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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

『民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒』(ユニコン企画発行、長崎出版発売、1200円+税)

現在の“東村山の闇”の原点である議席譲渡事件と女性市議転落死事故についてのルポルタージュ。今は絶版となっていて書店では買えないが、手元に在庫があるので、希望の方はこちらにメールしてください。書籍代+送料でお分けいたします。

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元市議名誉毀損事件 第17回
直筆の署名と捺印

 第5回口頭弁論までに原告が提出していたもう1つの重要な証拠は、被害者T自身の陳述書(=「証言」)である。この陳述書は第4回口頭弁論(平成28年4月11日)以後に作成されたものではなく、平成22年にTがS(金を貸した相手)に対して返金を求めて提訴した際に作成されたもので、T本人の直筆の署名と捺印がある。

 陳述書の日付は「平成23年」となっており、以後の「○月○日」の欄の日付は空白になっているが、重要なのは「平成23年に被害者T自身がSに対する貸金状況について証言した」ということである。当時の貸金返還訴訟に提出することになれば日付を記入しなければならない。しかし、日付が記載されていなくても「Sに対する貸金状況に関する被害者T自身の証言」という本質は署名・捺印によって保証されている。

 TがSに最後に金を貸したのは平成21年の11月で、平成22年3月に提訴、和解成立が平成23年6月である。陳述書の頭書にはその裁判の事件番号が記載されてもいるから、この陳述書が返金請求訴訟の最中に作成したものであることは疑いなかった。被告らが提出した被害者Tの告訴状が平成24年11月5日付だから、告訴の1年以上前に作成されたものということになる。

 山川は当時、被害者Tから「貸金を返してもらえなくて困っている」との相談を受け、東村山署に相談に行き、アドバイスに従って弁護士を紹介するなどTを支援するために奔走した。そのおかげで、Tは提訴することができた。「金を詐取した連中の仲間」だと思っている人物に対して、通常、貸金を取り返す相談をもちかける者はいない。

「必要ない」と言い張った被告ら

 なお、朝木直子が陳述書を提出した際、原告が「伝聞にすぎない朝木の陳述書ではなく、被害者Tの陳述書を提出すべきだ」と反論したのに対し、被告らは「(被害者Tが警視庁に提出したSらに対する告訴状)を提出している以上、重ねてTの陳述書を提出する必要がないと判断しているためである」と主張していた。

 被告らは告訴状だけでなく、Tが陳述書を作成した裁判の和解調書、さらにその裁判に提出したMと関わりのあった市民の陳述書を2通提出していた。被告らが提出したこれらの書類をみる限り、被告らはTから本件貸金に関わる書類一式を預かっているとみるのが自然ではあるまいか。当然、その中には、今回原告が証拠として提出したT自身の陳述書も含まれているだろう。しかし被告らは、T自身の陳述書に限っては「提出する必要がない」と主張していたわけである。

 被告の矢野と朝木は、最近の準備書面で「山川がMに対して『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが、本件詐欺事件の端緒となった」、すなわち「『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話すことによって山川は詐欺事件に関与した」と主張している。被害者Tの陳述書を評価するにあたり、まず注目されるのは、陳述書の中に、矢野と朝木が主張する「山川が詐欺に関与した」と疑われるような記載があったのかどうかである。

親切すぎる対応

 Tの陳述書はSに貸した2600万円の返還を求めるものだから、Tがいかなる経緯でそのような大金をSに金を貸すことになってしまったのかが詳細に記載されていた。陳述書ではまず、被害者Tが直接金を貸した相手Sの実の姉であるMとの関わりについて述べている。

 それによると、Mはマッサージをしている間、身内に経営者がいるとか、妹が毎年海外旅行に連れて行ってくれたり、よくブランド品をくれるなどと自慢話をしていた。平成21年の5月上旬、Mがしばらくぶりにやってきたときのこと、Mは「妹が孫の月謝の支払いに困っているので10万円を貸してもらいたい。すぐ返すので」といってきた。Tは高級婦人服を個人で商っており、「10万円ぐらいなら」と思ったのだろうか。Tはその場で10万円をMに手渡した。

 その後しばらくして、Mの妹であるSが「お礼に伺いたい」といってMとともにやって来て、その日を境にSはT宅を頻繁に訪問するようになった。ある日、Tが夫婦関係がもめていることを話すと、Sは弁護士を紹介するといって、事務所まで同行した。

 和解成立後に被害者Tが警視庁に提出した告訴状によれば、弁護士との面談にはSも同席した。Tは弁護士に対して親から相当の金融資産を相続した旨を具体的な金額で説明をした。当然、Sもその話を聞いていた。もちろんTは、弁護士に話した自分の資産がまさかのちにSに狙われることになるとは思いもしなかった。

 また、Tが持病を持っていることを知ると、Sは「知り合いの先生がいる」と病院を紹介し、その病院まで連れて行ってくれるなどした。その際にもSは診察室までついてきた。その後、通院は毎月1回続いたが、10月頃までSは毎月のように診察に同行した。Tはそのたびに固辞したが、Sは同行するのをやめなかった。

払拭された不安

 ただ、Sはこうして通常では考えられないくらい親切にしてくれたものの、「すぐに返す」といっていた10万円は5月下旬になっても返すそぶりをいっこうにみせなかった。いつ返してくれるのだろうかとTは不安に思うようになっていた。親切にかこつけて、借金を返さないつもりではないか、と。

 ところが、Tのそんな不安を一気にかき消してしまう出来事が起きた。5月末、SがMといっしょにやって来て、「12万円をお返しします」というのだった。「それは多すぎます」とTは2万円を返そうとした。しかしSは「この2万円はお礼です」といって引かなかった。Tは仕方なくその2万円を受け取ることにした。

 ――ここまでが、TがSに多額の金を貸してしまうまでのプロローグだった。Sが10万円の借金をきっかけにTと知り合い、Tの具体的な資産状況を知り、さらに関係を深めていった様子がうかがえる。この間に、原告山川の名前はいっさい出てこない。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第18回
貸金が重荷に

 被害者Tの陳述書によれば、Sからの本格的な借金申し込みが始まったのは、10万円を貸したのに対して12万円を返してきた翌月(平成21年6月)のことである。Sは「知り合いの魚屋が資金を必要としている。年内には返すから300万円を貸してほしい」というのだった。

 Tは躊躇したが、Sは「2人の娘が保証人になるから」というので貸すことにした。Tは陳述書で、「病院についてきてもらったり、ホテルで食事をご馳走になったりしたこともあり」、断りきれず、Sに金を貸してしまったと述べている。Sがそこまで計算していたのかどうかは定かではない。しかし、多額の借金を申し込んだタイミングとその後の状況をみれば、Tからみて過剰とも思えるSの「親切」ぶりは、Tにできるだけ恩を売ろうとしていた可能性を否定できないのではあるまいか。

 いずれにしても現実に、その300万円を手始めにSはいろいろな理由を付けて同年7月に300万円、8月ごろには400万円と立て続けに借金を申し込むようになった。「貸付先」はいずれもS以外の事業主で、名目は「事業資金」だった。だから、それぞれの事業に応じた、それらしい「見返り」があるとも説明された。金の受け取りは必ず現金で、いずれもSが「仲介」するといって受領し、「事業主」は姿を見せなかった。

 Tはこのころから、貸した金をすべて早く返してもらってSとの貸借関係をすべて清算したいと思うようになっていた。その時点で、誰かに相談することも考えた。しかし、そうなれば貸金のすべてを打ち明けなければならないし、また人に相談したことがSの耳に入れば、金を返してもらえなくなるのではないか--。Tはこのような出口の見えない不安にさいなまれるようになっていたという。

返してもらえない不安

 そんなとき、Sはさらに米屋の事業資金名目で借金を申し込んできた。Tは「もう遠慮したい」というそぶりをみせたのだろう。するとSはこう畳みかけた。「これを貸してくれれば、前に借りた分も全部返してしまうから」と。まるでTの心中を見透かしているようだった。

 これを聞いたTは「今度貸すことで今までの金が全部戻ってくるのなら、誰にも知られずにすむ」と考えてしまう。通常なら、Tは金を貸している立場で、金を返してもらうことについて相手に遠慮する必要はない。ところが、それどころか相手は「金をもっと貸してくれなければ金を返せない」などと身勝手な要求をしているのだった。Tにとって、すでに1000万円を超える金を相手に渡してしまっていることが、むしろ弱みになってしまっていたのである。

 借金をカタにした無言の脅しといってもよかろう。Tはそこまで追い込まれた状況にあったということである。こうしてTはさらにSに金を貸してしまった。

 それから間もなくSは「米屋さんからのお礼」といって米30キロを持ってきた。資金を必要としていた米屋の気持ちということで、Tを安心させようとしたのだろう。その時点でTに法的手段にでも出られては元も子もないということだったかもしれなかった。 

「返済のためには金が必要」

 とうとう最後には、Sはあからさまにこういって借金を申し込んできた。「今まで借りた金を返すだけの金が入る予定があるが、そのためには急いで500万円が必要だ」と。Tはまたしても、「金を返してもらえるのなら」との思いから、さらに500万円を貸してしまった。

 こうしている間に平成21年10月、最初の返済期限が訪れた。しかし返済はなく、それどころか、Sは貸してくれないと返せないような口ぶりで重ねて借金を申し込んできた。Tは「返してもらえないと困る」という気持ちが先に出て、仕方なくさらに2回にわたって計300万円を貸してしまった。

 こうして最終的にTは、Sに2600万円を貸してしまう。なおSは借金の際には「銀行には振り込まないで」と、いずれもSが「仲介」するといってベンツに乗って手土産持参で受け取りに来たという。「事業主」は姿を見せなかった。直接取りに来たのは証拠を残さないためだったものとみられる。

 しかし、やはり期限が来てもSから返金はなかった。「警察に相談するしかない」といったところ、やっと一部が返金されたが、TがSらに対して返金訴訟を提起するまでに、2000万円以上が未返済の状態となったのだった。

Tの述懐

 Tの具体的資産額を知ったSは、Tを病院に連れて行くなど世話を焼いて人間関係を築いた。最初の300万円を借りることに成功すると、Sは「むげには断れない」というTの心理を見透かし、あるいはTにそれなりの見返りをぶら下げて期待感を刺激しつつ借金を重ね、しまいには「貸さなければ返してもらえないのではないか」という恐怖を植え付け、断れない状況に追い込んでいった――。TがSに多額の金を貸してしまった経過は以上のように要約できる。

 仮にTがSに金を貸した経過の中で、ほんのわずかでも山川が顔を出した事実があれば、Tはそのことを記載しただろう。しかしTの陳述書の中に、原告山川の名前すら発見することはできない。矢野と朝木は、山川がM(Sの姉)に「Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「本件詐欺事件の端緒となった」と主張しているが、陳述書の中にそのような記載もいっさい存在しなかった。

 それどころか、Tは陳述書で、Sから最初に多額の借金の申し込みがあったときの心境についてこうも述べていた。

「そのような申し入れは断ればよかったのですが、SやMにいろいろとお世話になっていたこともあり、断りきれず……」(趣旨)

 TはSに最初に金を貸してしまった理由を明確にこう述べている。「山川がM(Sの姉)に『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが本件詐欺事件の端緒となった」とする矢野らの主張とはかなりの開きがある。陳述書全体を見渡しても、「独り暮らし」であることが原因で大金を貸してしまったとする記載はいっさいない。つまりTは、「山川がM(Sの姉)に『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが本件詐欺事件の端緒となった」などとはまったく考えていないということにほかならなかった。

 陳述書に山川の名前がいっさい出てこないことに加え、Sに大金を貸してしまった理由についてのTの認識から判断すれば、「山川が詐欺事件に関与した」などという事実は存在しないとみるのが常識的な結論だろう。だから矢野は、Tの陳述書を入手していたにもかかわらず提出しなかったということではあるまいか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第19回
準備書面における原告の主張

 原告は被害者Tの陳述書とTに事情を聞いたOの陳述書とともに、準備書面5を提出している。口頭弁論1週間前の平成28年5月16日である。1週間前に提出すれば、被告側にも反論を用意する時間があるだろうという趣旨もあった。

 準備書面5で、原告はまず被害者T自身の陳述書に基づいて次のように主張している。

〈被告らは原告がM(筆者注=原文は実名。被害者Tから多額の金を借りたSの姉、以下同)に対して「Tさん(筆者注=実名、以下同)が一人になっちゃったのよね」と話したことが「本件詐欺の端緒となった」と主張しているが、Tの陳述書には、TがS(筆者注=実名、以下同)に対して最終的に2600万円を貸してしまう経過や心理状態が詳細に記載されている。とりわけ同陳述書……には、「そのような申し入れは断れば良かったのですが」と前置きした上で、……「……Sらにいろいろと世話になったこと」で借金の申し込みを断れなかったと当時の胸中を具体的に述べている。すなわち、TはSらに世話になっていなければ借金の申し入れを断っていたと述べているのであり、この点からもTがSに多額の貸金をしたことと「一人暮らし」であることとは全く無関係だったことが明らかである。〉

 また原告は、Tの陳述書には、多額の金を貸してしまったTが最後には「貸さなければこれまでの金を返してもらえないのではないか」と不安になり、さらに求められるままに金を貸してしまうに至った心理状態が記載されている一方、原告にはいっさいの言及もない点を指摘。これらの点からも、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことと本件「詐欺事件」にはなんらの因果関係もないと主張していた。

 矢野らは原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件に関与した」とする根拠であると主張している。この点について原告は、刑法上の観点からも反論している。

「詐欺事件に関与した」とは「詐欺の共犯」であるとの趣旨である。「共犯」であるとは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した際、原告がMと同様に被害者Tから金を詐取するとの犯意を持っていたと被告らは主張しているということになる。

 原告はMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したこと自体を否定していない。ところが被告らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件の端緒となった」と主張するのみで、原告がSと同じ「犯意」を持っていたとする立証はもちろんのこと、主張すらしていない。このような被告らの主張について原告は次のように主張している。

〈詐欺の犯意がない原告を詐欺の共犯であるとする主張は、刑法の「共犯理論」を無視した独自の主張であり、本件記事の真実相当性を主張することは許されない。〉

 裁判所としても、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した事実のみをもって「詐欺事件に関与した」と認定するのは難しいのではあるまいか。

 以上が、「山川は詐欺事件に関与した」とする本件記事の本論に関して原告が準備書面5で行った主張だった。

奇怪な反論

 原告が最後の準備書面5を送付してから3日後、被告らは準備書面5に対する反論を記載した準備書面4を送付してきた。原告が提出した準備書面5のうち最も重要な、被害者Tの陳述書に基づく主張に対して矢野らはどう反論するのか――。これが原告の最大の関心事だった。矢野らは準備書面4でこう主張していた。

〈被害者Tの陳述書に、Sによる貸金名目の詐欺に際し、原告の口利きによって詐欺された旨の記載がないとしても、原告山川が……犯人グループのMに被害者の個人情報を報せたことが、本件詐欺事件の引き金になったという被告等主張の事実が否定される訳がない。〉

 被告らはこう主張し、さらに〈(Oの陳述書)を含め、原告山川がMに被害者女性(T)が……独居となったという個人情報を報せたことが詐欺事件の引き金となった、という本件訴えの争点事実〉と主張し、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」とする事実が、あたかも本件ですでに認定済みの「本件訴えの争点事実」であるかのように主張していた。

 矢野らがここで用いた「本件訴えの争点事実」という聞き慣れない文言が厳密に何を意味するのかは定かでない。しかし、「争点」という以上は「重要な争点」であり「摘示事実」という意味のようにも聞こえる。

 しかし矢野らがそう主張しているのだとしても、原告が問題にしている本件記事は「原告が詐欺事件に関与した」というものである(記載内容は〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉など)。したがって、本件の争点は「原告が詐欺事件に関与した」する記事に真実性・相当性があるか否かである。

 すると矢野らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件に関与した」証拠であることを立証しなければならないことになる。つまり「共犯」としての「犯意」、あるいは山川が当初からTから金を詐取する目的でMやSと通牒関係にあったことを立証しなければならない。言い換えれば、それが立証できて初めて、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが重要な意味を持つことになるのである。

 矢野らは本件の立証対象について、「『原告山川が詐欺事件に関与した』とする事実」ではなく、「『原告山川がMに対してTの話をしたことが詐欺事件の引き金になった』とする事実」であると主張しようとしていたのだろうか。問題となっている『東村山市民新聞』第186号にはそのような記載は存在しない。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第20回
またしても立証対象をすり替え

 被告の矢野らは「原告山川が詐欺事件に関与した」とする事実に対する立証をいっさいせず、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」という事実が〈本件訴えの争点事実〉などと主張している。本来の立証対象である「原告が詐欺事件に関与した」という摘示事実に触れようとしない矢野らの主張をどう理解すべきだろうか。

 矢野らがここで用いた〈本件訴えの争点事実〉なる文言が「摘示事実」に替わるものであるなら、きわめて違和感のあるこの主張も理解できるのかもしれない。〈本件訴えの争点事実〉なる文言を「摘示事実」に入れ替えれば、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」という事実が摘示事実であるということになるのである。

 そうなれば、本件の立証対象は「原告が詐欺事件に関与した」ではなく、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」という事実であることになる。またしても矢野らは、争点をすり替えたとしか理解できなかった。

 立証対象が「山川が詐欺事件に関与した」という事実だとなんらの関連性も示せない。しかし、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」という事実なら関連性だけは主張できる、と。原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことは原告自身が認めている事実なのだから。

 原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した事実は、それが「詐欺事件の引き金になった」とする事実が真実であることを証明するものではない。しかし原告がMに対してそのことを話したのは事実だから、それが「詐欺事件の引き金となった」と矢野らが信じたことにはまったく根拠がなかったわけではないと(それでも相当性が認められるのは難しいと思うが)。

 また、仮に「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」とする事実が「本件訴えの争点事実」であるとする矢野らの主張が認められるとすれば、原告が提出した被害者T自身の陳述書の重要性は大きく後退することになる。Tが陳述書で述べているSに対する貸金の具体的経過は、あくまで事後の出来事ということになるからである。

 矢野らが「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」とする事実が「本件訴えの争点事実」であると主張を変えたのは、TとOの陳述書は証拠価値がないものにしようとする意図もあったのではあるまいか。原告からTの陳述書を提出されたことは、矢野らにとってかなり痛手だったということなのかもしれなかった。

毎回のように主張が変遷

「本件記事は『原告山川が詐欺事件に関与した』と主張するものである」とする原告の主張に対し、矢野らの主張は次のように変遷してきた。



(本件における矢野らの主張の変遷)

「事実は本件記事のとおりである。」(答弁書)

「原告山川がMに、高額な資産を有する一人暮らしのTの情報を漏洩したことは、Sの詐欺行為を仲介したものである。」(のちに、上記の記載のうち「高額な資産を有する」の部分を削除)(準備書面1)(筆者注=ここまでは一応、摘示事実は「原告山川は詐欺事件に関与した」というものであることを前提にした主張である)

「摘示事実は『結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。』『元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』』との記載である。原告山川はMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話しており、山川が本件事件を仲介し関与したことは明らかである。よって、上記の記載は客観的事実と一致する。」(筆者注=本件記事は、「山川は『口ききをしただけ』と記載したにすぎない」とする主張へと変遷=最初の摘示事実のすり替え=準備書面2)

「原告山川はMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と詐欺犯人にとって耳寄りな情報を提供し、本件詐取のきっかけを提供したものであるから、原告が本件詐欺に関与したことは間違いない。」(準備書面3)(筆者注=原告がMにTの話をした事実に基づき「原告山川は詐欺事件に関与した」とする主張に戻った)

「原告山川がMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話したことが詐欺事件の引き金となった、というのが本件訴えの争点事実であり、その事実は山川自身が認めている。原告山川による上記情報漏洩によって本件詐欺事件が発生したことが真実であることは明らかである。」(=最後の準備書面における主張。前回の「原告山川は詐欺事件に関与した」とする主張から「山川がMにTの話をしたことが詐欺事件の引き金となった」とする主張へと変遷)



 矢野らの主張の変遷をみると、③で不可解な主張をしたものの、④においては「山川が詐欺事件に関与した」とする主張に戻っている。この時点から、山川がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した事実を根拠に据えて主張を組み立てようとする方向性が明確になった。

 ところが最後の⑤になると、山川がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件の引き金となった」、山川がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことによって「本件詐欺事件が発生した」となり、〈「原告山川を詐欺の共犯であるとする主張」は存在しない〉とまで言い切っている。上記④では「原告が本件詐欺に関与したことは間違いない」と断定しているが、これは「詐欺の共犯」という意味ではないのだろうか。

 いずれにしても、最終準備書面に至り、矢野らの主張が「山川は詐欺事件に関与した」というものから「山川がMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話したことが詐欺事件の引き金となった」というものへと変遷したことは明らかなようである。「詐欺事件に関与」ではなく「詐欺事件の引き金となった」とは、これまでにない主張だった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第21回
Tの陳述書を持っていた可能性

 最終準備書面に至り、矢野らが「山川は詐欺事件に関与した」というものから「山川がMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話したことが詐欺事件の引き金となった」というものへと主張を変遷させたのはなぜなのだろう。

 矢野らが「詐欺事件の引き金となった」と主張するようになる直前に、原告は矢野らが「提出する必要はない」と強弁していた被害者Tの陳述書を提出した。陳述書には、TがSと知り合い、最終的に2600万円を貸してしまうまでのいきさつと経過が詳細かつ具体的に記載されている。その一方、山川の名前はいっさい記載されておらず、もちろん山川の関与をうかがわせるような記載もなかった。そのことを矢野らが初めて知ったわけではあるまい。

 矢野らは第3回口頭弁論(平成28年2月10日)において、被害者TがSに返金を求めた裁判で和解調書のほか、「原告山川がTの個人情報を報せた」と主張するMから借金で迷惑をかけられたとする複数の市民による陳述書も提出していた。これらの陳述書はTの貸金問題とは別件の事案に関するものである。すると、矢野らはどうやって別の市民の陳述書の存在を知り、または入手し得たのだろうか。

 上記陳述書を提出したのが2月だったというタイミングから推測すると、山川から提訴されたあと、矢野らは被害者TにSを提訴、告訴した際の資料の提供を依頼したのだろう。Tは関連資料一式をそっくり手渡した。その中に、Mから借金で迷惑を被ったという市民の陳述書が含まれていたということではあるまいか。

 その資料の中に、Sに大金を貸してしまったいきさつや経緯を詳細に記載したT自身の陳述書だけが含まれていなかったと想定するのはかなり無理があろう。この陳述書は被害者Tが貸金被害を訴える基礎事実を記載した最も重要な資料である。したがって、Tが矢野らに渡した資料の中にはTの陳述書が含まれていたと推測する方がよほど自然だろう。

 矢野らは山川から300万円の損害賠償を求めて提訴されているわけだから、当然、Tから提供された資料を精査しただろう。その結果、「山川が詐欺事件に関与した」とする事実を裏付ける資料を発見することはできなかった。

 それどころか、Tは陳述書でSに大金を貸してしまった背景事情とともに、Tが最終的に精神的にも追い込まれた状態だったことまで告白しており、「貸さなければ返してもらえないのではないか」との思いからさらに貸金を重ねてしまった経緯を詳細に記載している。その一方で、山川の関与をうかがわせる記述はいっさい存在しなかった。Tが陳述書で記載したSへの貸金の経過の中に多少の記憶の混乱があったとしても、山川の名前さえいっさい出てこないということは、この件について山川がいっさい関与していないことを裏付けていると判断できた。

 貸金に関する記憶の問題なら、矢野としてもまだつけ込む余地があったかもしれない。しかし、名前がいっさい出てこないということになると、もはやTの記憶の問題でさえない。だから矢野らは、Tの陳述書を提出するのは得策ではないと判断した――矢野らがTの陳述書を「不要」などとして提出しなかったのはこういうことではなかっただろうか。

変遷を重ねた事情

 終結が予定されている口頭弁論の前にそのTの陳述書が、本来は被告側が提出すべきであるはずのTの陳述書が原告側から提出された。被告側からすれば、どうみても、あってはならない事態だったのではあるまいか。立場上、Tは矢野側の人間のはずだからである。原告山川がTの陳述書を提出したことを確認した矢野らが、これで「山川が詐欺事件に関与した」とする主張を押し通すのはますます難しくなったと考えたとしてもなんら不思議はなかった。

 そこで思いついたのが、「山川がMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話したことが詐欺事件の引き金となった」という主張だったのではあるまいか。「詐欺事件の引き金となった」というだけなら、事実関係としては「詐欺事件」が発生する前の話であり、まったく別個の出来事ということになる。

「山川がSとの間に意思疎通があった」と書いていなければ、「引き金」となるかならないかは結果論にすぎず、「山川が詐欺事件に関与した」ということにはならない。「詐欺事件」そのものではなく、「詐欺事件の引き金となった」とする記事だということにすれば、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実とは関係がないから、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実について立証する必要はないということになるのである。

 だから、矢野らは準備書面4でこうも主張している。

〈(被害者Tの陳述書)と同様に、(Oの陳述書等)を含め、原告山川がMに被害者女性(T)が……独居となったという個人情報を報せたことが詐欺事件の引き金となった、という本件訴えの争点事実とは全く無関係な内容である。〉

 したがって、いかにTが陳述書で山川にいっさい触れていなかったとしても、そのことは「争点事実」とは無関係だから、原告がTの陳述書を提出したことには意味がないと主張しているのだった。この裁判にTの陳述書を提出する意味がないということになれば、矢野らが提出しなかったことも正当化されるという理屈だろう。

尋問申請を却下した背景

 問題は、「山川がMに対して『Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね』と話したことが詐欺事件の引き金となった」とする事実が「争点事実」であるとする矢野らの主張を裁判官がどう判断するかである。変遷を重ねた主張である上に、新たな争点のすり替えのようにみえる。

 本来、矢野らが上記の主張をするのなら、和解調書を提出した第3回口頭弁論で主張していても不思議はなかった。矢野らは第3回口頭弁論で、山川がMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したとする内容を記載した山川の陳述書を提出していたからである。しかし矢野らはこのとき「山川が詐欺事件の引き金となった」とは主張せず、「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。」とする記載が「摘示事実」であるなどと主張したのである(=被告ら準備書面2)。

 結局、矢野らは平成28年4月に提出した準備書面3でも「山川が詐欺事件の引き金となった」とは主張せず、原告が被害者Tの陳述書を提出した時点で初めてこう主張したのである。

 双方の主張の流れをみると、原告が「詐欺事件に関与した事実はない」と一貫して主張しているのに対し、矢野らは口頭弁論のたびに主張を変遷させている。「山川が詐欺事件の引き金となった」とする最後の主張にしても、原告がTの陳述書を出したために新たな主張をせざるを得なかったようにみえる。

 裁判官がこの流れをどう捉えているかは定かではないが、朝木直子に対する尋問申立をめぐり、「不要」であるとする原告の主張を容れ、申立を却下したところに、裁判官の心証の一端がうかがえるように思えた。

(「判決後」につづく)
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