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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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『聖教新聞』事件 第22回
追い詰められた矢野

「午後2時12分」の時点で「日替わり」がなくなっていたことが知らされたとしても、「では食べたのはその前だったかもしれない」といい出したのでは、そもそも「アリバイの証拠」の意味がなくなる。しかしかといって、食べたのは『日替わり』だった」と明代の供述を翻した矢野は、時間帯を無視しても「『日替わりランチ』を食べたこと」に執着するほかなかった。というより、「日替わり」が売り切れていたからといって、いかに矢野でも「やっぱりそれも間違いだった」とはもういえない状況にあることは十分に推測できた。

 しかし取調官はすでに、明代から「『びっくりドンキー』に行ったのは銀行振込のあと」であることを念入りに確認している。したがって矢野は、「『日替わりランチ』を食べた」と言い張れば言い張るほど自分の首を締めてしまうという状況に追い込まれていた。

 そこで取調官は、矢野に対して「すでに売り切れている『日替わりランチ』を食べたと主張すると、逆におかしくなるんですよ」と踏み込んだ。「びっくりドンキー」のアリバイ主張が虚偽だと自白しているようなものだということである。

矢野得意の論理のすり替え

 普通の人間なら、この時点で抵抗を諦めるだろう。しかし、この程度で簡単に口を割るようなら、最初から矢野はアリバイ工作などしなかっただろう。「『日替わりランチ』を食べたと主張すると、逆におかしくなる」といわれた矢野は、今度は「それだけで、(アリバイが)あるとかないとかなんないよ」といい始めたのである。

 一般に、レシートを間違えたぐらいでアリバイがないと断定するのは難しいというのは事実だろう。しかし矢野と明代のケースはたんにレシートを間違えたというようなものではない。

 当初、明代が主張した「レギュラーランチ」が否定されたため、矢野は「日替わりランチ」だったと主張を変えた。千葉によれば、10月7日に行われた東村山署における事情聴取より前に矢野と明代が東京地検に提出した上申書には、「『びっくりドンキー』で午後2時20分過ぎから午後3時20分過ぎまで食事をし、2人とも食べたのは『日替わりランチ』だった」「『日替わりランチ』にはハンバーグにカキフライが付いていた」(いずれも趣旨)と記載している。

 つまり矢野と明代は、万引き事件発生の時間帯にはアリバイがあるとし、その「証拠」として「『日替わりランチ』を食べていた」と主張したのであって、それ以外に「アリバイ」の根拠は主張していない。したがって万引きの時間帯に「日替わり」がないことが明らかになれば、アリバイがないと判断されるのは当然である。そういわれたとたん「それだけではアリバイの有無は判断できない」といい始めるのは、まさに矢野が得意とする論理のすり替えにほかならない。

突きつけられたリスト

 東村山署は万引きの時間帯に矢野と朝木が「びっくりドンキー」で食事をしていたかどうか、明代の供述に基づき座席の位置、食事内容などについて裏付け捜査を行っている。その結果、その時間帯に食事をしていたのは女性の2人連れだったことが判明していた。

 したがって東村山署はメニュー以外にも矢野と明代が「びっくりドンキー」にはいなかったことを裏付ける事実を把握していたのであり、けっして矢野が存在しない「日替わり」を「食べた」と主張していることのみを理由に彼らのアリバイを否定したわけではない。またいうまでもなく万引き被害者は、犯人は朝木明代であると明言している。

 そんな中で、すでに売り切れている「日替わりランチ」を食べたと主張することは、アリバイ主張が虚偽であることを認めるようなものである。「それだけで、(アリバイが)あるとかないとかなんないよ」と話をそらそうとする矢野に取調官はいった。

取調官  うんだから、むしろこれ(筆者注=「『日替わりランチ』を食べたとする主張」)なかった方が良かったんだよね。

 しかしそれでもなお矢野は、万引き当日「びっくりドンキー」に行き、「日替わりランチ」を食べたとする主張だけは引っ込めなかった。万引きの時間帯に「日替わり」がないとすれば、それより前の時間帯しかない。そこで矢野は再び「銀行に立ち寄った午後2時12分より前を調べないと」といい始める。そのやりとりをみよう。



矢野  だから、確かにあそこ(「びっくりドンキー」)へ行った記憶は、どう、だったらこの前にあるの?

取調官  ……いやわからない、だからわからないから……。

矢野  それだったら、こっちを調べないと。

取調官  どっちを?

矢野  2時12分より前の、この「日替わり」の2組を。



 千葉によれば、取調官はこの事情聴取の際、矢野に対して平成7年6月19日の「びっくりドンキー」の注文リストを示し、矢野が主張する時間帯に「日替わりランチ」が売り切れていたことを説明したという。矢野が裁判所に提出した事情聴取記録には記載されていないものの、上記のやりとりにある「この前」や「こっち」という矢野の発言をみると、取調官がこのあたりで注文リストを示していたのではないかと推測できた。

 しかも、矢野の「2時12分より前の」という発言からすると、矢野は「2時12分」よりあとの時間帯には「日替わりランチ」を注文した客がいないことを確認したものと理解できた。リストを見せられた矢野は、取調官の説明になんらの抵抗もすることなく、食事をしたとする当初の時間帯をあっさり放棄してしまったということである。

 食事をしたとする時間帯は東京地検に提出した上申書でも同じ主張をしている。それを簡単に放棄したこと自体、矢野のアリバイ主張には最初からなんら事実の裏付けなどなかったことを示していた。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第23回
注文し直していた客

 取調官からアリバイを主張する時間帯に「日替わりランチ」が売り切れであることを知らされるまで、矢野は東京地検に提出した上申書と同様に、明代が「午後2時12分」に銀行振込をした後の「午後2時30分前後に「びっくりドンキー」に着き、万引きの時間帯は明代と食事をしていたと主張していた。矢野の主張が事実とすれば、「日替わりランチ」が「午後2時30分前後」に注文された記録のある注文伝票と、それに対応する「午後3時20分前後」に清算された記録のあるレシートが存在しなければならない。

 明代が最初に提出した「レギュラーランチ」のレシートの清算時刻は「午後3時21分」で、清算時刻については辻褄が合っていた。しかし明代が撤回に追い込まれたそのレシートの客が最初に注文した時刻は「午後1時29分」だったから、この点からも明代が最初に提出したレシートは矢野と朝木のアリバイ主張とは大きく食い違っていた。

 矢野と朝木は、8月1日に店長から清算記録のリストを見せられて「レギュラーランチ」のレシートを選んだが、注文伝票までは確認していなかった(注文伝票の存在さえ知らなかったかもしれない)。このため矢野は、このレシートのメニューが注文されたのが銀行振込よりも1時間も前であることを知らなかったのである。

「メニューは『レギュラー』ではなく『日替わりランチ』だった」とする矢野の主張が嘘ではないと実証されるためには、少なくとも「午後2時12分」以降に「日替わりランチ」を注文し、「午後3時30分前後」に清算した2人連れの記録が存在しなければならなかった。しかし、最初に「レジ記録リスト」を見て、その中から最もアリバイ主張にふさわしいものとして「レギュラーランチ」を選んだ矢野が、次善の記録として「日替わりランチ」があると確認していたとは思えない。

 取り調べで「『日替わりランチ』が売り切れているはずはない」と強弁する矢野に対し取調官は、万引きの時間帯である「午後3時21分」に清算された「レギュラーランチ」の2人組の客が注文したのは「午後1時32分」だったことをリストによって説明したのだろう。その客のうちの1人は先に着席し「午後1時29分」に「日替わりランチ」を注文したが、すでに売り切れていたためにこれをキャンセルし、「午後1時32分」にあらためて「レギュラー」を注文し直しているのである。

「日替わりランチ」は「午後1時29分」に売り切れていたということだった。「午後2時12分」以降に行き、万引きの時間帯に「食事をしていた」と主張する矢野と明代が「日替わりランチ」を注文できるはずがないことは明らかである。これほど説得力のある資料はあるまい。

 だから矢野は当初の万引きの時間帯に「『日替わり』を食べた」とする主張を放棄し、銀行振込(「午後2時12分」)よりも前の時間帯を「調べないと」と主張を再び翻したのである。最初から確信などあるはずのない矢野の狼狽ぶりがうかがえた。

いなかったそれらしい客

 矢野が店長から「レジ記録リスト」を見せられた際、「レギュラーランチ」のほかにアリバイを証明できる記録として「日替わりランチ」もあると確認していたとすれば、取調官から「『日替わり』は売り切れている」といわれたとしても、すぐにアリバイの時間帯を放棄するはずはない。東村山署の捜査によれば、アリバイの時間帯に「日替わりランチ」を食べた客がいなかっただけでなく、仮にメニューを特定せずに、矢野が座ったと主張する席と時間帯(午後2時30分前後~午後3時20分前後)の面だけから検討しても、それらしい客が存在したことを認めることはできなかったのである。

 千葉によれば、矢野は上申書で席の位置について「右手のずっと奥」で、「ビールは飲んでいない」と説明したという。また矢野と明代は「レギュラーランチ」から「日替わりランチ」へとメニューを変遷させたものの、2人が頼んだとするメニューは同じものだった。東村山署はこれらの矢野と明代の主張に基づき、店内見取図、注文伝票とレシートの調査を行った。

 東村山署の調査によれば、「2人連れ」で「午後2時30分前後に注文し、午後3時20分前後に清算された記録」に最も近いのは、「午後2時47分に注文し、午後3時23分に清算した2組」と、「午後2時32分に注文し、午後3時3分に清算した1組」の計3組だけだった。しかしこの3組はいずれも、それぞれが別のメニューで、矢野が主張する条件とは大きく離れていたのである。

 ちなみに「日替わりランチ」を最後に注文したのは「午後1時29分」に注文し、それから3分後の「午後1時32分」に取り消した客、すなわち明代が最初にアリバイの証拠として提出した「レギュラーランチ」の2人連れだった。それ以後に「日替わりランチ」を注文した客の記録はなかった。

自分を守ろうとした矢野

 矢野は「日替わりランチ」が「午後2時12分」より前に売り切れていることを知らされると、「それだったら、こっちを調べないと。2時12分より前の、この『日替わり』の2組を」(=前回参照)と、なおも「『びっくりドンキー』に行った」と強弁しようとした。「午後2時12分」より前に清算した記録では、「午後3時過ぎ」に起きた万引き事件のアリバイにはならない。

 すでに矢野は、明代のアリバイを立証するためではなく、自分が作り出した「『びっくりドンキー』での食事」という架空の物語の「真実性」を守るために、さらに新たな架空の事実を積み重ねようとしているように思えた。自分自身を守ろうとしていた、といってもいいのではあるまいか。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第24回
自分を見失った矢野

 東村山署における取り調べで矢野は、矢野が明代とともに食べたとする「日替わりランチ」が万引き事件の時間帯にはとっくに売り切れていて、彼らが食べることは不可能だった事実をリストによって突き付けられた。千葉によれば、このリストとは「びっくりドンキー」から提供された資料(「注文伝票」と「レシート」)に基づき東村山署が作成した注文と清算を一覧表にしたものである。取調官はリストを示し、「『日替わりランチ』を食べたとする主張は虚偽ですよ」といっているに等しかった。

 ところがこれに対して矢野は、今度は万引きの時間帯を無視して、「『日替わりランチ』を食べたのは間違いない」と本末転倒の主張を始めたのだった。すでに矢野の主張は明代のアリバイを主張しようとするものではなくなっていた。完全に自分を見失っている状態であるようにみえる。

 では、アリバイの意味はまったくなくなっているが、矢野が固執するように「午後2時12分より前」なら「日替わりランチ」を食べた2人連れの客はいたのだろうか。

「午後2時12分より前」でさえ、すでに当初主張した清算時刻よりも1時間も早まっている。矢野は「『午後2時12分より前』を調べないと」という。しかし、「午後2時12分より前」といっても際限なく遡るというわけにはいかないことは矢野も認めよう。なぜなら、矢野も明代も午前中は東村山市議会が開会中だったために東村山市役所内にいたと証言しているからである。

自ら狭めた時間帯

 彼らの供述によれば、当日の2人の昼間での行動は以下のとおりだった。



矢野……午前10時20分過ぎから総務委員会に出席。同委員会は12時過ぎに終了。矢野は途中退席せず、ずっと委員会に出席していた。12時30分ころ、明代と一緒に議員控室に戻った。その後2人で一般質問の準備などを行った。

明代……午前10時15分から始まった建設水道委員会に出席。同委員会は1時間足らずで終了したため、総務委員会を最後まで傍聴した。12時30分ころ、矢野と一緒に議員控室に戻り、2人で一般質問の準備などを行った。



 これまでの説明では、その後に昼食をとろうと一緒に控室を出て、明代は途中銀行に立ち寄り「午後2時12分」に振込をした。矢野が出席した総務委員会の終了時刻と明代が振込をした時刻は客観的な裏付けがあるから、この2つは彼ら自身が提出した証拠と供述から事実と認められるだろう。すると、仮に矢野と明代が「午後2時12分」より前に「びっくりドンキー」に行った事実があったとしても、どんなに早くても午後1時より前に行くのは困難であると推測できよう。

相次いで取り消していた2組

 では、午後1時から「午後2時12分」の間に「日替わりランチ」を注文し、「日替わりランチ」を食べて清算した2人連れの客はあったのか(「日替わりランチ」を注文すれば当然、その代金を清算するだろうといわれるかもしれないが、最初の注文をキャンセルすることもあり得る)。取り調べで矢野は「こっちを調べないと。2時12分より前の、この『日替わり』の2組を」と発言している(=第22回参照)。矢野の言い方をみると、矢野は取調官が示したリストを指してこういっていることがうかがえた。

 矢野の発言によると、「午後2時12分」より前に「日替わりランチ」を注文し、清算した客は2組あったようである。もちろんその日に「日替わり」を注文した客がたった2組であるはずがないから、矢野がここでいう「2組」とはあくまで矢野と明代の行動を振り返る中で入店できた可能性のある時間帯における「2組」ということと理解できよう。

 千葉によれば、「午後2時12分」より前でかつ午後1時以降に「日替わりランチ」を注文した客(「日替わり」を食べたとは限らない)は3組あった。そのうちの1組は、のちに「レギュラーランチ」に変更し、明代が「アリバイの証拠」として提出したレシートの2人連れで、清算したのも午後3時21分だから、ここでの検討対象からは除かれる。したがって、確かに矢野が主張する時間帯に「日替わりランチ」を注文し、清算をすませた客は2組だったことになる。

 では、この2組のうちの1組が矢野と明代だった可能性を考慮する余地があったのだろうか。千葉によれば、1組は4人で来店しており、「日替わり」を注文したものの取り消して最終的に「レギュラー」を注文している。人数からしても矢野と明代でないことは明らかだった。

 残る1組はどうか。この客は2人連れで午後1時ちょうどに「日替わり」を注文し、午後2時前に清算していた。しかしこの2人連れもまた、最初に注文した「日替わり」を取り消し、別のメニューに変更していたのである。

 だから取調官は、「『2時12分』より前の客を調べないと」という矢野の要求に対してこう答えている。

取調官  うん、2時12分より前にはあるんだけど、それはもう12時台なの。……売り切れたのが、12時台。

 千葉によれば、「午後1時00分」に「日替わり」を注文した2人連れの客は、それを取り消して別のメニューを注文している。それ以後、「日替わり」を注文してキャンセルした客はいても、食べた客は存在しない。このリストによっては午後1時以前に「日替わりランチ」が売り切れたかどうかまでは判別できないものの、少なくとも午後1時以後に「日替わりランチ」を食べた客がいないのは事実なのだった。

 矢野の供述内容を検討するにあたって最も重要なのは、「日替わりランチ」が12時台に売り切れていたかどうかではなく、矢野が主張する時間帯に「日替わりランチ」が注文され、それを実際に食べた客がいたのかどうかである。東村山署は「びっくりドンキー」に対する事情聴取によって、この日、「日替わりランチ」が12時台で売り切れた事実を把握していたし、リストの記録は店側の説明に矛盾しない(午後1時すぎに「日替わり」を注文した2組の客が相次いでキャンセルするというのも、「売り切れ」以外には想定しにくい)。どちらにしてもその記録は、矢野と明代が「日替わり」を食べていない事実を示していた。

「12時台には売り切れていた」と取調官から事実を聞かされた矢野は、それでも「『日替わり』を食べた」とする主張を引っ込めなかった。矢野はこうとぼけたのである。

矢野  そんな早く行ったのかなあ。

 矢野のいう「そんなに早く」とは、遅くとも12時台ということである。「2時12より前」からさらに入店時刻が早まったことになる。

 矢野が本当に明代とともに「びっくりドンキー」で「日替わりランチ」を食べた事実があるのなら、これほど簡単に時系列を撤回するはずがない。矢野自身の供述によれば、矢野は「12時30分ころ、明代と一緒に議員控室に戻った。その後2人で一般質問の準備などを行った。」と何度も供述している。その矢野が、「そんな早く」行けるはずがないのは明らかだった。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第25回
変遷の可能性を予測

 矢野は取調官からリストを示された上で12時台にはもう『日替わりランチ』が売り切れていた事実を突きつけられた。ここまで事実を突きつけられれば、通常の人間ならそれまでの供述が虚偽だったことを素直に認めるのではあるまいか。ところが矢野はそうではなかった。今度は「そんなに早く(12時台に)行ったのかなあ」などと、当日の時系列としてはほぼ不可能な時間帯まで口走った。

 しかし、取調官もまた矢野が簡単に非を認めないことは予測の範囲だったのだろう。取調官は矢野の反応に驚くこともなく、重ねて事実を淡々と示した。

「だからそれは、普通はあり得ないと思ったんで、念押して聞いたの」

 取調官が「念押して聞いた」内容とは「本当に『日替わり』を食べたのか」ということである。明代が銀行で振込をした「午後2時12分」の時点で売り切れていたと聞かされても、矢野は「『日替わり』を食べた」とする主張が間違いだったとはけっして認めなかった。明代が最初に主張した「レギュラー」が間違いで、さらに「日替わり」も間違いだったということになれば、さすがに信用性の点でまずいということだけは矢野にはわかっていた。

 だから、「売り切れ」といわれるたびに矢野は次々に時間帯を早めた。しかし最終的に、「午後2時12分」より前の2組もまた「日替わり」をキャンセルしていたことをリストによって示されたのである。ここまで確かな事実を提示されたのでは、いかに矢野でも具体的な根拠を示さないかぎり反論は難しかろう。どうみても、「日替わり」の注文時刻と清算時刻の詳細を確認していなかった矢野の完敗だった。

開き直った矢野

 矢野はそのことをようやく悟ったらしかった。通常、ここまで主張してきたアリバイ主張(時間帯に関して)を放棄するということは、アリバイがないこと、すなわち明代が万引き現場にいたことを認めるか、あるいはそのことを否定できないことを認めるということと理解されるところである。しかし矢野にはそのような道理は通用しないようだった。

 矢野はアリバイ主張が否定されると、またしても「万引きの時間帯は明代と行動をともにしており、事務所にはいなかった」と論理的に成立し得ないアリバイを主張したのだった。それだけではなかった。矢野はさらに「『びっくりドンキー』のアリバイ」が立証できなかったことについて、取調官に対して次のように開き直ったのである。いいがかり、あるいは最近の言葉でいえば「逆ギレ」といってもよかろう。矢野は取調官に対してこういった。

矢野  それがアリバイ工作だってわけ?

 当時、明代のアリバイ主張が崩れたことについて、副署長の千葉がマスコミに向かって「アリバイ工作」という言葉を使ったことはない。「矢野と明代が主張するアリバイは信用できない」と述べただけである。ただマスコミは千葉の説明から、「矢野と明代はアリバイ工作を企んだ」と理解した。千葉は『聖教裁判』の尋問で、マスコミがそう書いたことについて特段に問題視する考えはないと供述し、その後の裁判では2人がアリバイ工作をしたものと断定している。

 マスコミの理解に間違いはなかった。そもそも矢野と明代がありもしない「アリバイ」を主張し、「証拠」なるものを提出しなければ「アリバイ工作をした」といわれることもなかったのである。

アリバイ主張を放棄した矢野

 取調官は開き直る矢野に対して、やんわりと諭すようにこういった。

取調官  ここ(「日替わり」を食べたとするアリバイ)を主張するんであれば、違いますよっていったの、アリバイが……。

「万引きの時間帯には『びっくりドンキー』で食事をしていた」とする主張が明代のアリバイを主張するものであることは誰がどうみても否定することは不可能である。現実的な経過を確認すれば、明代と矢野が一貫してアリバイを否定してきたことはより明らかだった。

 東村山署が明代に対する最初の取り調べを行った日の夕方、矢野は東村山署に電話し、万引きの時間帯には明代と自分は「びっくりドンキー」にいたと主張した。念のために付け加えれば、この主張は矢野が自ら率先して述べたもので、東村山署の側からそう聞いたわけではない。矢野が「びっくりドンキー」のアリバイを主張したがゆえに、取調官は矢野に対して「証拠か何か出してほしい」と伝えたのである。

 千葉によれば、明代は取調官からこういわれたため、「びっくりドンキー」に電話をかけ、〈「6月19日の午後2時から4時の間で『日替わりランチ』と飲み物を注文した2人組のレジ記録票をさがしてほしい」と依頼しました〉と上申書に記載している。なお、東村山署の捜査によって上申書に記載されたこの電話の内容は事実ではないことが明らかになっている。明代は「『レギュラー』ですか『日替わり』ですか」と聞かれ、「たぶん『レギュラー』」と曖昧に答えていた。

 明代が電話で「午後2時から4時の間で」と時間帯を明確に区切っていた点からも、明代がアリバイの証拠としてレシートの再発行を求めていたことは明らかだった。ところが、取調官から「『日替わり』を食べたとしてアリバイを主張するのなら、そのアリバイは成立しない」といわれた矢野は、ついにこんな言葉を口走った。

矢野  そんな話までしてないよ。

「万引きの時間帯には明代は自分と『びっくりドンキー』で『日替わりランチ』を食べていた」という主張が、しまいには「アリバイを主張するものでない」と矢野はいい出したのである。確かに「2時12分より前」に「日替わり」を食べたという主張はアリバイとは関係がない。しかしそれも、当初の「万引きの時間帯には『日替わりランチ』を食べていた」という主張が成立しない事実を突きつけられたために、アリバイとは無関係の時間帯にまで変遷してしまったにすぎない。

 いずれにしても矢野の上記の供述は、「『日替わりランチ』を食べた」とする主張は「アリバイを主張するものではない」とするもので、反論できなくなった矢野の言い逃れにほかならない。しかしこの言い逃れは、矢野がもう2度と「『日替わりランチ』を食べていたから万引き犯は明代ではない」という主張ができなくなることを意味した。矢野はこの言い逃れによって、明代が2回目の取り調べから繰り返してきたアリバイ主張のすべてを放棄したものと評価できよう。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第26回
必死の論理のすり替え

 東村山署における取り調べで矢野と明代が「日替わりランチ」を食べた可能性がなかったことを示す資料を突きつけられた矢野はついに、それまで「レギュラーランチ」から「日替わり」へと変遷したアリバイ主張を放棄した。事実上、「びっくりドンキー」のアリバイがなかったことを認めたに等しい。

 通常、それまで頑強に主張していたアリバイが完膚なきまでに崩され撤回に追い込まれれば、罪そのものに対する否認の主張もあきらめるところである。しかし矢野は、「日替わりランチ」のアリバイ主張を撤回しても、明代の万引きを認めたわけではなかった。

 矢野は今度は、別のかたちで「アリバイ」を主張しようとした。矢野は取調官に対して「そんな話(アリバイ主張)までしてないよ」と開き直ったあと、こう反論したのである。

矢野  だから私がいってんのは、この12、2時12分より前であっても後ろであっても、こちらが……あそこ(万引き現場)に行ったっていう証拠はないんじゃないよ。なんであるの。

 劣勢を意識した際に矢野が常用する論理のすり替えにすぎず、筋の通った反論とはいえない。むしろ矢野が「びっくりドンキー」のアリバイを主張できなくなった状況に追い込まれたことを歴然と物語っていよう。そこで取調官はこうダメを押した。

取調官  逆にいうと、ここ(「びっくりドンキー」)にいたってこともないわけでしょ、この時間帯。

 取調官はこの取り調べで初めて単刀直入に「これまであなた方が主張してきた『びっくりドンキー』のアリバイは嘘ですね」と迫ったのである。すると、アリバイの逃げ場を失った矢野は思わずこう応えた。

矢野  だからこの時間、たとえばね、3時15分にここにいなくても……3時15分にあそこ(万引き現場)にいたという証拠もないでしょ。

 ここでも矢野は取調官の追及をはぐらかした。ただ、「万引きの時間帯には『びっくりドンキー』で食事をしていた」と主張していた者が、「たとえば」にしても「『びっくりドンキー』にいない」という前提で犯行を否定したことには違和感がぬぐえない。

 こういう仮定をしたこと自体が、矢野が「びっくりドンキー」のアリバイがないことを認めざるを得ない状況に追い込まれたことを示していよう。しかしそれでもなお、「あそこにいたという証拠もないでしょ」と論理をすり替え、反論を試みようとしたところは、けっして自らの非を認めない矢野の特異性をあらためて痛感させられる。

独自の思考回路

 矢野はここで明代が万引き現場にいたことについて(犯人だから当然)、「目撃証言以外に客観的な証拠がないではないか」と主張していることがわかる。防犯カメラの映像や犯行時の写真がないことは確かである。そのことを取調官はあえて否定しなかった。すると、矢野はかさにかかってこう主張した。

矢野  (「日替わりランチ」が売り切れたのが)この2時12分より前であってもね、その後、たとえばあの、3時15分に(犯行時刻)、ええ、朝木さんがあそこにいるっていうことがないと、証拠になんないよ、そんなの。

 取調官が明代の犯行を裏付けるものは目撃者や被害者の証言しかないことを認めると矢野はさらに勢いづいた。

矢野  目撃者だって知り合いじゃない、○○(筆者注=万引き被害者)の。それをね、わざとこの話(筆者注=「びっくりドンキー」のアリバイの話)をしたのに、……私を1回も呼ばなかったでしょう。……今、後なのか前なのかっていう話(筆者注=2時12分より)になれば、それはあの、後だったらどういうふうになるかなあ、と。記憶の問題なんだから、10日も過ぎてからだから。

 証言以外に朝木明代が万引き犯であるという証拠がないという話から、矢野はまた「アリバイ」の話に戻り、自分を呼んでおけば、「正確なアリバイ」が思い出せたかのように主張している。千葉によれば、矢野と明代は東京地検に提出した上申書で「万引きの時間帯は『びっくりドンキー』で『日替わりランチ』を食べていた」と明確に記載している。この「記憶」は入念に思い出したものではなかったのか。

 それが否定されるや、今度は明代の最初の取り調べまでさかのぼり、「『10日も過ぎてからだから』正しい記憶を思い出せなかった」というのだが、いまさらこんな言い分は通るまい。しかしそれでも取調官は矢野に反論しなかった。すると矢野はこうまくし立てた。

矢野  私はあの、ドンキーに行った記憶ははっきりあるからね、「日替わり」を食べたって記憶もあるから、それでいっただけの話ですよ。ただ、2時12分より後だったんじゃないかって記憶あるわけ。ただ、それは違ってるとなるとそれはちょっと、こちら、もう1回思い出さなきゃいけない。

 リストで午後1時台にも「日替わり」を食べた客がいないことを確認したはずの矢野は再び「もう1回思い出す」というのである。なにか、いつの間にか、取調官が注文・清算リストを目の前で示し、「日替わりランチ」が12時台で売り切れていた事実を突きつける前の状況に話が逆戻りしてしまっていた。独自の思考回路というほかなかった。

(つづく)
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