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元市議名誉毀損事件 第10回
被告らの証拠に基づく反論

 第3回口頭弁論までの被告らの主張に対し、原告は準備書面で総括的な主張・反論を行った。その最大の根拠としたのは前回弁論で矢野が提出した被害者による告訴状と、その際に原告が被害者に協力して提出した「陳述書」である。

 とりわけ本件記事に記載された原告に関する主要部分はすべて告訴状記載の内容から反論することができた。被告が自分のために提出した証拠を、原告側が原告に有利な証拠としてそのまま使えるという例もめったにないのではあるまいか。

 原告の主張の論点は次の3点である。
 
「原告は詐欺実行犯であるSの仲間であるMに被害者の資産等の個人情報を漏洩した」とする被告らの主張に対する反論(筆者注=矢野らはこの「情報漏洩」をもって、原告が「詐欺事件に関与した」と主張している)

「原告はSの詐欺行為の口ききをした」とする記載は事実か

「原告は(Sの詐欺行為の口ききをするような立場にあったから)、被害者を支援するふりをしたものの結局は被害者を放置した」とする記載は事実か

 これらの論点に対する原告の具体的な主張は以下のとおりだった。



(矢野が提出した告訴状と「陳述書」に基づく原告の反論)

①について

 被告らは、原告が主犯Sの仲間であるMに被害者の資産等の個人情報を漏洩したことによってSによる「詐欺事件」に発展したと主張している。ところが告訴状には、Sが被害者Tの資産等の情報を入手した状況、またSが被害者Tから借金を重ねるまでの経緯が詳細に記載されている。

 それによれば、被害者Tが一人暮らしになったあとMを介してSと知り合いになり、Sに家庭の事情を話したところ、Sから紹介された弁護士に相談することになった。被害者TはSと弁護士事務所に行き面談したが、その際Sも同席しており、被害者Tが相当の資産を有していることなどを聞いていた。Sはその後わずか半年の間に、さまざまな理由で被害者Tから総額2600万円の借金をした――。

 告訴状には上記の事実が記載されている一方、被害者Tが(原告からTの個人情報の提供を受けたとする)Mから聞いたなどとはいっさい記載されていない。告訴状にはさらに、Sが被害者Tから借金を重ねた際にSが持ち出した様々な理由も具体的かつ詳細に記載されている。しかし、山川がSの借金に関与したことをうかがわせる記載は、告訴状にはいっさい存在しなかった。

 矢野と朝木は本件記事に違法性がないとする主張を立証するために告訴状を提出した。しかし、これはむしろ原告が詐欺事件には関与していないことを証明するもので、被害者Tもまた原告がMに対して被害者の資産等の個人情報を漏洩したとは認識していないことを裏付けている。

②について

 本件記事では〈(原告は)お金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった〉、すなわち「原告がSの詐欺の口ききをした」との記載がある。しかし、告訴状にはそのような記載も「口きき」を示唆する記載もいっさい存在しない。したがってこの点についても、被告らの主張に根拠がないことは明らかである。

③について

 本件記事は、〈(原告は)口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが〉、〈貸金の仲介者のような役割を果たしながら、(返済が滞っても)山川元市議は「知らん顔」〉と記載している。その趣旨は、原告は当初は被害者の味方のように振る舞っていたが、実際にはSの仲間で、だから返済が滞っても知らん顔で放置しているというものである。

 しかし、被告らが証拠として提出した原告の「陳述書」には、和解成立後に返済が滞ったため、Sに対する返済を促す目的で原告が被害者TをともなってMの自宅を訪ねたことが記載されていること、またこの「陳述書」が被害者Tを支援する目的で作成したものであることが明らかで、和解成立後も原告が被害者を支援していたことを裏付けている。したがって、「原告は詐欺被害者を放置した」とする被告らの主張は失当である。



 原告の上記反論はいずれも、被告が自発的に提出した証拠に基づくもので、矢野らはそこに記載された内容についていっさい否定していない。つまり矢野らはその記載内容を全面的に認めているということである。記載内容に対する評価の問題はあるとしても、記載事実を覆すことはできない。

 矢野と朝木は告訴状と原告の「陳述書」を、それぞれ本件が「詐欺事件」であることおよび原告がMに対して「被害者が一人暮らしになっちゃったのよね」と話したこと、すなわち原告が主犯Sの仲間であるMに被害者Tの個人情報を漏洩したことを証明するものとして提出した。内容を総合的にみれば、どうみても原告が詐欺には関与していないことを立証するものとしか考えられないが、矢野はそうは考えなかったということなのだろう。

本件記事の重要部分に対する主張

 記事による名誉毀損裁判では、通常、記事すべてではなく、記事の中でも重要な部分についての真実性・相当性が問題となる。そこで原告は、本件記事の重要部分を挙げ、各部分についてそれぞれ総括的な主張を行った。

原告が重要部分として挙げたのは、

「Sが被害者Tから借金をしたことが詐欺事件に該当すること」

「原告が上記①の仲介の役割を果たしたこと」

「原告が①の詐欺事件に関与したこと」

 ――の3点である。その上で原告は、上記「主要部分」について記事には真実性も相当性もないことを主張している。まず「真実性」についての主張は以下のとおりである(要旨)。



(原告の上記「主要部分」に対する主張)

①について

 被告らが提出した「和解調書」や被害者TがSらを告訴しようとしたが告訴状が受理されなかった事実によれば、本件は刑事事件としての詐欺事件ではないことが明らかである。

②について

 告訴状に基づいて主張したように、「原告が被害者Tの資産等の個人情報を詐欺グループに漏洩した」との事実はなく、原告が仲介(口きき)したとする被告らの主張は失当である。

③について

 原告が関与したとする詐欺事件なるものは存在せず、存在しない事件に原告が関与する道理はない。仮に①が「詐欺事件」に該当するとしても、原告はSが被害者Tから借金したことについていっさい関与していない。



 原告が主張する「主要部分」の真実性に関する主張は以上だった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第11回
摘示事実をすり替えた被告ら

 では、原告が本件の重要部分として挙げた①「SがTから借金をしたことが詐欺事件に該当すること」、②「原告が上記①の仲介の役割を果たしたこと」、③「原告が①の詐欺事件に関与したこと」に対する相当性についてはどうか。

 相当性については、被告らはそもそも①と③について「記事のとおりである」などとする主張を繰り返しており、相当性の主張をしていない。原告が「詐欺に関与した事実はない」と主張したことに対して「記事のとおり」と答弁するのも弁護士が付いているにしては珍しいと思われるが、弁護士がそれ以外の主張をしないのだから、これはもう「真実だ」との主張であると理解するほかない。

 さらに第2回口頭弁論までは、②についても〈(原告が)詐欺グループの一員でもあるMに被害女性に関する上記情報(筆者注=高額の資産を有する独居女性)を開示したことは、……詐欺行為を仲介したものである。〉と、真実性を主張していた。ところが第3回口頭弁論に至り、②については突然相当性の主張を始める(被告準備書面2)。

 矢野らがその前提としていたのが、本件記事の摘示事実についての新たな主張だった。矢野らは本件記事の摘示事実が〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉(筆者注=被告らが主張する上記「摘示事実」を便宜上、「新たな摘示事実」と表記する)との事実であると主張したのである。

 これまで上記①②③のすべてに対して真実性を主張していたということは、それらがすべて摘示事実であることを認めていたということと理解できる。すると、「新たな摘示事実」はそれまでの主張と食い違いが生じることになろう。田中平八弁護士と矢野との間で、何か噛み合わないところがあるのではないかと推測する。

 矢野らは上記「新たな摘示事実」について〈客観的真実と一致する。〉と真実性を主張した上で、本件記事の意味内容について〈本件記事は原告山川が詐欺を働いたという記載ではなく、「結局は口ききでしかなかった」という記載内容である。〉と主張していた。「(詐欺の)口ききをしただけ」という意味内容なら、読者も詐欺への「関与の度合い」はかなり低いと判断するかもしれないし、立証のハードルもかなり下がるだろう。

 その上で矢野らは、原告がMに「資産等の個人情報を漏洩した」こと、および「被害者が救済されていないにもかかわらず、放置している」などとする主張を根拠に、「結局は口ききでしかなかった」という記載には〈真実と信じるに足る相当の理由がある。〉と主張していた。

「すり替え」に対する反論

 矢野が「口ききをしただけ」と書いたにすぎないと主張したのは、〈山川元公明市議は口では被害者女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉との記載部分である。

 この部分をどう読めば、「(詐欺の)口ききをしただけ」と理解できようか。矢野と朝木はこの部分で、言葉は違うがやはり「山川は詐欺に関与した」と主張しているのである。

 したがって原告はすでに、被告らによる「新たな摘示事実」の主張が、被告ら自身のそれまでの主張に反するもので、立証対象をすり替えるものであること、「口ききでしかなかった」とは「口ききをしただけ」という趣旨ではなく、「原告は詐欺に関与したとする事実を前提に、『山川は口ではお金を取り戻すそぶりをしたが、結局はお金を巻き上げる連中の口ききだった』とするもの」で、詐欺の一味であると断定する趣旨であることになんら変わりはないと主張している。

 原告は今回提出した準備書面でさらに、告訴状に記載されているとおり、「原告がMに被害者の資産等の個人情報を漏洩した事実は存在しないこと」、被害者が救済されていないにもかかわらず放置した事実もなく、それどころか「陳述書」を提出するなどして被害者を支援した事実は明らかで、「摘示事実のすり替え」による相当性の主張も失当であると主張した。

摘示事実をすり替えた事情

「山川はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった」とする部分をどう読んでも、「口ききをしただけ」という意味であると理解することはできない。そんなことは記事を書いた本人である矢野が一番わかっていよう。これが「山川は詐欺とは無関係」という趣旨なら、〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉というタイトルはあり得ないのである。

 にもかかわらず、矢野はなぜ見え透いた詭弁を弄するのだろうか。摘示事実が「山川は詐欺事件に関与した」というものであることを認めれば、「山川は詐欺事件に関与した」という事実に対する真実性・相当性を主張・立証しなければならない。

 代理人の田中弁護士はすでに「山川は一人暮らしで相当高額の資産を持っているという被害者Tの個人情報をSの仲間であるMに提供した。このことはSの被害者Tに対する詐欺行為を仲介したものである」(趣旨)と主張していた。田中弁護士は本件記事の摘示事実が「山川は詐欺事件に関与した」との事実であると考えていたということと理解できよう。

 しかし、「山川は一人暮らしで相当高額の資産を持っているという被害者Tの個人情報をSの仲間であるMに提供した」とする主張を立証するのは至難の業であるし、仮にそれが事実と証明できたとしても、そのことと詐欺の実行行為は次元の異なる行為である。その2つの行為を証拠をもって結び付けること、すなわち山川がSに詐欺をさせる目的を持って情報提供したことを立証するのはさらに困難ではあるまいか。相当性を主張するにしても、山川の関与を疑わせるに足りる証拠がなければならない(のちの口頭弁論で田中弁護士が、山川がMに提供したとする被害者Tの個人情報のうち、「相当高額の資産を持っている」とする箇所を削除したことで、「山川は詐欺事件に関与した」とする事実の立証はより困難なものとなった)。

 矢野が本件記事の摘示事実を「山川が万引きに関与した」ではなく、〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉へとすり替えたのと、山川が漏洩したとする被害者Tの個人情報のうち、「相当高額の資産を持っている」とする箇所を田中弁護士が削除したのは、偶然かどうか、同じタイミングだった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第12回
「主要部分」以外の反論

 平成28年4月11日に開かれた第4回口頭弁論に先立ち、原告が準備書面4を東京地裁立川支部と被告ら代理人の事務所にファックスで送付したのは口頭弁論から1週間前の同年4月4日である。一方、同年4月9日の夜遅く、被告ら代理人から原告のもとに準備書面3がファックスで届いた。

 その内容は、原告のこれまでの主張に対する反論である。被告らはまず、原告が前回第3回口頭弁論までに提出した準備書面2~3の主張のうち、これまで反論できていなかった部分について反論していた。被告らが新たに反論した原告の主張は以下の項目である。



(被告らが新たに反論した原告の主張)

被告らは「原告山川は詐欺事件に関与した」と主張し、その根拠として被告朝木直子の陳述書を提出しているが、伝聞にすぎず、証拠とはなり得ない。

被告らが「原告山川は『被害者が一人暮らしで、相当高額の資産を持っている』旨の被害者Tの個人情報をMに漏洩した」と主張していることは、すなわち個人情報の保護に関する法律に違反していると主張するもので、これは原告に対する新たな不法行為にほかならない。

「原告山川は詐欺事件に関与した」とする根拠として被告らが提出した原告の「陳述書」は、むしろ原告が詐欺事件には関与していないことを証明するものである。

被告らが第3回口頭弁論前に提出した準備書面で、本件記事の摘示事実が「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。」「元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』」――であると主張したことは、それまで認めていた摘示事実(「原告山川は詐欺事件に関与した」)を一方的に変更し、摘示事実を自分の都合に合わせてすり替えるものであり、信義則に反するものである。

(上記以外の部分に対する細かな反論もあるが、割愛する)



 いずれも本件の判断に直接関わるものではないが、被告らとしては反論する必要があると判断したようである。その反論を順を追って紹介しよう。



(上記①に対する被告らの反論)

〈被告両名が、本件で、被害者T(筆者注=実名)の陳述書を提出しない理由は、「(告訴状)を提出している以上、重ねてT(同)の陳述書を提出する必要がない。」と判断しているためである。〉



 被害者Tが警視庁に提出した告訴状は原告が詐欺に関与していないことを裏付けこそすれ、原告の関与をうかがわせる記載はいっさいない。それどころか、原告はこの告訴に協力して「陳述書」まで提出しているのである。被告らは「被害者Tの陳述書を提出する必要がない」などと判断しているのではなく、被害者Tに対して、原告が詐欺に関与していたと証言させることは困難と判断しているということではないかと推測している。



(上記②に対する被告らの反論)

〈被告等は、原告が個人情報保護に関する法律第54条に違反する罪を犯した等と主張したことはない。〉



 被告らは、原告が被害者Tの個人情報をM に漏洩したとする主張の前段において、「原告が市議会議員当時に個人情報の保護に関する法律が施行されたこと」、また「当時、オレオレ詐欺等、一人暮らしの高齢者を標的とした詐欺事件が大きな社会問題となっていたこと」などの社会的背景を記載している。被告らはその上で、「原告が被害者Tの個人情報をMに漏洩し、それがSらによる詐欺事件の発端となった」と主張しているのだから、「原告による被害者Tの個人情報の漏洩」は「個人情報の保護に関する法律に違反している」と主張していると判断されても仕方がないのではあるまいか。



(上記③に対する被告らの反論)

〈(「陳述書」に記載されている)(原告がMに対して)「被害者T(筆者注=実名)が一人暮らしになっちゃったのよね。」と話したことが、……本件詐欺の切っ掛けとなったものである。〉



 したがって、「陳述書」は「原告が詐欺事件とは無関係であることを証明するものではない」という主張である。すると、被害者Tの代理人弁護士が「詐欺に関与した」はずの原告を告訴せず、それどころか原告に対して、被害者Tのために陳述書の提出を要請したということになるが、そんなことがあり得るだろうか。通常、被害者やその代理人が「犯人」と認識している人物に対して、被害者のために陳述書の作成を要請することは考えられない。



(上記④に対する被告らの反論)

〈被告等は、従前の主張を不自然に変更したことなどない。〉



 原告は訴状で、本件記事は「原告が詐欺事件に関与したとの事実を摘示し、原告の名誉を毀損した」と主張している。これに対し、被告らは答弁書で「事実は『東村山市民新聞』に記載されているとおりである。」とし、原告が訴状で主張した摘示事実について異議を述べていない。さらに、次に提出した準備書面1でも〈(原告が)詐欺グループの一員でもあるMに被害女性に関する上記情報(筆者注=高額の資産を有する独居女性)を開示したことは、……詐欺行為を仲介したものである。〉などと主張している。すなわち本件記事の摘示事実が「原告が詐欺事件に関与したとの事実」であることを認めた上で、原告の主張を否認したということである。

 ところが準備書面2において被告らは、なんらの釈明もないまま突然、〈摘示事実である本件記事〉は、〈結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった。〉、〈元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は「知らん顔」〉というものであると主張した。被告らのそれまでの主張の前提を一方的に変更、否定するもので、これまでの原告の反論をも徒労に終わらせかねないアンフェアな応訴態度である。〈従前の主張を不自然に変更したことなどない〉とは、とうてい弁護士の主張とも思えない不誠実きわまりないものというほかなかった。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第13回
準備書面4に対する反論

 平成28年4月11日に開かれた第4回口頭弁論の1週間前、原告が裁判所および被告ら代理人に提出した準備書面4では、被告らが警視庁に提出した告訴状(=被害者TがSらを告訴しようとしたもの)と原告の「陳述書」(=上記告訴状を提出した際、原告が被害者Tに協力して提出したもの)に基づき、原告が本件詐欺事件にはいっさい関与しておらず、それどころか原告が被害者Tに協力していたことを主張するとともに、本件記事が「原告は詐欺事件に関与した」と断定し、原告の名誉を毀損したと主張している。これこそが本件の最大の争点である。

 被告らはこの点についても、第4回口頭弁論前に提出した準備書面3で、原告の主張に則して逐一反論している。原告の主張と、それぞれに対する被告らの主張を紹介しよう。最初の論点は原告がMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことに関する主張である。



原告がMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことに関する主張

(原告の主張①)
 被告らが提出した告訴状には、本件詐欺事件の発生までに「原告がMに被害者Tの個人情報を漏洩した」とする記載はいっさい存在しない。(趣旨)

(被告らの反論)
 原告が主張するような記載がなかったとしても、原告が犯人グループの一員であるMに「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことがSに伝わり、被害者Tに対する詐欺事件のきっかけとなった事実に変わりはない。(趣旨)

(原告の主張②)
 告訴状には「被害者Tが弁護士に話した内容をSが聞き、被害者Tの具体的な資産額を知ることになった」との記載がある一方、被害者Tが原告に資産額を話したという記載はなく、原告が詐欺の「口ききをした」とする記載もない。このことは、被害者Tは原告がMにTの個人情報を漏洩したとは認識していないことを示している。「原告が被害者Tの資産等の個人情報をMに漏洩した」との被告らの主張は客観的事実に反しており、失当である。(趣旨)

(被告らの反論)
 Sが被害者Tから多額の金銭を詐取するにあたり、Tの財産の具体的内容まで知る必要はなかった。よって、原告の主張は意味をなさない。(趣旨)



 上記2点に対する被告らの反論に共通しているのは、原告がMに世間話の中で「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが詐欺事件の端緒となったと主張している点である。Sにとって「一人暮らし」は被害者Tの個人情報の1つだったとしても、だからといってその情報が詐欺行為の実行につながったと断定するのは、やや無理があろう。

 また、被告らは「Sが被害者Tから金員を詐取するにあたり相手の資産額を知る必要はなかった」と主張しているが、その後に詐欺に着手したという動かせない事実があるだけであり、詐欺の着手にあたりSが被害者Tの具体的資産を知る必要があったか否かを問うことは無意味ではあるまいか。被告らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことだけで詐欺のきっかけになり得ると強弁しようとしているだけのようにみえる。

 一般論でいえば、他人から金を詐取しようと企むような輩が、たんに一人暮らしの高齢者だからといって狙いをつけることはなかろう。同じエネルギーを使って詐取するなら大金と普通は考えるだろう。すると、狙いは取れるものを持っているのが確かな高齢者ということになろう。常識的に考えるとやはり、「一人暮らし」というだけでは詐欺の対象にはならないのではあるまいか。



「口きき」に関する主張

(原告の主張③)

 被告らが提出した告訴状にも原告が口ききをしたとの記述、もしくはそれを示唆する記述もいっさいなく、被害者Tが「原告が詐欺の口ききをした」と認識していないことは明らかである。(趣旨) 

(被告らの反論)
 原告は詐欺グループの一員であるMと長年にわたり懇意な関係にあった。とすれば、それまでのMの行状についても聞いていたはずである。にもかかわらず原告はMに対し、「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と詐欺師にとっては耳寄りな情報を提供したことにより、被害者TはSかから大金を詐取されたものである。(趣旨)



 被告らはここでも、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「口きき」すなわち「詐欺に関与した」とする事実の根拠であると主張しているものと理解できる。しかし、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが詐欺の端緒だったと断定することが困難であるとすれば、「原告は詐欺の口ききをした」とする被告らの主張も無理があるといえるのではあるまいか。



「原告は被害者Tを放置した」かどうか 

(原告の主張④)
 原告は被害者Tから「貸金を返してもらえない」と相談を受けて弁護士を紹介し、和解成立後も支援してきたことは被告らが証拠として提出した「陳述書」の記載からも明らかであり、「山川は被害者Tを放置した」とする被告らの主張は失当である。(趣旨)

(被告らの主張)
 原告が被害者T(筆者注=実名)の損害の回収について何らの具体的対策をとっていないことは間違いない。



 被害者Tの状況には同情の余地があるとはいえるものの、少なくとも原告には、被害者Tの損害の回収について具体的対策を取る義務はない。それでも原告は和解成立後、Sに返済を促すことを目的に被害者TをともなってMの自宅を訪ねたり、告訴に際しては陳述書を作成にも協力している。被告らからみると、それでも原告が被害者Tを支援したことにはならないというのだろうか。



「摘示事実」をすり替えたことに関する主張

(原告の主張⑤)
 被告らは当初、本件の摘示事実が「原告が詐欺事件に関与した」というものであることを前提とする主張をしていたが、第3回口頭弁論においてなんらの釈明もなく、摘示事実を「結局はお金を巻き上げる連中の口ききでしかなかった」「元議員の立場で、貸金の仲介者のような役割を果たしながら、山川元市議は『知らん顔』」との記載にすり替えた。これは、そうすることによって「山川は口ききをした」「山川は仲介者のような役割を果たしながら『知らん顔』」とする事実に立証対象をすり替えようとする狡猾かつ悪質な企てで容認できない。本件記事が摘示しているのは「原告が詐欺事件に関与した」との事実であり、摘示事実のすり替えに基づく被告らの主張はすべて排斥されるべきである。(趣旨)

(被告らの主張)
 争う。被告両名の主張は、「原告山川昌子は、東村山市議会議員の立場で、Sの被害者T(筆者注=実名)からの金員詐取事件の切っ掛けとなるような役割を果たしながら、その後、「知らん顔」、呆れた人達です。というものである。

 被告両名は、原告が非難するような本件記事の摘示事実をすり替えたことなどない。



 前段は一応、反論の体裁をとっているものの、被告らは摘示事実を変更(=すり替え)した事実については具体的に言及しておらず、主張に正面から答えているとはいえない。論点を曖昧にした不誠実な主張というほかない。田中弁護士としては、曖昧に主張することで、(おそらくは矢野による)論点のすり替えをごまかすしかなかったのではないかと思えてならない。

 後段では「摘示事実をすり替えてなどない」と主張しているが、では「何が摘示事実なのか」についての言及は、この箇所ではなされていない。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第14回
「重要な部分」に対する反論

 原告は4月11日に行われた第4回口頭弁論の1週間前に提出した準備書面4で、本件記事が記載した「事実の重要な部分」を示し、それに沿って本件記事に真実性・相当性がないこと、すなわち本件記事が原告の名誉を毀損するものであることを主張している。原告が主張した本件記事の「重要な部分」とは、

「Sが被害者Tから借金したことが詐欺事件に該当すること」

「原告が上記の借金の仲介(口きき)の役割を果たしたこと」

「原告が上記①の詐欺事件に関与したこと」

 ――の3点である。被告らは4月9日に提出した準備書面で、「重要な部分」として原告が示した上記の3点以外に(3)として「和解が成立したこと」および(4)として〈山川元公明党議員は、口では、被害女性の味方になってお金を取り戻すそぶりをしていたが、結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった。〉を加えていた。その上で被告らは、「本件が詐欺事件であること」については〈十分に証明されている。〉とし、「山川が詐欺事件に関与したこと」および「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」とする点について詳細に反論している。

「詐欺事件に関与」の根拠

 まず、「山川が詐欺事件に関与した」ことに関する被告らの主張はどんなものだったのか。被告らは、原告は「詐欺犯人の一人」である「Mと長年にわたって懇意な関係」にあり、「被害者Tが原告を信頼して家庭の事情などを相談していた」にもかかわらず、Mに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と詐欺師にとって耳寄りな情報を伝えた。このことが詐欺事件のきっかけとなったのだから、〈原告が本件詐欺に関与したことは間違いない。〉――こう被告らは主張していた。

 言い換えれば、被告らは、「原告は詐欺事件に関与した」とする根拠は、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と伝えたことにあると主張しているということである。なお相当性については「原告は詐欺事件に関与した」とする事実に対してのみ主張しており、その内容は真実性に対する主張と同じだった。

きわめて難解な主張

 では、被告らが「事実の重要な部分」として追加した「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」と主張する箇所についてはどうだろうか。被告らはまず、原告が、本件事件が「刑事事件としては立件されていないから、刑事事件としての『詐欺事件』ではなく、貸金の未返済問題である」と主張した点について、〈金員詐取自体を否定している〉と主張している。

 その上で被告らは、被害者Tのために原告が過去に提出した「陳述書」においては〈騙し取られた内容が記載されている〉と主張している。したがって、「当初は被害者Tの味方をしてお金を取り戻すそぶりをしていたが(すなわち原告は当時は「詐欺事件と主張していた」)、その後、本件陳述書では正反対の主張(すなわち本件で「詐欺事件ではない」と主張したこと)をしており、『結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった』との主張が真実であったことが証明された」と主張している。

 難解な理屈だが、被告らは、「原告は当初は詐欺事件だといっていたが、今では詐欺ではないと主張し、Sらを利する主張をしている。よって『結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった』との主張には理由がある」と主張しているようである。この主張が、「原告はSらの口ききをした」とする事実の証明になるとは思えないが、裁判所はどう判断するだろうか。

前回準備書面の主張と齟齬

 裁判所の判断はともかく、上記の「山川は結局はお金を巻き上げる連中の口利きでしかなかった」とする記載に関する主張は、正面から「山川は詐欺グループの口ききだった」すなわち「山川は詐欺に関与した」と記載したことを認めた上で、そのことについて立証しようとするものである。しかしこの主張は、第3回口頭弁論前の主張とはだいぶニュアンスが異なる。

 被告らは第3回口頭弁論前に提出した準備書面において次のように主張していた。

〈現在被害者女性の被害が救済されていないにも関わらず放置していることは、「結果的に口ききとしての役割を果たしたに過ぎない」と批評しているのであって、原告山川が直接的に詐欺を働いたと読み取れる箇所はない。〉

 つまり被告らはこの主張によって、「山川が詐欺に関与したと書いたのではない」と主張しているものと理解できる。しかし今回の準備書面の主張は、「詐欺の口きき、すなわち詐欺に関与した」と書いたことを認めた上での主張であるように思える。

 事情は定かでないものの、これもまた主張の変遷といってよかろう。準備書面を出すたびに主張が異なるとは、被告らはなにかよほどの混乱をきたしているのだろうか。

 いずれにしても、第4回口頭弁論直前に提出された準備書面には本件記事に関して被告の側からはなんら新たな証拠も主張もなく、原告の主張に対してたいして説得力があるとも思えない反論を試みただけだった。「釈明に追われた状態」という言い方がふさわしいかもしれない。

田中弁護士の意図

 被告らの混乱ぶりは第4回口頭弁論でも現れた。本連載の第8回で触れたように、原告が口頭弁論で準備書面4のコピーを提出すると、田中弁護士は「(原告が今回提出した準備書面4は)今いただいたばかりで読んでいませんので、改めて反論したいと思います」と述べたのである。

 これまで見てきたように、被告らは第4回口頭弁論で提出した準備書面3で原告の準備書面4に対する反論を詳細に行っている。したがって、口頭弁論の席で田中弁護士が述べた「もらったばかりで読んでいない」というのは明らかに、嘘か勘違いということになる。

 弁護士なら、口頭弁論までに準備書面をファックスで送り、口頭弁論当日にクリーンコピーを渡すというやり方には慣れているはずで、勘違いということは考えにくい。また横には裁判慣れした朝木直子もいたから、当日提出された準備書面4がファックスと同一のものであることに気がつかないということは、なお考えにくい。

 裁判官も田中弁護士の「改めて反論したい」との申し立てに流されるかたちで、もう1回弁論を開くことを決定した。敗北が現実のものとなることを先延ばししたいと思うのは人情である。田中弁護士の真意は定かでないが、そんな心理が無意識に出てしまったのか。

 いずれにしても、結果として、田中弁護士の通常では考えられない申し立てによって、裁判は引き延ばされることになったのだった。

(「第5回口頭弁論」後に、つづく)
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元市議名誉毀損事件 第15回
想定外の発言

 平成28年5月23日、元東村山市議の山川昌子が『東村山市民新聞』の記載によって名誉を毀損されたとして、同ビラを発行する現職東村山市議の矢野穂積と朝木直子(いずれも「草の根市民クラブ」)を提訴していた裁判の第5回口頭弁論が東京地裁立川支部で開かれた。出廷したのは原告山川と、被告側は田中弁護士だけだった。

 この日、東村山市議会は臨時議会が開かれており、矢野も朝木も出廷できなくなったらしい。そのため、武蔵村山市議Aが矢野の準備書面のコピーを裁判所まで届けたようである。

 原告側は5月16日付で新たな準備書面と3点の書証を提出し、被告らも5月19日、原告準備書面に対する反論を記載した準備書面を提出していた。前回口頭弁論で裁判官は「次回が最後ですよ」と述べ、この日で弁論を終結すると予告していた。だから、この日の口頭弁論は提出書類の確認だけで終結するのではないかとみられていた。

 裁判官は開廷を告げると、双方が提出した準備書面と証拠の確認を行った。ところが原告が提出の意思表示をしたあと、被告代理人が想定外の発言をして、順当な進行に待ったをかけた。裁判官が被告代理人に同じように確認を求めると、代理人はこう述べたのである。

田中平八弁護士(矢野・朝木代理人)  準備書面の提出はいいんですが、一応、朝木直子の本人尋問を申請しておりましたので……。

 朝木が自分に対する尋問を申し立てたのは前々回の口頭弁論においてである。ところが朝木は前回口頭弁論では、これについて裁判官の判断を聞きもしなかった。ところが裁判官が結審を予告していた口頭弁論当日になって、田中弁護士は尋問の申し立てに対する判断をただしたのだった。なお私には、「一応」という文言をはさんだところに田中弁護士の弱気がのぞいたように思えた。

朝木の尋問申請に改めて判断

 朝木への本人尋問を申請したあと、何か具体的に「山川が詐欺事件に関与した」とする事実について重要な証言をする可能性があると思わせるような証拠の提出もない。朝木を尋問することは時間のムダとしか思えなかった。

 それでも裁判官は一方的に結論を出すことはせず、原告山川の方に顔を向けて意見をただした。一応、法律に基づき、弁護士から提出された正式な申請だから、慎重に判断しようとしたのだろう。これに対して山川は毅然としてこう答えた。

山川  被害者のTさんが証言するというのならともかく、朝木さんが証言するといっても伝聞にすぎないのですから、尋問の必要はないと思います。

 裁判官は田中弁護士に「原告はこういってますが、どうですか」と再度、意見を求めた。すると田中弁護士は山川の主張にいっさい反論せず、裁判官に対してこう答えただけだった。

田中弁護士  裁判官のご判断に従います。 

 裁判官は田中弁護士の発言を聞くと、数秒の間を置いたのち、こう述べた。

裁判官  では、陳述書も出ていますしね、前回もいったとおり、これで本件は終結とします。 

 判決言い渡しは、平成28年7月13日午後1時10分となった。

明確になった裁判官の認識

 前回の口頭弁論で田中弁護士は、原告がその1週間前に提出した準備書面について、すでに受領していたにもかかわらず「今もらったばかりだから、改めて反論したい」と申し立て、その結果、裁判官はもう1回口頭弁論を開くことを決定した。原告はこの件について、今回提出した準備書面で、田中弁護士の上記申し立ては〈虚言をもって裁判の進行を阻害する悪質な行為である〉と批判していた。田中弁護士が裁判の引き延ばしを意図したのかどうかは定かではないが、裁判官がそんな疑念を抱いていたとしても不思議はなかった。

 また尋問を申請するには少なくとも記事に名誉毀損が成立しないことについて相当の供述をするだけの理由があったはずだが、この日、田中弁護士はその点についてあらためて積極的に主張もしなかった。さらに山川から「伝聞にすぎないから尋問の必要がない」と反論され、裁判官から再反論の機会を与えられたにもかかわらず、それに対してもなんらの反論もしなかった。裁判官は前回口頭弁論における田中弁護士の発言からこの日の発言までを総合的に判断し、朝木の尋問をしない決定を下したのではないかと思われた。

 いずれにしても、いよいよ結審が迫った時点で田中弁護士が、裁判官が特に触れようともしなかった朝木の尋問について改めてその判断を確認したことで、裁判官の認識がより明確になったようにも思える。普通に考えれば、朝木を尋問することによって新たな展開の可能性があると判断すれば、田中弁護士がいわなくても、裁判官の方から朝木に対する尋問を許可したのではあるまいか。裁判官は、少なくとも、朝木の尋問に時間を費やす必要はないと判断したということと理解できよう。

 しかも、田中弁護士が確認を求めたあと、原告の意見を聞き、さらに田中弁護士に対してさらに意見を求め、「裁判官の判断におまかせする」という回答を得たのだから、手続きとしてもあとで「一方的な判断」と非難される理由もなくなった。

 そもそも、田中弁護士が尋問の確認を求めるまで、裁判官からそのことに触れる素振りはいっさい見えなかった。つまり裁判官としては、予定どおり、この日で弁論を終結する心づもりで法廷に臨んでいたのではないかという気がしてならない。

 この日までに、矢野と朝木が「山川は詐欺事件に関与した」と書いた出来事の実態はどんなものだったのか、それを明らかにする2つの重要な証拠が、原告側から新たに提出されていた。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第16回
もう1人の支援者による証言 

 第5回口頭弁論で原告が提出した2つの重要な証拠のうち、1つは、貸金が返済されないことで被害者Tが相談した人物の1人による証言(陳述書)である。

 この人物Oは原告とも親しい関係にあり、原告よりもあとに相談を受けている。Tから相談を受けた当時、原告がすでに相談を受けていたこともOは知っていた。つまり、貸金を返してもらえずに困り果てたTを、山川がどれほど支援してきたかもOはよく知っていた。

 OはT以外にもM(原告と被害者Tの共通の知り合いで、矢野らが「詐欺グループの一員」と主張している人物)との間で金銭トラブルになったことのある市民がいることを耳にし、TがSに対する返金訴訟を起こした際には、その市民に証言協力をしてくれるよう仲介したことがあった。

 被告らは本件で、原告とは知り合いで「詐欺グループの一員」であるMがどういう人物だったかを立証するために、2通の陳述書を提出している。そのうちの1通が、原告とともにTに協力したOの依頼によって実現したものだった。

 つまり矢野と朝木は、かつて原告とともにOがTを支援する目的で尽力して作成した陳述書を、今度は原告を攻撃する材料として利用したということになる。通常ではとても考えられない、血も涙もない裏切り行為だが、矢野と朝木が本件にこの陳述書を提出することについて、Tは了解していたのだろうか。

 返金訴訟の際にTに協力したOは、原告が「詐欺事件に関与した」とする本件記事を見て驚き、憤りを覚えた。その後さらに、TがSを民事提訴した際に自分が骨を折って協力を取りつけた陳述書が、今度は逆に原告を攻撃する材料に使われていることを知り、怒りを隠さなかった。

 さて、本件記事を見たOは、ただちに被害者Tに電話をかけた。Tを支援してきた山川を「詐欺に関与した」などと書いているこの記事はどういうことなのか、Tは矢野らに対して本当にこんな説明をしたのかどうなのか、それを確認するためである。原告が新たに提出した証拠の1つが、その通話内容に関するOの証言だった。

被害者Tの弁明

 通話内容のうち、前半の30秒だけは録音が残っており、その部分については反訳が提出されている。それによると、Oが「実はね、東村山市民新聞が」、「配達されて」、「見たんですよ」、「Tさんが情報提供したんだなー、と思って読んでたんだけど……」と話しかけるが、この間、Tはただ「ええ」「ええ」と答えるだけだった。

 Oはさらに「ちょっといくつか」「間違いというか」と続けた。しかし、それでもTは「ええ」「ええ」と繰り返すだけである。Tがようやく自ら口を開いたのは、Oが「ちょっとひどいな、みたいなとこがあってね」と踏み込んだときだった。普通なら、「何の記事のこと?」とでも聞くところだろう。ところが何も聞かないまま、Tはこう答えた。

「ああー、私、まだね、あの、ちょっと、あの、知ってたんですけどもー」

 この間、OはTに対して「読んだ」などとはいったが、記事が「山川が詐欺事件に関与した」というものだと特定できる文言は一言も発していない。しかしTは、「まだ(読んでいない)」「知ってたんですけど」などと答えている。Oから「東村山市民新聞」の件で電話がかかったというだけで、Oが何の記事のことをいっているのかをTはすぐに理解したということがわかる。

 Oによれば、会話はその後も続いた。録音はTが「朝木さん……」といいかけたところで終わっているが、Tは「実はまだその新聞を読んでいないんですよ」と続けたという。Oがどの記事のことをいっているのか確認していないにもかかわらず「読んでいない」というのは、Tがそれと思う記事について、O(あるいは山川)に対してなにか負い目があったのか、詳細に聞かれては都合が悪いと自覚する何かがあったからであるように思われた。

 それ以後の会話については録音されていないため、Oが陳述書を提出して証言している。それによれば、Tはこう話したというのである(趣旨)。

「山川さんには何の恨みもないんだけど、Mが許せなくて」

 Mとは直接金を貸した相手であるSの実の姉である。TはSに対して返金訴訟を起こし、和解成立後に返済が滞ったため、今度はSを告訴しようとした。その際、TはMも告訴の対象に加えていた。つまりTは、当初からMも「詐欺グループの一員」であると認識していた。この告訴の際、山川はTを支援するために陳述書を提出したという関係にある。TがMをいまだに敵視している理由はあっても、山川を敵視する理由はないはずだった。そのとおり、Oがやんわり追及したのに対して、Tは具体的にそう聞かれる前に自ら「山川さんには何の恨みもない」と釈明したということだった。

 本件記事を「まだ読んでいない」といったにもかかわらず、ここまで釈明するとはやはりTは問題の記事を読んでいたとみるべきだろう。しかしその内容は、自分の思いとは異なり、山川を「詐欺に関与した」と断定するものだった。Tとしては、自分が記事のような情報提供をしたと思われては、あれほど支援してくれた山川やOに対してとても顔向けできないことを十分に承知していた。

 だから、当初は「読んでいない」ことでこの場をやり過ごそうとした。しかしOの追及に耐えきれず、「山川さんには何の恨みもない」と弁明するに至ったようにみえる。朝木に相談を持ち込んだTとしては、山川が「詐欺事件に関与した」かのような記事が掲載されたことで、山川に対して負い目を感じていたのだろう。だから、「山川さんには何の恨みもない」という弁明の言葉が先に出たということではないだろうか。

 いずれにしても、Tのこの弁明は、Tが「山川は詐欺事件に関与した」とはまったく認識していないことを示すものにほかならないと思われた。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第17回
直筆の署名と捺印

 第5回口頭弁論までに原告が提出していたもう1つの重要な証拠は、被害者T自身の陳述書(=「証言」)である。この陳述書は第4回口頭弁論(平成28年4月11日)以後に作成されたものではなく、平成22年にTがS(金を貸した相手)に対して返金を求めて提訴した際に作成されたもので、T本人の直筆の署名と捺印がある。

 陳述書の日付は「平成23年」となっており、以後の「○月○日」の欄の日付は空白になっているが、重要なのは「平成23年に被害者T自身がSに対する貸金状況について証言した」ということである。当時の貸金返還訴訟に提出することになれば日付を記入しなければならない。しかし、日付が記載されていなくても「Sに対する貸金状況に関する被害者T自身の証言」という本質は署名・捺印によって保証されている。

 TがSに最後に金を貸したのは平成21年の11月で、平成22年3月に提訴、和解成立が平成23年6月である。陳述書の頭書にはその裁判の事件番号が記載されてもいるから、この陳述書が返金請求訴訟の最中に作成したものであることは疑いなかった。被告らが提出した被害者Tの告訴状が平成24年11月5日付だから、告訴の1年以上前に作成されたものということになる。

 山川は当時、被害者Tから「貸金を返してもらえなくて困っている」との相談を受け、東村山署に相談に行き、アドバイスに従って弁護士を紹介するなどTを支援するために奔走した。そのおかげで、Tは提訴することができた。「金を詐取した連中の仲間」だと思っている人物に対して、通常、貸金を取り返す相談をもちかける者はいない。

「必要ない」と言い張った被告ら

 なお、朝木直子が陳述書を提出した際、原告が「伝聞にすぎない朝木の陳述書ではなく、被害者Tの陳述書を提出すべきだ」と反論したのに対し、被告らは「(被害者Tが警視庁に提出したSらに対する告訴状)を提出している以上、重ねてTの陳述書を提出する必要がないと判断しているためである」と主張していた。

 被告らは告訴状だけでなく、Tが陳述書を作成した裁判の和解調書、さらにその裁判に提出したMと関わりのあった市民の陳述書を2通提出していた。被告らが提出したこれらの書類をみる限り、被告らはTから本件貸金に関わる書類一式を預かっているとみるのが自然ではあるまいか。当然、その中には、今回原告が証拠として提出したT自身の陳述書も含まれているだろう。しかし被告らは、T自身の陳述書に限っては「提出する必要がない」と主張していたわけである。

 被告の矢野と朝木は、最近の準備書面で「山川がMに対して『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが、本件詐欺事件の端緒となった」、すなわち「『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話すことによって山川は詐欺事件に関与した」と主張している。被害者Tの陳述書を評価するにあたり、まず注目されるのは、陳述書の中に、矢野と朝木が主張する「山川が詐欺に関与した」と疑われるような記載があったのかどうかである。

親切すぎる対応

 Tの陳述書はSに貸した2600万円の返還を求めるものだから、Tがいかなる経緯でそのような大金をSに金を貸すことになってしまったのかが詳細に記載されていた。陳述書ではまず、被害者Tが直接金を貸した相手Sの実の姉であるMとの関わりについて述べている。

 それによると、Mはマッサージをしている間、身内に経営者がいるとか、妹が毎年海外旅行に連れて行ってくれたり、よくブランド品をくれるなどと自慢話をしていた。平成21年の5月上旬、Mがしばらくぶりにやってきたときのこと、Mは「妹が孫の月謝の支払いに困っているので10万円を貸してもらいたい。すぐ返すので」といってきた。Tは高級婦人服を個人で商っており、「10万円ぐらいなら」と思ったのだろうか。Tはその場で10万円をMに手渡した。

 その後しばらくして、Mの妹であるSが「お礼に伺いたい」といってMとともにやって来て、その日を境にSはT宅を頻繁に訪問するようになった。ある日、Tが夫婦関係がもめていることを話すと、Sは弁護士を紹介するといって、事務所まで同行した。

 和解成立後に被害者Tが警視庁に提出した告訴状によれば、弁護士との面談にはSも同席した。Tは弁護士に対して親から相当の金融資産を相続した旨を具体的な金額で説明をした。当然、Sもその話を聞いていた。もちろんTは、弁護士に話した自分の資産がまさかのちにSに狙われることになるとは思いもしなかった。

 また、Tが持病を持っていることを知ると、Sは「知り合いの先生がいる」と病院を紹介し、その病院まで連れて行ってくれるなどした。その際にもSは診察室までついてきた。その後、通院は毎月1回続いたが、10月頃までSは毎月のように診察に同行した。Tはそのたびに固辞したが、Sは同行するのをやめなかった。

払拭された不安

 ただ、Sはこうして通常では考えられないくらい親切にしてくれたものの、「すぐに返す」といっていた10万円は5月下旬になっても返すそぶりをいっこうにみせなかった。いつ返してくれるのだろうかとTは不安に思うようになっていた。親切にかこつけて、借金を返さないつもりではないか、と。

 ところが、Tのそんな不安を一気にかき消してしまう出来事が起きた。5月末、SがMといっしょにやって来て、「12万円をお返しします」というのだった。「それは多すぎます」とTは2万円を返そうとした。しかしSは「この2万円はお礼です」といって引かなかった。Tは仕方なくその2万円を受け取ることにした。

 ――ここまでが、TがSに多額の金を貸してしまうまでのプロローグだった。Sが10万円の借金をきっかけにTと知り合い、Tの具体的な資産状況を知り、さらに関係を深めていった様子がうかがえる。この間に、原告山川の名前はいっさい出てこない。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第18回
貸金が重荷に

 被害者Tの陳述書によれば、Sからの本格的な借金申し込みが始まったのは、10万円を貸したのに対して12万円を返してきた翌月(平成21年6月)のことである。Sは「知り合いの魚屋が資金を必要としている。年内には返すから300万円を貸してほしい」というのだった。

 Tは躊躇したが、Sは「2人の娘が保証人になるから」というので貸すことにした。Tは陳述書で、「病院についてきてもらったり、ホテルで食事をご馳走になったりしたこともあり」、断りきれず、Sに金を貸してしまったと述べている。Sがそこまで計算していたのかどうかは定かではない。しかし、多額の借金を申し込んだタイミングとその後の状況をみれば、Tからみて過剰とも思えるSの「親切」ぶりは、Tにできるだけ恩を売ろうとしていた可能性を否定できないのではあるまいか。

 いずれにしても現実に、その300万円を手始めにSはいろいろな理由を付けて同年7月に300万円、8月ごろには400万円と立て続けに借金を申し込むようになった。「貸付先」はいずれもS以外の事業主で、名目は「事業資金」だった。だから、それぞれの事業に応じた、それらしい「見返り」があるとも説明された。金の受け取りは必ず現金で、いずれもSが「仲介」するといって受領し、「事業主」は姿を見せなかった。

 Tはこのころから、貸した金をすべて早く返してもらってSとの貸借関係をすべて清算したいと思うようになっていた。その時点で、誰かに相談することも考えた。しかし、そうなれば貸金のすべてを打ち明けなければならないし、また人に相談したことがSの耳に入れば、金を返してもらえなくなるのではないか--。Tはこのような出口の見えない不安にさいなまれるようになっていたという。

返してもらえない不安

 そんなとき、Sはさらに米屋の事業資金名目で借金を申し込んできた。Tは「もう遠慮したい」というそぶりをみせたのだろう。するとSはこう畳みかけた。「これを貸してくれれば、前に借りた分も全部返してしまうから」と。まるでTの心中を見透かしているようだった。

 これを聞いたTは「今度貸すことで今までの金が全部戻ってくるのなら、誰にも知られずにすむ」と考えてしまう。通常なら、Tは金を貸している立場で、金を返してもらうことについて相手に遠慮する必要はない。ところが、それどころか相手は「金をもっと貸してくれなければ金を返せない」などと身勝手な要求をしているのだった。Tにとって、すでに1000万円を超える金を相手に渡してしまっていることが、むしろ弱みになってしまっていたのである。

 借金をカタにした無言の脅しといってもよかろう。Tはそこまで追い込まれた状況にあったということである。こうしてTはさらにSに金を貸してしまった。

 それから間もなくSは「米屋さんからのお礼」といって米30キロを持ってきた。資金を必要としていた米屋の気持ちということで、Tを安心させようとしたのだろう。その時点でTに法的手段にでも出られては元も子もないということだったかもしれなかった。 

「返済のためには金が必要」

 とうとう最後には、Sはあからさまにこういって借金を申し込んできた。「今まで借りた金を返すだけの金が入る予定があるが、そのためには急いで500万円が必要だ」と。Tはまたしても、「金を返してもらえるのなら」との思いから、さらに500万円を貸してしまった。

 こうしている間に平成21年10月、最初の返済期限が訪れた。しかし返済はなく、それどころか、Sは貸してくれないと返せないような口ぶりで重ねて借金を申し込んできた。Tは「返してもらえないと困る」という気持ちが先に出て、仕方なくさらに2回にわたって計300万円を貸してしまった。

 こうして最終的にTは、Sに2600万円を貸してしまう。なおSは借金の際には「銀行には振り込まないで」と、いずれもSが「仲介」するといってベンツに乗って手土産持参で受け取りに来たという。「事業主」は姿を見せなかった。直接取りに来たのは証拠を残さないためだったものとみられる。

 しかし、やはり期限が来てもSから返金はなかった。「警察に相談するしかない」といったところ、やっと一部が返金されたが、TがSらに対して返金訴訟を提起するまでに、2000万円以上が未返済の状態となったのだった。

Tの述懐

 Tの具体的資産額を知ったSは、Tを病院に連れて行くなど世話を焼いて人間関係を築いた。最初の300万円を借りることに成功すると、Sは「むげには断れない」というTの心理を見透かし、あるいはTにそれなりの見返りをぶら下げて期待感を刺激しつつ借金を重ね、しまいには「貸さなければ返してもらえないのではないか」という恐怖を植え付け、断れない状況に追い込んでいった――。TがSに多額の金を貸してしまった経過は以上のように要約できる。

 仮にTがSに金を貸した経過の中で、ほんのわずかでも山川が顔を出した事実があれば、Tはそのことを記載しただろう。しかしTの陳述書の中に、原告山川の名前すら発見することはできない。矢野と朝木は、山川がM(Sの姉)に「Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「本件詐欺事件の端緒となった」と主張しているが、陳述書の中にそのような記載もいっさい存在しなかった。

 それどころか、Tは陳述書で、Sから最初に多額の借金の申し込みがあったときの心境についてこうも述べていた。

「そのような申し入れは断ればよかったのですが、SやMにいろいろとお世話になっていたこともあり、断りきれず……」(趣旨)

 TはSに最初に金を貸してしまった理由を明確にこう述べている。「山川がM(Sの姉)に『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが本件詐欺事件の端緒となった」とする矢野らの主張とはかなりの開きがある。陳述書全体を見渡しても、「独り暮らし」であることが原因で大金を貸してしまったとする記載はいっさいない。つまりTは、「山川がM(Sの姉)に『Tさんが独り暮らしになっちゃったのよね』と話したことが本件詐欺事件の端緒となった」などとはまったく考えていないということにほかならなかった。

 陳述書に山川の名前がいっさい出てこないことに加え、Sに大金を貸してしまった理由についてのTの認識から判断すれば、「山川が詐欺事件に関与した」などという事実は存在しないとみるのが常識的な結論だろう。だから矢野は、Tの陳述書を入手していたにもかかわらず提出しなかったということではあるまいか。

(つづく)
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元市議名誉毀損事件 第19回
準備書面における原告の主張

 原告は被害者Tの陳述書とTに事情を聞いたOの陳述書とともに、準備書面5を提出している。口頭弁論1週間前の平成28年5月16日である。1週間前に提出すれば、被告側にも反論を用意する時間があるだろうという趣旨もあった。

 準備書面5で、原告はまず被害者T自身の陳述書に基づいて次のように主張している。

〈被告らは原告がM(筆者注=原文は実名。被害者Tから多額の金を借りたSの姉、以下同)に対して「Tさん(筆者注=実名、以下同)が一人になっちゃったのよね」と話したことが「本件詐欺の端緒となった」と主張しているが、Tの陳述書には、TがS(筆者注=実名、以下同)に対して最終的に2600万円を貸してしまう経過や心理状態が詳細に記載されている。とりわけ同陳述書……には、「そのような申し入れは断れば良かったのですが」と前置きした上で、……「……Sらにいろいろと世話になったこと」で借金の申し込みを断れなかったと当時の胸中を具体的に述べている。すなわち、TはSらに世話になっていなければ借金の申し入れを断っていたと述べているのであり、この点からもTがSに多額の貸金をしたことと「一人暮らし」であることとは全く無関係だったことが明らかである。〉

 また原告は、Tの陳述書には、多額の金を貸してしまったTが最後には「貸さなければこれまでの金を返してもらえないのではないか」と不安になり、さらに求められるままに金を貸してしまうに至った心理状態が記載されている一方、原告にはいっさいの言及もない点を指摘。これらの点からも、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことと本件「詐欺事件」にはなんらの因果関係もないと主張していた。

 矢野らは原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件に関与した」とする根拠であると主張している。この点について原告は、刑法上の観点からも反論している。

「詐欺事件に関与した」とは「詐欺の共犯」であるとの趣旨である。「共犯」であるとは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した際、原告がMと同様に被害者Tから金を詐取するとの犯意を持っていたと被告らは主張しているということになる。

 原告はMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したこと自体を否定していない。ところが被告らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件の端緒となった」と主張するのみで、原告がSと同じ「犯意」を持っていたとする立証はもちろんのこと、主張すらしていない。このような被告らの主張について原告は次のように主張している。

〈詐欺の犯意がない原告を詐欺の共犯であるとする主張は、刑法の「共犯理論」を無視した独自の主張であり、本件記事の真実相当性を主張することは許されない。〉

 裁判所としても、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話した事実のみをもって「詐欺事件に関与した」と認定するのは難しいのではあるまいか。

 以上が、「山川は詐欺事件に関与した」とする本件記事の本論に関して原告が準備書面5で行った主張だった。

奇怪な反論

 原告が最後の準備書面5を送付してから3日後、被告らは準備書面5に対する反論を記載した準備書面4を送付してきた。原告が提出した準備書面5のうち最も重要な、被害者Tの陳述書に基づく主張に対して矢野らはどう反論するのか――。これが原告の最大の関心事だった。矢野らは準備書面4でこう主張していた。

〈被害者Tの陳述書に、Sによる貸金名目の詐欺に際し、原告の口利きによって詐欺された旨の記載がないとしても、原告山川が……犯人グループのMに被害者の個人情報を報せたことが、本件詐欺事件の引き金になったという被告等主張の事実が否定される訳がない。〉

 被告らはこう主張し、さらに〈(Oの陳述書)を含め、原告山川がMに被害者女性(T)が……独居となったという個人情報を報せたことが詐欺事件の引き金となった、という本件訴えの争点事実〉と主張し、「原告がMに対して『Tが一人暮らしになったこと』を報せたことが詐欺事件の引き金となった」とする事実が、あたかも本件ですでに認定済みの「本件訴えの争点事実」であるかのように主張していた。

 矢野らがここで用いた「本件訴えの争点事実」という聞き慣れない文言が厳密に何を意味するのかは定かでない。しかし、「争点」という以上は「重要な争点」であり「摘示事実」という意味のようにも聞こえる。

 しかし矢野らがそう主張しているのだとしても、原告が問題にしている本件記事は「原告が詐欺事件に関与した」というものである(記載内容は〈1860万円詐欺、元公明市議らが関与〉〈創価、元市議らが仲介して〉など)。したがって、本件の争点は「原告が詐欺事件に関与した」する記事に真実性・相当性があるか否かである。

 すると矢野らは、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが「詐欺事件に関与した」証拠であることを立証しなければならないことになる。つまり「共犯」としての「犯意」、あるいは山川が当初からTから金を詐取する目的でMやSと通牒関係にあったことを立証しなければならない。言い換えれば、それが立証できて初めて、原告がMに対して「Tさんが一人暮らしになっちゃったのよね」と話したことが重要な意味を持つことになるのである。

 矢野らは本件の立証対象について、「『原告山川が詐欺事件に関与した』とする事実」ではなく、「『原告山川がMに対してTの話をしたことが詐欺事件の引き金になった』とする事実」であると主張しようとしていたのだろうか。問題となっている『東村山市民新聞』第186号にはそのような記載は存在しない。

(つづく)
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