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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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元市議名誉毀損事件 第13回
準備書面4に対する反論

 平成28年4月11日に開かれた第4回口頭弁論の1週間前、原告が裁判所および被告ら代理人に提出した準備書面4では、被告らが警視庁に提出した告訴状(=被害者TがSらを告訴しようとしたもの)と原告の「陳述書」(=上記告訴状を提出した際、原告が被害者Tに協力して提出したもの)に基づき、原告が本件詐欺事件にはいっさい関与しておらず、それどころか原告が被害者Tに協力していたことを主張するとともに、本件記事が「原告は詐欺事件に関与した」と断定し、原告の名誉を毀損したと主張している。これこそが本件の最大の争点である。

 被告らはこの点についても、第4回口頭弁論前に提出した準備書面3で、原告の主張に則して逐一反論している。原告の主張と、それぞれに対する被告らの主張を紹介しよう。最初の論点は原告がMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことに関する主張である。



原告がMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことに関する主張

(原告の主張①)
 被告らが提出した告訴状には、本件詐欺事件の発生までに「原告がMに被害者Tの個人情報を漏洩した」とする記載はいっさい存在しない。(趣旨)

(被告らの反論)
 原告が主張するような記載がなかったとしても、原告が犯人グループの一員であるMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことがSに伝わり、被害者Tに対する詐欺事件のきっかけとなった事実に変わりはない。(趣旨)

(原告の主張②)
 告訴状には「被害者Tが弁護士に話した内容をSが聞き、被害者Tの具体的な資産額を知ることになった」との記載がある一方、被害者Tが原告に資産額を話したという記載はなく、原告が詐欺の「口ききをした」とする記載もない。このことは、被害者Tは原告がMにTの個人情報を漏洩したとは認識していないことを示している。「原告が被害者Tの資産等の個人情報をMに漏洩した」との被告らの主張は客観的事実に反しており、失当である。(趣旨)

(被告らの反論)
 Sが被害者Tから多額の金銭を詐取するにあたり、Tの財産の具体的内容まで知る必要はなかった。よって、原告の主張は意味をなさない。(趣旨)



 上記2点に対する被告らの反論に共通しているのは、原告がMに世間話の中で「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが詐欺事件の端緒となったと主張している点である。Sにとって「一人暮らし」は被害者Tの個人情報の1つだったとしても、だからといってその情報が詐欺行為の実行につながったと断定するのは、やや無理があろう。

 また、被告らは「Sが被害者Tから金員を詐取するにあたり相手の資産額を知る必要はなかった」と主張しているが、その後に詐欺に着手したという動かせない事実があるだけであり、詐欺の着手にあたりSが被害者Tの具体的資産を知る必要があったか否かを問うことは無意味ではあるまいか。被告らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことだけで詐欺のきっかけになり得ると強弁しようとしているだけのようにみえる。

 一般論でいえば、他人から金を詐取しようと企むような輩が、たんに一人暮らしの高齢者だからといって狙いをつけることはなかろう。同じエネルギーを使って詐取するなら大金と普通は考えるだろう。すると、狙いは取れるものを持っているのが確かな高齢者ということになろう。常識的に考えるとやはり、「一人暮らし」というだけでは詐欺の対象にはならないのではあるまいか。



「口きき」に関する主張

(原告の主張③)

 被告らが提出した告訴状にも原告が口ききをしたとの記述、もしくはそれを示唆する記述もいっさいなく、被害者Tが「原告が詐欺の口ききをした」と認識していないことは明らかである。(趣旨) 

(被告らの反論)
 原告は詐欺グループの一員であるMと長年にわたり懇意な関係にあった。とすれば、それまでのMの行状についても聞いていたはずである。にもかかわらず原告はMに対し、「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と詐欺師にとっては耳寄りな情報を提供したことにより、被害者TはSかから大金を詐取されたものである。(趣旨)



 被告らはここでも、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「口きき」すなわち「詐欺に関与した」とする事実の根拠であると主張しているものと理解できる。しかし、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが詐欺の端緒だったと断定することが困難であるとすれば、「原告は詐欺の口ききをした」とする被告らの主張も無理があるといえるのではあるまいか。



「原告は被害者Tを放置した」かどうか 

(原告の主張④)
 原告は被害者Tから「貸金を返してもらえない」と相談を受けて弁護士を紹介し、和解成立後も支援してきたことは被告らが証拠として提出した「陳述書」の記載からも明らかであり、「山川は被害者Tを放置した」とする被告らの主張は失当である。(趣旨)

(被告らの主張)
 原告が被害者T(筆者注=実名)の損害の回収について何らの具体的対策をとっていないことは間違いない。



 被害者Tの状況には同情の余地があるとはいえるものの、少なくとも原告には、被害者Tの損害の回収について具体的対策を取る義務はない。それでも原告は和解成立後、Sに返済を促すことを目的に被害者TをともなってMの自宅を訪ねたり、告訴に際しては陳述書を作成にも協力している。被告らからみると、それでも原告が被害者Tを支援したことにはならないというのだろうか。



「摘示事実」をすり替えたことに関する主張

(原告の主張⑤)
 被告らは当初、本件の摘示事実が「原告が詐欺事件に関与した」というものであることを前提とする主張をしていたが、第3回口頭弁論においてなんらの釈明もなく、摘示事実を「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった」「元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』」との記載にすり替えた。これは、そうすることによって「山川は口ききをした」「山川は仲介者のような役割を果たしながら『知らん顔』」とする事実に立証対象をすり替えようとする狡猾かつ悪質な企てで容認できない。本件記事が摘示しているのは「原告が詐欺事件に関与した」との事実であり、摘示事実のすり替えに基づく被告らの主張はすべて排斥されるべきである。(趣旨)

(被告らの主張)
 争う。被告両名の主張は、「原告山川昌子は、東村山市議会議員の立場で、Sの被害者T(筆者注=実名)からの金員詐取事件の切っ掛けとなるような役割を果たしながら、その後、「知らん顔」、呆れた人達です。というものである。

 被告両名は、原告が非難するような本件記事の摘示事実をすり替えたことなどない。



 前段は一応、反論の体裁をとっているものの、被告らは摘示事実を変更(=すり替え)した事実については具体的に言及しておらず、主張に正面から答えているとはいえない。論点を曖昧にした不誠実な主張というほかない。田中弁護士としては、曖昧に主張することで、(おそらくは矢野による)論点のすり替えをごまかすしかなかったのではないかと思えてならない。

 後段では「摘示事実をすり替えてなどない」と主張しているが、では「何が摘示事実なのか」についての言及は、この箇所ではなされていない。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第14回
「重要な部分」に対する反論

 原告は4月11日に行われた第4回口頭弁論の1週間前に提出した準備書面4で、本件記事が記載した「事実の重要な部分」を示し、それに沿って本件記事に真実性・相当性がないこと、すなわち本件記事が原告の名誉を毀損するものであることを主張している。原告が主張した本件記事の「重要な部分」とは、

「Sが被害者Tから借金したことが詐欺事件に該当すること」

「原告が上記の借金の仲介(口きき)の役割を果たしたこと」

「原告が上記①の詐欺事件に関与したこと」

 ――の3点である。被告らは4月9日に提出した準備書面で、「重要な部分」として原告が示した上記の3点以外に(3)として「和解が成立したこと」および(4)として〈山川元公明党議員は、口では、被害女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった。〉を加えていた。その上で被告らは、「本件が詐欺事件であること」については〈十分に証明されている。〉とし、「山川が詐欺事件に関与したこと」および「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」とする点について詳細に反論している。

「詐欺事件に関与」の根拠

 まず、「山川が詐欺事件に関与した」ことに関する被告らの主張はどんなものだったのか。被告らは、原告は「詐欺犯人の一人」である「Mと長年にわたって懇意な関係」にあり、「被害者Tが原告を信頼して家庭の事情などを相談していた」にもかかわらず、Mに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と詐欺師にとって耳寄りな情報を伝えた。このことが詐欺事件のきっかけとなったのだから、〈原告が本件詐欺に関与したことは間違いない。〉――こう被告らは主張していた。

 言い換えれば、被告らは、「原告は詐欺事件に関与した」とする根拠は、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と伝えたことにあると主張しているということである。なお相当性については「原告は詐欺事件に関与した」とする事実に対してのみ主張しており、その内容は真実性に対する主張と同じだった。

きわめて難解な主張

 では、被告らが「事実の重要な部分」として追加した「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」と主張する箇所についてはどうだろうか。被告らはまず、原告が、本件事件が「刑事事件としては立件されていないから、刑事事件としての『詐欺事件』ではなく、貸金の未返済問題である」と主張した点について、〈金員詐取自体を否定している〉と主張している。

 その上で被告らは、被害者Tのために原告が過去に提出した「陳述書」においては〈騙し取られた内容が記載されている〉と主張している。したがって、「当初は被害者Tの味方をしてお金を取り戻すそぶりをしていたが(すなわち原告は当時は「詐欺事件と主張していた」)、その後、本件陳述書では正反対の主張(すなわち本件で「詐欺事件ではない」と主張したこと)をしており、『結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった』との主張が真実であったことが証明された」と主張している。

 難解な理屈だが、被告らは、「原告は当初は詐欺事件だといっていたが、今では詐欺ではないと主張し、Sらを利する主張をしている。よって『結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった』との主張には理由がある」と主張しているようである。この主張が、「原告はSらの口ききをした」とする事実の証明になるとは思えないが、裁判所はどう判断するだろうか。

前回準備書面の主張と齟齬

 裁判所の判断はともかく、上記の「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」とする記載に関する主張は、正面から「山川は詐欺グループの口ききだった」すなわち「山川は詐欺に関与した」と記載したことを認めた上で、そのことについて立証しようとするものである。しかしこの主張は、第3回口頭弁論前の主張とはだいぶニュアンスが異なる。

 被告らは第3回口頭弁論前に提出した準備書面において次のように主張していた。

〈現在被害者女性の被害が救済されていないにも関わらず放置していることは、「結果的に口ききとしての役割を果たしたに過ぎない」と批評しているのであって、原告山川が直接的に詐欺を働いたと読み取れる箇所はない。〉

 つまり被告らはこの主張によって、「山川が詐欺に関与したと書いたのではない」と主張しているものと理解できる。しかし今回の準備書面の主張は、「詐欺の口きき、すなわち詐欺に関与した」と書いたことを認めた上での主張であるように思える。

 事情は定かでないものの、これもまた主張の変遷といってよかろう。準備書面を出すたびに主張が異なるとは、被告らはなにかよほどの混乱をきたしているのだろうか。

 いずれにしても、第4回口頭弁論直前に提出された準備書面には本件記事に関して被告の側からはなんら新たな証拠も主張もなく、原告の主張に対してたいして説得力があるとも思えない反論を試みただけだった。「釈明に追われた状態」という言い方がふさわしいかもしれない。

田中弁護士の意図

 被告らの混乱ぶりは第4回口頭弁論でも現れた。本連載の第8回で触れたように、原告が口頭弁論で準備書面4のコピーを提出すると、田中弁護士は「(原告が今回提出した準備書面4は)今いただいたばかりで読んでいませんので、改めて反論したいと思います」と述べたのである。

 これまで見てきたように、被告らは第4回口頭弁論で提出した準備書面3で原告の準備書面4に対する反論を詳細に行っている。したがって、口頭弁論の席で田中弁護士が述べた「もらったばかりで読んでいない」というのは明らかに、嘘か勘違いということになる。

 弁護士なら、口頭弁論までに準備書面をファックスで送り、口頭弁論当日にクリーンコピーを渡すというやり方には慣れているはずで、勘違いということは考えにくい。また横には裁判慣れした朝木直子もいたから、当日提出された準備書面4がファックスと同一のものであることに気がつかないということは、なお考えにくい。

 裁判官も田中弁護士の「改めて反論したい」との申し立てに流されるかたちで、もう1回弁論を開くことを決定した。敗北が現実のものとなることを先延ばししたいと思うのは人情である。田中弁護士の真意は定かでないが、そんな心理が無意識に出てしまったのか。

 いずれにしても、結果として、田中弁護士の通常では考えられない申し立てによって、裁判は引き延ばされることになったのだった。

(「第5回口頭弁論」後に、つづく)
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『聖教新聞』事件 第62回
万引き被害者を裁判に巻き込んだ矢野

『聖教新聞』裁判では、創価学会や警視庁だけでなく、「『聖教新聞』に明代とわれわれの名誉を毀損する記事が掲載されたのは洋品店主が『万引きをしたのは朝木明代だ』とする虚偽の証言をしたことに起因している」(趣旨)などとして、万引き被害者をも提訴の相手として裁判に巻き込んでいた。矢野が提訴した『聖教新聞』の記事に直接店主が証言していたのならわからないでもない。しかし、『聖教』の記者は店主に直接取材して証言を掲載したのではなく、すでに『夕刊フジ』に掲載されていた証言を引用するかたちで掲載したのだった。

 店主に対しては、朝木明代は窃盗(万引き)容疑で書類送検された直後、すでに虚偽告訴罪で店主を告訴していた。すると、万引きの事実を争おうとするだけなら、直接証言したわけでもない記事を提訴するにあたり、あえて店主まで提訴する必要があったのかという疑問は拭えない。

 矢野は明代が書類送検された直後から彼らの政治宣伝紙『東村山市民新聞』で「万引きは店主のでっち上げで、背後に創価公明が暗躍している」などとする趣旨の記事を掲載し、万引き事件があたかも明代を陥れようとする陰謀であるかのように宣伝していた。万引き事件が「冤罪」で、その背後に政治的謀略があったと印象付けたい矢野とすれば、『聖教新聞』すなわち創価学会を提訴した裁判に万引き被害者をも提訴したことには、たんに「虚偽の主張をしている」という以上の思惑があったのではあるまいか。

 明代の「潔白」が証明されたというのなら、誰がみても店主を提訴したことには当然の理由があったと判断されよう。しかし、現実はそうではなく、捜査機関は明代の万引きを認定し、店主に対する明代の告訴は告訴人の死亡により不起訴となっている。これでは万引き被害者に対する提訴には仕返しの意図があったのではないかといわれても仕方があるまい。店主が被害届を出さなければ、明代が窃盗罪に問われることはなかったのである。

洋品店主に対する判断

 本件記事に掲載された万引き被害者の証言は『夕刊フジ』に掲載されたものを引用したものである。結論からいえば、一、二審とも店主に対する請求を棄却したが、コメントとそれが掲載されることに対する予見性をめぐり、一審と二審では判断理由が分かれた。この「予見性」については『週刊現代』裁判でも、コメントをした朝木父娘の責任の有無をめぐり判断の分岐点となった。

 では、洋品店主の証言に対する判断はどうだったのか。

 一審の東京地裁は、「公的機関による記者会見での発表などとは異なり、報道機関の取材に対する個人の証言は、取材を受けた私人と報道機関との間で意思を通じていたような場合は別として、報道機関の取捨選択や裏付け取材などによって修正等が行われるもので、証言がそのまま記事になるとは考えないのが通常であり、まして取材を受けたメディア以外のメディアによって自分の証言がそのまま記事として掲載されるとは、およそ予見できない」(趣旨)と述べ、被害者の証言と『聖教新聞』記事との間に相当因果関係を認めなかった。

 ただ、いかに東京地裁が相当因果関係を認めなかったからといって、メディアに虚偽の情報を提供することによって事実とは異なる情報を世間に流布しようと企む者がまったくいないとは言い切れない。『週刊現代』の取材に対する朝木父娘や矢野のように、最初から明代の万引きを苦にした自殺という事実を隠蔽し、創価学会と万引き被害者、さらに東村山署(とりわけ千葉)に対する疑惑を持たせることを意図してメディアに対応した例もある。

『週刊現代』裁判では、一審の東京地裁は、記事の根幹をなしているのが朝木父娘のコメントであることおよびその主張する内容に真実性がないことを認定したにもかかわらず、コメントと記事の相当因果関係を認定しなかったために、朝木父娘に対する損害賠償責任を否定した。これでは、証言と報道機関との間で最初から意思を通じていたことが立証できなければ、いかなる虚偽情報であろうと、それもメディアに対して悪意をもって提供したことが明らかな場合でも情報提供者の責任は問われないということになるのではないか--。この判決は、理論上は、そのような危惧を抱かせるものだった。

 東京地裁はそのことが気にかかっていたのか、最後にこう付言した。

〈なお、被告○○(筆者注=洋品店主。以下、同)の本件窃盗被疑事件の認識についても、被告○○がA女は亡明代ではないと知りながら、被告創価学会と意思を通じて本件届け出をしたり、本件○○発言をしたことをうかがわせるような証拠は何ら存在しない。〉

 つまり東京地裁は、店主の証言が自らの体験に基づいてありのままを証言したものであり、悪意あるものではないと認定したのである。東村山署の捜査状況もふまえ、被害者の証言の信憑性を暗に認めたものとみることもできよう。

 万引き被害者からすれば、証言の真実性についてもう少し踏み込んだ判断があってもいいと思われたかもしれない。しかし裁判の争点はあくまで名誉毀損の有無であり、証言と記事との相当因果関係を否定した以上、証言の真実性についてそれほど深く言及する必要はないという判断だったのではあるまいか。

 請求に対する判断において、前段の「証言者と報道機関の間で意思を通じていたかどうか」に関する理論と後段における被害者の証言に対する認定が理論として必ずしも噛み合っているとは思えないが、東京地裁としては、両論を併記することによって請求棄却のより確かな根拠にしようとしたのではないかと思われた。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第63回
一審の判断基準を修正

 万引き被害者に対する一審判決は、メディアの取材を受けた者がなんらかの意図をもって事実に反する証言をしたとしても、「報道機関との間で意思を通じていたような場合」など、それがそのまま記事として掲載されることが予見できたという確かな証拠が提示されないかぎり不法行為責任を問われることはないという、悪意の情報提供者を利することになりかねない判断基準が示されていた。

 これは、明代の「万引きを苦にした自殺」を隠蔽するためにメディアに対して虚偽の主張を繰り返し、提訴されると今度は「取材そのものを受けていない」「そんな発言(筆者注=「明代は創価学会に殺された」とする発言)はしていない」として『週刊現代』に責任を転嫁した朝木父娘に対し、発言をどう扱うかは出版社の権限であるとして、朝木の責任を認めなかった東京地裁判決を追認する論理のようにも思えた。

 本件の場合には、被害者が直接取材を受けてその発言が掲載されたのは『夕刊フジ』であり、『聖教新聞』はその記事中の被害者の発言をそのまま引用したものであるという事情がある。また被害者が、『夕刊フジ』の取材に対する証言が『聖教新聞』に引用されるとは想定できなかったことも十分に推測できる。しかし、そのような事情を差し引いても、どんなデタラメな「証言」をしたとしても、すべての掲載責任はメディア側にあるということになりかねない判断はどうだったのだろう。

 一般論として、編集権が出版社にあることは確かである。しかし現実問題として、いかなる場合でも、取材を受けた者がどんなデタラメな証言をしたとしても、掲載責任はメディアにあり、「証言」した者の責任は問われないと言い切れるのかどうか。二審の東京高裁は「報道機関に対する私人の情報提供」について、基本的な考え方をまず次のように述べた。

〈……報道機関から取材を受けた私人としては、自らが提供する情報がそのまま記事になって報道されるとは通常は考えないとしても、……その取材対象となっている問題についての世間一般ないしマスコミの関心度、その中で自己の有する情報の重要性、当該問題ないし関連問題についての報道の状況、記事にするか否かについての報道機関の説明等の諸事情に照らし、……直接報道される可能性があることを認識し得る場合もあると認められる。そのような事情がある場合は、結果としての報道内容について一概に予見し得なかったものということはできない。〉

 東京高裁は、社会的状況や現実的な取材の状況などを検討し、朝木父娘が彼らのコメントがそのまま掲載されることを予見できなかったとはいえないと認定し、講談社だけでなく彼らの損害賠償責任を認めた。この場合、東京高裁は矢野、朝木と『週刊現代』との間に「最初から虚偽のコメントを真実であることにして報じることで話ができていた」などとまで認定したわけではない。

 しかしこの判断が、「取材を受けた私人が自らの発言をそのままの内容で公表することについて報道機関との間で意思を通じていた場合は別として、通常は、取材を受けた私人は、自らの発言がそのままの記事として掲載されることはおよそ予見し得ない」とした一審の判断を180度修正するものであることがわかろう。報道機関と意思を通じていなくても、場合によっては、取材を受ける側にも責任が生ずる場合があり得るという判断である。この方がより現実に則した判断基準であるといっていいのではあるまいか。

 たとえば矢野・朝木と『週刊現代』の間に、誌面構成についての申し合わせがあったという証拠はないし、実際にそこまでの事実はうかがえない。しかし、取材の経過の中で両者がカラオケスナックに同席するなど、矢野・朝木と『週刊現代』の記者らが親密な関係にあったことを、講談社側が自ら裁判の中で明らかにしている()。「自らの証言内容がどう報道されるかがおよそ予見し得ないとはいえない場合」の典型的な例といえるのではあるまいか。

この裁判では、矢野・朝木側が「コメントはしていない」と主張し、すべての責任を『週刊現代』に押しつけようとした。このため『週刊現代』側は、朝木直子らのコメントがあったことを立証するために、通常は明らかにするはずのない取材状況を自ら明らかにした。)

相当因果関係を認定

 さて、メディアと取材される側の私人の関係に関して「取材を受けた私人が、いかなる場合も報道内容を予見し得ないということはない」とする基本的な認識を示した上で東京高裁は、店主が『夕刊フジ』の取材を受け、その発言内容が掲載されることを予見できたかどうかについて次のように認定した。

〈被控訴人○○(筆者注=店主。以下、同)は被害者であり、かつ犯罪の目撃者として最重要証人たる立場にいたものであって、当該事件が平成7年7月12日に検察庁に送致されたことから、……多数の報道陣から目撃状況について取材を受けていたのである。してみると、……本件○○発言のうち『(万引き犯は)朝木さんに間違いありません。』という言葉を含めて、本件窃盗被疑事件の目撃状況を具体的に説明すれば、その内容が……掲載されることは十分に予見し得たものと認めるのが相当である。〉

 さらに東京高裁は、『夕刊フジ』に掲載された店主の証言が〈その後他の報道機関によって引用なり紹介等されることもあり得ることも当然に予測し得ることである〉と述べた上で、『夕刊フジ』の取材に対して店主が証言したことと、その証言内容が本件『聖教新聞』記事に掲載されたこととの間には相当因果関係があるものと認定したのである。

 つまり、社会的関心事に関する当事者の「証言」は、直接取材を受けたメディアだけでなく、その記事を他の媒体が引用して掲載された場合についても「証言」の責任が及ぶという判断だった。メディアに対して他人に重大な社会的責任を負わせる結果となる証言や発言をするにあたっては、相応の社会的責任が伴うという考え方を表明したものと理解すべきなのだろう。

(つづく)
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『聖教新聞』事件 第64回
揺らがなかった自信

 平成7年6月19日、女性店主は東村山市議朝木直子の母親で、同市議だった朝木明代が店先に吊るしてあったTシャツ1枚をジャケットの内側に隠して持ち去るのを目撃し、問い詰めた。店主は品物は取り返したが、明代は「知らないわよ。いいがかりをつけないで」などといって犯行を否認し、そのままイトーヨーカドー方面に逃走した。

 あまりにも明らかな万引き事件だった。ところが明代は東村山市議の矢野穂積と共謀してアリバイ工作を企て、その一方で矢野とともに被害届を撤回させるために洋品店主に対して再三にわたって脅しをかけ、あるいは嫌がらせ行為を繰り返した。最終的に東村山署で主張したアリバイ主張が虚偽であることが露顕し、東村山署は明代を窃盗容疑で東京地検八王子支部に書類送検したが、これに対して明代は店主を虚偽告訴罪で告訴した。

 普通の人間なら万引きが発覚した時点で犯行を認め謝罪して終わりとなる。明代の万引きもそうだったなら、特に被害者である店主が多くのメディアの取材を受けることはなかっただろう。明代がなんらかの社会的制裁を受ける結果になったとしても、明代が罪を認めている以上、被害者に対する取材もそれほど必要なかったのではあるまいか。しかしこの事件に限っては、そうはならなかったのである。

 被害者にしてみれば、明代が店頭に吊るしてあったTシャツを万引きさえしなければ、警察から事情を聴取されることも、メディアの取材を受けることもなかったし、裁判所から報道との間に相当因果関係があるなどといわれることもなかった。しかし店主にすれば、裁判所が相当因果関係を認めようが認めまいが、なんら動じるところはなかった。店主にとって、「事実をありのまま述べただけ」という自信が揺らぐことはなかったからである。

東京高裁の結論

 さて、引用によって間接的に使われた証言でも責任を問われるということになれば、通常の名誉毀損の場合と同様の検討がなされることになる。東京高裁は万引き被害者の主張についてまず、〈(万引き被害者である被告の主張は)要するに、平成7年6月19日に被控訴人○○(筆者注=万引き被害者)が経営する○○(筆者注=店名)でTシャツの万引きがあり、その犯人は亡明代に間違いないということに尽きる。〉と総括した上で、次のように述べた。

〈被控訴人○○(筆者注=万引き被害者)としては自らが認識していることをそのまま夕刊フジの記者に話したものと認められ、特段認識する事実を歪曲したり、誇張して話したことを窺わせる証拠はない。〉

 問題は、上記判断の中で東京高裁がいう万引き被害者の「認識」の信用性である。その点についての東京高裁は次のように述べた。

〈(万引き被害者が犯人と断定する)『A女』が亡明代であるということについては、被控訴人○○(筆者注=万引き被害者)が亡明代の人相、容貌を知っていたという以外に根拠はないのであるが、このような認識に至ったことについては……東村山署において捜査が進められ、他の目撃者等からの事情聴取の結果等を含めて、東村山署においても本件窃盗被疑事件は亡明代によるものと認めて東京地方検察庁八王子支部の検察官に事件を送致したことに照らすと、被控訴人○○(筆者注=万引き被害者)に勝手な思い込みや不注意といった過失があったとは認められない。〉

 その上で東京高裁はこう結論付けた。

〈本件窃盗被疑事件は、被控訴人○○(筆者注=万引き被害者)にとっては現職の市議会議員による窃盗事件……と認識され、そのように認識するについて相当の理由があったものというべきであるから、事件が検察官に送致された後に、夕刊フジの記者の取材に応じて自ら認識するところをありのまま正直に話したとしても、これをもって違法ということはできない。〉

 東京高裁はこう述べて万引き被害者に対する請求を棄却した。この裁判は『聖教新聞』の記事が矢野と朝木の名誉を毀損するものだったか否かを争点とするもので、直接的に明代の万引きと自殺が事実だったかどうかを判断するものではないから、東京高裁は万引き事件そのものの存否について明確な文言で判断を下しているわけではない。

 しかし、被害者が「万引きしたのは朝木明代」と主張していることについて、東村山署の捜査の結果、東京地検に送致されたことを理由に違法性を否定したことは、事実上、被害者の主張の真実性を認定したに等しい。東京地検は万引き事件については明代の死亡によって不起訴とする決定をしたが、「明代の万引きの事実は認める」とする結論を東村山署に伝えている。

 この事実は千葉が証人尋問で明らかにした。被害者の「朝木明代に万引きされた」という被害申告は、東村山署の捜査と東京地検の捜査によって事実であると認定されたということだった。千葉のこの証言は裁判官の心証形成に少なからず影響を与えたのではあるまいか。

 さらに東京地裁は矢野と朝木が裁判でも主張した「創価学会による捏造説」を否定したのみならず、その主張が創価学会に対する名誉毀損行為であると認定し、東京高裁も追認している。このような認定からすれば、東京高裁もまた明代の万引きの事実を認定したに等しいといってよかろう。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第15回
想定外の発言

 平成28年5月23日、元東村山市議の山川昌子が『東村山市民新聞』の記載によって名誉を毀損されたとして、同ビラを発行する現職東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判の第5回口頭弁論が東京地裁立川支部で開かれた。出廷したのは原告山川と、被告側は田中弁護士だけだった。

 この日、東村山市議会は臨時議会が開かれており、矢野も朝木も出廷できなくなったらしい。そのため、武蔵村山市議Aが矢野の準備書面のコピーを裁判所まで届けたようである。

 原告側は5月16日付で新たな準備書面と3点の書証を提出し、被告らも5月19日、原告準備書面に対する反論を記載した準備書面を提出していた。前回口頭弁論で裁判官は「次回が最後ですよ」と述べ、この日で弁論を終結すると予告していた。だから、この日の口頭弁論は提出書類の確認だけで終結するのではないかとみられていた。

 裁判官は開廷を告げると、双方が提出した準備書面と証拠の確認を行った。ところが原告が提出の意思表示をしたあと、被告代理人が想定外の発言をして、順当な進行に待ったをかけた。裁判官が被告代理人に同じように確認を求めると、代理人はこう述べたのである。

田中平八弁護士(矢野・朝木代理人)  準備書面の提出はいいんですが、一応、朝木直子の本人尋問を申請しておりましたので……。

 朝木が自分に対する尋問を申し立てたのは前々回の口頭弁論においてである。ところが朝木は前回口頭弁論では、これについて裁判官の判断を聞きもしなかった。ところが裁判官が結審を予告していた口頭弁論当日になって、田中弁護士は尋問の申し立てに対する判断をただしたのだった。なお私には、「一応」という文言をはさんだところに田中弁護士の弱気がのぞいたように思えた。

朝木の尋問申請に改めて判断

 朝木への本人尋問を申請したあと、何か具体的に「山川が詐欺事件に関与した」とする事実について重要な証言をする可能性があると思わせるような証拠の提出もない。朝木を尋問することは時間のムダとしか思えなかった。

 それでも裁判官は一方的に結論を出すことはせず、原告山川の方に顔を向けて意見をただした。一応、法律に基づき、弁護士から提出された正式な申請だから、慎重に判断しようとしたのだろう。これに対して山川は毅然としてこう答えた。

山川  被害者のTさんが証言するというのならともかく、朝木さんが証言するといっても伝聞にすぎないのですから、尋問の必要はないと思います。

 裁判官は田中弁護士に「原告はこういってますが、どうですか」と再度、意見を求めた。すると田中弁護士は山川の主張にいっさい反論せず、裁判官に対してこう答えただけだった。

田中弁護士  裁判官のご判断に従います。 

 裁判官は田中弁護士の発言を聞くと、数秒の間を置いたのち、こう述べた。

裁判官  では、陳述書も出ていますしね、前回もいったとおり、これで本件は終結とします。 

 判決言い渡しは、平成28年7月13日午後1時10分となった。

明確になった裁判官の認識

 前回の口頭弁論で田中弁護士は、原告がその1週間前に提出した準備書面について、すでに受領していたにもかかわらず「今もらったばかりだから、改めて反論したい」と申し立て、その結果、裁判官はもう1回口頭弁論を開くことを決定した。原告はこの件について、今回提出した準備書面で、田中弁護士の上記申し立ては〈虚言をもって裁判の進行を阻害する悪質な行為である〉と批判していた。田中弁護士が裁判の引き延ばしを意図したのかどうかは定かではないが、裁判官がそんな疑念を抱いていたとしても不思議はなかった。

 また尋問を申請するには少なくとも記事に名誉毀損が成立しないことについて相当の供述をするだけの理由があったはずだが、この日、田中弁護士はその点についてあらためて積極的に主張もしなかった。さらに山川から「伝聞にすぎないから尋問の必要がない」と反論され、裁判官から再反論の機会を与えられたにもかかわらず、それに対してもなんらの反論もしなかった。裁判官は前回口頭弁論における田中弁護士の発言からこの日の発言までを総合的に判断し、朝木の尋問をしない決定を下したのではないかと思われた。

 いずれにしても、いよいよ結審が迫った時点で田中弁護士が、裁判官が特に触れようともしなかった朝木の尋問について改めてその判断を確認したことで、裁判官の認識がより明確になったようにも思える。普通に考えれば、朝木を尋問することによって新たな展開の可能性があると判断すれば、田中弁護士がいわなくても、裁判官の方から朝木に対する尋問を許可したのではあるまいか。裁判官は、少なくとも、朝木の尋問に時間を費やす必要はないと判断したということと理解できよう。

 しかも、田中弁護士が確認を求めたあと、原告の意見を聞き、さらに田中弁護士に対してさらに意見を求め、「裁判官の判断におまかせする」という回答を得たのだから、手続きとしてもあとで「一方的な判断」と非難される理由もなくなった。

 そもそも、田中弁護士が尋問の確認を求めるまで、裁判官からそのことに触れる素振りはいっさい見えなかった。つまり裁判官としては、予定どおり、この日で弁論を終結する心づもりで法廷に臨んでいたのではないかという気がしてならない。

 この日までに、矢野と朝木が「山川は詐欺事件に関与した」と書いた出来事の実態はどんなものだったのか、それを明らかにする2つの重要な証拠が、原告側から新たに提出されていた。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第16回
もう1人の支援者による証言 

 第5回口頭弁論で原告が提出した2つの重要な証拠のうち、1つは、貸金が返済されないことで被害者Tが相談した人物の1人による証言(陳述書)である。

 この人物Oは原告とも親しい関係にあり、原告よりもあとに相談を受けている。Tから相談を受けた当時、原告がすでに相談を受けていたこともOは知っていた。つまり、貸金を返してもらえずに困り果てたTを、山川がどれほど支援してきたかもOはよく知っていた。

 OはT以外にもM(原告と被害者Tの共通の知り合いで、矢野らが「詐欺グループの一員」と主張している人物)との間で金銭トラブルになったことのある市民がいることを耳にし、TがSに対する返金訴訟を起こした際には、その市民に証言協力をしてくれるよう仲介したことがあった。

 被告らは本件で、原告とは知り合いで「詐欺グループの一員」であるMがどういう人物だったかを立証するために、2通の陳述書を提出している。そのうちの1通が、原告とともにTに協力したOの依頼によって実現したものだった。

 つまり矢野と朝木は、かつて原告とともにOがTを支援する目的で尽力して作成した陳述書を、今度は原告を攻撃する材料として利用したということになる。通常ではとても考えられない、血も涙もない裏切り行為だが、矢野と朝木が本件にこの陳述書を提出することについて、Tは了解していたのだろうか。

 返金訴訟の際にTに協力したOは、原告が「詐欺事件に関与した」とする本件記事を見て驚き、憤りを覚えた。その後さらに、TがSを民事提訴した際に自分が骨を折って協力を取りつけた陳述書が、今度は逆に原告を攻撃する材料に使われていることを知り、怒りを隠さなかった。

 さて、本件記事を見たOは、ただちに被害者Tに電話をかけた。Tを支援してきた山川を「詐欺に関与した」などと書いているこの記事はどういうことなのか、Tは矢野らに対して本当にこんな説明をしたのかどうなのか、それを確認するためである。原告が新たに提出した証拠の1つが、その通話内容に関するOの証言だった。

被害者Tの弁明

 通話内容のうち、前半の30秒だけは録音が残っており、その部分については反訳が提出されている。それによると、Oが「実はね、東村山市民新聞が」、「配達されて」、「見たんですよ」、「Tさんが情報提供したんだなー、と思って読んでたんだけど……」と話しかけるが、この間、Tはただ「ええ」「ええ」と答えるだけだった。

 Oはさらに「ちょっといくつか」「間違いというか」と続けた。しかし、それでもTは「ええ」「ええ」と繰り返すだけである。Tがようやく自ら口を開いたのは、Oが「ちょっとひどいな、みたいなとこがあってね」と踏み込んだときだった。普通なら、「何の記事のこと?」とでも聞くところだろう。ところが何も聞かないまま、Tはこう答えた。

「ああー、私、まだね、あの、ちょっと、あの、知ってたんですけどもー」

 この間、OはTに対して「読んだ」などとはいったが、記事が「山川が詐欺事件に関与した」というものだと特定できる文言は一言も発していない。しかしTは、「まだ(読んでいない)」「知ってたんですけど」などと答えている。Oから「東村山市民新聞」の件で電話がかかったというだけで、Oが何の記事のことをいっているのかをTはすぐに理解したということがわかる。

 Oによれば、会話はその後も続いた。録音はTが「朝木さん……」といいかけたところで終わっているが、Tは「実はまだその新聞を読んでいないんですよ」と続けたという。Oがどの記事のことをいっているのか確認していないにもかかわらず「読んでいない」というのは、Tがそれと思う記事について、O(あるいは山川)に対してなにか負い目があったのか、詳細に聞かれては都合が悪いと自覚する何かがあったからであるように思われた。

 それ以後の会話については録音されていないため、Oが陳述書を提出して証言している。それによれば、Tはこう話したというのである(趣旨)。

「山川さんには何の恨みもないんだけど、Mが許せなくて」

 Mとは直接金を貸した相手であるSの実の姉である。TはSに対して返金訴訟を起こし、和解成立後に返済が滞ったため、今度はSを告訴しようとした。その際、TはMも告訴の対象に加えていた。つまりTは、当初からMも「詐欺グループの一員」であると認識していた。この告訴の際、山川はTを支援するために陳述書を提出したという関係にある。TがMをいまだに敵視している理由はあっても、山川を敵視する理由はないはずだった。そのとおり、Oがやんわり追及したのに対して、Tは具体的にそう聞かれる前に自ら「山川さんには何の恨みもない」と釈明したということだった。

 本件記事を「まだ読んでいない」といったにもかかわらず、ここまで釈明するとはやはりTは問題の記事を読んでいたとみるべきだろう。しかしその内容は、自分の思いとは異なり、山川を「詐欺に関与した」と断定するものだった。Tとしては、自分が記事のような情報提供をしたと思われては、あれほど支援してくれた山川やOに対してとても顔向けできないことを十分に承知していた。

 だから、当初は「読んでいない」ことでこの場をやり過ごそうとした。しかしOの追及に耐えきれず、「山川さんには何の恨みもない」と弁明するに至ったようにみえる。朝木に相談を持ち込んだTとしては、山川が「詐欺事件に関与した」かのような記事が掲載されたことで、山川に対して負い目を感じていたのだろう。だから、「山川さんには何の恨みもない」という弁明の言葉が先に出たということではないだろうか。

 いずれにしても、Tのこの弁明は、Tが「山川は詐欺事件に関与した」とはまったく認識していないことを示すものにほかならないと思われた。

(つづく)
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