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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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「重要容疑者」事件 第5回
 平成7年9月1日午後9時19分に事務所の矢野に「ちょっと休んでから行きます」という電話をかけたあと、明代は本当に矢野のいうように事務所には行かなかったのだろうか。矢野は7時過ぎに別れて以後、明代とは会っていないと主張するが、それにしては矢野の状況説明の変遷ぶりは不可解であり、不自然である。

 法廷では通常、主張が変遷した場合、合理的な根拠がなければ、当初の主張だけでなく変遷後の主張にも信用性がないと評価される。一方、千葉の陳述内容は一貫しているだけでなく、当夜の明代の動き、矢野にかけた電話の内容、9月2日0時30分ごろに矢野が東村山署にかけた電話の内容などを総合的にみると、明代が事務所に立ち寄ったとする推測には合理的な根拠があるように思える。

不自然な状況説明の背後

 ただ、裁判所がこの点を裁判の争点と考えているかどうかは別問題だった。平成23年4月25日、東京地裁は柳原に対し30万円の支払いを命じる判決を言い渡した。では、矢野勝訴の判決を言い渡した東京地裁の判断の根拠はどこにあったのか。

 東京地裁は柳原の記事を段落ごとに趣旨を要約したのち、まず「重要容疑者」という文言に対する裁判所の基本的理解を次のように明示している。



(「重要容疑者」に対する東京地裁の基本的理解)

「容疑者」という言葉は、……捜査機関によって犯罪の嫌疑をかけられている者を示す語であることは明らかであるし、特に「重要容疑者」という表現は、かかる容疑者の中でも、最も強い嫌疑をかけられている者を示す語であると理解される。



 文言自体の意味としてはそのとおりというほかないが、重要なのは記事全体の趣旨との関係において「重要容疑者」という文言がどのような意味を持っているかという点だろう。東京地裁は本文をどう理解したのか。東京地裁は続けて次のように述べた。



 被告は、本件記事中で、朝木議員の転落死の原因が、同議員の自殺であることは明確に記されていると主張するが、第10段落では、むしろ朝木議員の身辺の異変、すなわち同議員が「自殺」するかもしれないという結末を、原告が知っていたかのように記述しているのであって、それが単なる自殺ではないこと、要するに自殺を装った事件もしくは事故であることを示すように受け取れる表現が用いられている……



 第10段落とは矢野が「10時30分過ぎ」と事実を偽り、実際には翌9月2日0時30分ころ東村山署に明代の安否を尋ねる電話をしたことに対する柳原の推理を述べた部分である。

 午後10時30分ころ、朝木から警察に電話するよう依頼された矢野はすぐには電話せず、矢野が東村山署に実際に電話したのは2時間後のことだった。しかし朝木に対しては(メディアに対しても)10時30分過ぎに電話したことにした。この事実から類推されるのは、①矢野には10時30分過ぎに警察には電話できない理由があった②しかしそのことを朝木には隠す必要があった――ということである。

 さらに9月1日午後10時(朝木明代が自殺を遂げたとみられている時間帯)を迎えるにあたっては、明代が窃盗容疑(万引き)で書類送検されたにもかかわらず、矢野と明代はメディアや市民に対してアリバイを主張するとともに冤罪を主張していた――つまり世間に対して嘘をついていたという大前提がある。しかし刑事手続きは粛々と進められており、明代と矢野は自殺の数日後には東京地検に出頭し、事情聴取を受けることになっていた。

 9月1日午後、事情聴取を控えて矢野は弁護士に面会した。矢野の説明によれば明代も同席したことになっているが、長男の供述など客観的状況からは、明代は同席していないことがうかがえる。同席していないはずの明代が同席したとする矢野の説明も不自然に思える。

 つまり、9月1日夜の不可解な状況の背後には、明代の万引きの事実および明代が着実に窮地に立たされつつある事実を矢野は隠蔽しなければならないという大前提があった。その点は柳原の記事も同様である。明代の万引きと、明代がこれまであくまで強気に容疑を否認してきたという背景事情を理解していれば、9月1日夜、明代をさらに追い詰めるなんらかの出来事があり、そのことを矢野が知っていたとすれば、明代が自殺する可能性があると矢野が考えたとしても少しも不自然ではない。

飛躍した記事理解

 しかし裁判所は記事をたんにそれだけでなく、〈それが単なる自殺ではないこと、要するに自殺を装った事件もしくは事故であることを示すように受け取れる表現が用いられている〉とまで解した。これはやや飛躍した理解ではないかと思うが、明代が転落現場で救急車を断ったこと、被害を訴える言葉がなかったことについても次のような理解を示している。



 朝木議員が、発見直後に自ら救急車の手配を断るなど、何者かからの襲撃を受けたとは思えないような行動をしていたと記述する点は、同議員が自ら死を選ぼうとしたことを暗に指摘していると解する余地があるけれども、逆に見ず知らずの何者かに襲われたのではなく、親しい知人との争いの結果として、自分では意図せずに転落し、その何者かをかばおうとしたものと受け取る余地もある……。



 その上で東京地裁は、明代が万引き事件で書類送検されたことと矢野との関係に関する記述を次のように解している。



 さらに第6段落や第7段落では、朝木議員が蘇生して転落に至った動機を正直に話せば、原告が一番困ることになったであろうとか、転落死の数日後には朝木議員が万引き事件で起訴され、いずれ有罪になるであろうこと、そうすれば、同議員と同一会派の原告は、議員としての再選が困難となったであろうこと等を指摘することで、原告には、朝木議員に死んでもらいたいと考えるだけの動機があったように読み取れる記述となっているのである。



 仮に明代が一命を取り止め、万引き事件から転落死に至る経過をありのままに話したとすれば、最も困ることになるのは矢野であることに異論はない。もちろん、だからといってそれがただちに矢野が明代に手をかけたという主張になるということではない。また、手をかけたことについて具体的な証拠やそれを疑わせる証拠がないかぎり、「一命を取り止めた場合には最も困る」というだけでそれが手をかける「動機」であるという言い方もできないだろう。

 ところが東京地裁は、「朝木議員が蘇生して転落に至った動機を正直に話せば、原告が一番困ることになったであろう」と記載されていたことをもって「原告には、朝木議員に死んでもらいたいと考えるだけの動機があったように読み取れる」と述べたのである。ここにも論理的な飛躍があるように思えてならない。いずれにしてもこれが東京地裁の記事全体に対する基本的理解のようだった。

(つづく)
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