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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件 第1回
選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件                      宇留嶋瑞郎

(この記事は松沢呉一さんのブログ「マッツ・ザ・ワールド」に掲載したものを若干修正したものです)

親戚のよしみで請け負った印刷会社

 昨年末、東村山市議、矢野穂積(草の根市民クラブ)が自分の住む団地の管理費を4年間にわたって支払っていないことが明らかになったばかりだが、矢野が難癖をつけて支払いを踏み倒したのはこれが初めてではない。他人との信頼関係をいっさい築こうとせず、それどころか自分たちの意に沿わない者、批判する者に対してはどのような理不尽な言いがかりをつけることも辞さない矢野と朝木直子の本質を知る最もわかりやすい例の1つが、今から12年前に起こした「選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件」である。

 平成7年4月の東村山市議選で当選した直後、千葉県松戸市に偽装転居することで自ら当選を放棄、落選した矢野への議席譲渡を行い、一般人に戻った朝木直子は翌平成8年に予定されている東京都議選への立候補を考えていた。彼らが印刷代金を踏み倒した選挙ポスターとは、この東京都議選用の事前ポスターである(もちろん選挙当時は、堂々と掲示されているポスターをめぐり、そんなトラブルが起きていたとは知るよしもなかった)。

 このポスターの印刷を請け負ったのは東京・練馬区にあるS印刷。S印刷と「草の根」との付き合いが始まったのはその5年前、朝木直子の母親である朝木明代が東村山市議となって4年目の平成2年ごろである。それまで彼らは、彼らの政治宣伝ビラ『東村山市民新聞』の印刷を東村山市内の業者に依頼していたが、明代の実の姉の夫(つまり、明代にとっては義理の兄で、直子からみれば義理の伯父)がS印刷に務めていた関係からビラの印刷を委託することになった。あるいは、彼らのビラを印刷していた東村山市内の印刷所とトラブルを起こしたことがあり、代わりの印刷所を探していたのかもしれない。

 それはともかく、朝木明代はS印刷に勤める義理の兄を通じてこう依頼した。

「これまでの印刷会社では1枚3円でやってもらっているが、なんとか3円より安い値段でやってほしい」

 当時、印刷会社がB4(彼らが発行するビラのサイズ)裏表の印刷物を請け負って利益を出すには、1枚あたり6円かかるという。つまり3円でも利益は出ない。しかし、S印刷は社員の縁故者から儲けても仕方がないと、その社員の顔を立て、つまり社員の親戚のよしみで明代の依頼を引き受けることにした。その金額は1枚あたり2円90銭だった。

 こうして実際にS印刷が矢野のビラの印刷を本格的に行うようになったのは平成4年ごろ。その後、平成7年10月までは、毎月平均4万5000部の印刷代金12~13万円が滞りなく支払われていた。ちなみに、明代が万引きを苦に自殺した平成7年の取引総額は337万9027円。平成7年には市議選があったから、ビラだけでなくポスターの印刷代金など費用がかさんだようだ。

 とりわけ、明代が万引きを働いたこの年の6月、明代は16日に70万6675円(ポスター代金など)、万引き当日の6月19日に15万6078円(ビラ折り込み手数料)、30日には14万5969円(ビラの印刷代金)を振り込んでいる。明代はポスターとビラ関係の費用として6月だけで計100万8722円の支払いをしている計算になる。

 6月の明代の収入は、ボーナスにあたる期末手当92万5500円と通常の議員報酬39万6040円の計132万1540円。このうち明代は21万320円を「返上」しているから実質収入は111万1220円。仮に明代がこのすべてを自分の懐から支払ったとすれば、明代の手元には10万円余しか残らなかったという計算になる(矢野によれば、「東村山市民新聞の発行費用の多くは、代表である朝木明代が個人生計費などを充てていた」という)。明代が東村山市内の洋品店で万引きを働いたのは、銀行で新聞折り込み代金を振り込んだ2時間後である(明代はこの振込の様子が映った防犯カメラの映像を証拠として警察に提出したが、この写真を万引き被害者が確認し、万引き犯の服装と持ち物が一致していると証言。万引き犯が明代であることがあらためて確認された)。

 明代は6月30日に初めて東村山署の取調べを受け、7月12日に窃盗容疑で書類送検されるが、そんな騒ぎがあっても毎月発行されるビラの代金は滞りなく支払われていたのだった。明代にしても、親戚を通じて仕事を依頼したのだし、利益も出ないような値段でやってもらっているのだから、支払いが滞れば姉の顔もつぶすことになるという思いがあったのかもしれなかった。身内に対する自然な気持ちである。

 ところが、同年9月1日に明代が自殺を遂げて以後、矢野、直子とS印刷の関係がにわかにおかしくなる。


(第2回へつづく)


テーマ:裁判 - ジャンル:政治・経済

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選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件 第2回

「ヤクザじゃないから、踏み倒すようなことはしない」

 矢野、直子とS印刷との関係がおかしくなるのは、11月になってS印刷が「今年で『東村山市民新聞』の印刷を終わりにしたい」といってきて以後である。明代が亡くなって、もう利益の出ないような値段で付き合う理由もなくなったということだったのだろうか。あるいは利益とは関係なく、もう付き合わない方がいいと判断したのかは定かではないが、いずれにしても、通常の半額以下で印刷してもらっていた矢野にとっておもしろい話ではない。矢野を知る者からみればなおのこと、簡単に受け入れるような話ではないと思われた。

 ところが矢野はこのとき、意外にもものわかりがよく、S印刷の申し出に対してこう応えた。

「新聞のことはわかったから、ポスターをできるだけ安くやってほしい」

 ポスターとは、平成8年の東京都議選に出馬を予定していた直子の選挙運動用ポスターである。S印刷側は「できるだけ勉強しましょう」と応えた。こうして、矢野とS印刷との間で、平成7年11月発行分のビラ4万8000部(14万4869円=単価2円90銭)とポスター1万枚(68万1860円)の最後の契約が結ばれた。ポスター代金は、通常なら95万5900円になるところを3割近く値引きした値段だった。3割引いてもなお、S印刷は矢野との取引を終える方が得策と考えたのだろうし、矢野とのトラブル回避を優先するのなら、これはきわめて賢明な判断だったろう。

 こうしてS印刷は平成7年11月10日にビラを、同12月11日と18日にポスターを納品。11月21日にビラ代金、12月20日にポスター代金を請求している。ときあたかも、「東村山市民新聞」だけでなく週刊誌、テレビ、ラジオなど、矢野と直子の主張に乗せられたメディアの協力によって「創価学会疑惑」の嵐が吹き荒れていたさなかのことである。
 
 さて、S印刷としては、ポスターを3割近くも値引きし、なにより契約時に矢野も納得していたから、印刷代金を払ってもらえばそれですべての矢野との関係が終わるはずだった。ところが、それまで一度も滞ることのなかった支払いが、今度ばかりはいつまでたっても実行されなかったのである。

 S印刷は平成8年3月から5月にかけて直子に対して郵便で何度も支払いを催促するがなしのつぶてとなり、電話をかけてもいっこうにつながらないという状態になってしまう。平成7年末から平成8年にかけてといえば、確かに矢野と直子にとって明代の「万引きを苦にした自殺」という事実をいかに隠蔽し、すなわちいかに「疑惑報道」を継続させるかにおそらく最もエネルギーを集中させていた時期である。だから、督促がくるまでは「忘れた」という言い訳もできたのかもしれない。しかし、督促状を出したあとになっても何の連絡もないというのは、やはりただごとではなかろう。

 そこでS印刷は同年6月、やむなく明代の親戚の力を借りることにした。直子の義理の伯父と実の伯母が直子の自宅を訪ねて支払いを求めたのである。すると直子は伯父に対してこういったという。

「ポスターは1万枚の契約なのに、請求書では5000枚の金額になっている。あとでもう5000枚分の請求をされたのではたまらない。それに印刷代が高い」

 実は、S印刷は通常よりも3割、30万円近い値引きをしていたから、経理処理上、5000枚分として請求しただけで、それが全請求額の半分ということではなかったのである。その説明をしていなかったことが落ち度といわれればそうかもしれないが、請求書の記載内容に疑問があったというのなら、最初に請求書を受け取った時点で問いただせばそれですんだ話なのである。伯父がそう説明すると、直子はこういった。

「ヤクザじゃないから、踏み倒すようなことはしないですよ」

 確かに矢野も直子も「ヤクザ」ではなく、1人は東村山市議会議員、もう1人は東村山市議と東京都議の立候補者である。しかしその後も、「ヤクザ」ではないはずの矢野と直子から支払いは実行されず、その代わりにS印刷には平成8年8月29日、矢野と直子の連名による次のような内容の「通告書」が届いたのである。

〈昨年9月朝木明代議員が殺害された直後に、貴社は貴社内部の事情であるにもかかわらず、代替策の提示も一切ないまま、突然、一方的に昨年12月で当方との印刷契約を破棄し、東村山市民新聞の発行自体が不可能となる重大な損害を発生させる事態を招きました。
昨年11月末、この件に関し、ポスター印刷等をもって契約解約に伴う当方の損害補てんとする旨、貴殿との間で約定しております。

 貴社関係者Sなる人物から文書等が郵送されておりますが、当方としては、現在においても右補填は十分なものとは考えておりません。なお、貴社から何か補填策につき話し合うことがあるのであれば、これを拒むものではありませんが、右経過から、貴殿以外との話し合いは事態を混乱させるだけであるので、予め通告いたします。〉

 平成7年11月8日、S印刷と矢野、直子が最後の契約を結んだ席では「補填」などという話はいっさい出なかった。それだけでなく、S印刷側から出された取引停止の話に対して、矢野は「新聞のことはわかった」といい、その代わりにポスター代金を勉強するということで納得していたのである。そもそもS印刷はビラの印刷を止めるのに、ポスター代を値引きしなければならない理由はない。これまでの付き合いから、あくまで好意で割引することになったにすぎない。

 ところが矢野は、請求書を送付してから半年以上たって、「ポスター代金の値引き」は補填であり、しかもそれだけでは補填は不十分などと主張していたのである(伯父と伯母が直子の家を直接訪ねた際の直子の言い分ともかなり異なる)。矢野が「通告書」でいう「事態を混乱」とは矢野の一方的な言い分にすぎないようにみえるが、これを受け取ったS印刷の困惑は想像に難くない。

 この通告書の内容を矢野が当初から考えていたのなら、やはり直子同様、請求書が届いた時点でそれなりの意思表示をすべきだろう。それをせず、今頃になってこのような通告書を送りつけるとは、やはりどうみても、いいがかりをつけて印刷代金の踏み倒しにかかっているとしか思えなかった。


(第3回へつづく)

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選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件 第3回

実の伯母をヒステリー扱いした朝木直子

 ポスターを勉強するということでいったんはビラの印刷終了を了承した矢野が、現物を受け取ったまま代金を支払おうとせず、その上、矢野はビラの印刷を終了するにあたって代償をまだよこせという。そもそも、取引関係を解消するにあたり、解消を言い出した側がなんらかの弁済措置を講じなければならないなどという話は聞いたことがない。

 そもそもS印刷は4年間にわたって儲け抜きで(どこまで本当かわからないような内容の)ビラの印刷を引き受けてきたのである。これでは、S印刷は善意をアダで返されたというだけではすまない。明代の頼みを引き受けたかたちの伯父や、実の伯母にしても、まさか身内からこのような仕打ちをうけるとは思ってもみなかったにちがいない。しかし、伯父や伯母が実際に相手にしていたのは身内である明代でも直子でもなく矢野だった。そこにすべての災厄の元凶があった。

 平成8年9月20日にはやはり矢野と直子の連名で同じ内容の内容証明郵便が送付され、さらに同9月27日には同内容の「通告書2」なる文書が立て続けに送付された。矢野のビラ(すなわち矢野そのもの)は特別な存在だから、印刷会社は儲けが出なくても印刷すべきだし、矢野の意思に従わないのなら、相応の誠意を示さなければならないのは当然ということなのだろうか。かつて「このビラには人を誹謗中傷する内容が含まれている」として矢野のビラの折り込みを断った新聞販売店が4度にわたり報復的な訴えを起こされたことを思い出す。

 もはやどうみても、矢野と直子が印刷代金を踏み倒すつもりであることは明らかだった。まともな話し合いの通じる相手ではないと判断したS印刷は平成8年9月、紛争の解決を弁護士に依頼し、直子に対してビラ及びポスターの印刷代金の支払いを求めて武蔵野簡裁に提訴した。

 さて、裁判で直子は、

「東村山市民新聞及びポスターの注文者、受領者はいずれも東村山市民新聞社であり、その代表者は矢野穂積である。朝木直子は発注・契約に関与したことはない。したがって、朝木直子は当事者適格を欠き、請求は失当」

「契約解消の代償として、新聞とポスターの印刷を無償で行うことで合意していた」

 などと主張した。これに対して武蔵野簡裁は平成11年1月、ビラについては直子を責任者と認定せず請求を棄却したものの、ポスターについては直子の主張を認めず、ポスター代金の支払いを命じるとともに仮執行の宣言を行った(ビラに対する請求についてはS印刷側の主張に弱点があったことは否めないが、そのミスを指摘するよりも、裁判所が認定しなければよしとして、なんら省みることのない矢野の特異性にこそ目を向けるべきだろう)。

「東村山市民新聞」の代表者ではないとした点以外の部分について裁判官は直子の主張を退けたわけだが、裁判前に矢野がS印刷に送付した「通告書」同様に、直子の主張には嘘があった。S印刷が親戚の紹介のよしみで利益の出ないような値段でビラの印刷を引き受けた経緯について直子は、

「過去の印刷ミスの損害補填分を考慮して安くしてもらったにすぎない」

 と主張していた。実はこの「過去の印刷ミス」とは、『東村山市民新聞』平成4年3月号でタイトルが脱落したまま印刷したことを指していた。しかし、これはもともと矢野が持ち込んだ版下の段階でタイトルが脱落していたのであり、つまり彼ら自身のミスなのだった(いつも完全版下の状態で持ち込んでいた)。したがって、S印刷がこのことを理由に印刷代金を安くするということはあり得なかったのである。

 それにもまして、直子の身内である伯父夫婦の心労も察するに余りある。裁判では直子が、なにか他人に対する敬意や誠実さが根本的に欠落しているのではないかと思わせる陳述書を提出していた。伯母夫婦が直子の家を訪ねて支払いを促したときの模様について、直子はこう書いていたのである。

〈平成8年頃、Yさん夫婦が夜遅く突然訪れて、伯母さんの方が玄関先で封筒の紙切れを振り回しながら、何か、代金を払っていないなどと、大声で理解できないことを盛んに言い立てて帰りました。……激しやすく感情的になりやすいYさんの伯母さんが一緒だったので、……反論せずに帰しました。〉

 そもそも直子がすんなり支払っていれば、足に障害を持つ伯父がわざわざ夜遅く伯母と連れ立って直子の家を訪ねることもなかったのである。ところが、説得に訪れた実の伯母の姿は、直子の陳述書では「紙切れを振り回し」「大声で理解できないことを言い立て」、「激しやすく」、伯母がいるだけでまともな話し合いにならないような、異常なヒステリーでも起こしているかのように描かれている。礼儀を知らないどころか、どこまでも人をなめた実の姪の本性を知った伯母のショックははかりしれない。

 ポスター代金に対する判決については当然の結果と思うかもしれない。しかし普通の取引相手なら、何の問題もなく支払いが実行され、取引が完了しているところである。この裁判は、提訴から一審判決までに2年以上を要した。次から次へと虚偽の主張を繰り出す直子への反論だけでも、S印刷にとって十分大きな消耗だったというべきだろう。もちろん、相当の弁護士費用も発生するし、人的ロスも大きい。ビラとポスターの代金を取り返せたとしても90万円にも満たない額で、企業の論理からすればとうてい割に合わない裁判である。それでもS印刷は裁判に踏み切った。人情や誠意をここまで踏みにじった矢野と直子に対する怨嗟の情はそこまで大きかったのだろう。


(第4回へつづく)

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選挙ポスター印刷代金踏み倒し事件 第4回(最終回)
                             ★第1回から読みたい人はこちら


差し押さえられた朝木直子の議員報酬

 さて、直子が簡裁の支払命令に素直に従ったかといえば、もちろんそうはいかなかった。直子は東京地裁に控訴。平成11年7月26日、東京地裁は直子の控訴を棄却したが、それでも直子は素直にポスター代金を支払おうとはしなかった。二審で勝てなければ上告しても勝算はきわめて0に近い。しかし、それでも直子は上告したのである。

 S印刷の代理人からは、控訴審の判決が出た時点で支払いがなければ差し押さえに出る可能性もあると聞いていた。はたしてS印刷は上告審の判決を待たずに直子の議員報酬を差し押さえたのか。7月26日に控訴審判決があり、ただちに差し押さえ手続きに入ったとすれば、8月ないし9月分の議員報酬が差し押されられるはずである。そこで同年10月、私は直子に会う機会があったので単刀直入にこう聞いた。

「直子さん、9月の給料は受け取ったんですか?」

 すると、直子はなぜか私の質問にはいっさい答えようとせず、ただ語気も強く「近寄らないで!」とだけいったのである。もちろん直子は質問の意味を理解していたはずである。私の質問はあまりにもいわゆる個人情報、それも都合の悪い部分に踏み込み過ぎた、ぶしつけなものだったのかもしれない。

 しかし後日、すべての裁判資料を閲覧した私は、直子が私の質問に答えなかった意味を理解した。8月26日(8月分の給料日の翌日)、東村山市に対して東京地裁から1通の債権差押命令が届いていたのである。「請求債権目録」には、S印刷が直子にポスター代金を請求した件に関して81万4046万円を差し押さえる旨の記載があった。

 債権差押命令とは、第三債務者(この場合は東村山市)に対して、債務者(朝木直子)に債権(この場合は議員報酬)を支払ってはならないとする命令である。すると、直子の月額の議員報酬は債務額81万4046円には足りないから、9月分全部と10月分の大半の議員報酬が差し押さえられたことになる。直子が私の質問に答えられなかったわけである。

 ちなみに、平成12年2月1日付『東村山市民新聞』には、矢野と直子の平成11年9月から12月までの収支報告が掲載されている。それによると、矢野と直子の議員報酬にはだいぶ開きがあった(矢野の方が多かった)。なぜ矢野と直子には差があるのか。これも本人に聞くのが一番と、私は矢野に聞いた。

「同じ市会議員でも、やっぱり 能力が高いと給料も高いんですか?」

 すると矢野は一言こう答えた。

「そういうこともある」

 と。しかし、市役所に問い合わせると、議員報酬は正副議長を除いて一律であるという。すると、役人か矢野のどちらかが嘘をついていることになるが、それはどちらか。彼らのビラに掲載された金額を見ればその答えは歴然だった。矢野と直子の議員報酬の差額は81万4046円となっており、まさに差押命令にある金額と端数までぴったり一致していたのである。

 なお、直子の議員報酬が差し押さえられた事実については、上告理由書の中で直子自身が認めるところでもある。直子は上告理由書で「不当な請求を受けた末に平成11年8月26日付で差し押さえられた」とした上で、S印刷が差押申請をした理由について次のような珍妙な主張を展開していた。

〈差押は、……殺された朝木明代を継承する議員としての、朝木直子の政治的社会的信用を失墜させることを目的とした政治意図から出たもの〉

〈(朝木直子は)公職にある者であり、本件訴訟で争っているのは、金額の問題ではなく、不当な請求を受けているからであって、金員の支払い能力がないわけではない。〉

 などと。9月13日、東京高裁は直子の上告を棄却したが、なにも直子の社会的政治的信用は差し押さえられたから失墜したのではない。善意から儲けも出ないような値段で印刷を請け負った印刷会社を泣かせ、実の伯父や伯母の好意を平気で裏切った時点ですでに社会的政治的信用は失っている。

 ただし、矢野と直子に根本的に欠けているのはそんな次元の信用ではなく、もっと単純な「人間として誠実に生きようとする」意思であるというべきだろう(「誠意」という言葉に対して矢野と直子のせせら笑う顔が浮かぶが)。裁判を通して明らかになったのは、矢野と直子が難癖をつけて印刷代金を踏み倒したという現実である。直子が伯父にいった「ヤクザじゃないから踏み倒すようなことはしないですよ」というセリフは、そのまま彼らの実態を映すみごとな逆説にほかならない。

(了)


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