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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第1回
 東村山市議の薄井政美がビラの記載や放送などによって名誉を毀損されたとして同市議の矢野穂積と朝木直子(「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判で平成23年3月16日、東京高裁は矢野と朝木らに対して100万円の損害賠償とFM放送による謝罪放送を命じる判決を言い渡した。

 ところが矢野と朝木は判決から1週間後の3月23日、ウェブ版「東村山市民新聞」において〈「エロライター」裁判で、薄井市議(保守系現市長の与党)が、東京高裁でまた敗訴!〉と題する記事を掲載した。本文では次のように記載している。



(ウェブ版「東村山市民新聞」)

 東京高裁は3月16日、この裁判の根幹である「まるでエロライター」等の記事は名誉毀損にはあたらないとして薄井市議の請求を棄却した。

 高裁判決は、薄井市議の薬事法違反等の疑いについては認めなかったものの、薄井市議は、市会議員だから、任期後も、出演した「アダルト動画」が公開されている以上、「エロライター」「性風俗マニア」等と批評されても仕方がないとし、市民新聞の記事は名誉毀損でないと判決した。



 この裁判で薄井の請求が認められなかった点があるのは事実である。しかし、その理由が矢野と朝木のいうようなものだったかといえば、疑問があるように思える。また記事では矢野と朝木が100万円の支払いと謝罪放送を命じられたことには一言も触れられていないのは不可解である。

薄井が全面敗訴のような錯覚

 その後東村山市内に配布された彼らの政治宣伝ビラ「東村山市民新聞」170号(平成23年3月20日付)になると「薄井敗訴」の印象がより露骨なものとなる。



(「東村山市民新聞」170号)

(見出し)

「越境通勤市議」裁判敗訴の佐藤市議とともに、渡部現市長の与党、こんな人物が市議でいいのか?

薄井市議「エロライター」裁判で、また敗訴

(本文)
 前回の市議選で当選した薄井市議が、市議の任期開始後も、インターネット上で、……アダルト動画に出演し超セクハラ言動を繰り返したことを本紙が「市議としての適格性がない」と厳しく批判した記事を名誉毀損だとして薄井市議が提訴していた裁判で、東京高裁は……薄井市議の請求を棄却した。

 ……高裁判決は……「エロライター」「性風俗マニア」等と批評されても仕方がないと断定。

 薄井市議を追及した本紙の記事は……名誉毀損は成立しないと判決、薄井市議は連続敗訴となった。



 100万円の支払い命令も、謝罪放送命令が出されたことも、一言半句も存在しない。それどころか、事情を知らない市民がこの記事だけを読むと、あたかも裁判の争点が「エロライター」との記載だけで、その裁判で薄井が全面的に敗訴したと受け取るだろう。

 しかしこの記事は、矢野と朝木がその特異性をいかんなく発揮した、余人にはとうてい真似のできない悪質なものというほかない。では、矢野と朝木が〈薄井市議が、東京高裁でまた敗訴!〉と騒ぐ裁判はそもそもどのようなもので、東京高裁の判決内容とはどんなものだったのか。 

「職業差別」との批判が集中

 ちょうど4年前、平成19年4月に行われた東村山市議選の直後、東村山市議会周辺はにわかに騒然となった。東村山市議の矢野穂積と朝木直子が同選挙に初めて立候補して当選した薄井政美に対し、前職などを理由に「超セクハラ市議」などと誹謗するとともに「市議としてふさわしくない」とする大宣伝を始めたのである。

 薄井は立候補にあたりそれまでの勤務先を退職するとともに、その会社がアダルト関係の出版社であることを明らかにしている。私は前職についてそこまで詳細に述べる必要はないと思ったものだが、それが薄井の人柄、人の好さなのだろう。これが原因で嫌がらせを受けたり、揚げ足を取られる恐れがあるとも感じた。ただ、まさか当選確定の翌日に誹謗中傷が始まるとまでは予測できなかった。

 矢野と朝木が東村山市民に対する誹謗中傷を行うのはこれが初めてではない。しかしこれまで彼らの非難の対象となった公人や市民が表立った反撃には出たことはあまりなく、騒ぎも一方的かつ一過性のものであるか市内の一部にしか影響を及ぼさなかった(だからといって、矢野と朝木の誹謗中傷が不問に付されるべきというわけではない)。

 ところが今回の薄井に対する攻撃はたんなる誹謗中傷だけに終わらなかったこともあって、反響もこれまでにないものとなった。同年5月25日、朝木直子は東村山市長に対して「薄井からセクハラを受けた」などとして東村山市男女共同参画苦情等申出書を提出、また朝木が紹介議員となって薄井の辞職勧告を求める2件の請願が相次いで提出されるに至り、市内外の市民の間から矢野と朝木に対して「職業差別だ」とする批判の声が広がったのである。薄井に対する辞職勧告を求める請願の審査を行った政策総務委員会は、市内外から詰めかけた多くの傍聴人で埋まった。

 矢野と朝木にとって反響が東村山市議会の枠を超えたものとなったのは誤算だったのではあるまいか。しかし矢野と朝木が薄井攻撃の手を緩めることはなかった。それどころかむしろ、一方では彼らを批判する市民やジャーナリストなどに対しても手当たりしだいに批判の矛先を向けながら、「セクハラ市議」だけでなく「職業安定法違反」「薬事法違反」などと誹謗をエスカレートさせていった。矢野と朝木は彼らの政治宣伝ビラ「東村山市民新聞」、ウェブ版「東村山市民新聞」、矢野と朝木が実質的に運営するミニFM放送局、「多摩レイクサイドFM」という彼らが恣にできる媒体を駆使して薄井に対する誹謗中傷を延々と繰り広げたのである。

 さて矢野と朝木の大宣伝の一方で、公的請求に対する審議は着々と進んでいた。朝木が紹介議員となって提出された薄井に対する辞職勧告を求める2件の請願は平成19年7月9日、不採択となり、朝木から提出された「セクハラ」との申出を審査していた東村山市は同年12月27日、当然ながら「セクハラの事実はない」と結論付けた。矢野と朝木らによる薄井に対する公的請求はいずれもこうして不発に終わったのだった。

(つづく)

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第2回
公論を拒否

 矢野と朝木は薄井に対する誹謗中傷をエスカレートさせる一方で、「職業差別」として彼らを批判していた市民に対して訴訟をちらつかせて脅すなどした。その結果、同年8月21日にはたまりかねた市民が矢野と朝木に対する辞職勧告を求める請願を提出するという出来事も起きた。

 この請願は同年9月20日、議会運営委員会で審議されたが、委員会での弁明を求められた矢野と朝木は市民らを提訴(同年9月3日)したことを書面で明らかにし、それを理由に出席を拒否した。最終的に請願は平成20年2月4日、不採択となったものの、委員からは矢野と朝木が委員会での議論を拒否したことに対して批判的な意見が相次いだ。

 請願に対する提訴があり得たとしても、朝木を紹介議員として辞職勧告を求める請願を提出された薄井は理不尽であると感じながらも政策総務委員会に出席して堂々と弁明を行っている。矢野と朝木も頭から議論を拒否するのではなく、弁明を行ってから提訴すればよかったのではあるまいか。

 この請願をめぐって矢野が市民を提訴した裁判は平成22年3月17日、東京地裁が矢野と朝木の請求を棄却し、同年10月6日には東京高裁が彼らの控訴を棄却する判決を言い渡している。

 さて、朝木による東村山市長に対する苦情申出が棄却されたことを受けて薄井は平成20年4月16日、「セクハラ市議」「職業安定法違反」「薬事法違反」などの記載や放送によって名誉を毀損されたとして矢野と朝木、さらには多摩レイクサイドFM(理事長・岡部透)に対して損害賠償の支払いなどを求めて提訴した。提訴から2年後の平成22年3月8日、一審の東京地裁立川支部は「職業安定法違反」「薬事法違反」の部分について薄井の請求を認容し、矢野と朝木らに対して総額200万円の支払いと多摩レイクサイドFMにおける謝罪放送を命じていた。

 総額200万円の支払いと謝罪放送命令という判決内容は一般的にみても軽いものではない。しかし薄井にとって「超セクハラ市議」などと誹謗された部分について請求が棄却された点には大きな不満が残った。このため矢野と朝木の控訴に対して薄井も、棄却された部分の見直しを求めて附帯控訴した。

2つの表現行為にまとめて検討

 問題となった表現は政治宣伝ビラ「東村山市民新聞」、ウェブ版「東村山市民新聞」、多摩レイクサイドFMを合わせて10件以上にのぼるが、裁判所は意味内容の共通する表現行為を、

①薄井に対する「セクハラ市議」「風俗マニア」などとする表現行為

②薄井に対する「職業安定法違反」「薬事法違反」とする表現行為


 の大きく2項目に整理した上で名誉毀損の有無を判断している(この点だけをみても、矢野の宣伝とはニュアンスが異なることがわかろう)。

 記事や放送による名誉毀損では、その表現が他人の社会的評価を低下させるものであったとしても、それが論評や意見表明である場合には、前提事実の重要な部分が真実であり、論評や意見表明の域を逸脱せず、公益性・公共性があると認められる場合には違法性が阻却される(損害賠償の支払いなど、名誉毀損の不法行為責任は問われない)というのが判例である。

 では、東京高裁は矢野と朝木による薄井に対する誹謗中傷事件をどう判断したのだろうか。まず、一審でも違法性が認定された前記②「職業安定法違反」「薬事法違反」という表現からみていこう。東京高裁はそれぞれの具体的表現について検討している。

「疑いさえも認められない」



〈職業安定法違反〉との表現について

⑴ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年8月7日付)


〈『有害業務』の宣伝(求人など)は職業安定法63条2号違反の犯罪(懲役刑)〉

〈法が否定する『有害業務』を『職業』などと叫んだ薄井氏及び薄井擁護派は、これで完全に破綻です。……犯罪の疑いまで出てきたのです。〉



 これらの表現について東京高裁はこれが「意見ないし論評の表明に範疇に属するものというべきである」と認定した上で次のように述べた。

〈前記意見表明は、被控訴人(筆者注=薄井)が職業安定法違反の犯罪行為をした疑いがあるとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉

 では、「薄井は職業安定法違反の犯罪行為をした疑いがある」とする意見表明の「前提事実」についてはどうか。この点について矢野と朝木は、

「薄井は『公衆道徳上有害な業務』に該当する特殊性風俗業界の求人誌に関与した疑いがある」

 などとして、薄井が同求人誌を発行する会社の名刺を所持していたことなどを挙げて「意見表明」の前提事実であると主張した。しかし、東京高裁はこの点について次のように認定した。

〈被控訴人(筆者注=薄井)が特殊性風俗情報誌「○○」及び求人誌○○を発行する○○社に勤務していたこと……を加えても、被控訴人が○○社で求人誌○○の取材又は編集の業務に関与していたことを認めるには足りず(その疑いがあることを認めるにさえ足りない)、他にこれを認めるに足りる証拠はない。また、控訴人矢野及び控訴人朝木が、被控訴人は○○社で求人誌○○の取材又は編集の業務に関与し、又は関与していた疑いがあることを真実であると信じるについて相当の理由を認めるに足りる証拠もない。〉

 その上で、東京高裁はウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年8月7日付)の表現について次のように判断している。

〈上記意見表明は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的は専ら公益を図ることにあるが、本件訴訟において控訴人矢野及び控訴人朝木が上記意見表明の前提事実として主張した事実(被控訴人が○○社で求人誌○○の取材又は編集の業務に関与していたこと又はその疑いがあること)の重要な部分が真実であるとは認められず、また、控訴人矢野及び控訴人朝木がこれを真実であると信じるについて相当の理由を認めるに足りる証拠もない。

 したがって、上記意見表明の違法性は阻却されないから、上記意見表明は名誉毀損の成立を免れない。〉

 東京高裁は「職業安定法違反」だとする矢野らの意見表明の前提事実を認めなかったのである。「(求人誌業務に関与した)疑いがあることを認めるにさえ足りない」のだから、職業安定法違反の前提事実が認められるはずもあるまい。矢野と朝木は、裁判所から「疑いがあることを認めるにさえ足りない」と認定されるようなあやふやな根拠で、選挙で選ばれた市議会議員を「職業安定法違反」などと非難していたことになる。どういう判断基準を持つ市会議員だろうか。

提出されない準備書面

 余談だが、朝木明代(矢野ときわめて親密な関係にあった元東村山市議で朝木直子の母親=故人)の万引きを苦にした自殺をめぐり千葉英司から提訴されている右翼一派、「行動する保守」の重鎮で矢野、朝木ともきわめて近い関係にある「行動する保守」Aは前回口頭弁論(3月2日)で3月31日までに陳述書を提出すると述べたが、4月4日現在、千葉のもとには送付されていない。

 同じく千葉から提訴され、とりわけ朝木直子から証拠提出をはじめとする手厚い援助を受けている西村修平も前回口頭弁論(3月3日)で裁判官から4月4日までに準備書面を提出するよう命じられたが、やはり4月4日現在、千葉のもとには送付されていない。右翼Mはどうしたのだろうか。

 なお、「東村山市民新聞」170号によれば矢野と朝木が「東村山の闇」Ⅱを発刊したというから、「行動する保守」Aも西村も右翼Mも、証拠として提出しない手はあるまい。どこまで役に立つかは保証の限りではないが。

(つづく)

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第3回
マッチポンプ

「職業安定法違反」について矢野と朝木はウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年8月7日付)以外にも⑵「東村山市民新聞」158号(平成19年8月29日付)、⑶「東村山市民新聞」159号(平成19年12月15日付)⑷多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」(平成19年9月5日放送分)(筆者注=矢野穂積が進行役と解説役を務める1時間番組。1日に6回の放送枠がある)でも類似の表現を掲載・放送しているが、いずれも違法性を認定している。

 参考までに総務省が認可し、東村山市議会議員矢野穂積が「パーソナリティー」を務める多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」の放送を紹介しておこう(ほんの一部)。



「ニュースワイド多摩」(平成19年9月5日放送分)

 東村山市民新聞提供のニュースです。「問題は、犯罪関与の疑惑に進展」というニュースです。

 ……法律上も判例上も、性風俗は公衆道徳上有害業務であることがはっきりしていますが、(薄井擁護者らは)これを知らず、性風俗=有害業務の差別を許すな、などと叫んでいます。問題の薄井市議は、……調査の結果、薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ています。



 この部分について東京高裁は具体的に言及していないが、東京高裁はウェブ版の類似記載について「(求人誌業務に関与した)疑いがあることを認めるにさえ足りない」と認定しているのだから当然、この部分についても同じ理解でいいのではないかと私は考えている。「ニュースワイド多摩」がいう〈「犯罪関与の疑惑に進展」〉とはまさに、明確に名誉毀損が認定された「東村山市民新聞」158号の記載そのままである。

 なお、「(矢野が発行する彼らの政治宣伝ビラにすぎない)東村山市民新聞提供のニュース」を矢野の番組で読み上げるとはまさにマッチポンプということになると思うが、「東村山市民新聞」が「ニュースワイド多摩」にニュースを「提供」する例は少なくない。その際、「東村山市民新聞」がどういう性質の「新聞」であるかについていっさい説明はない。

 恐ろしいのは、「ニュースワイド多摩」では「朝日新聞」や「読売新聞」などまっとうなメディアからの引用も多く、それらと並んで「東村山市民新聞提供のニュースです」とやることである。聴取者が「東村山市民新聞」も「朝日新聞」などと同等の「新聞」で、社会的信用があるのだろうと勘違いする可能性もあろう。もちろんそれが矢野の狙いでもあるのだろう。

「宣伝」はないと認定

 では、矢野と朝木が「薬事法違反」と主張した点についてはどうか。



〈薬事法違反〉

⑴「東村山市民新聞」158号(平成19年8月29日付)


〈問題は『犯罪』関与の疑惑に進展!〉

〈調査の結果薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ている。〉

〈薄井氏、セクハラどころか、ついに犯罪の疑惑が〉



 これらの表現は薄井が前職時代にインターネット配信ビデオに出演した際、厚生省から認可されていない特定医薬品について紹介したことが違法な宣伝にあたるなどとして批判したものである。

 東京高裁はこれらの表現について「職業安定法違反」と同様に〈いずれも法的意見の表明に当たるものと解される〉とした上でそれが薄井の社会的評価を低下させたかどうか、また公益性があったかどうかについて次のように認定した。

〈前記意見表明は、被控訴人が薬事法違反の犯罪行為をしたとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉(社会的評価の低下)

〈本件事実関係の下においては、被控訴人が東村山市議会議員であること、前記意見表明が、被控訴人の東村山市議会議員としての適格性等をめぐってされていることによれば、前記意見表明は、公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと評価するのが相当である。〉(公共性・公益性)

 では、その意見表明の前提事実の真実性・相当性について東京高裁はどう判断したのか。

〈薬事法85条5号で罰則が定められている同法68条(承認前の医薬品等の広告の禁止)の「広告」は、①顧客を誘引する(顧客の購買意欲を昂進させる)意図が明確であること、②特定医薬品等の商品名(姫アグラ)が明らかにされていること、③一般人が認知できる状態であることの各要件を充たすことを要するものと解される。

 そこで、被控訴人(筆者注=薄井)による姫アグラの紹介の内容をみると、前記②及び③の要件の存在は認められるが、①の要件については議論の余地がある。この点について控訴人矢野及び控訴人朝木は、被控訴人が紹介の中で姫アグラの効能を挙げたことをもって顧客を誘引する「宣伝」、「広告」があったと主張するものと解される。しかし、「広告」とは上記①のとおり、顧客の購買意欲を昂進させることを目的として行われるものであるところ、本件事実関係の下においては、被控訴人は、姫アグラの流行と効能に言及しているものの、それを超えて、本件ネット動画の視聴者を誘引し、姫アグラを購買する意欲を昂進させる意図が明確であるとまでは認められない。……よって、控訴人矢野及び控訴人朝木の上記主張を採用することはできない。
 
 ……そうすると、控訴人矢野及び控訴人朝木が、被控訴人は本件ネット動画において姫アグラの「広告」をしたことを真実であると信じるについて相当の理由あったと認めることもできない。〉

 東京高裁はこう述べて、〈薬事法違反の疑いがある〉とする矢野と朝木の表現について相当性を認めず、

〈薬事法違反の疑いがあるという意見表明について名誉毀損の成立が認められる。〉

 と結論付けた。

異なるニュアンス

 矢野は政治宣伝ビラでこの点について、

〈薄井市議の薬事法違反等の疑いについては認めなかったものの〉

 と、さらっと触れただけである。スペースの都合もあるのかもしれないが、他には何の説明もなく、裁判を追いかけた者でなければこの1文の意味は理解できない。「職業安定法違反」に至っては「等」ですまされてしまった。

 東京高裁は〈薬事法違反等の疑いについては認めなかった〉だけでなく明確に名誉毀損の成立を認定(矢野と朝木の敗訴)しているのである。矢野は市会議員なら、〈薬事法違反等の疑いについては認めなかった〉ではなく〈薬事法違反等の疑いがあるとした部分については違法性を認定(矢野・朝木の敗訴)〉と、事実が市民に正確に伝わるように記載すべきではあるまいか。

 いずれにしても、判決文と矢野の「東村山市民新聞」の記載を具体的に比較すると、かなりニュアンスが異なることがよくわかろう。矢野、朝木という2人の市会議員は、よほど事実を市民に伝えたくなかったようである。

(つづく)

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第4回
謝罪放送を命令

 矢野と朝木は⑴「東村山市民新聞」158号(平成19年8月29日付)のほかに⑵多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」(平成19年9月5日放送分)、⑶「東村山市民新聞」159号(平成19年12月15日付)でも薄井に対して類似の表現で「薬事法違反」と誹謗したが、東京高裁はこれらの放送、記載についても名誉毀損の成立を認定している。

 このうち「職業安定法違反」と同じく、東村山市議が行ったきわめて悪質な放送として、総務省認可の多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」の放送内容を紹介しておこう。アシスタントは、警視庁東大和署が2名の会社員をネット通販で姫アグラと名付けた無許可医薬品を販売していたとして逮捕したニュースに続けて、次のような原稿を読み上げた。もちろんストーリー構成から原稿作成、番組構成・進行までを采配したのは多摩レイクサイドFMの実質的支配者である矢野以外にはいないだろう。



 逮捕のあった翌日に、この間問題となっているアダルト動画サイトで薄井市議が実際に登場している3月29日までの動画を、薄井市議が在籍した会社は突然削除しました。なんとこの削除した動画の中には、無許可無承認薬品「姫アグラ」の効能にまで触れて、薄井氏が宣伝をしていたのです。薬事法68条は無許可医薬品の効能効果または性能に関する広告をしてはならないと定めています。薄井氏、セクハラどころかついに犯罪の疑惑が浮上しました。



 アシスタントに原稿を読ませておいて、東村山市会議員の矢野が「解説」を加える。



 ……で、この逮捕したのが6月25日(東大和署の事件)。問題の薄井さんが出ていたアダルト動画が削除されて見えなくなったのが6月26日です。



 動画が削除されたことが東大和署の事件と何か関係があると思わせる口ぶりである。得意の印象操作だろうか。その上で矢野は続けた。



 で、よくですね、ちょっと調べてみると、この削除された動画の中に、アダルト動画の中に、薄井さん自身がこの姫アグラという違法ドラッグについて、効能ですね、こういう効果が表れるというこの無許可の違法ドラッグの効能についてですね、得々としゃべっているんですね。宣伝しています。一種こう紹介記事風の形はとっていますが、イメージ映像なんかも出てましてですね、で、これを使えばこういう効き目があるんだよ、というふうにまさにこの薬事法が禁止しているですね、そういう性能じゃなくて効能っていうんですよね、を宣伝をしている。広告を実質的に行っている、ということが、わかったわけなんですね。ま、それでですね、いろいろこれから問題が大きくなっていきますが、この点についてはですね、また時間をみてご紹介していきたいと思います。



 この放送について東京高裁は次のように述べて名誉毀損の成立を認定している。

〈被控訴人が姫アグラの広告、宣伝をしたとは認められないから、前提事実の真実性を論じる前提を欠く。また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったと認めるに足りる証拠もない。……違法性は阻却されないから、上記意見表明について名誉毀損の成立が認められる。〉

 薄井に「薬事法違反」の疑いがあると主張しているという意味では冒頭の「ニュース」も矢野の「解説」も一体だから、真実性・相当性を否定した東京高裁の認定は矢野の「解説」内容をも否定したものと理解できよう。

 こうして東京高裁は、「職業安定法違反」「薬事法違反」とする表現行為を行った矢野と朝木らに対して計100万円の支払いを命じる判決を言い渡したが、〈薬事法違反の疑いがある〉とする放送を行った多摩レイクサイドFMに対してはさらに次のような内容の謝罪放送を行うよう命じている。よほど悪質と判断したということだろうか。



(謝罪放送)

 これから謝罪放送を行います。本局の番組「ニュースワイド多摩」は平成19年9月5日、東村山市議会議員薄井政美氏が同年2月10日にアダルト動画サイト「マンゾクTV」でした「姫アグラ」の紹介は薬事法に違反する旨の放送を行いました。しかし、上記放送内容は根拠が不十分であり、上記放送は同氏の名誉を傷つけるものでした。よって、本局は、上記放送内容を取り消すこととし、同氏に対し、謝罪いたします。

特定非営利活動法人多摩レイクサイドFM 理事長 岡部透

(放送条件)

二日間連続して、番組「ニュースワイド多摩」の放送(1日4回)に近接する広告放送の時間帯に(合計8回)、40秒のCM放送の中で、聴取者が明確に聞き取ることができる速度で行うこと。



 総務省が認可した放送局に8回もの謝罪放送を命じるとはよほどのことと思うが、彼らが薄井に対して行ってきた放送の回数およびその悪質性に比較すれば決して多いとはいえない。

責任を逃れようとした朝木

 なおこの放送に関して朝木は、「(朝木は)多摩レイクサイドFMの事務局長ではあるが、番組制作部長(=同局の番組編集について責任を有する)ではない」として、本件放送内容についての責任を否定していた。この点について薄井側も一審では十分な立証ができず、一審では朝木の責任が認定されなかった。

 しかし控訴審で改めて資料を精査したところ、開局申請時に矢野が東村山市に提出した書類(「放送番組の編集の機構及び考査に関する事項」)の中に「事務局長」の役割が明記されており、「多摩レイクサイドFM」の事務局長は番組編成制作部長(=「番組編集の責任者」)を兼務することになっていた。「番組編集の責任者」とはすべての番組編集の責任を負うということであり、事務局長である朝木が「ニュースワイド多摩」の編集についても責任を負うのは当然である。東京高裁は次のように述べて朝木の損害賠償責任を認定した。

〈控訴人朝木は、控訴人法人の事務局長であり、ニューワイド多摩の番組編成制作部長を兼務している。すなわち、控訴人朝木は、番組の製作に関わる立場にある者であり、(上記番組=筆者)の編成製作にも関与していたことが推認されるところ、この推認を覆すに足りる特段の主張、立証はされていないから、被控訴人が被った上記損害賠償責任を負う。〉

 そもそも「多摩レイクサイドFM」の事務局長である朝木が「事務局長は番組編成制作部長を兼務する」ことを知らないはずはない。朝木は自分自身の責任の所在を知っていながら、責任を逃れようとしていたのである。やはりこの市会議員の神経も並みではない。

 もちろん「多摩レイクサイドFM」の放送内容に関して、「ニュースワイド多摩」に出演して進行・解説役を務めている矢野に対して東京高裁が〈損害賠償責任を負う〉と認定したことはいうまでもない。

(つづく)

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第5回
常人には真似できない執拗さ

 では、一審で請求が認容されなかった「超セクハラ市議」「エロ・ライター」「風俗マニア」などとする表現について東京高裁はどう判断したのか。矢野と朝木が行った誹謗中傷宣伝として薄井が挙げた表現は、文言の悪質さと宣伝の持続力、執念深さはさすがに他に例をみない特異な市議によるものというほかなく、とうてい余人には真似のできるものではない。

 まずそれがどんなものか、改めて確認しておこう。もちろんここには名誉毀損が認定された「風営法違反」と「薬事法違反」に関する表現は含まれていないことに留意いただきたい。つまり以下にあえて示すのは、矢野と朝木がこの4年間に行ってきた薄井攻撃のほんの一部だということである。



ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年4月23日付)

「これじゃまるで『エロ・ライター』! 薄井政美特集」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年5月1日付)

「薄井セクハラ問題」

「市職員が机に『ヌード写真』を飾ったりすることが許されないのは勿論のこと、意図的に薄井さんがやっているような性的情報を流布させたり、性的言葉を吐く、性的体験を語るなどすれば、その『セクハラ行為』を理由に、その職員は処分され、場合によっては懲戒免職の事態もありうる話なのです」

「市議に立候補し、市議として活動する人物が『セクハラ』を公然と肯定する立場にある」

「『セクハラ』を公然と肯定する人物」

「『セクハラ』を公然と肯定している薄井さん」

「どっぷりと染み付いたセクハラ体質」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年5月4日付)

「薄井『超セクハラ活動』問題!」

「改正『均等法』に真っ向朝鮮、女性蔑視、障がい者蔑視の『超セクハラ』映像」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年5月17日付)

「薄井『超セクハラ活動』問題!」

「改正『均等法』に真っ向朝鮮、女性蔑視、障がい者蔑視の『超セクハラ』映像」

「やっぱり、風俗だけが得意な『セクハラ活動家』でした!」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年5月18日付)

「薄井『市議』、実体は『超セクハラ活動家』!」

「改正『均等法』に真っ向朝鮮、女性蔑視、障がい者蔑視の『超セクハラ』映像」

「やっぱり、風俗だけが得意な『セクハラ活動家』でした!」

「薄井『市議』、実体は『超セクハラ宣伝マン』!」

「『超セクハラ』映像」

「違法セクハラ宣伝マン」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年5月23日付)

「違法セクハラ宣伝マン特集」

「改正『均等法』に真っ向朝鮮、女性蔑視、障がい者蔑視の『超セクハラ』映像」

「違法セクハラ宣伝マン」

「やっぱり、風俗だけが得意な『セクハラ活動家』でした!」

「『グルメ日記』で何も気づかない有権者をひきつけておいて、その実体は単なる『セクハラ活動家』!」

「薄井さんの言動は、東村山市条例に違反しています。」

東村山市民新聞157号(平成19年5月29日付)

「薄井『超セクハラ市議』」

「『風俗マニア』がグルメで粉飾、市議に」

「公然と市条例違反の人権侵害行為を、5月以降も」

「薄井政美『市議』の場合は単なる『風俗マニア』」

「市議が公開のアダルト動画サイトでセクハラ発言を連発することなどもってのほか、条令違反の違法行為だ。」

「『セクハラ満載』の動画サイト」

「『風俗マニア』の素顔を粉飾」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年6月1日付)

「違法セクハラ『風俗マニア』薄井『市議』」

「『風俗マニア』であるあなたの市条例違反・違法セクハラ行為」

「単なる『風俗マニア』」

「自信をもって『風俗』の世界でそのマニアックな持ち味を存分発揮してください。」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年6月3日付)

「薄井『市議』は『違法セクハラ・風俗マニア』!」

「共産市議ら、『風俗マニア』を容認!!」

「『超セクハラ』映像」

「違法セクハラ宣伝マン」

ウェブ版「東村山市民新聞」(平成19年6月9日付)

「超セクハラ・風俗マニアの薄井『市議』の行為は市条例適用対象!」

「超セクハラ言動を繰り返している薄井『市議』」

「薄井さんは、『アダルト動画サイト』本件ネット動画に出演、超セクハラ言動を繰り返している」

東村山市民新聞158号(平成19年8月29日付)

「性風俗マニア『市議』」

「問題の薄井『市議』は、市議候補者になった後も『ソープランド』などの『性風俗特殊営業』の宣伝をしてきた」



 比類ない執念というほかないが、これらの表現について東京高裁はいずれも「意見表明」であるとした上で、

〈各意見表明は、セクハラ、条例違反、エロライター、風俗マニアを理由として、被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであり、……被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあるものということができる。〉

 と認定。またこれらの意見表明の前提は、薄井がキャスターとして出演していたネット動画が議員任期開始後も公開されていた事実であるとする矢野と朝木の主張を認め、その重要な部分において真実であるとした。

 薄井は議員任期開始前にはすでに会社を退職しており、動画の公開には関与していなかった。また当然、退職後に新たに出演もしていないが、ネット上に当時の動画が残っていたのは事実だった。

 上記「セクハラ」などとする表現行為に名誉毀損が成立するか否かについての次の判断は、議員任期開始後も薄井がキャスターとして出演していたネット動画が公開されていたという前提事実に基づくとする矢野と朝木の上記表現行為が客観的に正当といえるかどうかということになる。

(つづく)

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「セクハラ市議」誹謗中傷事件 第6回(最終回)
「『セクハラ』は独自の見解」

 東京高裁は「セクハラ」や「風俗マニア」などの文言は意見表明であり、薄井の社会的評価を低下させるが、その前提事実は薄井が出演したアダルト番組が議員任期開始後もネット上に公開されていたことであると認定した。

 その上で東京高裁は、①「セクハラ」「条令違反」②「エロ・ライター」「風俗マニア」に分けて、矢野と朝木の主張が正当なものであるか否かについて判断を示している。

 まず①「セクハラ」「条令違反」について東京高裁は次のように述べた。

(「セクハラ」とする主張について)

〈控訴人らは、被控訴人は市議会議員に当選し、任期が開始した後も本件ネット動画をネット公開していることを前提事実として、それは「セクハラ活動」であり、被控訴人は「セクハラ市議」、「セクハラ活動家」であり、セクハラを禁じる東村山市男女共同参画条例に違反するから、……(控訴人らの)意見表明は、その枠内にあると主張する。

 そこで判断するに、本件ネット動画は、被控訴人が市議会議員に当選し、その任期が開始した後も、平成19年6月25日ころまでネット公開されていたことは、争いのない事実……である。しかし、本件ネット動画は、通常のネット動画と同様、視聴者の方からアクセスしなければ見たり聴いたりすることはできず、視聴者がその意に反して見たり聴いたりすることを強要されるものではない。したがって、被控訴人が本件ネット動画で性的な言動をしても、それは、被害者(視聴者)の意に反する性的な言動という「セクハラ」の一般的な定義に該当しないから、セクハラには当たらないというべきである。したがって、これを「セクハラ」であるとする控訴人矢野及び控訴人朝木の意見表明は、独自の見解であるというべきである。〉

(「条例違反」とする主張について)

〈東村山市男女共同参画条例2条⑶号は、セクハラについて「性的な言動により当該言動を受けた相手方の生活環境を害すること又は性的な言動を受けた相手方の対応によりそのものに不利益を与えることをいう。」と定義しているところ、前記のとおり、本件ネット動画における被控訴人の性的な言動は、受ける側がアクセスしない限り、その者の耳目に触れないものであるから、上記条例2条⑶号には該当しない。また、同後段は、性的な言動をした者が、それを受けた相手方の対応を不満とすること等により、地位の優越等を利用して相手方に対し不利益を与えることをいうものであるから、本件ネット動画における被控訴人の性的な言動は、本件条例2条⑶号にも該当しない。〉

 東京高裁は矢野と朝木が薄井の言動等に対して宣伝した「セクハラ」との主張は「独自の見解」で、「条例違反」も「『条令違反』にも該当しない」と結論付けた。いずれもきわめて常識的な結論である。

 では名誉毀損についてはどうか。東京高裁は次のように述べて、①「セクハラ」「条令違反」についての名誉毀損の成立を否定した。

〈意見ないし論評を表明する自由は、民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹をなすものであるから、少数説や独自の見解の表明、さらには誤った意見ないし論評の表明もまた保護されるべきであり、これに対する反論、反撃は言論の場において行われるべきである。したがって、控訴人矢野及び控訴人朝木が、被控訴人の性的な言動を録画、録音した本件ネット動画のネット公開を「セクハラ」に該当すると誤り考え、さらに、セクハラを禁止する東村山市男女共同参画条例に違反すると誤り考えたことをもって、意見表明の域を逸脱したものということはできない。〉

 動画の公開について、矢野と朝木の記載は誰が主体だとしているのかという論点もあった。この点について東京高裁は、矢野と朝木の記述からは動画の公開について「『薄井が主体的に関与した』と断定したとまではいえない」と判示した。そう断定したと判断されていれば名誉毀損に関する判断も変わった可能性がある。

 誤った意見を内心で抱くことと、それをすぐ不特定多数に対して断定的に公表することとは別のようにも思うが、議員任期開始後も、薄井が出演した動画がインターネット上に公開されていたという事実に照らせば、矢野と朝木が薄井に対する認識を誤ったとしてもやむを得ない側面があるという判断なのだろう。

「『エロ・ライター』『風俗マニア』の相当性には疑問」

②「エロ・ライター」「風俗マニア」について東京高裁は次のように述べた。

〈被控訴人は勤務先である○○社の仕事として本件ネット動画に出演していたものであること、被控訴人はキャスターとして与えられた原稿を読み上げていたものであり、自ら原稿を書いていたものではないことに照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という意見表明の相当性には疑問なしとしない。〉

 薄井に対する「風俗マニア」「エロ・ライター」という意見表明の内容は相当ではないという判断である。

 しかし東京高裁はここでも、薄井の意思とは無関係であるとはいえ、動画がネット公開されていた事実を重視し、薄井に対する「エロ・ライター」、「風俗マニア」とする表現については「相当」とは認めなかったものの、〈意見表明としての域を超えるとまではいい難い。〉と結論付けた。

異なるニュアンス

「セクハラ」「条令違反」「エロ・ライター」「風俗マニア」とする意見表明に関する東京高裁の判断を改めて整理すると次のようになる。



①議員任期開始後も、薄井が出演していた動画がネット公開されていたことは事実である。

②「セクハラ」「条令違反」「エロ・ライター」「風俗マニア」とする矢野と朝木の意見表明は「独自の見解」であるか「相当ではない」。

③しかし、いずれも意見表明の域を超えるとまではいえない。



 平たくいえば、矢野と朝木の薄井に対する「セクハラ」などという宣伝は、名誉毀損をかろうじて免れただけで、誤りだったと認定されたということになろう。意見表明の内容は否定されたが名誉毀損は認定されなかったという点において、この部分は佐藤裁判の結論とよく似ている。

 矢野と朝木は政治宣伝ビラ「東村山市民新聞」170号とウェブ版「東村山市民新聞」で〈任期後も出演した「アダルト動画」が公開されている以上、「エロライター」「性風俗マニア」等と批評されても仕方がないと断定〉と記載している。しかし東京高裁は動画がネット公開されていた事実は認めているものの、彼らの意見表明を「誤った見解」「相当ではない」と明確に認定しているのであり、「(東京高裁が)……と批評されても仕方がないと断定」とする矢野の記載とはだいぶニュアンスが異なろう。「見解としては誤りとしたが、意見表明の域を逸脱していないと認定した」とすべきだが、自らの非を絶対に認めない矢野と朝木の特異性においては容認できなかったということだろうか。

 いずれにしても、ネット動画の公開に関して薄井が関与を否定し、矢野と朝木も関与を立証できていない(東京高裁は「関与はない」と認定した)。動画も4年前に削除されている。したがって矢野と朝木にはすでに、薄井に対して新たに「セクハラ」「条令違反」「エロ・ライター」「風俗マニア」などと「意見表明」する根拠はないということになる。

(了)

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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決(その1)
 東村山市議(当時)の薄井政美がビラやインターネットホームページの記載、並びにラジオの放送によって名誉を毀損されたとして同市議の矢野穂積と朝木直子(「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判は平成24年12月18日、最高裁が矢野と朝木の上告申立を受理しない決定を行い、矢野と朝木に対して計100万円の支払いと謝罪放送を命じた東京高裁判決(平成23年3月16日)が確定した。

 問題となったのは、平成19年4月に行われた東村山市議選後に、矢野と朝木が薄井に対して「セクハラ市議」「風俗マニア」「職業安定法違反」「薬事法違反」などと宣伝してきた10件以上にのぼる記載や放送である。

 なお上記のような宣伝の一方で、朝木は「薄井が出演した放送によってセクハラを受けた」などと主張して東村山市長に対して東村山市男女共同参画苦情等申出書を提出している。しかし審査を行った東村山市は平成19年12月27日、「セクハラの事実はない」と結論付け、この申立を棄却している。そもそも放送で薄井が朝木を名指ししたわけでもなく、当然、物理的接触などあり得ようもない。客観的根拠を欠いたきわめて恣意的な申立だったとみるのが常識的な見方なのではあるまいか。

「セクハラ」の主張を否定

 では、最高裁が追認した東京高裁の判決内容を確認しておこう。

 東京高裁は矢野と朝木が薄井に対して行った表現行為について「表現行為A」(「セクハラ」、「条令違反」、「エロ・ライター」、「風俗マニア」)と「表現行為B」(「職業安定法違反」、「薬事法違反」)に分け、それぞれについて判断している。

「表現行為A」について矢野らは、議員任期が始まったあともインターネット上に薄井が出演した動画が公開されていたことを前提事実として、それが「セクハラ活動」だから薄井は「セクハラ市議」、「セクハラ活動家」であり、セクハラを禁じる東村山市男女共同参画条例に違反するから、「表現行為A」は意見表明の域内にあると主張していた。

 これに対して東京高裁はまず、矢野らの意見表明の内容の成否を検討し、次のように述べている。



(「セクハラ市議」などの表現の成否に関する東京高裁の認定)

 本件ネット動画は、被控訴人が市議会議員に当選し、その任期が開始した後も、平成19年6月25日ころまでネット公開されていたことは、争いのない事実等(15)のとおりである。しかし、本件ネット動画は、……視聴者の方からアクセスしなければ見たり聴いたりすることはできず、視聴者がその意に反して見たり聴いたりすることを強要されるものではない。

 したがって、被控訴人が本件ネット動画で性的な言動をしても、それは、被害者(視聴者)の意に反する性的な言動という「セクハラ」の一般的な定義に該当しないから、セクハラには当たらないというべきである。したがって、これを「セクハラ」であるとする控訴人矢野及び控訴人朝木の意見表明は、独自の見解であるというべきである。



 東京高裁はこう述べて、薄井が動画に出演していたことを理由に「セクハラ活動」などとした矢野と朝木の主張を否定している。

「東村山市男女共同参画条例に違反している」とする主張についてはどうか。東京高裁は次のように述べた。



(「東村山市男女共同参画条例違反」との主張に対する東京地裁の認定)

 東村山市男女共同参画条例2号(3)号は、セクハラについて「性的な言動により当該言動を受けた相手方の生活環境を害すること又は性的な言動を受けた相手方の対応によりその者に不利益を与えることをいう。」と定義しているところ、前記のとおり、本件ネット動画における被控訴人の性的な言動は、受ける側がアクセスしない限り、その者の耳目に触れないものであるから、上記条例2条(3)号前段には該当しない。

 また、同後段は、性的な言動をした者が、それを受けた相手方の対応を不満とすること等により、地位の優越等を利用して相手方に対し不利益を与えることをいうものであるから、本件ネット動画における被控訴人の性的な言動は、本件条例2条(3)号後段にも該当しない。



 ここで東京高裁が東村山市男女共同参画条例には違反しないと判断した重要な根拠は、朝木に対して薄井が強制的に動画を見せたり、薄井と朝木の間に直接的かつ具体的に接触した事実が存在しなかったという点にあろう。すなわち、矢野と朝木が薄井に対して行った「セクハラ市議」「セクハラ活動家」などという宣伝は常識的にはあり得ない評価ということなる。朝木が「セクハラを受けた」として東村山市男女共同参画条例に基づく苦情申立を行ったことに対して東村山市が「セクハラはなかった」と結論付けたのも同じ理由によるものとみられる。

 しかし東京高裁は、「セクハラ市議」などとした矢野と朝木の論評もまた、論評である以上〈少数説や独自の見解の表明、さらには誤った意見ないし論評の表明もまた保護されるべき〉として次のように結論付けた。



(「セクハラ市議」との表現に関する東京高裁の結論)

 控訴人矢野及び朝木が、被控訴人の性的な言動を録画、録音した本件ネット動画のネット公開を「セクハラ」に該当すると誤り考え、さらに、セクハラを禁止する東村山市男女共同参画条例に違反すると誤り考えたことをもって、意見表明の域を逸脱したものということはできない。



 また「表現行為A」のうち「エロ・ライター」、「風俗マニア」についても「意見表明」であるとした上で、これらの「意見表明」について次のように評価している。



 被控訴人(筆者注=薄井)は勤務先であるクリエイターズ社の仕事として本件ネット動画に出演していたものであること、被控訴人はキャスターとして与えられた原稿を読み上げていたものであり、自ら原稿を書いていたものではないことに照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という意見表明の相当性には疑問なしとしない。



「エロ・ライター」、「風俗マニア」との表現について東京高裁は相当性に疑問を呈した。しかし議員任期開始後も当該動画がネット公開されていた点を重視し、〈意見表明としての域を超えるとまでは言い難い〉と述べ、名誉毀損の成立は否定したのである。

 こうして東京高裁は「表現行為A」について名誉毀損は成立しないと結論付けた。しかし東京高裁が「セクハラ」、「条令違反」については〈「セクハラ」の一般的な定義に該当しないから、セクハラには該当しない〉として矢野の主張は「独自の見解」「誤り」であると認定し、「エロ・ライター」、「風俗マニア」については相当性に疑問を呈したことはきわめて重要であると思う。矢野と朝木は最初に記載した時点ではやむを得ない思い込みがあったとしても、裁判を通じてすでに事情を理解したはずである。したがって、裁判後に同様の宣伝をした場合には法的評価もおのずと異なってくると思われるからである。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決(その2)
 では「表現行為B」についての東京高裁の判断はどうか。問題とされたのは以下のウェブ版「東村山市民新聞」の記事4本と「多摩レイクサイドFM」の放送1本(『ニュースワイド多摩』)である。



1 ウェブ版東村山市民新聞平成19年8月6日

〈ついに薄井問題に決定打!〉

〈法律家の方々から貴重な助言をうけました。薄井氏には速やかに辞職されるよう強く勧告します。〉

2 ウェブ版東村山市民新聞平成19年8月7日

〈法律家・研究者の方々の応援により急展開!〉

〈照準は、はっきりと、違法行為、犯罪既遂の事実です。〉

〈1 ソープ(本番=売春)は勿論、「性風俗」は全部「有害業務」(確定判決)
 2 「有害業務」の宣伝(求人など)は職業安定法63条2号違反の犯罪(懲役刑)〉

〈法が否定する「有害業務」を「職業」などと叫んだ薄井氏及び薄井擁護派は、これで完全に破綻です。それどころではありません。犯罪の疑いまで出てきたのです。〉

3 東村山市民新聞第158号(平成19年8月29日付)

〈問題は「犯罪」関与の疑惑に進展!〉

〈調査の結果薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ている。〉

〈薄井氏、セクハラどころか、ついに犯罪の疑惑が〉

4 「ニュースワイド多摩」平成19年9月5日放送分

〈調査の結果、薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ています。〉

〈薬事法68条は、無許可医薬品の効能効果または性能に関する広告をしてはならないと定めています。薄井氏、セクハラどころかついに犯罪の疑惑が浮上しました。〉

5 東村山市民新聞第159号(平成19年12月15日付)

〈薄井氏が特殊性風俗宣伝のネット動画で「違法ドラッグ」を紹介したことなど、薄井氏の言動について違法の可能性がある〉



 こう並べてみると、平成19年に矢野と朝木が行った薄井攻撃の執拗さがあらためて実感できるのではあるまいか。

「職業安定法違反」との主張に違法性を認定

 上記1~5の記載及び放送に対して東京高裁はどんな判断を行ったのか。

 まず1について東京高裁は、これだけでは〈被控訴人が職業安定法63条2号に違反する行為をした疑いがあるという事実の摘示にも、同旨の意見表明に当たるとはいい難い。〉と述べて名誉毀損の成立を否定した。しかし、上記2以降についてはいずれも名誉毀損の成立を認定している。

(「表現行為B」の2について)

 2について東京高裁は、〈上記記載は、被控訴人が職業安定法63条2号違反の犯罪行為をした疑いがあるという法的な見解を表明するものである。……法的な見解の表明は、事実を摘示するものではなく、意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである(前記最高裁平成16年7月15日判決)。〉とした上で、名誉毀損性について〈前記意見表明は、被控訴人が職業安定法違反の犯罪行為をした疑いがあるとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉と認定している。

 意見表明が他人の名誉を毀損するものだったとしても、公共性・公益性があり、その前提に真実性・相当性が認められた場合には違法性は阻却される。この点について東京高裁は次のように述べた。

〈控訴人矢野及び控訴人朝木は、……前提事実を掲げることなく、公然と、被控訴人が職業安定法違反の犯罪行為をしているという意見表明をし、これにより、被控訴人の社会的評価が低下するおそれを発生させた。

 ……本件訴訟において控訴人矢野及び控訴人朝木が上記意見表明の前提事実として主張した事実の重要な部分が真実であるとは認められず、また、控訴人矢野及び控訴人朝木がこれを真実であると信じるについて相当の理由を認めるに足りる証拠もない。〉

 東京高裁はこう述べて、「表現行為B」の2について名誉毀損の成立を認定したのである。

(「表現行為B」の3について)

 3について東京高裁はいずれも「意見表明」であるとし、「薬事法違反」と「職業安定法違反」(の疑い)とする主張について検討している。

「視聴者の誘引」を否定

 まず「薬事法違反」については〈前記意見表明は、被控訴人が薬事法違反の犯罪行為をしたとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、……被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉として名誉毀損性を認定し、その上で真実性・相当性について次のように述べている。

〈被控訴人は、姫アグラの流行と効能に言及しているものの、それを超えて、本件ネット動画の視聴者を誘引し、姫アグラを購買する意欲を昂進させる意図が明確であるとまでは認められない。したがって……被控訴人が姫アグラの「広告」(宣伝)をしたという事実が認められない以上、……控訴人矢野及び控訴人朝木の上記主張を採用することはできない。〉

 東京高裁はこう述べて、3の「薬事法違反」について名誉毀損の成立を認定した。

「職業安定法」についても上記「表現行為Bの2」と同様、〈被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉と述べた上で真実性・相当性を否定し、名誉毀損の成立を認定した。

「表現行為Bの4」「表現行為Bの5」はいずれも「薬事法違反」であると主張するものだが、東京高裁はいずれも上記3と同じ理由によって名誉毀損の成立を認定している。この結果、東京高裁は平成23年意3月16日、矢野と朝木に対して計100万円の支払いと、「表現行為Bの4」の「ニュースワイド多摩」放送分については謝罪放送を命じる判決を言い渡したのである。

 なお、東京高裁が命じた謝罪放送の具体的内容は以下のとおりである。



謝罪放送

 これから謝罪放送を行います。

 本局の番組「ニュースワイド多摩」は平成19年9月5日、東村山市議会議員の薄井政美氏が同年2月10日にアダルト動画サイト「マンゾクTV」でした「姫アグラ」の紹介は薬事法に違反する旨の放送を行いました。しかし、上記放送内容は根拠が不十分であり、上記放送は同氏の名誉を傷つけるものでした。

 よって、本局は、上記放送内容を取り消すこととし、同氏に対し、謝罪いたします。

特定非営利活動法人多摩レイクサイドFM

理事長 岡部 透

放送条件

 上記謝罪放送は、2日間連続して、番組「ニュースワイド多摩」の放送(1日4回)に近接する広告放送の時間帯に(合計8回)、40秒のCM放送の中で、聴取者が明確に聞き取ることができる速度で行うこと。



 東京高裁判決後の平成23年3月23日、矢野と朝木はウェブ版東村山市民新聞で〈「エロライター」裁判で、薄井市議が、東京高裁でまた敗訴!〉とするタイトルのもと次のような記事を掲載し、現在もほぼ同じ状態で残っている。

〈……市民新聞が「まるでエロライター、市議としての適格性がない」と厳しく批判したことを、薄井市議は「名誉毀損だ」として提訴した裁判で、地裁に続き、東京高裁は3月16日、この裁判の根幹である「まるでエロライター」等の記事は名誉毀損にはあたらないとして薄井市議の請求を棄却した。〉

 敗訴部分についてはわずかに〈高裁判決は、薄井市議の薬事法違反等の疑いについては認めなかった〉と触れただけで、100万円の支払いと謝罪放送が命じられたことには言及していない。矢野と朝木の敗訴であるにもかかわらず、事情を知らない市民が読めばまるで彼らが勝訴したと勘違いしてもおかしくないような一面的な記事である。

 この時点ではまだ確定判決でないとはいえ、誹謗目的ではなく真摯な問題提起だったのなら、「セクハラ」や「エロライター」との意見表明に対して東京高裁が疑義を呈した事実を明らかにすべきところだろう。また東京高裁判決が確定したのだから、いまだウェブ上に残っている記事も削除するのが常識的な対応といえるのではあるまいか。

 その矢野と朝木が判決確定に基づき、1月28日と29日に謝罪放送を行うという。「東村山市民新聞」事件で謝罪広告を命じられた矢野は、謝罪広告の隣にその内容を打ち消す内容の記事を配置した。その前歴からすれば今回、矢野が趣旨どおりの謝罪放送を行うかどうかは保証の限りではない。

(了)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その1)
主体の不明確な放送

 東村山市議だった薄井政美が東村山市議の矢野穂積と朝木直子、多摩レイクサイドFMらを提訴していた裁判で、矢野らの代理人は薄井の代理人に対して、最高裁判決に基づき平成25年1月28日と29日の両日、多摩レイクサイドFMにおいて謝罪放送を行う旨を連絡してきたという。東京高裁が命じた謝罪放送の内容は指定されているが、同放送局が本当に「謝罪」の趣旨どおりの放送を行うのか、確認する必要があると私は考えていた。

 放送時間は矢野がパーソナリティを務める「『ニュースワイド多摩』の放送に近接する広告放送の時間帯に、40秒のCM放送の中で」と判決文に指定されている。名誉毀損が認定された放送は「ニュースワイド多摩」の中で矢野によって行われたものだからである。

 多摩レイクサイドFMでは通常、「ニュースワイド多摩」の前に広告のような放送がある。その時間帯に謝罪放送が行われる可能性もあると思ったが、放送内容に変化はなかった。そのまま「ニュースワイド多摩」を聴いていると、いつもは10時までの同番組が9時30分過ぎに終了した。その直後、「ニュースワイド多摩」でそれまで幅広い知識を披瀝していた矢野ではなく、女性アナウンサーの声で次のような放送が流れた。



 この番組は、昨年、2012年12月18日に最高裁第3小法廷が東村山市の議会や行政にとってきわめて重要な意味を持つ事件に関して決定をしましたので、この時間は「特集 エロキャスター裁判を考える」と題して、経過を整理し、前代未聞のこの裁判が明らかにした問題やこの最高裁決定の持つ意味などを、リスナーのみなさんと一緒に考えていきたいと思います。

 なお、スポットのCMの時間帯がありませんので、このような番組の形式とさせていただきました。



 よくわからないが、「エロキャスター裁判」という文言からすると、最高裁判決に関連した放送のようだった。しかし「エロキャスター裁判」なるものはそもそも「ニュースワイド多摩」における矢野の発言が問題となったもので、矢野が表に出ないのは何か不自然である。ここまでの時点で、放送の主体が誰なのかも明確ではない。

 また「謝罪放送を行う」というのならわかるが、「特集」とはどういうことなのか。東京高裁は「謝罪放送」について「『ニュースワイド多摩』の放送に近接する広告放送の時間帯に、40秒のCM放送の中で」と指定しているし、判決で指定された謝罪文を読み上げるだけなら40秒あれば十分のはずである。

 そもそも〈なお、スポットのCMの時間帯がありませんので、このような番組の形式とさせていただきました。〉などと聴取者に釈明する必要はない。私にはこれが、額面通りの謝罪放送ではなくなることの言い訳のようにも聞こえた。

 この「特集」は9時33分ころに始まり、「40秒」どころかたっぷり午前10時まで2、3名の女性アナウンサーがひたすら原稿を読み続けた。はたしてその内容も、とうてい「謝罪放送」といえるようなものとはとうてい思えなかったのである。原稿を執筆したであろう矢野はついに一度も登場しなかった。

事実に反する主張

 平成24年12月18日に最高裁が矢野らの上告を受理しない決定を行ったことで確定したのは東京高裁判決である。その東京高裁判決についてまず放送は次のように説明した。



 東京高裁第22民事部の加藤新太郎裁判長は東京地裁立川支部の判決のうち、薄井さんの言動は「『性風俗マニア』、『超セクハラ市議』、『エロ・ライター』に当たる」と認定した第一審通りの判決を言い渡し、矢野穂積議員や朝木直子議員の指摘を認めました。市議会議員だった人物が裁判所から、その言動は「『性風俗マニア』『超セクハラ市議』『エロ・ライター』に当たる」と認定され、これが最高裁で確定したのですからこれだけでも大事件ということができます。



 薄井の言動が「性風俗マニア」「超セクハラ市議」「エロ・ライター」に当たると認定されたと放送は主張するが、東京高裁はそのような認定はしていない。東京高裁は次のように認定したのである。



(「性風俗マニア」等に対する東京高裁の認定)

「エロ・ライター」「風俗マニア」という意見表明については、被控訴人(筆者注=薄井)が主張するとおり、被控訴人は勤務先であるクリエイターズ社の仕事として本件ネット動画に出演していたものであること、被控訴人はキャスターとして与えられた原稿を読み上げていたものであり、自ら原稿を書いていたものではないことに照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という意見表明の相当性には疑問なしとしない。



 東京高裁はこう述べた上で、議員任期開始後も薄井が出演して〈相当に過激な性的発言等をしている本件ネット動画がネット公開されていた事実に照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という表現が意見表明としての域を超えるとまではいい難い。〉と認定したにすぎない。東京高裁はむしろ相当性に疑問を呈しこそすれ、この放送がいうように薄井の言動が「性風俗マニア」「超セクハラ市議」「エロ・ライター」に当たるなどと認定したわけではないのである。つまり、上記の放送内容は事実に反するということになる。

 続いて放送は、矢野と朝木が薄井のアダルト動画サイトにおける言動に関して東村山市男女共同参画条例に違反すると主張した点について、〈(東京高裁は)「名誉毀損ではない」としました。〉と、あたかも彼らの主張が認められたかのように説明した。しかしこの説明も東京高裁の判断を正確に伝えたものとはいいがたい。東京高裁は次のように認定したのである。



(「東村山市男女共同参画条例に違反する」との主張に対する東京高裁の判断)

 東村山市男女共同参画条例2条(3)号は、セクハラについて「性的な言動により当該言動を受けた相手方の生活環境を害すること又は性的な言動を受けた相手方の対応によりその者に不利益を与えることをいう。」と定義しているところ、……本件ネット動画における被控訴人の性的な言動は、受ける側がアクセスしない限り、その者の耳目に触れないものであるから、上記条例2条(3)号には該当しない。



 東京高裁はこう述べて矢野と朝木の主張を否定しているのである。ただし意見の表明は保護されるべきで、〈控訴人矢野及び控訴人朝木が、被控訴人の性的な言動を録画、録音した本件ネット動画のネット公開を……セクハラを禁止する東村山市男女共同参画条例に違反すると誤り考えたことをもって、意見表明の域を逸脱したものということはできない。〉として、名誉毀損の成立を否定したにすぎない。たんに東京高裁が名誉毀損の成立を否定したことのみを説明し、その判断に至った理由に触れないのはきわめてアンフェアである。

 放送が始まって5分が過ぎ、10分が過ぎてもまだ「謝罪放送」はされなかった。このように判決を曲げて矢野と朝木の主張を正当化させようとする「特集」の流れの中で、いったいどんなかたちで「謝罪放送」が行われるのか、この時点で私にはとうてい想像がつかなかった。

 なお東京高裁は矢野と朝木に対して75万円、多摩レイクサイドFMに対して25万円の支払いを命じているが、薄井によれば、計100万円と遅延損害金はこの放送の時点ですでに振り込まれていたという。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その2)
最高裁決定は「判例違反」と主張

 放送の大半を占めたのは、薄井に対して行った「薬事法違反」「職安法違反」(あるいはその「疑惑」=ウェブ版を含む「東村山市民新聞」と多摩レイクサイドFM)とする批判に対して東京高裁が損害賠償と謝罪放送を命じ、最高裁がその判断を追認した点についてだった。まず「薬事法違反」に関する東京高裁の判断について放送は次のように批判した。



(東京高裁は)「薄井さんとクリエイターズ社が表面的にはニュースのかたちをとりながら、実際には姫アグラの販売者から金銭を受け取るなどして姫アグラの宣伝をしていることもあり得ないことではない」として……薄井さんの言動には薬事法違反の疑いがあることを報道したインターネット版を含む「東村山市民新聞」の記事については、第一審の東京地裁立川支部の判断を大きく書き換えてしまったのです。

 第一審は曲がりなりにも最高裁の判例をふまえ、「犯罪の疑いがあるとの事実の摘示をした場合の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪自体の存在を証明する必要はないと解される」との判断を示し、インターネット版を含めた「東村山市民新聞」の記事については、薄井さんが「『マンゾクTV』において姫アグラの紹介をしたことおよび違法ドラッグであることを知りながら紹介をしたことは真実である」として論評の域を出ていないとして名誉毀損は成立しないと判決しました。

 しかし東京高裁加藤新太郎裁判長は、第一審が最高裁の判例をふまえ、「指摘した犯罪の疑いがあるとの事実の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪の存在自体を証明する必要はないと解される」との判断を無視して、「犯罪の疑いの存在であろうが犯罪の存在自体であろうが、姫アグラに関する報道はインターネット版を含めた『東村山市民新聞』の記事およびFM放送について名誉毀損は成立する」としたのです。



 放送は一審が判例をふまえた判断をしたのに対して、東京高裁は最高裁判例を無視したと主張している。これは当然、高裁判決もそれを追認した今回の最高裁決定も誤りだと主張していることになるが、この主張は判決内容を正しく伝えたものといえるのだろうか。

 さらに放送は次のように続けた。



 しかしここできわめて重大な問題は、矢野、朝木両議員は、そもそもインターネット版を含めた「東村山市民新聞」の記事や「多摩レイクサイドFM」の放送の中でも、一度も薄井さんの言動が薬事法違反に当たるとは断定していないのです。矢野、朝木両議員が新聞やラジオの放送の中で指摘しているのは「薄井さんの言動は薬事法違反の疑いがある」、つまり「薬事法違反の疑いがある」と、「犯罪の存在自体」を指摘しているのではなく、「犯罪の疑いの存在」を指摘しているだけなのです。

「薬事法に違反している」と犯罪自体の存在を断定した場合と、「薬事法違反の疑いがある」と犯罪の疑いの存在を指摘したのとでは証明する対象が違ってくることはすでに紹介したとおり、最高裁には昭和41年判決がありますので、違いはないというわけにはいきませんが、この点を東京高裁第22民事部の加藤新太郎裁判長は最高裁判例を無視し、まったく区別しないで、「矢野、朝木両議員は薬事法に違反していると発言した」として判断を下しているのです。



 放送がいうこの昭和41年判決とは「公職候補者に経歴詐称の疑い」とする新聞記事をめぐり、最高裁が「『経歴詐称』の事実の存在そのものの証明がなくても、右報道の時点を基準にして、『経歴詐称』についての合理的な疑いの存在を証明すれば、真実性の証明があったものと解すべき」とした判決である。

 放送は一審が判例をふまえた判断をしたのに対して、東京高裁は「薬事法違反」について「矢野は疑惑があるとしただけで断定していないにもかかわらず、この点を無視して判決したもので、高裁判決は誤りだ」と主張しているものと理解できる。

誤解を誘引する主張

 しかし、昭和41年判決が述べているのは立証対象の問題にすぎない。論評であれ事実の摘示であれ、立証対象を確定させる前提には、裁判所がたとえば当該記事が総合的に何を主張していると認定、判断するかという問題がある。立証対象は裁判所の判断に応じて必然的に変わってこざるを得ない。

 ここまでの放送内容によれば、一審が「犯罪の疑いがあるとの事実の摘示をした場合の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪自体の存在を証明する必要はないと解される」とした最高裁判例を基準とした上で、それを根拠にインターネット版を含めた「東村山市民新聞」の記事について「論評の域を出ていない」と判断して名誉毀損の成立を否定したかのように聞こえる。

 この放送内容を素直に受け取ると誤解を生じよう。一審は「薬事法違反の疑い」を主張したインターネット版を含めた「東村山市民新聞」の記事について「論評としての域を逸脱したものではない」と認定して違法性を否定した。しかし「薬事法違反の疑い」の存在を矢野が立証し、それを裁判所が認めたというわけではないのである。〈原告がマンゾクTVにおいて姫アグラの紹介をしたこと、及び違法ドラッグであることを知りながら紹介をした〉という論評の前提が真実であると認定した結果にすぎない。

 薬事法66条1項は「何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。」と規定し、同法68条は、「何人も、第14条第1項又は第23条の2第1項に規定する医薬品又は医療機器であって、まだ第14条第1項若しくは第19条の2第1項の規定による承認又は第23条の2第1項の規定による認証を受けていないものについて、その名称、製造方法、効能、効果又は性能に関する広告をしてはならないと規定。同法68条にいう「広告」とは「顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確であること」が要件となっている。

「東村山市民新聞」が記載した「薬事法違反の疑い」とする論評の前提である〈原告がマンゾクTVにおいて姫アグラの紹介をしたこと、及び違法ドラッグであることを知りながら紹介をした〉事実を上記薬事法の規定に照らせば、薬事法違反が疑われる要件にはとうてい該当しないことがわかろう。一審は「薬事法違反の疑い」の存在を認めたがゆえに、「薬事法違反の疑い」とする論評の違法性を否定したわけではないのである。

(つづく)
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