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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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元市議名誉毀損事件 第8回
想定外の訴訟指揮

 元東村山市議の山川昌子が「詐欺事件に関与した」などとする『東村山市民新聞』(=「草の根市民クラブ」の政治宣伝紙)の記事によって名誉を毀損されたとして現職東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判の第4回口頭弁論が平成28年4月11日、東京地裁立川支部で開かれた。被告側は代理人と朝木は出廷したが、矢野は通院のためかこの日も出廷しなかった。

 前回の口頭弁論で朝木は自分に対する尋問を要求し、裁判官から原告に対して「原告は(尋問は)どうですか」と聞いた。これに対して原告は朝木に対する尋問の必要性を否定するとともに、自らも尋問ではなく陳述書の提出で足りると答え、これを受けて裁判官は「ではもう1回やりましょう」と応じたという経緯があった。

 したがって、今回の弁論にあたり当面注目されたのは、①裁判官が朝木に対する本人尋問を容認するかどうか②朝木の尋問を認めなかった場合、「もう1回やりましょう」という言葉どおり、この日で弁論を終結するのかどうか――この2点だと私は考えていた。ところが、裁判はやはり何が起きるかわからないということを改めて痛感させる展開となった。

 裁判官は開廷後、すぐに双方に対して新たに提出する書面の確認を行い、その上でこれ以上の主張があるかどうかを聞いた。先に聞いたのは被告に対してだった。すると被告代理人はこう述べた。

「(原告が今回提出した準備書面4は)今いただいたばかりで読んでいませんので、改めて反論したいと思います」

 これはまったく想定外の主張だった。ところが被告代理人の主張を聞いた裁判官は、原告に対しても「もうないですね。あるいは、まだいいたいことがありますか」と聞いた上で、最終的に「ではもう1回(口頭弁論を)やりましょう」と述べたのである。「この日で結審ではないか」と考えていた私の予想は大外れだった。ただ、裁判官は原告に対してか被告に対してかは明らかでないものの、念を押すようにこう付け加えた。

「次回で終わりですよ」

 裁判官は次回期日を指定し、閉廷となった。裁判官はこの日、前回朝木から出されていた尋問申請にはいっさい触れず、朝木の側も申請に対する裁判官の判断を確認することはなかった。

 前回口頭弁論からの経緯と合わせ、この日の裁判官の訴訟指揮をどう理解すべきだろうか。証人(本人)尋問が行われる場合には、通常以上の時間をとる必要があるし、尋問を希望する当事者に対して必要な時間等を確認するのが通常である。尋問の展開によってはあらためて書面の提出を求める場合もあるから、朝木の尋問申請を認めるのなら、この日の弁論の時点で「次回で終わり(すなわち結審)」と宣言することは考えにくい。

 またそもそも、裁判官は朝木に対する尋問にさえいっさい触れなかった。このことは、実質的に朝木の尋問申請を却下したに等しいと思われた。

 前回口頭弁論で尋問を申し立てた朝木が、そのことについてなんらの確認もしなかったことも意外な気がした。裁判官が触れなければ、自分の方から聞けばよかろう。なぜ積極的に聞こうとしなかったのか、これもまた不可解というほかなかった。

双方が準備書面を提出

 断定はできないものの、「記事を書いた朝木に事情を聞いてみる必要がある」と裁判官が判断したとすれば、朝木の尋問申請を無視するようなことはなかったのではあるまいか。

 本件記事は被告を「詐欺事件に関与した」と断定するものである。被告の矢野と朝木が責任を免れるためには、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実あるいはそう信じたことの相当性を立証しなければならないが、彼らはこれまでに明らかな証拠をなんら提出していない。仮に裁判官が、本件記事にはなんらかの正当な理由、つまり真実性とまではいかなくても相当性があるのかもしれないと考えたとすれば、裁判官としてもそういう判決(すなわち原告を請求を棄却する判決)を書くためには相当の根拠を集めなければならないから、朝木の尋問申請を認めてもおかしくない。

 ところが裁判官は朝木の主張を無視する形で尋問申請を事実上、却下した。裁判官は、法廷で朝木の供述を聞く必要性があるとは判断していないということになろうか。裁判官はこれまでの双方の主張に基づいてそう判断したということになるが、問題は「山川が詐欺事件に関与したのはすでに明らかだから、尋問の必要はない」と考えたからなのか、「どうみても山川が詐欺事件に関与した根拠は認められないから、尋問の必要はない」と考えたからなのか――ということである。

 少なくとも、朝木が自分に対する尋問を申し立てた前回口頭弁論の時点では、裁判官はまだそれを認めるかどうかの最終的判断を下していなかった。すると裁判官が、今回の口頭弁論で事実上朝木の尋問申請を却下する判断をしたのは、前回口頭弁論のあと、つまり原告と被告の双方がそれぞれこの日の口頭弁論までに準備書面を提出したあとということになろうか。裁判官は口頭弁論までの間に双方の準備書面に記載された主張や証拠を検討し、その結果として、朝木の尋問申請を無視することにしたのではないかと推測できた。

 なお、裁判官が「次が最後」と通告した次回口頭弁論は、平成28年5月23日午後1時10分と指定された。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第9回
被告らの第3回口頭弁論までの主張

 被告の矢野側が朝木直子の本人尋問を申し立てた前回の口頭弁論から第4回口頭弁論までに、原告被告双方の間で準備書面のやりとりがあった。

 原告は口頭弁論1週間前の平成28年4月4日、裁判所と被告代理人に対して「準備書面(4)」を送付した。その内容は前回第3回口頭弁論までの被告の主張に対する総括的反論と、本件記事の名誉毀損性についての主張である。

 被告らのこれまでの主な主張は以下のとおりだった。



(第3回口頭弁論までの被告らの主な主張)

本件記事が記載した「詐欺事件」の存在は事実である。

原告山川は被害者に加害者Sの姉で詐欺の仲間でもあるMに対し、「Tさん(被害者)が一人暮らしになっちゃったのよね」などと、被害者の個人情報を漏洩した。その結果、SによるTに対する詐欺事件に発展した。これは結果的に、詐欺犯人を仲介し、事件に関与したということである。

筆者注=なお、第3回口頭弁論前に提出した準備書面で矢野側は、上記「個人情報」について当初は「被害者が一人暮らしをしており、相当高額の資産を持っている」との情報である旨の主張をしていたが、第3回口頭弁論において上記の「個人情報」のうち「相当高額の資産を持っている」との部分について口頭で削除を申し出たという経緯がある。)

「1860万円詐欺、元公明議員らが関与」「創価・元市議らが仲介して」「言葉巧みに、一般市民から、借りて1860万円を返さず」との見出しで本件記事が摘示しているのは「原告は詐欺事件に関与した」(原告の主張)というものではなく、本文中に記載している以下の部分、すなわち、

①「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。」

②「元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』」

 というものであり、上記記載は客観的真実と一致する。よって記事には真実性も相当性もある。

筆者注=被告らの上記主張によれば、被告らが主張する真実性・相当性の立証対象は上記①②についてであるということになる。)

④本件記事は「山川元市議は口では被害者の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。」と記載し、批評しただけで、原告が直接的に詐欺を働いたと読み取れる箇所はない。よって名誉毀損は成立しない。



 矢野と朝木はこう主張し、第3回口頭弁論では新たに証拠として貸金被害者がSに対して貸金の返済を求めた民事裁判の和解調書および、和解成立後も返金がなされなかったためにSやMを告訴した際の告訴状、またその際に原告山川が被害者に協力して提出した「陳述書」(筆者注=原告は本件裁判でも陳述書を提出しているので、本件のものと区別するために告訴の際の陳述書を括弧付きとする)などを提出していた。

自らの首を絞める証拠

 ただ、矢野が新証拠として提出した告訴状には原告が事件に関与したことをうかがわせる記載はいっさいなかった。「陳述書」には原告がMに「Tさん(被害者)が一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが記載されてはいるものの、和解成立後も原告が被害者に協力していた事実が記載されており、原告に有利な証拠のように思われた。告訴のために「陳述書」を作成したこと自体、むしろ被害者に協力したことを裏付けていよう。そんな原告を利するとしか思えない証拠を矢野と朝木はなぜ提出したのか、私には謎だった。

 しかしその後、矢野の主張をあらためて検討してみて、ようやくある結論にたどり着いた。告訴状は本件事件がたんなる貸金問題ではなく「詐欺事件」であると主張するためであり、「陳述書」は原告がMに対して「被害者が一人暮らしになった」と話したことを立証するためだったのだろう、と。

「被害者が一人暮らしになった」ことを話したことが「詐欺への関与」を疑わせると認定されるとすれば、上記の2つの要素をつなげ合わせると、「原告山川は詐欺事件に関与した」ということになるのである。

 理屈の上ではそうだが、現実には告訴状は警視庁に提出したものの受理されていないから、法律上、本件は刑事事件としては成立していない。また「一人暮らしになった」ことを話したことが「詐欺事件に関与した」ことになるといえるのかどうか。

 少なくとも矢野が提出した告訴状には、原告山川が詐欺に関与したことをうかがわせる記載はいっさい存在しない。被害者が「原告山川は詐欺に関与している」と認識しており、また被害者の代理人弁護士もまたそう判断していたなら告訴状にそう記載しただろうし、山川に「陳述書」を依頼することもあり得ないのではなかろうか。

 つまり矢野と朝木が提出した上記2つの証拠はいずれも、部分的に見れば矢野の主張にも一応の理由があると思わせるものであるのかもしれなかった。しかし全体を見れば、どうみてもむしろ原告が詐欺にはいっさい関与しておらず、むしろ被害者の側に立っていたことを証明するもので、これほど原告に有利な証拠はないように思えた。

 とすれば、原告が関与していないことを証明する証拠を、原告ではなく被告の方から提出したということだから、矢野と朝木は原告山川の主張を裏付けるために告訴状と「陳述書」を提出してくれたことになる。常識的に考えれば、彼らは彼らの主張を裏付ける証拠として提出した以上、そこに記載された内容を否定することはできない。

 自分たちの首を絞めるような証拠を矢野と朝木はなぜ提出したのだろう。木を見て森を見なかったということではないのだろうか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第10回
被告らの証拠に基づく反論

 第3回口頭弁論までの被告らの主張に対し、原告は準備書面で総括的な主張・反論を行った。その最大の根拠としたのは前回弁論で矢野が提出した被害者による告訴状と、その際に原告が被害者に協力して提出した「陳述書」である。

 とりわけ本件記事に記載された原告に関する主要部分はすべて告訴状記載の内容から反論することができた。被告が自分のために提出した証拠を、原告側が原告に有利な証拠としてそのまま使えるという例もめったにないのではあるまいか。

 原告の主張の論点は次の3点である。
 
「原告は詐欺実行犯であるSの仲間であるMに被害者の資産等の個人情報を漏洩した」とする被告らの主張に対する反論(筆者注=矢野らはこの「情報漏洩」をもって、原告が「詐欺事件に関与した」と主張している)

「原告はSの詐欺行為の口ききをした」とする記載は事実か

「原告は(Sの詐欺行為の口ききをするような立場にあったから)、被害者を支援するふりをしたものの結局は被害者を放置した」とする記載は事実か

 これらの論点に対する原告の具体的な主張は以下のとおりだった。



(矢野が提出した告訴状と「陳述書」に基づく原告の反論)

①について

 被告らは、原告が主犯Sの仲間であるMに被害者の資産等の個人情報を漏洩したことによってSによる「詐欺事件」に発展したと主張している。ところが告訴状には、Sが被害者Tの資産等の情報を入手した状況、またSが被害者Tから借金を重ねるまでの経緯が詳細に記載されている。

 それによれば、被害者Tが一人暮らしになったあとMを介してSと知り合いになり、Sに家庭の事情を話したところ、Sから紹介された弁護士に相談することになった。被害者TはSと弁護士事務所に行き面談したが、その際Sも同席しており、被害者Tが相当の資産を有していることなどを聞いていた。Sはその後わずか半年の間に、さまざまな理由で被害者Tから総額2600万円の借金をした――。

 告訴状には上記の事実が記載されている一方、被害者Tが(原告からTの個人情報の提供を受けたとする)Mから聞いたなどとはいっさい記載されていない。告訴状にはさらに、Sが被害者Tから借金を重ねた際にSが持ち出した様々な理由も具体的かつ詳細に記載されている。しかし、山川がSの借金に関与したことをうかがわせる記載は、告訴状にはいっさい存在しなかった。

 矢野と朝木は本件記事に違法性がないとする主張を立証するために告訴状を提出した。しかし、これはむしろ原告が詐欺事件には関与していないことを証明するもので、被害者Tもまた原告がMに対して被害者の資産等の個人情報を漏洩したとは認識していないことを裏付けている。

②について

 本件記事では〈(原告は)お金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった〉、すなわち「原告がSの詐欺の口ききをした」との記載がある。しかし、告訴状にはそのような記載も「口きき」を示唆する記載もいっさい存在しない。したがってこの点についても、被告らの主張に根拠がないことは明らかである。

③について

 本件記事は、〈(原告は)口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが〉、〈貸金の仲介者のような役割を果たしながら、(返済が滞っても)山川元市議は「知らん顔」〉と記載している。その趣旨は、原告は当初は被害者の味方のように振る舞っていたが、実際にはSの仲間で、だから返済が滞っても知らん顔で放置しているというものである。

 しかし、被告らが証拠として提出した原告の「陳述書」には、和解成立後に返済が滞ったため、Sに対する返済を促す目的で原告が被害者TをともなってMの自宅を訪ねたことが記載されていること、またこの「陳述書」が被害者Tを支援する目的で作成したものであることが明らかで、和解成立後も原告が被害者を支援していたことを裏付けている。したがって、「原告は詐欺被害者を放置した」とする被告らの主張は失当である。



 原告の上記反論はいずれも、被告が自発的に提出した証拠に基づくもので、矢野らはそこに記載された内容についていっさい否定していない。つまり矢野らはその記載内容を全面的に認めているということである。記載内容に対する評価の問題はあるとしても、記載事実を覆すことはできない。

 矢野と朝木は告訴状と原告の「陳述書」を、それぞれ本件が「詐欺事件」であることおよび原告がMに対して「被害者が一人暮らしになっちゃったのよね」と話したこと、すなわち原告が主犯Sの仲間であるMに被害者Tの個人情報を漏洩したことを証明するものとして提出した。内容を総合的にみれば、どうみても原告が詐欺には関与していないことを立証するものとしか考えられないが、矢野はそうは考えなかったということなのだろう。

本件記事の重要部分に対する主張

 記事による名誉毀損裁判では、通常、記事すべてではなく、記事の中でも重要な部分についての真実性・相当性が問題となる。そこで原告は、本件記事の重要部分を挙げ、各部分についてそれぞれ総括的な主張を行った。

原告が重要部分として挙げたのは、

「Sが被害者Tから借金をしたことが詐欺事件に該当すること」

「原告が上記①の仲介の役割を果たしたこと」

「原告が①の詐欺事件に関与したこと」

 ――の3点である。その上で原告は、上記「主要部分」について記事には真実性も相当性もないことを主張している。まず「真実性」についての主張は以下のとおりである(要旨)。



(原告の上記「主要部分」に対する主張)

①について

 被告らが提出した「和解調書」や被害者TがSらを告訴しようとしたが告訴状が受理されなかった事実によれば、本件は刑事事件としての詐欺事件ではないことが明らかである。

②について

 告訴状に基づいて主張したように、「原告が被害者Tの資産等の個人情報を詐欺グループに漏洩した」との事実はなく、原告が仲介(口きき)したとする被告らの主張は失当である。

③について

 原告が関与したとする詐欺事件なるものは存在せず、存在しない事件に原告が関与する道理はない。仮に①が「詐欺事件」に該当するとしても、原告はSが被害者Tから借金したことについていっさい関与していない。



 原告が主張する「主要部分」の真実性に関する主張は以上だった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第11回
摘示事実をすり替えた被告ら

 では、原告が本件の重要部分として挙げた①「SがTから借金をしたことが詐欺事件に該当すること」、②「原告が上記①の仲介の役割を果たしたこと」、③「原告が①の詐欺事件に関与したこと」に対する相当性についてはどうか。

 相当性については、被告らはそもそも①と③について「記事のとおりである」などとする主張を繰り返しており、相当性の主張をしていない。原告が「詐欺に関与した事実はない」と主張したことに対して「記事のとおり」と答弁するのも弁護士が付いているにしては珍しいと思われるが、弁護士がそれ以外の主張をしないのだから、これはもう「真実だ」との主張であると理解するほかない。

 さらに第2回口頭弁論までは、②についても〈(原告が)詐欺グループの一員でもあるMに被害女性に関する上記情報(筆者注=高額の資産を有する独居女性)を開示したことは、……詐欺行為を仲介したものである。〉と、真実性を主張していた。ところが第3回口頭弁論に至り、②については突然相当性の主張を始める(被告準備書面2)。

 矢野らがその前提としていたのが、本件記事の摘示事実についての新たな主張だった。矢野らは本件記事の摘示事実が〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉(筆者注=被告らが主張する上記「摘示事実」を便宜上、「新たな摘示事実」と表記する)との事実であると主張したのである。

 これまで上記①②③のすべてに対して真実性を主張していたということは、それらがすべて摘示事実であることを認めていたということと理解できる。すると、「新たな摘示事実」はそれまでの主張と食い違いが生じることになろう。田中平八弁護士と矢野との間で、何か噛み合わないところがあるのではないかと推測する。

 矢野らは上記「新たな摘示事実」について〈客観的真実と一致する。〉と真実性を主張した上で、本件記事の意味内容について〈本件記事は原告山川が詐欺を働いたという記載ではなく、「結局は口ききでしかなかった」という記載内容である。〉と主張していた。「(詐欺の)口ききをしただけ」という意味内容なら、読者も詐欺への「関与の度合い」はかなり低いと判断するかもしれないし、立証のハードルもかなり下がるだろう。

 その上で矢野らは、原告がMに「資産等の個人情報を漏洩した」こと、および「被害者が救済されていないにもかかわらず、放置している」などとする主張を根拠に、「結局は口ききでしかなかった」という記載には〈真実と信じるに足る相当の理由がある。〉と主張していた。

「すり替え」に対する反論

 矢野が「口ききをしただけ」と書いたにすぎないと主張したのは、〈山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉との記載部分である。

 この部分をどう読めば、「(詐欺の)口ききをしただけ」と理解できようか。矢野と朝木はこの部分で、言葉は違うがやはり「山川は詐欺に関与した」と主張しているのである。

 したがって原告はすでに、被告らによる「新たな摘示事実」の主張が、被告ら自身のそれまでの主張に反するもので、立証対象をすり替えるものであること、「口ききでしかなかった」とは「口ききをしただけ」という趣旨ではなく、「原告は詐欺に関与したとする事実を前提に、『山川は口ではお金を取り戻すそぶりをしたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききだった』とするもの」で、詐欺の一味であると断定する趣旨であることになんら変わりはないと主張している。

 原告は今回提出した準備書面でさらに、告訴状に記載されているとおり、「原告がMに被害者の資産等の個人情報を漏洩した事実は存在しないこと」、被害者が救済されていないにもかかわらず放置した事実もなく、それどころか「陳述書」を提出するなどして被害者を支援した事実は明らかで、「摘示事実のすり替え」による相当性の主張も失当であると主張した。

摘示事実をすり替えた事情

「山川はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった」とする部分をどう読んでも、「口ききをしただけ」という意味であると理解することはできない。そんなことは記事を書いた本人である矢野が一番わかっていよう。これが「山川は詐欺とは無関係」という趣旨なら、〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉というタイトルはあり得ないのである。

 にもかかわらず、矢野はなぜ見え透いた詭弁を弄するのだろうか。摘示事実が「山川は詐欺事件に関与した」というものであることを認めれば、「山川は詐欺事件に関与した」という事実に対する真実性・相当性を主張・立証しなければならない。

 代理人の田中弁護士はすでに「山川は一人暮らしで相当高額の資産を持っているという被害者Tの個人情報をSの仲間であるMに提供した。このことはSの被害者Tに対する詐欺行為を仲介したものである」(趣旨)と主張していた。田中弁護士は本件記事の摘示事実が「山川は詐欺事件に関与した」との事実であると考えていたということと理解できよう。

 しかし、「山川は一人暮らしで相当高額の資産を持っているという被害者Tの個人情報をSの仲間であるMに提供した」とする主張を立証するのは至難の業であるし、仮にそれが事実と証明できたとしても、そのことと詐欺の実行行為は次元の異なる行為である。その2つの行為を証拠をもって結び付けること、すなわち山川がSに詐欺をさせる目的を持って情報提供したことを立証するのはさらに困難ではあるまいか。相当性を主張するにしても、山川の関与を疑わせるに足りる証拠がなければならない(のちの口頭弁論で田中弁護士が、山川がMに提供したとする被害者Tの個人情報のうち、「相当高額の資産を持っている」とする箇所を削除したことで、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実の立証はより困難なものとなった)。

 矢野が本件記事の摘示事実を「山川が万引きに関与した」ではなく、〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉へとすり替えたのと、山川が漏洩したとする被害者Tの個人情報のうち、「相当高額の資産を持っている」とする箇所を田中弁護士が削除したのは、偶然かどうか、同じタイミングだった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第12回
「主要部分」以外の反論

 平成28年4月11日に開かれた第4回口頭弁論に先立ち、原告が準備書面4を東京地裁立川支部と被告ら代理人の事務所にファックスで送付したのは口頭弁論から1週間前の同年4月4日である。一方、同年4月9日の夜遅く、被告ら代理人から原告のもとに準備書面3がファックスで届いた。

 その内容は、原告のこれまでの主張に対する反論である。被告らはまず、原告が前回第3回口頭弁論までに提出した準備書面2~3の主張のうち、これまで反論できていなかった部分について反論していた。被告らが新たに反論した原告の主張は以下の項目である。



(被告らが新たに反論した原告の主張)

被告らは「原告山川は詐欺事件に関与した」と主張し、その根拠として被告朝木直子の陳述書を提出しているが、伝聞にすぎず、証拠とはなり得ない。

被告らが「原告山川は『被害者が一人暮らしで、相当高額の資産を持っている』旨の被害者Tの個人情報をMに漏洩した」と主張していることは、すなわち個人情報の保護に関する法律に違反していると主張するもので、これは原告に対する新たな不法行為にほかならない。

「原告山川は詐欺事件に関与した」とする根拠として被告らが提出した原告の「陳述書」は、むしろ原告が詐欺事件には関与していないことを証明するものである。

被告らが第3回口頭弁論前に提出した準備書面で、本件記事の摘示事実が「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。」「元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』」――であると主張したことは、それまで認めていた摘示事実(「原告山川は詐欺事件に関与した」)を一方的に変更し、摘示事実を自分の都合に合わせてすり替えるものであり、信義則に反するものである。

(上記以外の部分に対する細かな反論もあるが、割愛する)



 いずれも本件の判断に直接関わるものではないが、被告らとしては反論する必要があると判断したようである。その反論を順を追って紹介しよう。



(上記①に対する被告らの反論)

〈被告両名が、本件で、被害者T(筆者注=実名)の陳述書を提出しない理由は、「(告訴状)を提出している以上、重ねてT(同)の陳述書を提出する必要がない。」と判断しているためである。〉



 被害者Tが警視庁に提出した告訴状は原告が詐欺に関与していないことを裏付けこそすれ、原告の関与をうかがわせる記載はいっさいない。それどころか、原告はこの告訴に協力して「陳述書」まで提出しているのである。被告らは「被害者Tの陳述書を提出する必要がない」などと判断しているのではなく、被害者Tに対して、原告が詐欺に関与していたと証言させることは困難と判断しているということではないかと推測している。



(上記②に対する被告らの反論)

〈被告等は、原告が個人情報保護に関する法律第54条に違反する罪を犯した等と主張したことはない。〉



 被告らは、原告が被害者Tの個人情報をM に漏洩したとする主張の前段において、「原告が市議会議員当時に個人情報の保護に関する法律が施行されたこと」、また「当時、オレオレ詐欺等、一人暮らしの高齢者を標的とした詐欺事件が大きな社会問題となっていたこと」などの社会的背景を記載している。被告らはその上で、「原告が被害者Tの個人情報をMに漏洩し、それがSらによる詐欺事件の発端となった」と主張しているのだから、「原告による被害者Tの個人情報の漏洩」は「個人情報の保護に関する法律に違反している」と主張していると判断されても仕方がないのではあるまいか。



(上記③に対する被告らの反論)

〈(「陳述書」に記載されている)(原告がMに対して)「被害者T(筆者注=実名)が一人暮らしになっちゃったのよね。」と話したことが、……本件詐欺の切っ掛けとなったものである。〉



 したがって、「陳述書」は「原告が詐欺事件とは無関係であることを証明するものではない」という主張である。すると、被害者Tの代理人弁護士が「詐欺に関与した」はずの原告を告訴せず、それどころか原告に対して、被害者Tのために陳述書の提出を要請したということになるが、そんなことがあり得るだろうか。通常、被害者やその代理人が「犯人」と認識している人物に対して、被害者のために陳述書の作成を要請することは考えられない。



(上記④に対する被告らの反論)

〈被告等は、従前の主張を不自然に変更したことなどない。〉



 原告は訴状で、本件記事は「原告が詐欺事件に関与したとの事実を摘示し、原告の名誉を毀損した」と主張している。これに対し、被告らは答弁書で「事実は『東村山市民新聞』に記載されているとおりである。」とし、原告が訴状で主張した摘示事実について異議を述べていない。さらに、次に提出した準備書面1でも〈(原告が)詐欺グループの一員でもあるMに被害女性に関する上記情報(筆者注=高額の資産を有する独居女性)を開示したことは、……詐欺行為を仲介したものである。〉などと主張している。すなわち本件記事の摘示事実が「原告が詐欺事件に関与したとの事実」であることを認めた上で、原告の主張を否認したということである。

 ところが準備書面2において被告らは、なんらの釈明もないまま突然、〈摘示事実である本件記事〉は、〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉、〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉というものであると主張した。被告らのそれまでの主張の前提を一方的に変更、否定するもので、これまでの原告の反論をも徒労に終わらせかねないアンフェアな応訴態度である。〈従前の主張を不自然に変更したことなどない〉とは、とうてい弁護士の主張とも思えない不誠実きわまりないものというほかなかった。

(つづく)
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