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民主主義汚染 東村山市議転落と日本の暗黒

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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その3)
矢野の解説に違法性を認定

 一審は実際に放送がいうような判断経路(「『犯罪の存在』を摘示しているか『犯罪の疑いの存在』を摘示しているかを判断した上で、名誉毀損の有無を判断するという経路」=前回参照)をたどったのだろうか。この裁判で問題となった主な表現を確認しておくと以下のとおりである。



(「東村山市民新聞」)

ア 「問題は『犯罪』関与の疑惑に進展!」

イ 「調査の結果薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ている。」

ウ 「薄井氏、セクハラどころか、ついに犯罪の疑惑が」

(「多摩レイクサイドFM」)

ア 「調査の結果、薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ています。」
イ 「薬事法68条は、無許可医薬品の効能効果または性能に関する広告をしてはならないと定めています。薄井氏、セクハラどころかついに犯罪の疑惑が浮上しました。」

上記放送に加えて、上記放送を受けて矢野が、「薄井が無許可医薬品である姫アグラの広告を実質的に行っている」とする趣旨の解説をした部分



 一審は「薬事法違反」(あるいはその「疑い」)と「職安法違反」(あるいはその「疑い」)とする矢野の主張に対して、まず問題となった表現が「事実摘示」か「論評」(あるいは意見表明)かの判断を行い、「論評」と認定できる場合には論評の前提に真実性・相当性があるかどうか、「事実摘示」と認定した場合に真実性・相当性があるかどうかを検討した上で、名誉毀損の存否を決するという考え方をたどっている。「論評」と認定した場合、その前提に真実性・相当性が認められれば「論評としての域を逸脱していない」ものと認定され、違法性はないと判断される。

 たとえば「薬事法違反」について東京地裁は、FM放送以外については「法的見解の表明」であり「論評の枠内」であるとして違法性を否定した。またFM放送のアシスタントによる放送部分(〈無許可無承認薬品「姫アグラ」の効能にまで触れて、薄井氏が宣伝をしていたのです。薬事法68条は、無許可医薬品の効能効果または性能に関する広告をしてはならないと定めています。薄井氏、セクハラどころかついに犯罪の疑惑が浮上しました。〉)についても〈論評としての域を逸脱していない〉として違法性を否定した。

 しかしFM放送のうち、矢野の解説部分に対する認定は異なる。矢野の解説部分とは以下の内容である。

〈……一種こう紹介記事風の形はとっていますが、……これを使えばこういう効き目があるんだよ、という風にまさにこの薬事法が禁止しているですね、そういう性能じゃなくて効能っていうんですよね、を宣伝をしている。広告を実質的に行っている、ということがわかったわけなんですね。〉

 上記部分について東京地裁は、

〈「紹介記事風の形で薬事法違反になることを逃れようとしているが、実際の意図は姫アグラの効能を宣伝することにある」との事実を摘示しており、……その事実の存在を摘示していると認定せざるを得ないものである。〉

 と認定している。その上で東京地裁は〈実際の意図が姫アグラの効能を宣伝することにあったことを推認することもできない。〉などと述べて真実性・相当性を認めず、矢野の解説部分について名誉毀損が成立すると結論付けた。

 今回の放送は、一審がFM放送の矢野の解説部分について名誉毀損の成立を認定したことに放送の冒頭近くで1度触れたものの、その後に何度も「一審はインターネット版を含めた『東村山市民新聞』の記事については名誉毀損を認めなかった」と主張しており、私には名誉毀損を認めなかった部分をより強調しようとする意図のように感じられてならなかった。

一審の判断経路

 また矢野の主張する「職安法違反」(あるいはその疑い)が「事実摘示」か「論評」かについて東京地裁は、

〈原告がシーズ社で求人誌ユカイライフの取材又は編集の業務に関与していた疑いがあること(筆者注=矢野の主張)は、論評の前提事実であり、それが職安法違反に当たること、又はその疑いがあること(筆者注=同)は、法的見解である。〉

 と認定し、その上でその法的見解に違法性があるかどうかを検討している。

 まず「原告がシーズ社で求人誌ユカイライフの取材又は編集の業務に関与していた疑いがある」との前提事実について東京地裁は次のように述べた。

〈(矢野らが提出した証拠は)原告が求人誌ユカイライフの取材又は編集の業務に関与していた疑いがあることが真実であることや、そのように信じたことに相当の理由があることを基礎付けるものではない。〉

 東京地裁はこう述べて前提事実の真実性・相当性を認めず、「職安法違反」(あるいはその疑い)とする意見表明について名誉毀損の成立を認定したのである。

 こうみてくると、東京地裁は①「事実摘示」か「論評」か→②真実性・相当性の存否――という最高裁判例に沿った名誉毀損裁判における通常の判断経路をたどっていることがわかろう。

 ここまでの東京地裁の判断の中であらためて注意すべきは、「職安法違反」(の疑い)とする「法的見解」(すなわち論評)の前提に真実性・相当性がないと述べて名誉毀損を認定したことである。

 放送はあたかも矢野の主張が「犯罪の疑い」の指摘だったと認定した結果、インターネット版を含めた「東村山市民新聞」の記事について「論評の域を出ていない」と認定したかのように主張している。しかし、「犯罪」の指摘か「犯罪の疑い」の指摘かによって違法性の有無が判断されるわけではない。

 放送がいうように一審判決は「指摘した犯罪の疑いがあるとの事実の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪の存在自体を証明する必要はないと解される」と述べた。これは「犯罪の疑いがある」と指摘した場合には「犯罪の疑いの存在」を立証しなければならないというだけであって、この最高裁判例はあくまで真実性・相当性の立証責任の範囲を示すものにすぎない。一審は「職安法違反の疑い」の真実性・相当性を検討した結果、名誉毀損を認定したのである。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その4)
 放送は〈第一審が最高裁の判例を踏まえ、「指摘した犯罪の疑いがあるとの事実の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪の存在自体を証明する必要はないと解される」との判断〉をしたにもかかわらず、東京高裁は最高裁判例を無視して〈「犯罪の疑いの存在であろうが犯罪の存在自体であろうが、姫アグラに関する報道はインターネット版を含めた『東村山市民新聞』の記事およびFM放送について名誉毀損は成立する」とした〉と主張し、東京高裁の判断は違法(したがって彼らの上告を受理しなかった最高裁の決定も誤り)であると主張している。

 しかしこの主張は前回に述べた名誉毀損裁判の判断の経路を無視し、聴取者を混乱させるものである。「薬事法違反」(あるいはその疑い)と「職安法違反」(あるいはその疑い)に関する矢野と朝木の表現について一審は「薬事法違反の疑いがあるという法的見解の表明」、「職安法違反、又はその疑いがあるという法的見解の表明」であるとした上で、個別の表現について真実性・相当性を検討している。

東京高裁の認定

 では東京高裁は放送が主張するように「犯罪」と「犯罪の疑い」の線引きをしないまま判決を下したのだろうか。東京高裁が行った認定は以下のとおりだった。



1 インターネット版「東村山市民新聞」(平成19年8月7日配信分)

〈薄井「被疑」特集〉
〈法律家・研究者の方々の応援により急展開!〉
〈照準は、はっきりと、違法行為、犯罪既遂の事実です。〉

〈1 ソープ(本番=売春)は勿論、「性風俗」は全部「有害業務」(確定判決)
 2 「有害業務」の宣伝(求人など)は職業安定法63条2号違反の犯罪(懲役刑)〉

〈法が否定する「有害業務」を「職業」などと叫んだ薄井氏及び薄井擁護派は、これで完全に破綻です。それどころではありません。犯罪の疑いまで出てきたのです。〉

(上記記載に対する東京高裁の認定)

〈上記記載は、被控訴人(筆者注=薄井)が職業安定法63条2号違反の犯罪行為をした疑いがあるという法的な見解を表明するものである。……法的な見解の表明は、事実を摘示するものではなく、意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである。……

 前記意見表明は、被控訴人が職業安定法違反の犯罪行為をした疑いがあるとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。〉=(「職安法違反の疑い」)



2 平成19年8月29日付「東村山市民新聞」158号

ア 〈問題は「犯罪」関与の疑惑に進展!〉
イ 〈調査の結果薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ている。〉
ウ 〈薄井氏、セクハラどころか、ついに犯罪の疑惑が〉

(上記表現に対する東京高裁の認定)

 東京高裁は上記表現について「いずれも法的意見の表明に当たる」と認定するとともに、「薬事法違反」に関する意見表明の前提事実は「東村山市民新聞」に記載された〈この削除した動画の中には、この無許可無承認医薬品「姫アグラ」の効能にまで触れて薄井氏が宣伝をしていたのです。薬事法68条は無許可医薬品の「効能、効果又は性能に関する広告をしてはならない」と定めています。〉との部分であると認定。その上で東京高裁は、「薬事法違反」に関する上記意見表明について次のように認定している。

〈……前記意見表明は、被控訴人が薬事法違反の犯罪行為をしたとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉(「薬事法違反」=「薬事法違反の犯罪行為」)

 また上記イ記載の「職業安定法違反」に関する「意見表明」について次のように認定している。

〈前記意見表明は、被控訴人が職業安定法違反の犯罪行為をした疑いがあるとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。〉=(「職安法違反の疑い」)



3 多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」平成19年9月5日放送分

ア 〈調査の結果、薬事法や職業安定法の違反をしているのではないか、という疑惑まで出ています。〉
イ 〈薬事法68条は、無許可医薬品の効能効果または性能に関する広告をしてはならないと定めています。薄井氏、セクハラどころかついに犯罪の疑惑が浮上しました。〉

(上記表現に対する東京高裁の認定)

 上記表現に対して東京高裁は〈各表現は、……法的意見の表明に当たる。〉とし、その法的意見の前提事実が〈この削除した動画の中には、無許可無承認薬品「姫アグラ」の効能にまで触れて、薄井氏が宣伝をしていたのです。〉(アシスタント)、〈……薄井さん自身がこの姫アグラという違法ドラッグについて、効能ですね、こういう効果が現れるという……効能についてですね、とくとくと喋ってるんですね。宣伝しています。……〉(矢野の解説)であると認定している。

 その上で上記意見表明について東京高裁は次のように認定している。

〈……前記意見表明は、被控訴人が薬事法違反の犯罪行為をしたとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉(「薬事法違反」=「薬事法違反の犯罪行為」)



4 平成19年12月15日付「東村山市民新聞」159号

〈薄井氏が特殊性風俗宣伝のネット動画で「違法ドラッグ」を紹介したことなど、薄井氏の言動について違法の可能性がある〉

(上記表現に対する東京高裁の認定)

〈(上記表現は)意見表明である。……前記意見表明は、被控訴人が薬事法違反の犯罪行為をしたとし、かつ、これに基づいて被控訴人に市議会議員としての適格性はないと論じるものであるから、いずれにしても、被控訴人の社会的評価を低下させるおそれがあることは明らかである。〉(「薬事法違反」=「薬事法違反の犯罪行為」)



 以上が名誉毀損と結論付けた表現に対する東京高裁の認定である。「薬事法違反」については「薬事法違反の犯罪行為」、「職安法違反」については「職安法違反の疑い」を主張する意見表明であると認定したものと理解できよう。判決文からは、放送がいう〈東京高裁は最高裁判例を無視して〈「犯罪の疑いの存在であろうが犯罪の存在自体であろうが、姫アグラに関する報道はインターネット版を含めた『東村山市民新聞』の記事およびFM放送について名誉毀損は成立する」とした〉という事実は読み取れない。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その5)
「疑いの存在」の立証が必要

 放送は何度も「犯罪の疑いがあるとの事実の摘示をした場合の立証対象は犯罪の疑いの存在であり、犯罪自体の存在を証明する必要はないと解される」とした最高裁判例を強調し、東京高裁はこの判例を無視したと主張した。しかし問題とされる表現が「犯罪の疑い」を主張するものと認定されても、その表現が相手方の社会的評価を低下させると判断された場合には、「犯罪自体」の証明は必要とされなくても、「犯罪の疑いの存在」の真実性・相当性は立証しなければならない。その表現が「犯罪の疑い」を主張するものだったとしても、その根拠を立証しなくていいということではないのである。「犯罪の疑いの存在」の真実性・相当性が立証できなければ違法性は阻却されない。

 東京高裁は「薬事法違反」と「職安法違反の疑い」(東京高裁の認定)とする表現に対して違法性を認定したが、それぞれ理由は以下のとおりである。



1 インターネット版「東村山市民新聞」(平成19年8月7日配信分=表現内容は前回参照)

(「職安法違反の疑い」とする意見表明に対して)

〈本件訴訟において控訴人矢野及び控訴人朝木が上記意見表明の前提事実として主張した事実(被控訴人がシーズ社で求人誌ゆかいライフの取材又は編集の業務に関与していたこと又はその疑いがあること)の重要な部分が真実であるとは認められず、また、控訴人矢野及び控訴人朝木がこれを真実であると信じるについて相当の理由を認めるに足りる証拠もない。〉

2 平成19年8月29日付「東村山市民新聞」158号

(「薬事法違反の犯罪行為」とする意見表明に対して)


〈(矢野と朝木は薄井が動画で姫アグラに関する「宣伝」「広告」を行ったことが薬事法に違反すると主張したが)効能を紹介しただけで直ちに「広告」に当たり、薬事法に違反すると解することができないことは明らかである。そうすると、控訴人矢野及び控訴人朝木が、被控訴人は本件ネット動画について姫アグラの「広告」をしたことを真実であると信じるについて相当の理由あったと認めることもできない。〉

(「職安法違反の疑い」とする意見表明に対して)

〈控訴人らは……前提事実として被控訴人はシーズ社の求人誌ゆかいライフの取材又は編集の業務に関与していた疑いがあると主張するが、……これを認めるに足りる証拠はない。また、これを真実であると信じるについて相当の理由を認めるに足りる証拠もない。〉

3 多摩レイクサイドFM「ニュースワイド多摩」平成19年9月5日放送分

(「薬事法違反の犯罪行為」とする意見表明に対して)

〈被控訴人が姫アグラの広告、宣伝をしたとは認められないから、前提事実の真実性を論じる前提を欠く。また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったと認めるに足りる証拠もない。〉

4 平成19年12月15日付「東村山市民新聞」159号

(「薬事法違反の犯罪行為」とする意見表明に対して)

〈被控訴人が姫アグラの広告、宣伝をしたとは認められないから、前提事実の真実性を論じる前提を欠く。また、これを真実であると信じるについて相当の理由があったと認めるに足りる証拠もない。〉



 以上が違法性に関する東京高裁の判断である。東京高裁が「犯罪の疑い」(職安法)についても「疑い」の真実性・相当性を検討した上で違法性を認定していることよくわかろう。東京高裁は放送のいうように最高裁判例を無視したわけではないのである。放送は、今回の東京高裁判決とそれを追認した最高裁決定は最高裁判例を無視しているから違法だと印象づけたいということと理解するほかない。

単なる「謝罪命令の紹介」

 平成25年1月21日、矢野の代理人は薄井の代理人に対して「平成25年1月28日と29日」に「謝罪放送」を行う旨、書面で連絡してきた。当然、平成25年1月28日に放送された「特集 エロキャスター裁判を考える」で「謝罪放送」が行われるものと考えた。

 しかし、同放送が始まって25分が経過しても「謝罪放送」が行われる気配はまったくうかがえなかった。それどころか放送は〈最高裁判例に違反した東京高裁判決は民事訴訟法318条第1項によって本来上告の手続きの中で最高裁で判断が変更され、矢野、朝木両議員は逆転勝訴となるはずであることを指摘しておかなければなりません。〉などとさえ主張していた。

 この放送の流れで、いったいどんなかたちで「謝罪放送」を行うのだろうか。そんなことを思っていると、放送はあらためて最高裁が「きちんと審理しているとはいえません。」と批判したあと、唐突に〈そこで東京高裁がFM放送で放送するように判決で求めたのが、次に読み上げる内容です。〉と述べた。東京高裁は正確には、「求めた」のではなく「命じた」のだが、矢野のプライドにおいては「謝罪放送を命じられた」と認めるのは忍びがたかったものとみえた。

 さらに命じられた「謝罪放送」を読み上げる直前には、放送は次のように述べた。



 しかしその間違いはすぐにわかりますが、FM放送では矢野、朝木両議員がまったく発言していないにもかかわらず、このようにいっています。「薄井さんがした姫アグラの紹介は薬事法に違反する旨の放送を行いました」と、まったく事実に反する内容になっておりますし、最高裁判例をもふまえていない「謝罪放送」となっています。事実ではありませんが、12月18日の最高裁の決定ですので、次に読み上げてみましょう。



 謝罪文の内容について放送は「薬事法違反」と断定したのではなく「薬事法違反の疑い」と述べただけだから事実に反すると強弁しているが、いずれにしても違法の断定も「疑惑」も「違反する旨」に含まれよう。続けて放送は、「最高裁判例をふまえていないもの」と、「謝罪放送」の内容が違法、不当なものであると念を押し、放送局として謝罪の意思などまったくないことを明確に示した。その上で次のように、最高裁が認めた謝罪文を読み上げた。



〈これから謝罪放送を行います。

 本局の番組「ニュースワイド多摩」は平成19年9月5日、東村山市議会議員の薄井政美氏が同年2月10日にアダルト動画サイト「マンゾクTV」でした「姫アグラ」の紹介は薬事法に違反する旨の放送を行いました。しかし、上記放送内容は根拠が不十分であり、上記放送は同氏の名誉を傷つけるものでした。

 よって、本局は、上記放送内容を取り消すこととし、同氏に対し、謝罪いたします。

特定非営利活動法人多摩レイクサイドFM
理事長 岡部 透〉

 以上が、東京高裁が求めた謝罪放送です。



 これは〈東京高裁が求めた(「命じた」ではない)謝罪放送〉のたんなる紹介にすぎず、謝罪の意を示す謝罪放送とはいえまい。その証拠にこの直後、放送はさらに次のように主張して最高裁決定を批判したのである。



 すでに紹介したとおり、最高裁には昭和41年の判決がありますので、「薬事法に違反している」と犯罪自体の存在を断定した場合と「薬事法違反の疑いがある」と犯罪の疑いの存在を指摘した場合とでは証明する対象が違ってきますので、どちらでも同じで違いがないというわけにはいきません。東京高裁もこれも追認した最高裁第3小法廷も否定することができない過去の最高裁判例を無視してしまったという大きな誤りを犯してしまったのです。



〈東京高裁が求めた謝罪放送〉を読み上げる前後に限っても、それぞれ「謝罪文」と同等かそれ以上の文言を費やして東京高裁、最高裁批判を繰り返していることがわかろう。放送全体を見ても、約30分の放送のうち「謝罪文」の朗読はわずか数十秒であるのに対し、それまでの30分近くは全編にわたって判決批判を行い、さらに「謝罪文」朗読後も同じ批判を繰り返した。

 これでは聴取者の耳に「謝罪文」の内容など残るはずがない。また私にはそういう工夫を凝らした構成だったように思えてならない。素直に謝罪放送を行うだけなら数十秒ですんだのだし、たっぷり30分間分にわたる原稿を作成する必要もなかった。しかしそれでは非を認めることになる。謝罪文が埋もれてしまうような趣向をここまで凝らす執念とエネルギーは尋常とも思えないが、「非を認めたわけではない」ことをどうしても主張したかったものとみえた。そのこと自体がきわめて特異というほかない。

 判決における謝罪広告命令はたんに謝罪広告の表示を命じるだけで「謝罪の意思」(内心)までをも強制するものではないとされているようである。しかしそれにしても(この放送が矢野の代理人が予告してきた「謝罪放送」として放送したものであるとすればの話だが)、これほどあからさまにその内容を否定する文言で包囲した「謝罪放送」が「謝罪放送」として容認されていいものだろうか、という疑問は拭えない。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その6)
奇怪な三段論法

 放送は「謝罪放送」の内容を紹介し終えると、東京高裁判決とそれを追認した最高裁決定について〈東京高裁もこれを追認した最高裁第3小法廷も否定することができない過去の最高裁判例を無視してしまったという大きな誤りを犯してしまったのです。〉と断定し、聴取者に対して判決の不当性を改めて訴えた。

 その上で放送は、平成23年に行われた東村山市議選で薄井が落選し、一方で矢野と朝木が当選したことを引き合いに出した。本件とは無関係と思われるが、何がいいたいのだろうか。放送は次のように述べた。

〈矢野、朝木両議員による薄井さんに対する厳しい批判について東村山市民多数はこれを支持し、同調したことがはっきりしたわけです。〉

 続けて放送は今回の裁判について次のように総括したのだった。

〈アダルト動画サイトで流された薄井さんの言動は、「性風俗マニア」「超セクハラ市議」に当たり、「エロライター」というよりも「エロキャスター」に当たるから矢野穂積議員や朝木直子議員の批判はむしろ正当だったこと、そしてインターネット上のアダルト動画サイトで流された薄井さんの言動は、少なくとも選挙で選出され、任期の始まった市議会議員の言動としては適切ではない旨をはっきりと判決書に書いて断罪し、このことが最高裁で確定したのです。

 薄井さんは名誉毀損などといって自分でわざわざ裁判を起こして矢野、朝木両議員を訴えたのですが、最も重要なことは、事実上、薄井さんは市議会議員の資格がないと裁判所に宣告されたのと同じ結果になったということです。結局、薄井さんは再選を目指そうとしましたが、東村山市の有権者がこれを認めず落選してしまいました。長くなりましたが、このような経過で問題に決着のついた裁判だったということができるでしょう。〉

 事実関係と論理性はともかく、放送は次のように主張しているものと理解できよう。

①「東村山市民の多数は薄井に対する矢野・朝木の『エロライター』『薬事法違反』『職安法違反』などとする批判を正当なものと判断した」

②「裁判所は薄井に対する『セクハラ市議』などとする矢野・朝木の批判は正当だったとし、動画サイトにおける薄井の言動は、市会議員の言動としては適切でないとはっきり判決書に書いて断罪し、これが最高裁で確定した」

③「裁判所は薄井には市議会議員の資格がないと宣告した」

 これも三段論法の一種だろうか。この放送の原稿を作成したのが誰かは断定できないが、作成者の思考の中では判決書の内容と選挙の結果が有機的に融合し、「裁判所は薄井には市議会議員の資格がないと宣告した」という結論にたどり着いたらしい。私には都合のよい思い込みとかなり飛躍した判決解釈に基づく我田引水の主張のように思える。

 ①の選挙結果が矢野・朝木による薄井攻撃に「東村山市民多数」が同調したことによるとする主張にはなんらの客観的根拠もない。また②の「アダルト動画サイトで流された薄井さんの言動は、「性風俗マニア」「超セクハラ市議」に当たり、少なくとも選挙で選出され、任期の始まった市議会議員の言動としては適切ではない」などと裁判所が「はっきり判決書に書いて断罪」し、これらの判断が「最高裁で確定した」という事実もない。

 したがって③のような結論が帰結される客観的根拠はなく、「特集」の結論は現実の選挙結果と判決の独自の解釈によって構築された虚構ということになる。

 どうすればこのような現実と非現実をごちゃ混ぜにした論理を組み立てることができるのか、尋常な認識力においては理解不能というほかない。あるいはこれを詭弁と言い換えることもできよう。裁判所が薄井に対して「市議会議員の資格がないと宣告した」などという事実はなく、現実の判決は矢野と朝木らに対して100万円の支払いと謝罪放送を命じたのである。この「特集」とは、評価は別にして、実は裁判所から命じられた謝罪放送を履行するものだが、その事実を聴取者になんとか悟られまいと虚偽、事実の捏造などあらゆる手段、技巧を尽くしたものといえるだろう。
 
明らかな虚偽

 平成24年12月18日、最高裁が矢野らの上告を受理しない決定を行ったことによって確定したのは東京高裁判決である。一般に一審と二審の判断が大きく違わない場合には二審の判決文に一審判決の一部を引用することがよくあり、その場合には一審判決のその部分に限っては確定判決となりうるが、この裁判において一審判決は東京高裁判決においていっさい引用されていない。したがって本件裁判を論じるに際して、一審判決の内容についてはあくまで参考として紹介することはできても公定力のある判断として扱うことはできない。

 そのことを念頭に改めてこの「特集」を振り返ると、上記②③以外にも確定判決(東京高裁判決)には記載されていないにもかかわらず、「確定判決で記載されている」と誤解を与えかねないかたちで、あるいは明らかな虚偽内容が放送された箇所がある。まず冒頭近くでは上記②とほぼ同趣旨の主張が行われている。

〈第一審の東京地裁立川支部は薄井さんの提訴に対して、「インターネット上の言動は『性風俗マニア』『超セクハラ市議』に当たり、『エロ・ライター』というよりも『エロキャスター』に当たるから、矢野穂積議員や朝木直子議員の批判は名誉毀損ではない」と判決し、選挙で選出された市議会議員のすることではない旨をはっきりと判決書に書いて断罪しました。自分でわざわざ裁判を起こして矢野、朝木両議員を訴えたのですが、事実上、薄井さんは「市議会議員の資格がない」と裁判所に宣告されたのと同じ結果になりました。このことだけですでに問題の決着は着いているのです。〉

「このことだけですでに問題の決着は着いているのです。」と述べたことで、その前提として述べた、東京地裁が「インターネット上の言動は『性風俗マニア』『超セクハラ市議』に当たり、『エロ・ライター』というよりも『エロキャスター』に当たるから、矢野穂積議員や朝木直子議員の批判は名誉毀損ではない」と判決したとする事実が、あたかも確定判決となったように聞こえる。少なくとも東京地裁判決が確定判決ではないという注釈がいっさいなされない点からは、聴取者が地裁判決が確定判決となったものと誤解してもかまわないという放送であると理解できよう。

「エロ・ライター」「風俗マニア」などとする表現に関して、さらに次の箇所に至ると、明らかに東京地裁判決が確定したと伝える内容になっている。

〈東京高裁第22民事部の加藤新太郎裁判長は東京地裁立川支部の判決のうち、薄井さんの言動は「『性風俗マニア』、『超セクハラ市議』、『エロ・ライター』に当たる」と認定した第一審通りの判決を言い渡し、矢野穂積議員や朝木直子議員の指摘を認めました。市議会議員だった人物が裁判所から、その言動は「『性風俗マニア』『超セクハラ市議』『エロ・ライター』に当たる」と認定され、これが最高裁で確定したのですからこれだけでも大事件ということができます。〉

〈市議会議員だった人物が裁判所から、その言動は「『性風俗マニア』『超セクハラ市議』『エロ・ライター』に当たる」と認定され、これが最高裁で確定した〉と断定していることがわかろう。

 最高裁で確定したのは東京高裁判決である。東京高裁は東京地裁判決をいっさい引用せず独自の判断を下している。東京高裁の「エロ・ライター」「風俗マニア」などの表現に対する判断は以下のとおりだった。



(「エロ・ライター」「風俗マニア」などの表現に対する東京高裁の判断)

 被控訴人はキャスターとして与えられた原稿を読み上げていたものであり、自ら原稿を書いていたものではないことに照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という意見表明の相当性には疑問なしとしない。しかし、被控訴人の市議会議員としての任期が開始した後も、被控訴人が相当に過激な性的発言等をしている本件ネット動画がネット公開されていた事実に照らせば、「風俗マニア」、「エロ・ライター」という表現が意見表明としての域を超えるとまではいい難い。



 確定判決は、薄井に対する「風俗マニア」「エロ・ライター」などの表現が意見表明としての域を逸脱するものではないとしたにすぎず、「『性風俗マニア』『超セクハラ市議』『エロ・ライター』に当たる」などと認定をしたわけでないことは明らかである。上記放送内容は虚偽ということになる。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その7)
最高裁決定を無視した独自の「判決」

 放送には確定判決の捏造だけでなく、裁判所の判断を否定し、自ら法的判断を行った箇所がある。裁判所は「薄井には職安法違反の疑いがある」とする矢野の主張の前提には「真実であると信じるについて相当の理由がない」として名誉毀損が成立すると結論付けた。しかしこれに対して放送は次のように自らの判断を示し、最高裁の判断を否定したのである。



(「職安法違反」に関する放送の見解)

 薄井さんはいまだ摘発を受けていないとしても、求人誌ゆかいライフを作成頒布する行為に関与した疑いが強く、職安法63条2号に違反する文書募集の共同正犯、少なくともその幇助犯に当たる疑いが強いということになります。



 最高裁で自らの主張が認められなければ、今度は公権力の及ばない法廷外(多摩レイクサイドFM)で独自の「判決」を下そうということのようにみえる。法廷が多摩レイクサイドFMなら、裁判長は矢野穂積だろうか。「朝木明代は殺された」とする主張が裁判所でことごとく排斥されたあと、矢野穂積が朝木直子と『東村山の闇』を出版して裁判所の判断を否定したことに似ていよう。公的判断がいっさい及ばないのをいいことに確定判決を覆そうとするのは矢野の常套手段である。

 ここで放送が主張しているのは、「薄井が職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という刑法上の犯罪者である(疑いが強い)」ということである。仮に提訴された場合には、多摩レイクサイドFMは「薄井が職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という刑法上の犯罪者である(疑いが強い)」ことの真実性・相当性を立証しなければならないが、その根拠については上記結論の前に説明していた。その説明を前段と後段に分けて確認しよう。



(放送が説明する「薄井が職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という犯罪者である(疑いが強い)」根拠=前段)(※筆者注=放送にはないが、便宜上、段落の頭に○数字を付した)

①……薄井さんが出向したシーズ東京の業務というのは、求人誌ゆかいライフという特殊性風俗雑誌を発行して違法に女性従業員を募集しているなどの理由で第一審判決も次のように「職業安定法違反の疑いが強い」と認定しているからです。薄井さんがこのシーズ東京社で取材や編集などの仕事をしている場合には違法の疑いの強いゆかいライフの発行に関与している疑いが強いことになるからです。

②つまりシーズ東京社は、風俗営業等の規制及び業務の適正化に関する法律2条5項が定める性風俗関連特殊営業つまり特殊性風俗のうちソープランド及びヘルス、デリバリーヘルスについて営業内容等の紹介等を目的とする特殊性風俗情報誌マンゾク及びこれら特殊性風俗の女性従業員募集等を掲載する特殊性風俗求人誌ゆかいライフを取材の上、記事を編集する等の業務を行っていました。第一審判決も事実の認定をしていますが、ソープランド等においては実態として売春が行われており、デリバリーヘルス等においては実態として手淫、口淫等の売春類似行為が行われており、薄井さんもこの事実を知っていました。

③第一審判決は、風営法ではこれら特殊性風俗について、人の住居にビラ等を配り、または差し入れる方法で広告又は宣伝することを禁止しており、情報誌マンゾク及び求人誌ゆかいライフはその内容からこれらの規定により配布が禁止される文書図画に当たる可能性が高いと認めています。

④さらに職業安定法63条2項は、公衆○または公衆道徳上有害な業務につかせる目的で職業紹介、労働者の募集もしくは労働者の供給を行った者又はこれらに従事した者を1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処することを規定しています。したがって判例上、特殊性風俗は職安法63条2号の公衆道徳上有害な業務に該当しますから、求人誌ゆかいライフを作成頒布する行為はいまだ摘発を受けていないとしても、職安法63条2項に違反する文書募集の共同正犯、少なくともその幇助犯に当たる可能性が高いことをはっきりと示しています。この点も第一審判決は認めているのです。



 改めて確認しておくと、放送が主張する「職安法違反」とは、具体的には「薄井が出向していたシーズ東京社が発行していた特殊性風俗求人誌ゆかいライフは職安法63条2号に違反するものである可能性が高く、薄井がその取材や執筆等をしていたとすれば共同正犯、少なくともその幇助に当たる」ということである。

 上記①~③ではシーズ東京社が発行する雑誌の性質および判例に基づくその法的位置付けをまず説明しようとしているものと理解できる。説明の中には、矢野がアナウンサーとして使っている女子大生に読ませるのははばかられるような専門的な語彙も含まれていた。「職安法違反」の説明をするのに不可欠な要素とも思えないが、薄井が関わっていた業界のイメージをより濃密に伝えるには必要と、原稿作成者は考えたのだろう。

 ここまでの説明では聴取者にとって、薄井が出向していた会社がどれほど性風俗と密接な関係にあったか、また会社の発行する雑誌の取材対象が実態としてどんな業界で、薄井もその業界の実態を知っていたことがまず印象付けられる。その上で、④シーズ社が発行していた求人誌ゆかいライフを作成頒布する行為は違法性が高く、それは一審も認めていると説明している。

 一審は確かに「事案の概要」の「2 争いのない事実等」において次のように記載している。

〈判例上、前記特殊性風俗は、職安法63条2号の「公衆道徳上有害な業務」に該当するから、求人誌ゆかいライフを作成・頒布する行為は、いまだ摘発は受けていないとしても、職安法63条2号に違反する文書募集の共同正犯、少なくともその幇助犯に当たる可能性が高い。〉

 ただし本件で争点となっているのはシーズ社の業務そのものでも求人誌ゆかいライフの法的位置付けでもなく、薄井に「職安法違反(の疑い)」があったかどうか、すなわち薄井がゆかいライフにどう関与していたかである。ここまでの説明ではまだ「薄井がその取材や執筆等に関与したかどうか」には至っていない。

(つづく)
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「セクハラ市議」名誉毀損事件 最高裁判決後(その8)
ずれてきた焦点

 放送が「薄井は職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という犯罪者である(疑いが強い)」と主張する根拠の後段をみよう。後段では前段からさらに踏み込んで「薄井が取材あるいは執筆等によって求人誌ゆかいライフの作成頒布に関与した」との事実を論証(=立証)しようとしているものと理解できた。



(放送が説明する「薄井が職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という犯罪者である(疑いが強い)」根拠=以下、後段)

⑤薄井さんが株式会社クリエイターズカンパニーコネクションに入社直後、株式会社シーズ東京に出向した2004年9月から2006年9月までの期間に、この求人誌ゆかいライフを作成頒布したシーズ東京社がいまだ摘発を受けていないとしても、取材や記事の執筆を担当したのであれば、職安法63条2号に違反する文書募集の共同正犯、少なくともその幇助犯の疑いがあることになりますから、問題は薄井さんがシーズ東京社で取材や記事の執筆を担当した疑いに根拠があるかどうかです。



 放送は⑤において、薄井に「職業安定法違反の疑いがあるかどうか」は「シーズ東京社で取材や記事の執筆を担当したかどうかである」と規定している。1回聴いただけでは聴き逃す可能性が高いと思われるが、「職業安定法違反」が疑われる前提条件の幅が微妙に広がっていた。職業安定法違反の可能性があるとされているのはシーズ東京社の発行物全般ではなく同社の発行物の中でも求人誌ゆかいライフに限られる。したがって「シーズ東京社で取材や記事の執筆を担当したこと」イコール「ゆかいライフの取材や執筆を担当したこと」ではないのである。

 いよいよ薄井の「職業安定法違反」の真実性・相当性に踏み込もうとする段階になって、放送は関与の対象を何の説明もなしになぜ「ゆかいライフ」ではなく「シーズ東京社」へと広げるのだろう。これは不可解なことではあるまいか。

 続く放送の説明を聞こう。



⑥薄井さんは裁判の当初、「シーズ東京社の名刺は持たされていましたが、名刺は業務の都合上持たされていただけである。シーズ東京に勤務していない」などと職安法63条2号に違反する疑いの強いシーズ東京社には勤務したことはないと否認し続けていましたが、その後、本人尋問で最終的にこれを翻して、「シーズ東京では対外的広報活動のみに従事し、取材または編集は担当していない」と言い換えました。違法な疑いの強い求人誌ゆかいライフの取材や編集は職安法63条2号に違反する疑いが強いので、シーズ東京社には勤務したが、記事取材や編集には関与していないと強く言い張ったのです。

⑦ところがこの点について第一審判決は重大な事実の認定をしています。第一審は、薄井さんがクリエイターズ社に入社直後、株式会社シーズ東京に出向したあと、同社に入社してから書き始め、内外タイムスに連載した売春などを紹介する日刊マンゾクニュースの記事を出向したあとの2004年11月1日、「風俗マスコミ最前線」という名称の個人ブログを開設し、これに再掲載したと事実の認定をしましたし、そして薄井さんご自身もこのことを認めたのです。



 ⑥の説明によれば、あたかも薄井が事実に反してシーズ東京において取材や編集をしていないと虚偽の説明をしたかのように聞こえる。しかし、そもそも薄井がシーズ東京で取材や編集をしていようがいまいが、そのことと「職安法違反」の対象と主張する求人誌ゆかいライフの取材や執筆をしたかどうかはまったくの別問題なのである。

 しかし聴取者が1回聴いただけで、放送が主張する薄井の「職安法違反」の対象がシーズ東京なのか、シーズ東京の業務のうちの1つである求人誌ゆかいライフなのかの判断ができるとも思えない。むしろここでも放送が、関与の対象を徐々に広げようとしているのではないかとの疑念を抱かせる。論点をすり替えようとしていると言い換えてもよかろう。

巧妙なる混同

 続く⑦では薄井が開設していた個人ブログを持ち出し、薄井がそのブログに日刊マンゾクニュースの記事を再掲載したと東京地裁が認めたことが「重大な事実の認定」であるという。「重大な事実の認定」とはどういうことなのか。放送は次のように続ける。



⑧ということは、職安法63条2号に違反する疑いの強い取材や編集はしていないと強く主張した薄井さんのご主張にもかかわらず、他方では薄井さんご自身が株式会社シーズ東京に出向し、違法な売買春の記事として執筆し、公表した事実があることがはっきりしたのです。



 東京地裁が⑧のような認定をした事実はない上に、⑧が主張しているのは求人誌ゆかいライフではなく「シーズ東京で記事を執筆した」とする事実にすぎない。立証対象が「職安法違反」から遠ざかっていることがわかろう。聴取者からすれば、「シーズ東京」と「求人誌ゆかいライフ」の位置付けを混同してしまうのではあるまいか。その上で放送は次のように結論付ける。



⑨ということは、薄井さんは裁判の最後までシーズ東京社ではたんに対外的広報活動のみに従事しただけで取材または編集は担当していないと言い張ったのですが、実際にはシーズ東京社で職安法63条2号に違反する疑いの強い取材や記事の執筆をしている事実がはっきりしたのですから、違法な求人誌ゆかいライフの取材や記事の執筆を担当した疑いに根拠があることになりました。



 ⑨において、放送が「シーズ東京」と「求人誌ゆかいライフ」を完全に混同させてしまっていることがわかろう。「求人誌ゆかいライフ」は「シーズ東京」の数ある業務の中の1つであり、仮に「職安法違反」が疑われたとしてもその対象は「求人誌ゆかいライフ」に限られる。したがって「シーズ東京」の業務と「求人誌ゆかいライフ」の業務を同列に論じようとしている点において放送の主張は誤りということになる。

 東京高裁の確定判決をあらためて確認すると、東京高裁がシーズ東京と求人誌ゆかいライフを明確に区別して判断していることは明らかで、放送の主張内容との違いは歴然である。確定判決は次のように認定している。



(「職安法違反」に関する確定判決の認定)

 上記①及び②の各事実(筆者注=薄井が別の雑誌で「ゆかいライフ」解説員として紹介されていること等)に被控訴人(筆者注=薄井)が特殊性風俗情報誌「マンゾク」及び求人誌ゆかいライフを発行するシーズ社に勤務していたことを加えても、被控訴人がシーズ社で求人誌ゆかいライフの取材又は編集の業務に関与していたことを認めるには足りず(その疑いがあることを認めるにさえ足りない。)、他にこれを認めるに足りる証拠はない。



 放送の主張と確定判決のどちらに合理性があるかは明らかである。「薄井は職安法63条2号違反の共同正犯あるいは幇助犯という犯罪者である(疑いが強い)」とする放送の主張に根拠があると認めるのは難しいのではあるまいか。

(了)
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