市民から1860万円を借りて返さないという詐欺まがいの行為について仲介のような役割を果たした山川元公明市議は、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人物」と理解する。〉と、ここまでは一審の認定内容を認めている。しかし、「記事2」の本文だけを読めばそう読めるとしても、見出しの文言を考慮すると、読者は「記事2」どう読むのか。山川は次のように主張している。

〈本件見出し2(筆者注=「記事2」の見出し)〈勝手は許さない〉や〈詐欺師集団〉との文言、及び本件記事1の見出し1(筆者注=「記事1」の見出し)と写真から、本件記事2についてさらに「やはり山川は『詐欺師集団』の一員で詐欺まがいの行為を仲介したから、返済されなくても『知らん顔』をしているのだ」と理解する。あるいは、少なくともそのような疑いを持つことは明らかである。〉

 一般読者は1面から目を通すのが通常で、「記事2」を読んだ時点ですでに「記事1」を読んでいる可能性が高い。「記事1」を読んだ後に「記事2」を読んだ読者は、「記事1」の印象から逃れることは困難なのではあるまいか。山川は「記事2」についても、「一般読者の読み方」および名誉毀損の認定内容の見直しを求めている。

あり得ない事実誤認

 このほか、一審は「公共性・公益性」の判断において、「山川が本件新聞発行時において市議会議員だった」とする明らかな事実誤認を犯しており、その誤認に基づいて「公共性・公益性」を認定していた。よって山川は、一審の公共性と公益性があるとした判断は誤りであると主張している。

 附帯控訴状における山川の主張は以上だった。なお、附帯控訴において山川は損害賠償請求額を減縮し、慰謝料として50万円を請求している。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第38回
2本を一括りにした判断

 附帯控訴にあたって山川が主張したのは、本件記事1、2を「一般読者がどう読むか」という点についてである。一審の東京地裁の認定は次のとおりだった。

〈本件記事は、一般読者が普通の注意を払って読んだ場合、塩田が被害者女性から約2140万円を借り、うち1860万円を返しておらず、この行為が詐欺まがいの行為であり、市議会議員である原告が松田を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だと述べていると読むことができる。〉

 山川が問題としたのは1面に掲載された〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉などの見出しが付いた「記事1」と、その裏面にあたる2面に掲載された〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐欺師集団?」〉〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉とする見出しが付いた「記事2」の2本の記事である。2本の記事は、新聞でよくあるような、1面トップで一部を報じ、(2面に続く)という形でつながっているものではない。また「記事1」は通常の記事だが、「記事2」は「発行人 矢野ほづみ」の署名があるコラムだから、明らかに「記事1」と「記事2」は1本の記事ではない。

 ところが一審判決は、「本件記事は」と、「記事1」と「記事2」があたかも1本の記事であるかのように、「一般読者の読み方」を認定していた。附帯控訴状で山川がまず指摘したのはその点である。「記事1」と「記事2」をそれぞれ別個に検討した上で上記の認定に至ったというのならまだわからないではない。しかし東京地裁は、いきなり上記のような判断を示したのである。一括して判断することについてそれなりの説明があるのかといえば、それもいっさいなかった。

「一般読者の普通の注意と読み方」を基準にすれば、まず「記事1」を読み、それから1面の他の見出しや記事に目を通したあとで「記事2」を読むというものであることは明らかだろう。もちろん、「記事1」だけを読んで「記事2」は読まない場合もあり得るし、その逆も考えられよう。いずれにせよ、一般読者は「記事1」と「記事2」を独立した記事として読むのであって、「記事1」と「記事2」を最初から一続きに読むとみるのは困難なのではあるまいか。

 一審の判断方法の弊害は目に見えるかたちで現れていた。一審が示した上記「一般読者の読み方」の末尾にある〈仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だ〉などという文言は「記事1」にはいっさい含まれておらず、そのような趣旨の文言も存在しない。つまり少なくとも「記事1」については、一審の判断は明らかな誤りであるということになる。

 するとやはり、「記事1」と「記事2」についてそれぞれ判断すべきなのではないか。いきなり「記事1」と「記事2」を一括りにして論じようとしている時点で、一審は「一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべき」という最高裁判例に反しており、判断の方法を誤っている――というのが山川の基本的な主張だった。

「見出し」が考慮されない判断

 次に山川が問題にしたのが、一審の「読者の読み方」の中に〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉(記事1)、〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐欺師集団?」〉、〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉(記事2)という、一般読者の目に最初に飛び込んでくるはずのこれらの見出しの文言についていっさい言及されていない点だった。一般読者は見出しを見、大方の意味を掴んだ上で、見出しに興味を持てば本文へと読み進むのが通常である。一審が「一般読者の普通の注意と読み方」を基準に判断するといいながら〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉などとする見出しにいっさい触れないのは、自ら示した判断基準とも矛盾しているのではないか。

 多くの判例をみると、「見出しを独立的に判断したもの」と「見出しと本文を総合的に考慮して判断したもの」の2種類に大別されるが、見出しについては言及せず、本文の記載内容のみを検討して結論を出した判例は確認できなかった。したがって山川は、〈一般読者が記事1、2をどう読むかについては、見出しを含む記事全体から判断すべきである。〉と主張している。

「記事1」に対する主張

 一審判決が示した「一般読者の読み方」が誤りであることを主張した上で、山川は「記事1」と「記事2」それぞれの「一般読者の読み方」について主張している。

「記事1」には〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉という見出しが付けられており、とりわけ〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉は白抜きのゴシック体で記事の上部に横書きで配置され、〈創価、元市議らが仲介して〉はタテ3段抜きの明朝体と、断定する文言自体の強さだけでなく視覚的にも一般読者に対して強く訴求するものとなっている。その点を指摘した上で、「記事1」の見出しについて山川は次のように主張している。

〈本件見出し1(筆者注=記事1の見出し)は「1860万円詐欺」「元公明市議らが関与」「創価、元市議らが仲介」といずれも断定しているから、一般読者は「借金をして1860万円を返さないという詐欺事件に元公明市議が仲介という形で関与した」と理解するものである。〉

〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉の見出しの真下を見ると、本文の「山川昌子・元公明党市議」の実名が目に飛び込んできて、見出しにある「元公明市議」とは誰なのかを読者は労せずして知る可能性もある。そうでなかったとしても、本文の2行目にはすぐに山川の名前が出てくるから、読者が見出しの「元公明市議」とは山川のことであると理解するのは時間の問題であるのは明らかだった。  

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第37回
主張と一審判決の隔たり

 矢野らの控訴に対して、山川は「被害者に松田を紹介したのが自分ではないこと」を中心に反論を行った。しかし、だからといって、一審の東京地裁が示した本件記事に対する「一般読者の読み方」に対する判断および名誉毀損を認定した理由(「被害者に松田を紹介したのが山川だったのか否か」)について必ずしも納得していたわけではない。むしろ山川は、このまま控訴審を闘うことに危惧を抱いた。矢野らの控訴理由に反論するだけでは、裁判は自分の考える本来の争点を素通りしたものとなり、本来問題とされるべき記事本来の狙いや悪質性を矮小化されかねない――と。

 山川が問題にした『東村山市民新聞』第186号に掲載された記事は以下のような2本の記事だった。



(記事1)

(見出し)


〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉、〈創価、元市議らが仲介して〉、〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉

(本文)

山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。

(記事2)

(見出し)


〈勝手は許さない〉、〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐欺師集団?」〉、〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉

(本文)

 1面に、公明党元市議らが仲介した創価学会信者らが、高額のお金を借り、そのまま返さないという詐欺まがいの行為を繰り返している事件を紹介しましたが……。

――中略――

 1面の被害者女性の場合は1860万円の被害が、そのまま残っていますが、この件で松田、主犯格の塩田も、現在返済しようとしていませんし、少なくとも仲介のような役割を果たした山川元公明党市議も1860万円を返そうとしていないことについて、知らん顔をしています。

 元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」、あきれた人たちです。こういう人たちが公明党の議員というのですからあきれます。



 山川は「記事1」「記事2」ともに、「原告が詐欺事件に関与した」との虚偽の事実を摘示するものであり、原告の名誉を毀損するものであると主張していた。

 これに対し一審の東京地裁は、「記事1」「記事2」の「一般読者の読み方」について次のように認定した。



(東京地裁が認定した「一般読者の読み方」)

 本件記事は、一般読者が普通の注意を払って読んだ場合、塩田が被害者女性から約2140万円を借り、うち1860万円を返しておらず、この行為が詐欺まがいの行為であり、市議会議員である原告が松田を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だと述べていると読むことができる。



 東京地裁は上記「一般読者の読み方」に基づき名誉毀損の有無を検討した結果、「原告が松田を被害者に紹介した事実については根拠がない」などとして、

「市議会議員である原告が松田を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だ」

 と述べる部分について、原告の名誉を毀損するものであると結論付けた。東京地裁の判断は、記事が原告の名誉を毀損するものであるという結論においては原告の主張を容認するものだったものの、その内容においては原告の主張とはかなりの隔たりがあることがわかろう。

「一般読者の読み方」に対する疑問

 矢野らは一審が認定した上記の「一般読者の読み方」とそれに対する判断に基づき、判決理由を覆すための控訴理由書を提出してきた。いうまでもなく、その主張の前提は一審の東京地裁が示した「一般読者の読み方」だった。

 したがって控訴審では、〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉、〈創価、元市議らが仲介して〉、〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉などとするタイトルの記事が、「市議会議員である原告が松田を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だ」という記事であるという前提で進行することになる。山川の訴状における「本件記事は『原告が詐欺事件に関与した』との虚偽の事実を摘示した」という主張はもはや争点ではなくなる可能性が高いと判断できた。

 一審が判断したとおりの「一般読者の読み方」が確定すれば、山川から提訴された記事の趣旨は「山川が詐欺事件に関与した」というものではなかったことになってしまおう。一審で敗訴したとはいえ、〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉とする見出しが訴える「山川が詐欺事件に関与した」とする事実が争点でなくなることは、矢野らにとって好都合だったのではあるまいか。

 このまま控訴審が進行すれば、「本件記事は『山川が詐欺事件に関与した』というものではない」という主張が一応成り立つことになりかねない――。控訴されたことで山川は、最も基本的な主張だった本件記事の意味と意図がこのまま消えてなくなってしまうことに対する違和感がしだいに大きくなっていった。このまま矢野らの控訴に対して防御するだけでは悔いが残る気もした。

 こうして山川は、あらためて本件記事の「読み方」とそれに対する判断を求めて附帯控訴に踏み切ったのである。

(つづく)
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