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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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現在の“東村山の闇”の原点である議席譲渡事件と女性市議転落死事故についてのルポルタージュ。今は絶版となっていて書店では買えないが、手元に在庫があるので、希望の方はこちらにメールしてください。書籍代+送料でお分けいたします。

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『聖教新聞』事件 第35回
矢野が主張する「スーツ」の色

 矢野が服装の点から明代の万引きを否定するには、被害者の証言する「グリーングレー」が事実と異なることを証明しなければならない。被害者が証言する「グリーングレー」は「緑がかった色」で「薄い色」で、モノクロである銀行の静止画像では白っぽく映る。したがって矢野は、野田が提供した目撃者の証言なら明代と万引き犯との同一性を否定できたとしても、被害者の証言が明代の当日の服装とは異なることを立証しなければ明代の万引きを否定することはできない。

 そのためか、「被害者が見た万引き犯の服と明代の服の色」について矢野は、陳述書で次のように主張していた。

〈店主が……主張している「白灰色っぽい、薄い緑色」という犯人の服装も、当日の朝木議員のスーツの色とは違っており、……チャイナカラーのブラウスなども着ておりません。当日朝木議員が着用していたスーツは、遺族が保管していて、洋品店主の主張する「白灰色っぽい、薄い緑色」ではないからです。〉
 
 そのスーツの色とはベージュだった。矢野と朝木の主張によれば、彼らは〈検察官から(明代の銀行振込の際の静止画像を)合計2度にわたって〉見せられ、その色合いと形状を記憶して帰った(筆者注=もちろん画像は白黒だから、「色」といっても白黒の濃淡によって推測する以外にない)。その記憶に基づいて保管しているスーツを探したところ、静止画像と特徴がぴったり一致するスーツを発見したのだという。そのスーツの色はベージュで、上着の裾に紐が通っていて裾を絞れるようになっているという特徴があると、矢野は主張していた。

 確かに明代は矢野がいうスーツを以前にも着ていたことがあるから、それが明代のものであることは確かなようだった。しかし、「裾を絞れるようになっている」というような際立った特徴のあるスーツを着ていたと矢野がいうにもかかわらず、明代はなぜそのことを思い出さなかったのだろう。

「パンツスーツを着た万引き犯」

 万引き被害者が犯人の服装について「グリーングレーのパンツスーツ」だったと証言していることを明代が知らなかったわけではない。それどころか明代は、『週刊新潮』の記者から目撃者が「(犯人は)グレーっぽいパンツスーツ」だったと証言していることを知らされ、こうコメントしている。

「当日の服装は覚えていませんが、私はグレーのパンツスーツなんて持っていませんよ」

 遅くとも平成7年8月の上旬に明代は目撃者が「犯人の服装はグレーっぽいパンツスーツ」と証言していることを知った。その上で明代は「グレーのパンツスーツなんて持っていない」と答えていた。明代は「グレー」は否定したものの、「パンツスーツ」までは否定しなかった。

 目撃者の証言する万引き犯の服装がパンツスーツだったことと、明代の当日の服装がパンツスーツだったことは、被害者や犯人を「市議だ」と証言した目撃者の存在などを総合すれば決して偶然の一致では片づけられない。明代が「パンツスーツ」を否定しなかったことは重要である。明代は「グレーのパンツスーツなんて持っていない」というのなら、何色のパンツスーツを持っていたのかを明らかにすべきだろう。

 明代が潔白だとすれば、少なくとも当日何を着ていたのか思い出そうとしただろう。自ら「グレーではない」パンツスーツと限定しているのだから、探し出すのにそれほどの困難があるとも思えない。しかし明代が万引き事件当日、どのパンツスーツを着ていたのか思い出そうとした形跡はうかがえず、明代の口から事件当日のパンツスーツの色が明らかにされることもなかった。

 なぜなのか。仮に警察に対して別のパンツスーツを着ていたと主張するのなら、それを証拠として提出すればよかろう。銀行振込の静止画像と照合すれば、それが本当に当日の服装かどうかすぐに明らかになる。

 またそれが、矢野があとになって主張するパンツスーツなら、とりわけ裾を絞れるようになっている際立った特徴があるから、静止画像と整合するかどうかはより明らかだろう。しかし明代は、自分が着ていたパンツスーツを特定もしなかったし、証拠提出もしなかった。「出せなかった」とみるのが自然ではあるまいか。あるいは、東村山署でアリバイを崩されたことのショックがあまりにも大きかったのだろうか。

矢野が思い出した不思議

 明代は『週刊新潮』から聞かれても事件当日の服装を明らかにしなかった。しかし、被害者の「グリーングレーのパンツスーツ」という証言は一貫して変わらない。したがって矢野あるいは明代が「ベージュのパンツスーツだった」と思い出して、それが事実であることが証明されれば、明代は万引き犯でないことが裏付けられたはずである。

 仮に矢野の主張するパンツスーツが明代が当日着ていたものだとすれば、矢野はなぜ東京地検の呼び出し前に明代と一緒にどのパンツスーツを着ていたかを思い出そうとしなかったのか、または思い出せなかったのか。

 矢野と朝木直子は「東京地検で静止画像を見せられたので着ていたスーツが判明した」という。しかし明代は『週刊新潮』に対して「グレーのパンツスーツなんて持っていない」と答えながら、着ていたパンツスーツを思い出そうとしなかった。彼らの主張からは、『週刊新潮』の取材後に明代が当日のパンツスーツについて調査した形跡はまったくうかがえない。

 にもかかわらず矢野は、事件から2年もあとになって、被害者が見た万引き犯の服装は当日の明代の服装ではないと主張したのみならず、明代が着ていたパンツスーツの色とその特徴まで特定できたというのである。むしろ、このこと自体が不自然なのではあるまいか。

 明代本人が思い出せなかったものを矢野が思い出したとは、やはり普通に考えて違和感をぬぐえない。東村山署から虚偽であると見破られた虚偽のアリバイもそうだった。「万引きの時間帯はレストランで食事をしていた」という「アリバイ」を最初に「思い出した」のも、明代ではなく矢野だった。その「アリバイ」は虚偽であることが判明し、明代は書類送検されることになった。

 明代本人が思い出そうとすれば十分な時間的猶予があったにもかかわらず本人が「思い出せず」、「思い出した」のは当の本人ではなく矢野だったという点で、アリバイ工作の経過と酷似していた。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第36回
「静止画像」の提出を求めた矢野

 目撃者が万引き犯の服装について「グレーのパンツスーツ」と証言していることを知らされた明代はその後、自分が着ていたパンツスーツの色を明らかにしなかった。ところが、矢野が2年もあとになって「明代が着ていたのはベージュのパンツスーツだった」と主張しはじめるとはきわめて不自然に思えた。その不自然さを超えて矢野が裁判所や捜査機関を納得させるには、目に見える確かな証拠を示すしかない。

 最も説得力があると思われるのは万引き当日の明代の画像が映っている銀行振込の際の画像を法廷に提出することだが、事件から4年もたっていては(『聖教新聞』裁判で矢野が陳述書を提出した時点=平成11年5月31日付)もう画像自体が残っていない。では矢野はどうしようとしたのか。

 その前提として矢野は、万引き事件当日の明代の服装について陳述書でこう主張していた。



(「矢野が作成した静止画像と実際の服装との同一性」に関する矢野の主張)

(東京地検で見せられた静止画像には)当日の朝木議員の着ていた服装の特徴がよくうつっていました。……店主が……苦し紛れに主張している「白灰色っぽい、薄い緑色」という犯人の服装も、当日の朝木議員のスーツの色とは違っており、……朝木議員は、当日、チャイナカラーのブラウスなども着ておりません。

 なぜならば、当日朝木議員が着用していたスーツは、遺族が保管していて、洋品店主の主張する「白灰色っぽい、薄い緑色」ではないからです。この保管されているスーツは、拓銀の防犯ビデオから再生された写真に写ったスーツの特徴、すなわちスーツの上着には男性の背広のような襟に当たる部分がなく、スーツの裾に紐が通っていて裾を絞れる形状になっているという特徴が、完全に一致しているから、同一のスーツであることがわかるのです。



 矢野はこう主張した上で、裁判所に対して東村山署が明代を書類送検した際に資料として添付した静止画像の提出を命じるよう求めていた。裁判所が警視庁に静止画像の提出を命じ、法廷に提出されれば、そこに映ったパンツスーツが「スーツの上着には男性の背広のような襟に当たる部分がなく、スーツの裾に紐が通っていて裾を絞れる形状になっている」ものであることが確認されるだろう――矢野はこう主張したいようだった。

矢野の要求に対する裁判所の対応

 通常、警察は刑事事件の証拠を民事裁判には提出しない。またそれ以前に、裁判の当事者から相手方が保有している証拠の提出を求める申立がなされたとしても、裁判所が無条件に申立を認めることはない。本件においては、矢野の要求に相当の理由があると裁判所が認めないかぎり警視庁に対して静止画像の提出命令を出すことはない。通常は民事には提出しない捜査資料の提出命令となれば、なおさら軽々に出せるはずがなかった。

 警視庁に対して静止画像の提出命令を出すかどうかの判断は、それによって捜査機関の結論に重大な影響を与える可能性、すなわち捜査結果が覆ると判断した場合に限られよう。そうでなければ、わざわざ捜査機関に対して刑事事件の証拠を提出させる意味がない。

 したがって裁判所は、矢野が「静止画像を見せられた記憶から、万引き事件当日の明代のスーツの色は被害者の証言とは異なる」とする陳述書における主張だけでなく、それまで矢野と朝木が主張してきた内容とも合わせて総合的に判断することになる。言い換えれば、裁判所が警視庁に対して静止画像の提出命令を出すかどうかによって、万引きを否定する矢野の主張を裁判所がどう見ているのか、一定の推測をすることができるということでもあった。

 レストランで食事をしていたとするアリバイ主張もまた重要な判断材料である。この点については、明代だけでなく矢野もまたそれまでのアリバイ主張を自ら放棄したことを裏付ける事情聴取記録を提出しているから、むしろ提出命令を否定する材料だろう。

 では、矢野がこの陳述書で「東京地検で見せられた写真のパンツスーツには裾が絞れるという特徴があって、そのスーツの色は被害者が証言する『グリーングレー』とは異なる」と主張している点についてはどうだろうか。矢野は保管していたスーツの特徴が、矢野の記憶する静止画像に映ったスーツの特徴に一致しているから「グリーングレー」のパンツスーツではないと主張している。

 この主張を裁判所が「信用性がある」と認めた場合には提出命令を出すかもしれない。しかし、警察の保管している静止画像と遺族が保管しているパンツスーツの同一性が、彼らの主張だけで保証されたといえるのだろうか。矢野の主張の根拠は唯一、矢野と朝木の記憶のみである。これでは客観的な裏付けとはいえないように思える。

 裁判所は結果として、警視庁に対して静止画像の提出命令を出さなかった。提出命令を出すには根拠に乏しいと判断したものとみられた。

立証されない同一性

 こうして裁判は平成11年11月15日、裁判の最大のヤマ場である本人に対する尋問を迎えることとなった。尋問の対象は矢野、朝木直子、万引き被害者、千葉英司と『聖教新聞』の記者である。

 矢野がこの裁判で問題とした『聖教新聞』の記事は、明代の転落死について東村山署が「万引きを苦にした自殺」と結論付けたことを根拠に、「創価学会に殺された」と主張していた矢野と朝木直子の主張を批判したものである。矢野はこの『聖教新聞』の記事によって名誉を毀損されたと主張していた。

 したがって、矢野は捜査機関の結論を覆すことができれば、明代の「万引き犯」の汚名を晴らすことができるとともに、必然的に裁判にも勝つことができる。明代の万引きと自殺を否定したい矢野はこの尋問で捜査機関の結論を覆そうともくろんでいた。

 しかし、裁判所が警視庁に対して矢野の要求していた静止画像の提出命令を出さなかったことは裁判所が矢野の主張を信用しなかったことをうかがわせた。矢野がいかに「万引き当日に明代が着ていたスーツを保管している」とし、それが被害者の主張するスーツとは異なると主張したところで、そのスーツと警察が保管している静止画像の同一性を裏付ける証拠が提出されなければ、矢野のアリバイ主張は成立したとはみなせない。矢野はその証拠を提出してはいないのである。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第37回
直子がモデルの「再現写真」を作成

 警察が保管している明代のキャッシュコーナーの静止画像が提出される見通しはなかった。普通の人間ならその時点で静止画像の提出はあきらめるだろう。ところが矢野は、静止画像による冤罪立証をあきらめなかった。矢野は明代が着ていたと主張するベージュの、裾に特徴のあるパンツスーツを朝木直子に着させ、同じキャッシュコーナーに立たせて静止画像を「再現」し、証拠として提出したのである。同時に、朝木が着用して正面から撮影したカラー写真も提出した。

 キャッシュコーナーの静止画像では裾が紐を通すようになっているスーツであることがわかり、カラー写真によれば、その同じ特徴を持ったスーツの色はベージュであることがわかる。つまり2枚の写真を合わせれば、万引き事件当日に明代が着用していたパンツスーツは被害者が目撃した犯人が着ていたスーツとは異なる――矢野はこう主張しようとしていた。

 矢野によれば朝木は平成7年11月、東京地検で最初に本物の「静止画像」を見せられたという。それから1年半後の平成9年3月、今度は矢野と朝木の2人が「静止画像」を見せられた。朝木は2回も見たし、自分も1回見たから「記憶に残った」のだという。

 朝木の場合、2回見たといっても1回目と2回目の間では1年半もたっている。常識的には、最初に見たのが1年半も前なら「2回」のうちには入らないと思うが、2回目に再確認したと認識できるほど朝木の記憶力は並外れているのだろうか。いずれにしても、彼らが明代のスーツは「ベージュ」だったと主張する根拠は彼らの記憶だけだった。

 矢野は彼らの記憶に基づいて「再現した」と称するその2枚の写真を、被害者と千葉の順番で行った尋問で使用した。矢野はその際、被害者の尋問の際にはあえて千葉は退廷させてほしいと申し立てた。写真を見せてスーツに関する尋問を行うことを千葉には事前に知られたくなかったということだった。いきなり見せることで、被害者と千葉との間に齟齬が生じることを期待したのかもしれなかった。なお写真の作成日時は、「カラー写真」が平成10年3月3日、「再現画像」が平成12年1月25日である。

合致した証言

 尋問の順序は被害者が先で千葉はその次である。しかし矢野は裁判でも『東村山の闇』でも、千葉の尋問を先に説明し、被害者に対する尋問の様子は後回しにしている。そこであえて矢野の手法にならい、先に千葉の尋問からみていくことにする。

 平成12年2月7日に行われた千葉に対する反対尋問で、矢野の代理人は万引き現場にいた目撃者の証言、取調室でのやり取りなどを聞いたあと、明代が提出した万引き当日の銀行振込記録に基づいて東村山署が作成した問題の静止画像について聞いた。



(静止画像に対する万引き被害者の証言)

矢野代理人  で、これは○○さん(万引き被害者)には見せたですね。

千葉  そうです。

代理人  それで、○○さんの供述とは、これは合致したわけですか。

千葉  合致いたしました。



「『防犯カメラに映った明代の服装や持ち物、髪形等』と『被害者が現場で目撃した犯人の服装等』は同一であることを被害者が確認した」ということを代理人はまず確認した。

いきなり示された「再現画像」

 その上で千葉の目の前に提示したのが、矢野と朝木によって作成された「再現画像」だった。ただ千葉に対してそれは当初、正体不明の画像として示された。

 民事裁判の尋問で証拠を提示する際には事前(遅くとも1週間前)に提出しておくのが通常である。しかし矢野は事前に「再現画像」を提出しておらず、千葉も千葉側代理人もそれが提出されること自体を知らなかった。矢野の代理人は正体不明の画像を千葉に示して聞いた。

代理人  捜査報告書の中にある写真とこれと比較して、何か違いというものはございますか。

 代理人は千葉に示した画像がどういうものであるのかについていっさい説明しない。あくまで本物の「静止画像」とは別物であることを隠した上で尋問しようとしていたことがうかがえる。

 仮に事前に千葉側に提示していれば、本物の「静止画像」と比較できたかもしれず、尋問の場で明確な回答もできただろう。尋問される側は当然、本来は法廷に出るはずのない画像をいきなり見せられ、比較しろといわれれば少なからず当惑する。それが狙いだったのかもしれなかった。

 防犯カメラの静止画像はもとより写真のような鮮明なものではない。その上、千葉が本物の「静止画像」を見てから4年以上の時間がたっている。本物の「静止画像」がそこにあって、それと比較した上で「何か違いがあるかどうか答えてください」というのならフェアといえるが、「再現画像」だけを見せて記憶を頼りに「比較して」というのはそもそも無理がある。この代理人は、千葉が本物の「静止画像」を最後に見たのがいつだったかも確認しないまま、「本物と違いがあるか」と聞いているのだった。

 当然、矢野の代理人が裁判のルールを知らないことはあり得ないし、たとえ見たのが最近だろうと、記憶を頼りに「違いがあるか」などと聞くことに無理があることも最初から承知していないはずがない。言い換えれば、弁護士がそこまでやるには相当の理由があったということである。

 もちろん千葉は、東京地検が彼らに重要な証拠である「静止画像」のコピーを渡すことはあり得ないから、彼らが本物の「静止画像」を提出できないことを知っている。したがって千葉が、代理人がいきなり出してきた正体不明の画像に警戒したことはいうまでもなかった。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第38回
矢野代理人の誘導

 反対尋問で矢野の代理人から正体不明の画像を見せられ、「捜査報告書の中にある写真と比較して違いがあるか」と聞かれた千葉は、それが本物の「静止画像」ではないことを前提にこう答えた。「……鮮明ですね、まず」と。代理人は重ねて「この服、かばん、髪形、顔、そういったもの」に違いがあるかと聞く。

 これに対して千葉は、その画像がどういう性質のものかがわからないので、代理人に対して撮影の時期を聞いた。これに対して代理人はこう応じた。

矢野代理人  ですから、それはあとでご説明しますから、とにかく証人(=千葉)の捜査記録を見たときのご認識とこれとの違いがあればおっしゃってください。違いがなければいいです。

 千葉が画像に映った顔は明確には判別できない。しかし撮影の時期を答えれば、少なくともそこに映っているのが明代なのか、別人なのか、その確信を千葉に与えることになる。そこに映っているのが明代ではないということになれば、この画像は捜査記録のものと同一でないことになる。代理人=矢野は千葉の尋問にあたり、その画像の正体を知られたくないということのようだった。

 そうでなければ、「あと」ではなく今説明すればいいのである。「あと」なら説明できるのに、尋問の前に説明できないというのは、やはりなんらかの意図があるということと理解できる。もともとその画像は朝木が明代を演じているものだから、「違いがない」ということはあり得ない。

 その画像がいつ撮影されたものかを答えないまま、戸惑っている相手に対して「違いがなければ(ないという回答で)いいです」というのは誘導と取られても仕方がない。なぜなら、矢野と朝木は被害者の証言とは異なるベージュのパンツスーツを明代の服装と主張し、それを着て撮影した画像が本物の画像と同一であると主張している。したがって彼らは千葉から「同じ」=「違いがない」という答えを待っているのだから。

「いつ撮影したのか」という質問に対して代理人が「あとで説明する」と答えたことに千葉は強い違和感を覚えた。「あとで説明する」とは「今は説明できない」という意味であるだけでなく、少なくとも東京地検が保管している本物の「静止画像」と同一のものでないことだけは理解できた。そこで千葉はこう答えた。

千葉  全体として感じは似ておりますね、はい。全体の雰囲気ですよ。

 千葉は「同一ではない」ということを前提に「全体として感じは似ている」と答えたのである。完全に否定されたのではないにしても、代理人としても「全体としては」では具体性に欠けていて不満に感じたようだった。

期待に反する回答

 代理人もグリーングレーとベージュでは、白黒になれば色の区別は難しく、それだけで被害者の証言を覆すことは難しいと考えていたのだろう。しかし被害者の供述とは形状が明らかに異なっており、なおかつ千葉が目の前にある画像と本物の「静止画像」が「同一」であると答えれば、被害者の供述を覆す大きな根拠を得ることができるのである。

 明代の服装について被害者は、「万引き犯(=明代)はグリーングレーのジャケットとその下にチャイナカラーのブラウスを着ていた」と証言している。「チャイナカラー」とは襟が立った形状のものである。チャイナドレスをイメージしてもらえばわかりやすかろう。

 画像にはその点が最も顕著な違いとして現れる可能性があった。だから代理人はさらにこう聞いた。

代理人  服はいかがですか、襟とかですね。

「襟も似ている」という供述を期待したのだろう。これに対して千葉はこう答えた。

千葉  服もちょっと断定はできませんが、雰囲気としてはよく似ておりますね。鮮明ですね。撮影を教えていただければ幸いですが。

 代理人は千葉から襟の形状について具体的な供述が出てくることを期待した。しかし千葉は「断定できない」といい、「雰囲気としてはよく似ている」としか答えなかった。「襟はどうか」と持ちかけたにもかかわらず、千葉からは「襟」という文言さえ出なかった。これでは千葉が本物の「静止画像」とこの画像が「同一と認めた」と主張するのはどう考えても無理である。

 代理人は千葉の供述を聞くと、画像についてこれ以上追及するのをあきらめたのか、画像がいつ撮影されたかについてようやく明らかにした。

代理人  これは、ですから、最近、同じ北海道拓殖銀行、今は中央信託銀行ですけど、この場所をお借りして、こちらが。

 千葉が「再現されたわけですか」と引き取ると、代理人は「そうです」といったきり画像に関する質問を終え、次の質問に移ったのである。ここまでの尋問で仮に代理人が手応えを持ったとすれば、もう少し追及があってもよかろう。

 代理人は具体的に「襟はどうか」と聞いたが、千葉は「断定できない」と答えただけだった。それはごく自然な回答である。千葉が本物の「静止画像」を見たのは4年も前のことであり、その記憶に基づいて、いきなり出された画像と比較して答えろという方が無理なのだった。代理人はそのことも理解していたのだろう。

「同一性を認めた」という詭弁

 ところが矢野は千葉の答弁について『東村山の闇』でこう主張している。

〈(千葉は)この再現写真が、鮮明であって、朝木議員の服装とよく似ている。このことを千葉副署長は、ついに認めた。……この写真の人物が、朝木明代議員だと思っているのである。つまり、服装も同じであるのは当然の認識なのだ。〉

 また本件の最終準備書面でも次のように主張している。



(「再現写真」に対する千葉の供述に関する主張)

「服はどうですか」と聞かれた際、同人は、

「雰囲気としてはよく似ておりますね。鮮明ですね」
 
 と、躊躇なく明解に供述した。

 これによって、原告らが地検支部で現認した……右静止写真に写った故朝木議員の服装と、原告らが……撮影した再現写真に写った服装の同一性が確認されることとなったのである。



 千葉は「静止画像」と「再現画像」の「雰囲気がよく似ている」とはいったが、そもそも同じように見える画像を作成したのだから「雰囲気」が似ていても不思議はなかった。矢野は千葉が「再現画像」が本物と「似ている」といったことをもってことさら「同一と認めた」かのように主張している。しかし、「似ている」ということと「同一である」ということが同じでないのはいうまでもなかろう。

 また矢野は、千葉が「しきりと撮影を教えてほしい」といっているとし、それもまた「再現画像」の人物が明代だと思っているということなどとも主張している。しかし千葉が撮影時期を聞いたのは、これが本物の「静止画像」ではないことを確信しているからにほかならない。「鮮明ですね」といったあとすぐに「いつ撮影なさったんですか」と聞いていることからも、目の前の画像が本物の「静止画像」であるなどとは思っていなかったことは明らかだった。

 矢野としては「再現画像」のスーツが本物のスーツと同一であることにしなければ作成の意味がない。「再現画像」はそのために作成したと言い換えてもいい。そのためには、「雰囲気としては似ている」という千葉の供述を、「同一性を認めた供述」にしなければならなかったのである。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第39回
万引き被害者は明確に否定

 矢野の代理人からいきなり「再現画像」なるものを見せられ、本物の「静止画像」との違いを聞かれた千葉は「雰囲気としてはよく似ている」と答えた。もちろん「再現画像」と「静止画像」の同一性を認めたわけではないが、矢野は強引にそう主張した。

 千葉への尋問に先立ち、万引き被害者に対する尋問も行われている。矢野側はその際、次に尋問が予定されている千葉については法廷から退出させるよう裁判官に申し立てた。裁判長は矢野の申し立てを認めたため、千葉は法廷から退出した。矢野側代理人は万引き被害者に対しても「再現画像」なるものを示して尋問している。千葉を法廷から退出させたのは手の内を隠す意図だったと推測できた。

 さて、矢野代理人は被害者に対して、被害者の見た万引き犯の服装が「グリーングレーのパンツスーツでチャイナカラーのブラウス」をだったことを確認した上で、「再現画像」を提示した。その後の尋問をみよう。



(「再現画像」についての尋問)

(スーツに関して)

矢野代理人  あなたがいうその服装の特徴というのは、この写真(=「再現画像」)と比べてどうですか。

万引き被害者  ちょっと違うような気がします。

……

代理人  どこが違うの。

被害者  機械も違うし、この立っている人も違うような気がします。服装が違うような気がします。

……

代理人  あと、スーツは。

被害者  スーツ、スーツもなにか違うような気がします。

代理人 「なにか違う」というのは、どこが違うか、いえますか。

被害者  形が違うような気がします。

代理人 「形が違う」というのは、具体的にどの形が違うのか、いえますか。

被害者  全体的な雰囲気が違います。

(ブラウスに関して)

代理人  このブラウスの襟の特徴はどうですか。

被害者  ブラウスもなにか違うような気がしますけど。

代理人 「違うような気がする」というのは、どう違うか、いえますか。

被害者  このブラウスだと、襟が、こう、寝ている。フラットカラーのように寝ている雰囲気がしますので、私が見たのはスタンドカラーなので、ちょっと襟の雰囲気が違うと思います。



 被害者は代理人から被害者が見た万引き犯の服装を聞かれた直後、まず「あなたがいうその服装の特徴というのは、この写真と比べてどうですか」と聞かれている。したがって被害者は、警察で見せられた本物の「静止画像」ではなく、自分が直接見て、記憶している万引き犯の服装の特徴と目の前に示された「再現画像」とを比較して答えたものと推測できる。

 被害者は服装に関してはプロであり、色合いやデザインに対する認識はより鮮明である。だからスーツの色についても「グリーングレー」と、素人では浮かんでこない表現で微妙な色合いを説明している。被害者はその鮮明で詳細な記憶と比較して、「『再現画像』の服装は万引き犯の服装とは違う」と答えたということと理解できる。

 ここで代理人は、この「再現画像」が矢野によって同じキャッシュコーナーで「再現写真」として撮られたものであること、したがって撮影の角度や構図が本物の「静止画像」と同じであること、捜査機関に提出を求めたが拒否されたのでやむを得ず作成したものであること――などを説明した。「捜査機関が出さないから矢野が作成した」ということで、「再現画像」なるものが本物の「静止画像」に写った服装と同じであるかのような印象を与えようとしたのだろうか。代理人はその上で、あらためて被害者に、今度はこう聞いた。

代理人  ……(この「再現画像」は)あなたの記憶に残っている、あなたが見せられた写真の服装の特徴と違うんですね。

 被害者は、それでも「はい、違います」と明確に答えた。被害者は本物の「静止画像」について、その服装は自分が実際に見た万引き犯=明代の服装と一致しているものとして記憶している。しかし目の前にある「再現画像」は自分が見た犯人の服装とは異なる。だから、「静止画像」とは違うと答えたのである。

まったくブレのない証言

 矢野と朝木が苦労して作成した「再現画像」は、このままでは被害者からただ「違う」と否定されるために提出したも同然である。少なくとも、このままでは何の収穫もないのは明らかだった。

 そこで代理人は矢野の主張をそのまま採用することで被害者を動揺させようと試みたようにみえた。「矢野の主張」とは「『再現画像』は東京地検で見た画像の記憶に基づいて作成したもので、『再現画像』のスーツは地検で見た画像のスーツと同一だ」という主張である。代理人としても、矢野らの「記憶するスーツ」なるものが本物のスーツと同一であるという客観的証拠などどこにもないことに気がついていないはずがない。

 しかし代理人は、この時点で、被害者に示した画像について「同じ場所、同じ構図で撮影されたものであること」「捜査記録にある静止画像の提出を求めたが応じないのでやむを得ず作成したもの」と説明し、あたかもそれが本物と同じであるかのように強調した。その上で、被害者に念を押すようにこう聞いた。

代理人  (「再現画像」の服装は)あなたの記憶に残っている、あなたが見せられた写真の服装の特徴と違うんですね。

 ここまで揺さぶられても被害者にはまったくブレず、明確にこう答えた。

被害者  はい、違います。

 現実に万引き犯の服装を目の前で見た被害者の記憶に鮮明に残っている明代のスーツと「再現画像」のスーツとでは、よほど大きな違いがあったということだろう。

 矢野は「再現画像」に写っているスーツには「裾の部分に紐が通してあり、絞れるようになっている」という顕著な特徴があると説明している。確かに矢野が提出した画像には裾の部分が絞ったように縮んでいる様子がうかがえる。しかし、被害者が見た万引き犯のスーツにはそんな特徴はない。矢野が際立った特徴のあるスーツを「再現画像」に採用したことが、かえって被害者に本物の「『静止画像』とは違う」という確信を持たせたのかもしれない。

(つづく)
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