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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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多摩湖寿会事件 第2回
事情聴取の日にビラを発行

「山川が詐欺事件に関与した」とする記事を提訴した裁判の控訴審は平成28年10月17日に結審した。1回で結審したその口頭弁論の状況をみるかぎり、山川にとって最悪でも一審判決が維持されるのではないかと予想された(実際には、山川の付帯控訴が認容され、矢野と朝木に対して一審よりも35万円の増額となる50万円の支払いが命じられた)。

 矢野と朝木はこの状況をどうみていたのだろうか。控訴状を提出した直後ならまだしも、その主張を山川から証拠をもって否定され、たった1回の口頭弁論で終結となった時点ではもう、逆転判決は難しいだろうというのが本音だったのではあるまいか。

 控訴審終了後に朝木が山川に対して「福祉の金を奪って大泥棒」などの暴言を浴びせた事実、また平成28年9月以降、多摩湖寿会における会計問題を追及している事実からみると、矢野と朝木は逆転判決に期待するというよりはむしろ、新たな材料によって山川に仕返しをする方向に切り替えていたとみるのが自然だったのかもしれない。実際に、山川が提訴して以後、矢野らがビラで「詐欺事件」に触れたことは1度もなかった。

結審の日から2週間後、矢野と朝木は自ら、新たな材料によって山川を攻撃する方針であることを明らかにした。矢野らは平成28年10月31日付で彼らの政治広報紙『東村山市民新聞』188号を発行したが、その紙面は大半が多摩湖寿会関連の記事で埋められており、「山川が多摩湖寿会の金を横領した」と断定していたのである。

結論の前にビラをまいた事情

 折しもこの平成28年10月31日は、平成28年9月議会で朝木が多摩湖寿会の会計問題について「再調査」を求めたことに基づき、東村山市が多摩湖寿会前会長と前会計の山川、それに現会長に対してヒアリングを行った日だった。9月議会で朝木に対して「再調査をする」と答弁した市は、12月議会で改めて答弁するために、約束どおり再調査をしようとしていたことがわかる。

 いうまでもなく、ヒアリングとは事情聴取のことであり、市が当事者に対してなんらかの結論を伝える場ではない。市は当事者、関係者から事情を聞いた上でなんらかの結論を出そうとしていた。つまり10月31日の時点で、市は朝木が求めた「再調査」を始めたばかりの段階であり、結論を出しているはずがなかった。ところが、「再調査」を求めたにもかかわらず、朝木も矢野も市の調査を無視し、自らの政治広報紙で「山川は多摩湖寿会の金を横領した」と断定したということだった。

 朝木も矢野もなぜ市の結論を待てなかったのだろう。1つには、市が結論を明らかにするとみられるのは12月議会における朝木の一般質問の日であり、その日程は11月下旬以降になる可能性があった。山川を「詐欺に関与」と断定した裁判の控訴審判決は12月7日である。「山川が横領した」とする記事によって控訴審判決の印象を薄め世間の目をそらすには判決より前に市内にばらまく必要があるが、12月議会を待っていたのでは間に合わない。

 朝木が市の結論を待たなかったのには、もっと大きな理由があったのではないかと思う。詳細は後述するが、実は朝木がこの「問題」を議会で取り上げる数カ月前、市側は現会長に対して「何の問題もない」とする見解を示しており、そのことを朝木が知らなかったわけではない。9月議会で朝木が取り上げた際にも市側の見解に変化はなかった。だから、朝木は市の「再調査」の結果について彼らの主張に沿うものとなることを期待しておらず、最初から12月議会を待つつもりはなかったとみるのが妥当なのかもしれない。

顔写真付きで「横領」と断定

 いずれにしても、9月議会における朝木の質問に対する市側の結論が示されていない段階で発行された『東村山市民新聞』第188号1面トップ記事の見出しは次のようなものだった。



(『東村山市民新聞』第188号1面トップ記事の見出し)

〈元公明市議が横領! 老人クラブから〉

〈市議四期、市議会副議長、市監査委員を担当した人物が〉

〈創価・元市議が4年間にわたり〉

〈一部返金するも「これは横領ではなく積立金だ」と開き直り〉



〈元公明市議が横領! 老人クラブから〉の見出しの真下には山川の顔写真が配置され、そのすぐ右隣から始まる本文の冒頭には〈市内多摩湖町に住む山川昌子・元公明市議〉とあるから、読者は見出しの「元公明市議」が山川を指していることを容易に知ることができる。つまり記事は、誰が読んでも、朝木らが「横領」したと主張する人物が誰なのかがすぐにわかるように、見出しと写真、本文冒頭部分の位置関係がうまく計算されたものである。

 しかも記事で使用した写真は、前回の記事では東村山創価文化会館だったのに対し、今回はモロに山川の顔写真を(無断)で使用しているところに、朝木と矢野の山川に対する怨念が前回にも増して深くなっていることをうかがわせた。山川の写真の下には〈元市議が老人クラブ会計から横領〉とのキャプションが付けられている。

前回の記事では山川はまだ「関与」にとどまっており、直接的な犯罪者としてまでは描かれていなかった。もちろん「関与」であっても十分に山川の社会的評価を低下させるものなのだが、今回、山川は「関与」ではなく「横領」をした当事者と断定されている。

「詐欺に関与」と書いた記事では、提訴された矢野らはほとんど一方的に敗色濃厚な状況にあった。その山川に対する怨念の深さと前回との位置付けの違いが写真の使い方にも表れているように思えた。

 朝木による2回の議会での質問に続き、矢野と朝木は彼らの主張を思いのままに発信する政治宣伝ビラ『東村山市民新聞』で「山川が横領した」と断定するに至った。この経過をみるかぎり、矢野と朝木が新たな材料によって本格的に山川攻撃を再開させたとみるのが自然のようだった。

(つづく)
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多摩湖寿会事件 第1回
裁判所での暴言

 元東村山市議の山川昌子が現職東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判の控訴審で、朝木らの控訴理由に対して山川が証拠を示して反論、朝木らは法廷でたいした再反論もできず、平成28年10月17日午前11時ごろ、東京高裁は結審を言い渡した。

 入口に近い被控訴人席に座っていた山川が先に退廷し、そのあと矢野と朝木、それに彼らの代理人弁護士が続いて出てきた。朝木らは足早にエレベーターの方へ向かい、山川を追い越して行ったが、そのとき朝木は山川に対しておかしなことをいったのである。朝木は嘲うようにこういった。

「山川さん、文化協会を辞めたんでしょう」

 山川がムッとした様子で「辞めてませんよ」と答えると、朝木は今度は周囲に聞こえるほどの声でこういったのである。

「福祉の金を奪って、大泥棒だな、大泥棒」

 そばにいた矢野も、「大泥棒」といいながら朝木の後をついていった。朝木の声は静かな裁判所の中で、思いのほか周囲に響いていたらしい。閉廷したばかりの法廷から女性書記官が何かあったのかと出てきて、左右を確認したほどだった。私も千葉も、朝木らが何のことをいっているのかさっぱりわからかった。そばにいた私たち以外の傍聴人も驚いたのではなかろうか。

 直前に結審となった裁判の方は、確かに朝木と矢野を不機嫌にさせてもなんら不思議のないような終わり方ではあった。しかしそれにしても、「福祉の金を奪って、大泥棒だな」とはめったに聞けない悪口雑言である。しかし、なにやら具体的な裏付けがあるような響きも感じさせた。「福祉の金を奪って、大泥棒だな」とは何のことなのだろうか。

 私と千葉は山川を誘ってそのまま地下の喫茶店に入り、山川から事情を聞くことにした。山川の説明によると、山川は平成28年5月まで老人クラブ、多摩湖寿会の会計を担当していた。まず、「福祉の金」とは何なのか。

「朝木は控訴審の陳述書に『山川は老人クラブ多摩湖寿会が集めた福祉募金を盗んだ』と書いていたので、『福祉の金』とは福祉募金のことだと思います」

「福祉募金」とは、東村山市老人クラブ連合会が市内の各老人クラブの会員を対象として毎年行う募金で、集計は各クラブ単位で行い、それを市老人クラブ連合会が取りまとめて福祉活動に役立てるという趣旨のものだという。朝木と矢野は、その募金を山川が「盗んだ」といっているのだろうか。山川は即座に次のように述べてその事実を否定した。

「福祉募金は多摩湖寿会の会長、副会長と、それから会計の私の3人で扱っているので、盗むことなど不可能ですし、そんなことあり得ませんよ」

 どんな根拠があってかはわからないものの、その「あり得ない」話を、朝木は「あった」といっているのだろうか。

裁判とは無関係の事実

 実はその2カ月ほど前から、朝木は市議会の一般質問等で上記の老人クラブ多摩湖寿会の会計に関して「山川が会の金を横領した」とする主張を繰り返しており、朝木の議会での追及に対し、東村山市は平成28年9月の時点で「再調査を行う」と答弁していた。その「再調査」の結果は市からはまだ報告されていない。

 ところが朝木は、「山川は詐欺事件に関与した」とする記事を提訴された裁判に、このまったく無関係の話を持ち出したのだった。朝木は平成28年9月25日に提出した陳述書の前半(全体の3分の1程度)で裁判に関係する言い訳を並べたあと、〈また、追記ですが〉と不自然な前置きをした上で次のように述べていた。

〈被控訴人山川はご自分の肩書を羅列しておりますが、そのうちの一つである「多摩湖寿会」……において……被控訴人山川が一人で務めていた「会計」業務において、経費の二重計上や会費等の未納入などにより、42万4500円の不正処理による不足金が現役員の調査により本年6月に発覚しました。現役員から指摘され、被控訴人山川は発覚した不足金42万4500円を返金し、訴状に記載されているNPO法人東村山市文化協会会長、東村山市日中友好協会会長……は辞任する旨の誓約書を、8月17日に多摩湖寿会現役員に対して書き、署名捺印しております。……〉

〈また、その後の調査で、……二重会計の経費や、実際には支出されていない出金伝票があり、さらに会員から集めた福祉募金が行方不明になっているなど、他にもかなりの不足金が発覚しています。〉

〈……被控訴人山川の行動は、元市議会議員という社会的信用を背負っている人物の行動とは程遠いと指摘させていただきます。〉

 ここに書かれているのは、「多摩湖寿会の会計を務めていた山川が不正な会計処理をしたこと」、「東村山市文化協会会長などの役職を辞任することになったこと」、「福祉募金が行方不明になっていること」、「山川はとうてい信用できるような人物ではないこと」などである。このうち多摩湖寿会関係の情報は現役員からのものであることがうかがえた。

 いずれも裁判とは無関係の事実である。つまり朝木は、山川の心証を悪化させる目的で多摩湖寿会の話を持ち出したものとみえた。しかも議会で市に再調査を要求し、まだその結果が出ていないにもかかわらず、一方的に山川が会計を務める老人クラブで不正を働いていたと決めつけ、それを法廷で公表するとは、やはり節度をわきまえた主張とはいえないのではあるまいか。

 朝木はそれだけでは飽き足らず、山川に対して「泥棒」などという暴言を直接浴びせたのだった。陳述書に書いただけでは飽き足りないらしかった。「山川は詐欺事件に関与した」とする誹謗中傷の代わりのように突然始めた多摩湖寿会にまつわる追及を朝木がいつまで、またどこまで続ける気なのか、注視する必要があるようだった。

 ところで、朝木のいった「泥棒」という言葉で思い出したのだが、朝木は自分が泥棒(万引きで書類送検された朝木明代)の娘であることを、そのときだけは忘れていたのかもしれない。あるいは、朝木は母親に対しても「泥棒」呼ばわりしたのだろうか。

朝木はかつて千葉に対して「万引きした人間の娘といわれて私は人生を狂わされた。(朝木明代を書類送検した)あんたのせいだ」と大声で責めたことがあった。東村山市議だった母親の万引きが露顕し、書類送検されたことは娘の朝木直子にとっても大きな痛手だったのである。その気持ちは理解できないではない。

しかし、だからといって事実に基づいて捜査した千葉をなじるのは筋違いである。そうではなく、母親の責任を他人に転嫁し、自らをまったく省みないところに、朝木の人生を狂わせた本当の原因があるのではあるまいか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第48回(最終回)
被害者との遭遇

 山川の附帯控訴における請求をほぼ全面的に認容した判決から2週間後、山川は朝木に対して東京高裁が命じた50万円の支払いを求めた。するとこれに対して、朝木は「仮執行には応じるが、裁判は終わっていない」と負け惜しみの回答をしたものの、ほどなく全額を振り込んできたという。その数日後、山川の元には裁判所から矢野と朝木が上告受理の申し立てをしたとの知らせが届いた。矢野らはまだ「山川が詐欺事件に関与した」との記事が誤りだったと認める考えはないということらしかった。

 しかし、年が明けた平成29年1月8日、矢野らの主張を真っ向から否定する出来事があったと山川はいう。この日、山川は東村山駅東口にあるイトーヨーカドーに買い物に出かけた。余談だが、平成7年、万引きを見つかって追及された朝木明代が逃げ込んだ店であり、「朝木に万引きされた」という通報で駆けつけた警察官が、なぜか娘の朝木直子を探したという店である。

 さて、山川がそのイトーヨーカドーの駐車場に車を置き、店内入口へと向かっているときだった。前を、なにか見覚えのある女性が、ややおぼつかない足取りで歩いている。まさについこの前まで裁判の影の主役だった被害者その人のようだった。「○○さんじゃない?」、山川の声に振り返ったのはやはり被害者だった。被害者は驚いた様子だったが、すぐに山川に対してこう謝罪したという。

「私が相談に行ったことで迷惑かけちゃって……」

 朝木に相談に行った被害者が、その結果、朝木といっしょになって山川を非難するかたちになったことは、被害者もよく理解している。被害者が山川に述べたこの一言は、気まずい思いがありながら、それでも、朝木に相談に行ったことで、結果として山川を責める側に立ってしまったのは本意ではなかったという思いを伝えたかったもののように思えた。本件記事が『東村山市民新聞』に掲載された直後、山川をよく知る被害者の知人が被害者に電話したところ、「山川さんには何の恨みもない」と話していたという証言もあった。

 少なくとも、「山川に騙された」と思っているのなら、こんな言葉が出るはずがなかった。矢野と朝木がいかに「山川は詐欺に関与した」と主張しようと、当の被害者が山川を責めるどころか謝罪しているのだった。矢野らの上告がまったく被害者の意思とは無関係の虚妄であることを物語っていた。

入院していた被害者

 ところで朝木は、一審で被害者の陳述書を提出しなかった理由について、控訴審で提出した陳述書で次のように供述していた。

〈本件「東村山市民新聞」に記事を掲載するための取材をしている段階で、○○(筆者注=被害者の実名)さんの方から、「私自身も泣き寝入りしたくないので事実を公表していただくことは必要だと思うが、山川さんの関係者による嫌がらせが怖い。」という趣旨のことを仰っていたことや、私どもが責任を負う記事の報道によって起こった訴訟に、取材元の市民、しかも高齢で独居している被害者の○○(同)さんを巻き込むことはしたくないと思っておりました……〉

 被害者が朝木に対して「泣き寝入りしたくない」と訴えたとしても、それ自体は不思議ではない。しかし山川に遭遇して「迷惑をかけた」と謝った被害者が、「泣き寝入りしたくない」相手として山川を想定していたとはとうてい考えられない。まして、「山川さんの関係者による嫌がらせが怖い」と訴えるなどあり得ないとみるべきではあるまいか。とすれば、上記の記載は朝木の不実ぶりがいかんなく発揮された作文と考えるのが自然だろう。

 その日、山川が本人から聞いたところによると、被害者は平成28年2月に体調を崩し、同年10月まで入院していたという。前々から体調がすぐれず、病院に行ったところ、入院の必要があると診断されたとのことだった。平成28年2月前後といえば、朝木がようやくまともな主張を始めた時期だった。被害者は体調の悪い中、朝木から資料の提供などを求められたのではないかと推測する。しかし一審で最後まで陳述書を提出しなかったのは、被害者が入院中だったからだと考えれば納得がいく。

 矢野と朝木は控訴審でついに被害者の陳述書を提出したが、その日付は平成28年9月7日である。被害者は「10月まで入院していた」というのだから、この陳述書を入院中の病院で書いたことになるが、現実にそんなことは不可能とみるべきだろう。陳述書には被害者の直筆の署名がなされている。朝木が作成して、署名だけをしてもらったということではあるまいか。

暴かれた印鑑証明書の謎

 そのこと自体は珍しいことではないし、なんら責められるようなことでもない。また、普通の裁判であれば、重要な証人が入院していたとしても、あえてそれを隠し通す必要もあるまい。しかし、一審で山川が被害者本人の陳述書を提出すべきと主張しても、矢野と朝木が被害者が入院中であることを明らかにしなかったということは、彼らは被害者が入院中であることは隠すべきと判断していたとみるべきだろう。

 断定はできないものの、その理由は、被害者の陳述書や朝木の陳述書の中に、被害者の思いとは異なる内容が含まれていたからなのではあるまいか。朝木の陳述書にある「私自身も泣き寝入りしたくないので事実を公表していただくことは必要だと思うが、山川さんの関係者による嫌がらせが怖い」という被害者の言葉と、山川と遭遇した被害者が山川に謝った言葉との落差からみると、被害者の言葉として供述された内容の中には朝木の作文が入っていると考えても不合理とはいえまい。

 入院中であることが明らかになれば、その陳述書を書いたのは朝木なのではないかと疑われる――そう朝木は考えたのだろう。控訴審の口頭弁論で山川は被害者に対する尋問を申し立てた。これに対して裁判官は却下の決定を下したが、朝木はさぞかし安堵したのではあるまいか。

 陳述書の提出に際して、本来は必要のない印鑑証明書まで添付したのも、陳述書は被害者本人が書いたものであることを強調するためだった。なぜそんな当たり前のことを強調する必要があったのかといえば、そこに嘘が書かれているからであると理解できよう。

 そのことを教えてくれたのは、たまたま出会った被害者の一言だった。山川には、不実との長い闘いのしめくくりとして、あまりにもでき過ぎた偶然のように思われた。しかしその偶然によって、被害者もまた救われたのではあるまいか。

(了)
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元市議名誉毀損事件 第47回
『東村山市民新聞』の本質に言及

 相当性を否定した判断において、東京高裁が告訴状などの資料の内容以外に重視していたのが、朝木が山川に対してなんらの取材もしていなかったという点である。朝木が被害者の話と資料だけで「山川が詐欺事件に関与した」と考えたとしても、一方の当事者である山川本人に直接取材しないのは、仮にそれが意図的ではなかったとしても、重大な過失であることに変わりはない。

 矢野と朝木は本件裁判で、本件記事を掲載した彼らの発行する『東村山市民新聞』について次のように主張している。

〈被告等(筆者注=矢野と朝木)が発行している東村山市民新聞は、東村山市に関する情報を正確且つ公正に市民に報道しているミニコミ紙であり、原告主張のような政治宣伝紙ではなく、事実を公正に報道していることは、乙第2号証の1乃至15の「東村山市民新聞」を御読み頂けば明らかなことである。〉

 矢野らはこう主張して、15号分の『東村山市民新聞』を証拠として提出したのである。興味深いことに東京高裁は、朝木が山川にまったく取材していないと断定したあと、本件記事を掲載した『東村山市民新聞』がどのように配布されたかを認定する過程で、次のように述べてさりげなく『東村山市民新聞』の本質に言及している。



(東京高裁が認定した『東村山市民新聞』の「本質」)

 本件新聞は、いずれも現職の東村山市議会議員である控訴人ら(筆者注=矢野と朝木)が発行人または編集長として、控訴人らの政治活動の状況を地元有権者に伝えることを目的とした政治広報誌であり、約4万5000部が東村山市内に配布された……



 東京高裁が位置付けた「政治広報誌」とは、原告が主張した「政治宣伝紙」と何程の違いもあるまい。東京高裁が「控訴人らの政治活動の状況を地元有権者に伝えることを目的とした」ものであるというからには、少なくとも矢野らが主張するミニコミ紙とは本質的に異なるものであることは明らかである。東京高裁は本件記事に真実性も相当性も認められないこと、原告に対してまったく取材していないことなどから、『東村山市民新聞』が公益性を持つ出版物とは認定しなかったということと理解できよう。

原告の損害認定

 東京高裁は『東村山市民新聞』の本質を「政治的広報誌」と結論付けたあと、『東村山市民新聞』が記載した本件記事によって原告が被った被害がどういうものだったのかについて、以下のように述べている。



(東京高裁が認定した原告の被害の実態)

 被控訴人(筆者注=山川)は、○○(筆者注=被害者)から相談を受けて、同人らと警察署に相談に行き、また、弁護士を紹介して借金を取り返すための支援をするなど尽力したのにもかかわらず、控訴人ら(筆者注=矢野と朝木)は、被害者である○○からの不十分な聴取に基づき、被控訴人に対する取材も全くしないで、「1869万円詐欺、元公明市議らが関与」などという断定的表現を用いた見出しを付けた上、被控訴人が詐欺まがいの行為に関与していたという内容の記事を東村山市の人口(約15万人)に比しても広範囲に配布したものであり、被控訴人は、連続5期にわたって元東村山市議を務め、東村山市において相当程度の知名度及び社会的地位を有する者であって、本件記事によって、東村山市における被控訴人の社会的評価が損なわれた程度は相当程度大きいものがあると考えられる……。



 上記の認定の前段で、山川が被害者を支援していた事実を認定している点は、判決全体に大きな意味を持とう。その上で、〈被控訴人に対する取材も全くしないで、「1869万円詐欺、元公明市議らが関与」などという断定的表現を用いた見出しを付けた〉とする認定は、本件記事の作成過程を正しく再現しているように思える。現実とはかけ離れた見出しと記事がどうやって出来上がったのか。その理由もやはり、東京高裁が認定した、「政治広報誌」という『東村山市民新聞』の本質にあるとみるのが正しい認識なのではあるまいか。

  その上で、〈本件記事によって、東村山市における被控訴人の社会的評価が損なわれた程度は相当程度大きいものがある〉と結論付けた東京高裁の認定は、山川が本件記事によってどれほど悔しい思いをし、また迷惑を被ったかについて深い理解を示すものといえた。その結果、東京高裁は〈被控訴人がこれによって被った精神的苦痛を慰謝するには、50万円をもって相当であると認められる。〉と結論付けたのである。ほぼ全面的に山川の主張を認めた判決といって差し支えなかろう。

誠実と不義不実の闘い

 認容金額は別にして、矢野と朝木の主張をことごとく排斥した東京高裁の判断は、本人である山川にとっては当然の結果だったかもしれない。しかし当事者の主張を、何も知らない裁判官に理解してもらうのは、いつも容易なことではない――判決言い渡しの法廷で、私は内心、穏やかというわけにはいかなかった。

 ところが当の山川は、裁判官が開廷を告げてから判決を言い渡すまでの間、まっすぐに裁判官を見て、じっと判決を聞いていた。いかに自分のしたことに間違いはないという自信があったのだとしても、裁判官を前にしてもなお堂々と判決を受け止めようとしているようにみえる姿に、私は感銘すら覚えた。

 裁判でも矢野と朝木がさまざまに主張を変え、論点を変えたりしてきたのに対し、山川は常に正面から受け止め、事実をもって反論してきた。事実に基づいているから山川の主張にはブレがなく、一方、矢野らの主張は二転三転を繰り返した。

 被控訴人の席で判決言い渡しに臨む山川の姿を見ていると、この裁判は、誠実に生きてきた者と、狡知を弄してその足を引っ張り、貶めることのみを目的とした者の闘いだったように思える。誠実に生きてきた者がそうでない者に負けるわけにはいかない――そういう闘いだったのだと。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第46回
いずれにしても悪質と主張

 東京高裁は判決で、矢野らが主張した「山川が詐欺事件に関与した」とする根拠についていずれも否定するとともに矢野らの記事作成の姿勢にも言及している。

 矢野らは控訴理由書において本件記事の前提として繰り返し〈○○(筆者注=被害者の実名)を取材することにより同人から聴取済みであった内容及び同人から入手済みであった資料からすれば、控訴人らが少なくともこの事実を真実と信ずるについて相当の理由がある〉と主張していた。記事は十分な取材と資料を根拠に作成されたもので、相当性があるという主張であると理解できた。

 矢野らがいう「入手済みであった資料」とは、被害者が塩田らを提訴した際の和解調書、塩田らを告訴した際の告訴状、山川が被害者に協力して提出した陳述書などである。これらの資料を矢野らが記事作成前に入手済みであったとすれば、当然その中には被害者自身の陳述書が含まれていないはずがない。しかし矢野らはその陳述書だけは提出せず、その陳述書については山川の方から提出したのだった。陳述書には、被害者が塩田からのたび重なる借金の申し入れに対して断れなくなっていた事情が語られている一方、山川の関与をうかがわせる記述はいっさいなかったのである。

「記事掲載前には被害者から資料を入手していた」とする矢野らの主張に対して山川は、矢野らは第1回口頭弁論では「『東村山市民新聞』に記載されているとおりである」と主張するだけで、上記資料に基づくとする具体的な主張をしたのが提訴から3カ月以上も経過したあとだったことを根拠に、矢野らが上記資料を被害者から入手したのは第1回口頭弁論のあとだったのではないかと主張していた。

 矢野らは控訴理由書で、記事掲載までに上記資料を入手していたと主張している。しかし、被害者が陳述書で〈(朝木に)書類などもすべて見せて今回の詐欺事件のことをお話ししました。その後も自宅や近くのファミリーレストランで何度も書類の確認や補足の説明をしました〉と述べている一方、「朝木にその書類のコピーを渡した」とする供述は一言も存在しない。

 被害者の陳述書の内容に加え、朝木が上記資料を証拠として提出した時期が提訴から3カ月もあとだった事実に照らすと、記事掲載の時点ではまだ上記資料のコピーはもらっていなかったとみるのが自然である。とすれば、「記事掲載前に告訴状などの資料は入手していたから、記事には相当の根拠がある」とする矢野らの主張はその前提から崩れることになる。

 仮に矢野らが上記資料を記事掲載前に入手していたとしても、それらの資料には山川が詐欺事件に関与したことをうかがわせる客観的な記載はいっさい存在しない。にもかかわらず、矢野らは「山川が詐欺事件に関与した」と断定する記事を掲載したということになってしまう。朝木が山川に取材した事実もない。山川は控訴審の答弁書で、矢野らが記事掲載時には資料を入手していたとして相当性を主張していることに対して次のように反論した。

〈(矢野らが本件記事掲載前に入手したとする資料)には、被控訴人(筆者注=山川が「詐欺に関与した」とまで断定できる要素は存在しないが、それを「詐欺に関与」とまで書くには当然、当事者に対する取材は不可欠である。しかし控訴人ら(筆者注=矢野ら)が被控訴人に取材した事実はいっさい存在しない。したがって、仮に控訴人らが本件記事掲載までに上記○○の資料を入手していたとしても、本件記事に相当の理由があったとは到底いえない。)

 さらに山川は、本件記事の悪質性についてこう主張している。

〈むしろ、……控訴人らが本件記事掲載までに(○○から資料を)入手していたとすれば、(上記資料には)被控訴人が「詐欺に関与した」と断定できる要素が存在しないことが明らかであるにもかかわらず、……被控訴人が「詐欺に関与した」との一方的な記事を掲載したということを意味する。すなわち、本件記事は、単なる思い込みや事実誤認ではなく、被控訴人を貶めようとする目的で作成されたより悪質な記事ということになる。〉

相当性に関する判断

 では、矢野らが「本件記事掲載時にはすでに和解調書や告訴状などの資料を入手していた」という理由で相当性を主張したことに対して東京高裁はどう判断したのだろうか。東京高裁は次のように述べている。



(相当性に関する東京高裁の判断)

 ○○(筆者注=被害者の実名)の陳述(筆者注=矢野らが控訴審で提出した新たな陳述書)は本件記事の内容が真実であることを裏付けるものではなく、また、控訴人らは、被控訴人に対して取材して、その反論を聴取することすらしておらず、控訴人らが本件記事の内容を真実であると信じたことに相当の理由もない。



 東京高裁は被害者の新しい陳述書以外の和解調書や告訴状などを朝木が入手した時期については言及していない。しかし〈被控訴人に対して取材して、その反論を聴取することすらしておらず〉と述べて、朝木が告訴状や山川の陳述書などを入手したと主張する時期、少なくとも本件記事掲載前の時期に山川に取材していないことを指摘し、その上で〈控訴人らが本件記事の内容を真実であると信じたことに相当の理由もない〉と結論付けていることからすれば、仮に朝木が本件記事掲載前に上記の資料を入手していたとしても、それらは「山川が詐欺に関与した」とする根拠にはならないと述べていると理解できよう。
 
 矢野らは本件記事掲載前に告訴状などの重要資料を入手していたとして、相当性を主張した。しかし東京高裁は、資料の入手時期にかかわらず、本件記事には相当の理由はないと結論付けたのである。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第45回
具体的根拠を欠いた主張

 矢野と朝木が「山川は詐欺事件に関与した」とする主張の根拠として、「松田を被害者に紹介した」とする事実と並ぶ重要な事実として主張していたのが、「山川は被害者が一人暮らしになったという情報を(詐欺グループの一員である)松田に話した」とする事実だった。これに対して山川は、仮にそのような事実が存在したとしても、「被害者が一人暮らしになったと松田に話したこと」がただちに詐欺に関与したとする事実の裏付けとなるには、山川と松田、塩田との間で事前に打ち合わせがなされているなどの共謀関係が立証されないかぎり、「詐欺に関与した」とする事実の裏付けとはならないと主張していた。

 この点について、矢野らは控訴理由書で改めて次のように主張していた。

〈「被控訴人(筆者注=山川)が、○○(筆者注=被害者の実名=以下、同)から聞いた『(夫と別居し)一人暮らしになった』という情報を、松田に話してしまった」ことが、松田の○○宅への再訪のきっかけとなり、ひいては本件詐欺まがいの行為を導く結果となったことは明白であり、これは、被控訴人が、本件詐欺まがいの行為について、塩田らと○○の両方の間に立ってつなぐ仲介のような役割を果たしたものと評し得る……。

 控訴人ら(筆者注=矢野、朝木)が本件記事を掲載した本件新聞を発行した時点において、○○を取材することにより同人から聴取済みであった内容及び同人から入手済みであった資料からすれば、控訴人らが、少なくともこの事実を真実と信ずるについて相当の理由がある。〉

 矢野らの主張には相変わらず、「松田が被害者宅を再訪した」とする事実の背景や理由も、また塩田による詐欺まがいの行為に山川がどう関ったというのか、なんら具体的な根拠は示されていない。仮に相当性を主張するにしても、山川と塩田の間に通牒関係があったことをうかがわせる具体的な事実を示さなければならないが、控訴理由書でそのような事実はいっさい示されてはいなかった。

被害者の供述に対する反論

 しかし、被害者が控訴審で提出した新たな陳述書には次のような記載があった。

〈(山川さんは松田に対して)もっと強く私への返金を促してくれてもいいのではないかという思いから、「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがありました。〉

 矢野らは被害者の主観的な供述によって客観的な根拠の代わりにしようとしたようにみえた。少なくとも、会話の流れを無視して被害者の上記供述だけを切り取れば、「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件のきっかけになったとする矢野らの主張に沿うものであることは確かなようにみえる。

 このため山川は被害者の上記供述に対して次のように反論した。

〈○○は告訴状(筆者注=塩田らに対する告訴状)においても塩田を提訴した際の陳述書においても、そのような主張は一切していない。それどころか○○は上記陳述書において、「そのような借金の申し入れは断れば良かったのですが、松田さんの紹介であったことや、……被告塩田や松田さんらに色々とお世話になっていたこともあり、断り切れず」と記載している。つまり○○は「一人暮らしだから」塩田らの借金の申し入れを断りきれなかったとは考えていなかったのである。……○○の主張は、自分を直視できなくなった者の八つ当たりというほかない。〉

 では、「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件につながったとする矢野らの主張に対して東京高裁はどう判断したのか。東京高裁は次のように述べた。



(「被害者が一人暮らしになったことを山川が松田に話したこと」が詐欺事件につながったとする矢野らの主張に対する判断)

 ○○の陳述書には、○○が被控訴人に対して、「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがあるとの陳述部分があるが、同部分は、○○が塩田らからの貸付金の回収が奏功しないことに対する不満を、○○の推測を交えて被控訴人に述べた記載にすぎないことはその記載内容に照らし明らかである上、○○が塩田らに対して貸金の返還を求める訴えを提起した際に作成した陳述には、そのような記載はなく、かえって、塩田や松田に色々と世話になっていたこともあって断り切れなかったと記載していたことからすれば、○○においても、被控訴人が○○が一人暮らしになったことを話したことが詐欺につながったとは考えていなかったことがうかがわれるのであって、上記陳述部分も本件記事の内容が真実であることを裏付けるものではなく、……



 東京高裁は山川の主張を全面的に認めるかたちで矢野らの主張を否定し、その根拠として被害者の新たな陳述書ではなく、山川が提出した被害者の最初の陳述書や告訴状の内容を重視したことがわかる。矢野らが一審では「提出する必要がない」として被害者の陳述書を提出しなかったにもかかわらず控訴審になって提出したこと、また松田と知り合った経緯についても矢野らの主張には沿っているものの、客観的事実に反する供述をしていることなどから、東京高裁は被害者の新たな陳述書に対して全面的に信用することを警戒したのではあるまいか。当初は何もいっていなかったにもかかわらず、矢野らが提訴されるや、急に山川を責めるような主張をするようになるというのは、やはり不自然と受け取られてもやむを得まい。

証人申請を却下した理由

 控訴審の第1回口頭弁論で山川は被害者に対する尋問を申し立てたが、東京高裁は「その必要ないと思います」と述べ、山川の申し立てを却下した。山川は控訴審答弁書の末尾で、尋問の主な内容は〈被控訴人が松田を○○に紹介した」とする事実とその時期、及び塩田からの返済が滞った後の被控訴人に対する○○の認識等〉であると説明している。このうち「塩田からの返済が滞った後の被控訴人に対する○○の認識等」とは、とりわけ被害者が新たな陳述書で〈「あなたが松田さんに私のことを話したからこんなことになった」と何度か責めたことがありました〉と述べ、あたかも山川が詐欺グループの一員であるとの矢野らの主張を支持するかのような供述をしていることを指している。山川は主張が対立しているとして、証人尋問を申請したのである。

 東京高裁は「必要がない」として山川の申し立てを却下した。そのとき、裁判官の本心をうかがい知ることはできなかった。しかし今なら、その理由を推し量ることができよう。裁判官は山川が提出した主張および証拠と被害者の陳述書の内容を比較し、少なくとも争点となっている部分について被害者の供述は信用できないと判断していた――だから、あえて出廷を求める必要はないと判断したのだ、と。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第44回
「手帳」の信用性

 矢野らは控訴理由書で「詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介したのは山川だ」と主張し、一審判決は破棄されるべきと主張していた。控訴にあたって朝木から新たな陳述書を作成するよう依頼された被害者はその中で「平成18年から19年ころに山川から松田を紹介された」と供述していた。これに対して山川は答弁書で、保管していた東村山市議会手帳を調べたところ、平成12年に松田が被害者から紹介されたことを示す記録をみつけ、「松田を被害者に紹介したのは私ではない」と反論し、手帳のコピーを証拠として提出。

 第1回口頭弁論で裁判官2名と控訴人の矢野らおよびその代理人が手帳の原本を手にとって確認を行った。裁判官から山川に対して特段の質問はなかったが、矢野らは「記載の時期を争う」として弁論を終結したのだった。

 この点について東京高裁はどう判断していたのか。東京高裁は次のように述べた。



(「山川が松田を被害者に紹介した」とする矢野らの主張に対する判断)

 被控訴人(筆者注=山川)が市議会議員当時に使用していた手帳であり、その記載内容の信用性が認められる甲第9ないし11号証の各3(筆者注=山川が証拠として提出した市議会手帳)によれば、平成12年8月15日の欄には、「レナウン 1:30 松田さんと」との、平成13年12月20日の欄には、「洋服 ○○(筆者注=被害者名)宅へ ○○さん(筆者注=本件とは無関係の山川の知人)と」との、平成15年5月20日欄には、「レナウン○○(筆者注=被害者名=以下同))宅」との各記載があることが認められ、これらはいずれも被控訴人が当該日に○○宅を訪れたことを記したものと認められるところ、これらの記載及び弁論の全趣旨によれば、平成12年8月15日には、単にレナウンと記載したのみで、○○の名がなく、あわせて、松田の名が書かれていることは、被控訴人は、当時○○の名を知らず、松田にレナウンの洋服を扱っている人と紹介され、同人と○○宅に行ったことを意味するものと認められる。



 矢野らは「記載の時期を争う」として山川の手帳の記録の信用性を争ったが、東京高裁はその信用性を認めるとし、2回目と3回目の訪問の際には被害者の名前が明記されているのに対し、最初の訪問の際には「松田さん」の名前はある一方で被害者の名前はなく、その代わりに「レナウン」と被害者が扱っている洋服のブランド名が書かれていただけだったことから、山川は松田から被害者を紹介されたこと、またその時期は平成12年8月15日だったと認定したのである。「松田を被害者に紹介したのは山川ではない」と認定したということだった。

 その上で、東京高裁は被害者の供述内容についてこう述べた。

〈平成18年から19年ころに被控訴人から松田を紹介されたとの○○の上記陳述部分は上記事実に反し信用できない。〉

 被害者は平成24年11月5日付けで警視庁に提出した松田らに対する告訴状の中で「平成18年から19年ころ、告訴人は友人の紹介で松田と知り合った」と記載している。しかし「山川の紹介で」とは書いていない。この告訴状を提出した際には山川も被害者を支援して陳述書を提出している。被害者は山川に信頼を置いていたということである。

「友人」との記載に合理的理由

 この告訴には弁護士もついていた。捜査機関に事件の背景等を理解してもらうためにも、告訴状には知っている事実をありのままに幅広く記載しておく必要があるから、弁護士もそう指導しただろう。したがって、告訴状で被害者が松田と知り合ったきっかけや関係を説明するにあたっても、松田を山川から紹介されたのなら、そう正直に記載しない理由はない。

 また当時、山川は協力者として被害者のそばにいたのだから、松田を紹介したのが山川だったとすれば、そのことを被害者が思い出さないはずもない。つまり被害者は、当時、松田を紹介したのが山川以外の友人であることを十分に自覚していたから、「友人の紹介で松田と知り合った」と記載したのである。

 松田を紹介されたとする時期は、実際には、山川が松田から被害者を紹介されたのが平成12年8月だったのだから、被害者はそれより以前に松田と知り合っていたことになる。事実とは相当の開きがあった。しかし告訴の時点でそれは重要な問題ではなく、被害者のおおまかな記憶で書いたのだろう。「友人」も告訴とは無関係だったから、紹介された時期について確認する必要もなかった。だから告訴状には、松田に関して誤った記憶がそのまま残ったものと推測できた。

 時期はともかくとして、はたして被害者が朝木に対して本当に「松田は山川から紹介された」と説明したのだろうか。いずれにしても、矢野らが平成27年7月31日付『東村山市民新聞』第186号に本件記事を掲載した時点で、「松田は山川から紹介された」ことになったのだった。

詳しくなっていった説明

 それがさらに、平成28年1月12日付朝木陳述書では、たんに「山川から紹介された」から〈原告山川が「マッサージができる人」として松田を連れて自宅に一緒にやってきた〉となり、被害者の新しい陳述書では〈平成18年から19年ころのことだったと思いますが、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に、山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉と、その説明は徐々に詳細になっていった。

 ところが東京高裁が信用性を認めた山川の手帳の記録によって、山川は平成12年8月15日に松田から被害者を紹介されたことが証明された。それによって、被害者が説明する「松田を紹介された」とする時期も、〈山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉とする事実も、すべてが事実に反するものであることが明らかとなった。

 事実に反するというよりも、存在しない事実を「あった」と主張しているのだから、事実の捏造という方が適当なのではあるまいか。ただし、それが本当に被害者が朝木にそう説明したものなのかどうかは定かではない。

完膚なきまでに否定

 東京高裁は上記判断の最後で、口頭弁論の際に矢野らが「手帳の記載時期について争う」と主張した点についても触れ、次のように述べた。

〈控訴人らは、被控訴人の手帳の平成12年8月15日欄の記載のうち、「レナウン」との記載は他の記載と異なり、ボールペンで記載されていることから、その頃に記載されたものであることを争うが、同手帳には、他にもボールペンで記載された部分があることは当該証拠の原本の取調べによって当裁判所に顕著な事実であることに照らし、控訴人らの主張する事実によって、上記判断は左右されるものではない。〉

「山川が詐欺グループの一員である松田を被害者に紹介した」とする矢野らの主張は、東京高裁によって完膚なきまでに否定されたといえるのではあるまいか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第43回
「紹介」に関する矢野らの主張を否定

 一審の東京地裁が〈原告が松田を寺澤に紹介したことについては、これを認めるに足りる証拠がなく〉などとして記事の真実性、相当性を否定したことに対し、矢野らは控訴審で「山川から松田を紹介された」とする趣旨の供述を含む被害者の新たな陳述書を提出した。しかし東京高裁の本件記事に対する「一般読者の読み方」に対する認定は、一審の認定に〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず」という見出しを併せて読むと〉との文言を加えるというものだった。

 また、公共性、公益性の認定においては〈本件記事は、……一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというもの〉と明確に本件記事に対する認識を示していた。その時点で、本件記事の立証対象は「松田を被害者に紹介したのは山川だとする事実」ではなく「山川は詐欺まがいの行為に関与したとする事実」へと変わっていたといえる。

 では、被害者が陳述書で「山川から松田を紹介された」とする趣旨の供述をし、矢野がその供述に基づいて一審判決を否定したことに対し、東京高裁はどんな判断を示したのか。東京高裁は次のように述べた。



(「山川が松田を紹介した」とする事実に対する東京高裁の判断)

 控訴人らは、本件記事の内容は真実であると主張し、○○(筆者注=被害者)の陳述書を新たに提出するところ、同陳述書には、平成18年から19年ころに、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に被控訴人が「この人はマッサージをやっているのでよろしく。」と言って松田を連れて来た旨の陳述部分がある。

 しかしながら、本件記事は、既に述べたとおり、「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」などの見出しと相まって、被控訴人が詐欺まがいの行為を行っている人物を被害者に紹介し、詐欺まがいの行為の仲介のような役割を果たしているという趣旨のものであるところ、○○の上記陳述書からは、被控訴人が松田の妹の塩田が詐欺まがいの行為を行っているのを知った上で、その口ききのために松田を○○に紹介したとの内容とはなっておらず、本件記事の真実性を裏付けるものではない。



 一審の判決理由からして、矢野らは被害者の上記供述を最も重要な部分と考えていただろう。しかし、ただ紹介したというだけでは、「山川が塩田の詐欺まがいの行為の口きき」をしたとの事実を裏付けるものとはならないとして、最初からあっさり否定されてしまった。

 矢野らはこの点について、被害者に新たな陳述書を依頼しただけでなく、その供述とそれまでの山川の供述を細かく比較検討した上で、論理性には欠けるが、一応それまで出ていた材料から最後はかなり強引な形で被害者の供述の方が信用できると結論付けていた。その努力も意味がないといわれたも同然だった。

「記載の時期を争う」と主張

 その上で、東京高裁は「被害者に松田を紹介したのが山川だったのか否か」をめぐる双方の主張について検討していた。

 被害者は新たな陳述書で〈平成18年から19年のころだったと思いますが、自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ている時に、山川さんが「この人はマッサージをやっているのでよろしくね。1時間でも2時間でも安くやってくれるわよ。」と言って、松田美枝さんを連れてきました。〉と主張。それに対して山川は答弁書で「私は松田から被害者を紹介されたのであって、松田を被害者に紹介したのは私ではない」と主張し、調べ直した結果、松田から被害者を紹介された時期も「平成12年8月15日」だったと主張していた。

 山川は控訴審の第1回口頭弁論で、松田から被害者を紹介された際のメモが記録されている平成12年度の東村山市議会手帳を証拠として提出した。山川はその際、その後に被害者宅に行ったことが記録されている平成13年と平成15年の市議会手帳も提出していた。平成12年度のものと記載内容を対比させるためだった。

 これに対して朝木直子は、「一部の記載はボールペンで書かれているから、これは絶対におかしい」として「記入の時期については争う」と主張した経緯があった。つまり矢野らは、「手帳は平成12年のものかもしれないが、記入したのは当時ではない可能性がある」と主張したのだった。

 山川が矢野らの主張に対する反論を提出したのは控訴審第1回口頭弁論の1週間以上前である。「被害者に松田を紹介したのが山川だったのか否か」について、山川は被害者の主張を真っ向から否定する主張をするとともに、手帳のコピーを送付していた。コピーでは「ボールペンで記入された箇所」があることがわからなかったとしても、日時については被害者が「平成18年から19年のころ」と供述しているのに対し、山川は「平成12年8月15日」と主張しているのだから、大きな開きがあることは確認できたはずである。

 第1回口頭弁論までにはまだ1週間以上あった。被害者の陳述書によれば、山川が松田を連れてきたとする時期だけでなく、山川の発言や「自宅に洋服のお客さんなど知人数人が来ているとき」という具体的な状況まで供述しているから、山川から手帳のコピーが提出されたあと、朝木は当然、あらためて被害者から事情を聞くべきではなかっただろうか。あるいは、聞いたけれども、陳述書以上の回答が得られなかったのだろうか。

 いずれにしても矢野らは、第1回口頭弁論で被害者から再確認した内容を主張すべきだったのではあるまいか。ところが矢野らは、時期の具体的内容に踏み込んだ反論はいっさいせず、「ボールペンで記入している」といい、「記載の時期を争う」としか主張しなかったのである。予定の日時までに、新たな予定が入るたびに予定が加えられることはあり得るのであり、筆記用具が変わったとしてもなんら不自然ではない。

 被害者から新たな供述を得ていたにもかかわらず、「山川から松田を紹介された」とする時期について矢野らはなぜ具体的な反論をしなかったのか。そのことの方がむしろ不可解だったのである。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第42回
改めて記事の趣旨を認定

 一般読者が本件記事をどう読むかについて、東京高裁は一審の認定に〈「『1860万円詐欺、元公明市議らが関与』、『創価、元市議らが仲介して』、『言葉巧みに、一般市民から借りて1860万円も返さず』という見出しを併せて読むと、」を加え〉るとした。その上で、一審同様に、本件記事は山川の社会的評価を低下させるものであると認定している。

 記事による名誉毀損裁判において次に検討されるのは、記事に公共性と公益性があるかどうか、また真実であることの証明(真実性)あるいは記事作成側において記事の内容を真実と信じるに相当の理由があったか否か――である。本件記事に公共性、公益性があり、真実性あるいは矢野らに記事の内容を真実と信じるに相当の理由があったと認められる場合には、違法性が阻却される。

 さて、本件記事の公共性、公益性について一審の東京地裁は次のように判断していた。



(一審における公共性、公益性判断)

 本件記事は、本件新聞発行時(筆者注=平成27年7月31日付)において市議会議員であった原告が詐欺行為に関係したか否かについてのものであるから、一応公共の利害に関する事実に係るものであり、そうであれば本件記事の掲載は一応公益を図る目的でなされたものと推認される……



 これに対し山川は附帯控訴状で、平成23年に市議会議員を引退しているから、本件新聞発行時も議員であるとの理由で公共性を認め、同様の理由によって公益性を認めた原判決は誤りであり、本件記事には公共性も公益性も存在しないと主張していた。

 山川の主張に対して東京高裁は公共性、公益性について一審の認定を次のように改めた。



(東京高裁の公共性、公益性判断)

 本件記事は、控訴人ら(筆者注=矢野ら)が市議会議員を務める東村山市において、一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものであるから、一応公共の利害に関する事実に係るものであり、そうであれば本件記事の掲載は一応公益を図る目的でなされたものと推認される……



 山川としては原審の認定の前提事実に単純な誤認があったため公共性、公益性を否認したが、「当時、市議会議員であった」という理由で公共性、公益性が認定されることは想定していた。それよりもむしろ驚きだったのは、一審が〈(本件記事は)市議会議員であった原告が詐欺行為に関係したか否かについてのものであるから〉と、本件記事について「山川は詐欺行為に関与したとするもの」と断定していないのに対し、東京高裁が〈一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉と、ずばりと本件記事に対する認識を示したことだった。

 控訴審の判決文が一審を丸ごと破棄するのではなく改めるという方法で書かれているせいか、東京高裁が示した「一般読者の読み方」(本連載第41回)では、一審が示した「読み方」の前に〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から借りて1860万円も返さず」という見出しを併せて読むと、〉との文言を加えたものの、東京高裁が端的に本件記事がどう読めると考えているのか、やや不明確な印象をぬぐえなかった。

 しかし、公共性、公益性判断において〈(本件記事は)「当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉とする認識を示したことによって、「一般読者の読み方」の認定において「見出しを併せて読むと」との文言を加えた意味が明確化したといえる。東京高裁は本件記事が、山川が主張したとおり「山川は詐欺(まがいの)事件に関与した」とするものであると認定したということだった。

矢野らの主張に沿う供述

 では、本件記事の真実性・相当性について東京高裁はどう判断したのだろうか。一審の東京地裁は認定した「一般読者の読み方」の中でも「山川が被害者を松田(筆者注=矢野らが詐欺グループの一員と主張する人物)に紹介するなど、仲介のような役割を果たした」などとする部分を重視し、「山川が被害者を松田に紹介したかどうか」について検討した。その結果、東京地裁は「山川が被害者を松田に紹介した」とする事実についてはこれを認めるに足りる証拠がなく、矢野らがそう信じたことに相当の理由もないと結論付け、本件記事の名誉毀損を認定した。

 矢野らは控訴にあたり、一審で山川が提出していた被害者の陳述書とは別に、新たな被害者の陳述書を提出し、本件記事の相当性を主張した。矢野らが控訴理由書で被害者の新たな陳述書における「証言」を根拠に最初に主張していたのが「松田を被害者に紹介したのは山川である」とする事実だった。その主張が控訴審で認められれば、相当性を否定した一審判決を覆すことができると矢野らは考えたのだろう。しかも、被害者に新たな陳述書を依頼したのが奏功したのかどうか、被害者はその陳述書で「松田を紹介したのは山川だ」とする趣旨の供述をしていた。

避けたかった事態

 一審における「山川が被害者を松田に紹介し、松田が妹の塩田(筆者注=被害者から直接借金をした人物)を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、仲介のような役割を果たしており」などとする「一般読者の読み方」を前提とし、また被害者の新しい陳述書における上記供述が事実と認められれば、一審判決は覆ったかもしれない。しかし東京高裁は「一般読者の読み方」について〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」などの見出しと併せて読むと〉との文言を加えただけでなく、〈(本件記事は)一般市民が詐欺まがいの行為の被害者となり、当時市議会議員であった被控訴人が関与していたというものである〉と明言している。

 したがって、東京高裁の本件記事の「読み方」についての認定からすれば、本件記事が真実性、相当性を認められるには「山川は詐欺まがいの行為に関与していた」とする事実を立証しなければならないことになる。「被害者に松田を紹介したのは山川である」とする事実は、山川が塩田と通牒していたなどの事実が証明されて初めて重要な証拠として意味を持つのであって、それ自体としては付随的な意味を持つにすぎない――山川は当初からそう主張していた。

 たんに「紹介したかどうか」という事実と「詐欺行為に関与したかどうか」という事実が別次元の事実であることは明らかだろう。一審が認定した「一般読者の読み方」に見出しを加えるとした東京高裁の認定によって、重要な立証対象が「山川は詐欺まがいの行為に関与していた」という事実へと変わったのである。矢野にとっては、はなはだまずい流れだった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第41回
 平成28年12月7日、東京高裁511号法廷では午後1時15分から7件の判決言い渡しが予定されていて、静まり返った法廷では山川の他に2組の当事者が開廷を待っていた。一審判決を不服として控訴した矢野穂積と朝木直子の姿は見えない。

 開廷時刻が近づき、書記官が傍聴席に向かって当事者がいるかどうかを聞き、当事者席に着くかどうかを確認した。山川ともう1人の当事者が入廷して判決を聞くと答えた。間もなく3人の裁判官が入廷し、ただちに開廷が告げられた。

 本件に対する判決言い渡しは5番目ということだった。次々に判決言い渡しが進み、書記官が本件の事件番号を読み上げ、「山川さん、お入りください」と山川に入廷を促した。山川が被控訴人席に着いたのを確認すると、裁判官は「それでは判決を言い渡します」と述べ、主文を読み上げた。



主文

 本件附帯控訴に基づき、原判決主文1項及び2項を次のとおり変更する。

 控訴人らは、連帯して、被控訴人に対し、50万円及びこれに対する平成27年11月1日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 本件控訴をいずれも棄却する。

 訴訟費用は、第1、2審を通じこれを2分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人らの負担とする。

 この判決は、2項に限り、仮に執行することができる。



 主文を聞き終わると、山川は退廷の前、裁判官に頭を下げた。裁判長は山川の方を向き、黙礼を返したように見えた。

 その時点では判決理由はわからないものの、主文を聞く限りにおいては、矢野らの控訴が棄却され、山川の附帯控訴における請求がほぼ100%認められたということだった。一審での認容額が300万円の請求に対して15万円だったことからすれば、請求額を50万円に減縮していたとはいえ、まさかそれがそのまま認められるとは考えていなかった。矢野にしても、そこまでは想定していなかったのではあるまいか。

 そういえば、控訴審第1回口頭弁論の終了後、法廷前の廊下で矢野と朝木は山川に向かって、大声で新たな名誉毀損とも思えるような罵詈雑言を浴びせていった。その声が法廷の中まで聞こえたのか、書記官の女性が廊下に出てきてあたりを見回したほどである。矢野らのめったに見ることのできない荒れようは、控訴審に対する認識の裏返しでもあったのだろうか。判決を聞き終えて法廷を出ると、2カ月前の山川を罵る矢野らの声が、誰にも相手にされない負け犬の遠吠えのように思い出された。

 一審判決を聞いた直後の山川は、勝訴したけれどもなにか納得できないという様子だった。しかしこの日の判決によって、そんなわだかまりも少しは払拭できたのではないかという気がした。

東京高裁が認定した「本件記事の読み方」

 では、東京高裁が今回の判決を言い渡すに至る具体的な理由はいかなるものだったのか。

 山川は附帯控訴においてまず、原判決はそもそも本件記事の読み方を誤っていると主張していた。本件記事の見出しと本文は以下のとおりである。



(本件記事1)

(見出し)


〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉〈言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず〉

(本文)

〈山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉

(本件記事2)

(見出し)


〈勝手は許さない〉〈本山破門「ご本尊」放棄の政治集団化の先は、「詐欺師集団?」〉〈新興宗教の衣を脱ぎ捨てた集団〉

(本文)
〈少なくとも仲介のような役割を果たした山川元公明党市議も1860万円を変えそうとしていないことについて、知らん顔をしています。 元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」、あきれた人たちです〉



 上記のような本件記事について一審の東京地裁は、一般読者は次のように読むと認定した。



(一審が認定した「本件記事の読み方」)

〈塩田(筆者注=被害者から借金をした本人)が被害者女性から約2140万円を借り、うち1860万円を返しておらず、この行為が詐欺まがいの行為であり、市議会議員である原告(筆者注=山川)が松田(筆者注=塩田の姉)を被害者女性に紹介し、松田が妹の塩田を被害者女性に仲介したことにつき、原告が、お金を巻き上げる連中の口ききであり、上記行為について、仲介のような役割を果たしており、上記貸金が返済されないことについて、知らん顔をしているあきれた人だと述べていると読むことができる。〉



 上記原判決の認定について、山川は附帯控訴状で「記事1」と「記事2」を一括りに判断していること、また〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉などの見出しがまるで考慮されていない点が不十分であると主張。その上で山川は、「記事1」については〈「1860万円詐欺」「元公明市議らが関与」「創価、元市議らが仲介」といずれも断定しているから、一般読者は「(山川は)借金をして1860万円を返さないという詐欺事件に元公明市議が仲介という形で関与した」と理解する〉とし、「記事2」については原審が認定した「読み方」に加えて〈(一般読者は)「やはり山川は『詐欺師集団』の一員で詐欺まがいの行為を仲介したから、返済されなくても『知らん顔』をしているのだ」と理解する〉と主張していた。

「一般読者がどう読むか」は、名誉毀損の有無と立証対象が何であるかの前提となる基本的な認定、判断である。この点について東京高裁は、上記の一審判断の中に(「一般読者の……」の前)、〈「1860万円詐欺、元公明市議らが関与」、「創価、元市議らが仲介して」、「言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円も返さず」という見出しと併せて読むと〉とする文言を加える、という判断を示した。

 一審の認定に〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉などの断定的な見出しが加わると、以下に続く「口きき」や「仲介」といった文言が「詐欺」という文言と結びつき、より悪質性を帯びてこよう。いずれにしても、少なくとも上記の判断は、本件記事を一般読者がどう読むかについては見出しを含めて考慮すべきあるという東京高裁の基本的な考え方を示したものであると理解できた。山川が主張したように、東京高裁もまた一審判決が見出しに対する考慮を欠いていると判断したのだろう。
 
(つづく)
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